BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load   作:ビンカーフランス

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第二十四話:夜明け

「……で、なんで私の家なの?」

 

 燈が泣き崩れたその日のうちに、立希たちは長崎のマンションに集まっていた。長崎はどこか不機嫌そうに眉を寄せている。

 

「えぇ〜、いいじゃん。家が近いんだし。それに……」

 

 愛音は長崎の出してくれたコップのお茶を片手に、ちらりと燈を見た。ソファに沈み込むように俯き、言葉を発さない燈の姿がそこにある。

 

「こんな状態のともりんを、放っておけないでしょ」

 

 燈は黙ったまま息を詰めるだけだ。

 

 最初はずぶ濡れだった髪はすでに乾き、長崎が貸した服に包まれている。暖房も効いている。風邪の心配は要らないだろうが、問題は身体ではなく心にあった。

 

「燈、大丈夫? 飲み物は要る?」

「ううん……大丈夫」

 

 甲斐甲斐しく燈の世話を焼く立希の声も、今は空返事にしかならない。燈は、強くも脆くもある──その揺れる性質を、長崎は良く分かっている。

 

 だからこそ、皆が遠慮して言い出せないことを、長崎ははっきりと問い質す。

 

「で、もう一度聞くけど、練馬君と何かあったの?」

「お前! 今それは言うなって!!」

 

 過保護な立希が声を荒げるが、長崎は構わず続ける方が燈のためだと判断していた。

 燈は小さく、ぽつりと呟いた──そして、堰を切ったように涙が零れる。

 

「助けられなかったの……練馬君が苦しんでいるときに、私、何も言えなかった。助けたかった。本当は助けたかったのに……でも、あの時みたいに私たちの詩で救えるって思ったのに、泣いている練馬君を見たら、どう声を掛けていいか分からなくて……それで、私……」

「燈! もういい! もういいから!!」

 

 立希が燈の肩を抱いて言葉を止める。これ以上自責を重ねれば、燈の心が壊れてしまう。

 

 リビングには重い静寂が戻るが、先ほどとは違い、その沈黙は後悔の熱を含んでいた。

 重くなった空気の中で、愛音が控えめに手を上げる。

 

「……ねぇ、みんなで練馬君たちのところに行って、話を聞かない? 私たちで力になろうよ」

 

 燈を思っての提案だろう。顔を上げない燈を見つめ、愛音はそう続ける。

 

 だが、長崎は即座に首を振った。

 

「却下」

「私も賛成」

 

 立希は唇を噛みながら、長崎の言葉に同調する。二人の表情には、焦りと覚悟が混ざっていた。

 

「なんで! 練馬君たちが仲直りすれば、ともりんも救われるじゃない!」

「私だってそうしたい。でも、それじゃ意味がないんだよ!」

 

 立希の拳が小刻みに震える。手を差し伸べたい衝動と、それが及ぼす結果への怖れが交錯している。

 

 言葉にできない立希の代わりに、長崎は静かに答えを出す。

 

「自分たちのバンドのことは、自分たちで解決するしかない。誰かに助けられたからここにいるわけじゃないでしょ?」

「うぅ……たし、かに……」

 

 愛音は言葉を失い、反論は出ない。

 

 ──―かつてMygo!!!!! は一度、瓦解しかけたことがあるが、立て直したのは他でもない自分達自身だった。

 

 燈が起点を作ったにせよ、その先を選んだのは各々の意思だ。だからこそ、外から手を入れれば、練馬の「ここで踏みとどまる理由」が奪われるかもしれない──長崎の懸念は、その痛みを反芻した経験に根差している。

 

「……じゃあ、どうすれば」

 

 愛音が歯を噛みしめて言う。しかし答えは誰も持っておらず、静寂だけがリビングに広がる。

 

「ライブ」

 

 その時、楽奈がふと口を開いた。持ってきていたギターケースから楽器を取り出し、肩にかける。気まぐれで無邪気な動作だが、その一言は重く場に落ちた。

 

「ライブ、したい」

 

 ジャーン! と掻き鳴らされたギターの音と共に、愛音の目が開き、言葉が一気に弾ける。

 

「ライブだよ、練馬君のためにやろうよ! ともりんの詩で助かったんだよね? なら、もう一度やればいい。今度は練馬君だけのための詩で!」

 

 愛音は躊躇なく燈の前まで行き、膝に置かれたその手を取る。

 

「ねぇ、ともりん、曲を作らない? 私、絶対に手伝うよ」

「愛音ちゃん……」

「ともりんが練馬君を助けられなかったって悔しいよね。でも、まだ間に合うよ!」

 

 燈はその言葉に戸惑いながらも、少しだけ顔を上げる。そこへ立希が静かに手を重ねる。

 

「私も、燈の詩で救われた。燈が伝えたいことを全部詩にすれば、きっと伝わる……と思う」

 

 長崎も、小さく背中を押すように言葉を呟く。

 

「燈ちゃんって、不器用だけど、詩なら伝わるんじゃない? ……私もそうだったし」

 

 ここにいる全員が知っていることがひとつある──燈の詩が、彼らを再び繋ぎとめたという事実だ。言葉だけでは届かない想いも、音に乗せれば届く。だから、燈が言葉にできなくても、詩なら伝えられる。愛音も立希も長崎も、心からそう信じている。

 

 そして、最後に楽奈がもう一度、ギターを鳴らし、燈に音を聞かせる。

 

「ライブ、しよ」

 

 その音はまるで、俯く燈をステージの上へと誘っているかのようだった。

 

「……愛音ちゃん」

 

 燈がようやく顔を上げる。そして、一人一人の顔をジックリと見つめ始めた。

 

「立希ちゃん……」

 

 ──―あの時、練馬君にどう声を掛ければ良いのか分からなくて、逃げ出した事は変わらない。

 

「そよちゃん……」

 

 ──―それでも、まだ間に合うと言うのであれば。自分の詩で練馬君を救えると言うのであれば。

 

「楽奈ちゃん……」

 

 まだ、手が届くと言うのなら。

 

「私……歌いたい。練馬君の為に……練馬君の為だけの詩を」

 

 誰でも無い、大切な人の為に、燈は詩を届けたい。


 そうして、燈は詩を作った。

 

 大切な人が道に迷った時、夢を失った時、また昔のように前を向いて欲しい。あの頃の大好きだった貴方に戻って欲しい。の思いを胸に抱いて、燈は今ステージの上に立っている。

 

 少しだけ視線を下に向ければ、直ぐそこに練馬が居る。円香さんに無理を言って貸し切ったライブフロアには、自分達以外誰も居ない。これなら真っ直ぐに届けられる。

 

「──―聞いてください」

 

 前置きも、言葉も要らない。伝えたい事は全部。

 

「『灯詩光』」

 

 この詩の中で伝えるから。

 

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