BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
詩の始まりは、優しい音色から始まった。
『あの日君が見た景色を まだ覚えているかい』
『僕が知らない光を 君はずっと追いかけ続けていた』
──―そう、覚えている。初めてMyGO!!!!! を見た時に感じた強烈な光に充てられ、練馬はずっと追いかけ続けていたのだから。
『迷いながら 傷つきながら それでもまた前を向く君は』
『僕にはずっと 輝いて見えていたんだ』
まるで憧れの記憶を1ページ思い返すように、鳴らされる音楽は何時までも穏やかだ。しかし、それは今の練馬に取っては何よりも辛い──既に輝いていた頃の自分はもう居ないのだから。
『途切れた声が 胸を締め付ける』
『諦めの答えが 心の形を歪めていく』
『溶けて消える君の姿に もう僕の言葉は届かないのかい』
メロディが転調する。心の悲鳴を表すかのように、低く引き裂くような荒い音が、鼓膜を震わせる。
『だけど 諦めたくない! 忘れたくない!! 』
『例え涙で前が見えなくて この詩が君に聞こえなくても』
だが、同時にこれは心からの本音に違いない。燈の叫び声にも似た掠れる歌声の中で、燈の涙が混じった瞳と目が合う。
『誰よりも真っ直ぐに叫んでいた 君のその言葉を』
あぁ、そうか──MyGO!!!!! の詩に、光を見出したように。
『誰よりも一番近くで ずっと聞いていたいから!! 』
燈ちゃんは、俺の言葉にもまた同じ光を見てくれたんだって。
そして、曲はサビへと映る。
『何度だって 何度だって 君を照らすよ』
『ちっぽけな僕の手じゃ 頼りないかも知れないけれど』
サビらしく盛大な音楽が混ざり合った四重奏が、燈の声を支える。不安げな言葉の詩を力強く背中を押している。
『壊れた夢も 震える思いも 全部 一緒に集めて行くから』
『僕達の青い光が また道標になるまで』
『ずっと この場所で 変わらず詩い続けるよ』
──―ようやく練馬は分かった。この詩は誰の為でも無い、自分の為に作られた詩だって。
夢を追いかけて、夢に挫折した練馬を励ます為だけに作られた、世界でたった一つのMyGO!!!!! の詩だ。この曲の中には、燈が伝えたい事全てが詰まっている。
『だから 見失ったりしないで』
涙で前が見えなくなってしまいそうになる。だけど、腕で拭い、必死に舞台上を見上げる。
──―ちゃんと聞き届けたい。燈の詩も、MyGO!!!!! の音楽も全て。そして、聞き終えたその後で。
『君が描いた夢はきっと 間違いなんかじゃないから』
もう一度前を向きたい。練馬はそう思った。
そして──歌が終わった瞬間、練馬は呟いた。
「燈ちゃん……いや、MyGO!!!!! のみんな」
その声は震えていた。燈はマイクを握りしめたまま動けず、潤んだ瞳で練馬を見返す。愛音や立希たちも、スポットライトで煌めく汗を拭くことすら忘れて彼を見つめている。
「俺も、唄を書くよ」
短く切られた言葉だが、重さは十分にあった。練馬の目に光る涙には、詩の中で芽生えた決意が滲む。
「俺、馬鹿だから、燈ちゃんみたく真っ直ぐには書けないかもしれないけど、それでも伝えたいことがあるんだ」
一語一語が胸の震えとともに絞り出される。声は途切れ、言葉に詰まりそうになるが、それでも練馬は続けた。
自分のために歌を作ってくれた燈の為、その詩を届けてくれたMygo!!!!! の為。 そして何よりも。
「やっぱり、あの五人でバンドがしたい……何度間違っても、何度ぶつかっても、あの時見た光景を、アイツらと一緒に叶えたい!!」
もう一度思い出した、もう2度と諦めない夢の為に。
「ありがとう! 俺、もう諦めない!! 燈ちゃんが好きでいてくれる、最高の俺でいる!!」
声を張り上げ、拳を突き上げる。ステージから溢れたスポットライトの光が、練馬の涙を白く照らす。
──そうして、練馬が決意を表明した後、燈は小さく息を吐き、汗と涙でにじむ笑顔をこぼした。
「やっと……ようやく、届いた」
その一言を聞いて、練馬はようやくまた一歩を踏み出せたと思った。
初めてのライブで燈達の詩を聞いた時のように、また踏み出した時のように。
夜。黒崎は自室のベッドに仰向けになったまま、瞼を閉じられずに何度も寝返りを打っていた。
ここ二週間、苛立ちが胸から離れない。バンドの空中分裂。練馬との確執。理由はいくつもあるが、最後に行きつくのは、結局自己嫌悪だった。
「なんで、こんなときにアイツの力になってやれねぇんだよ……俺は」
自分で切り捨てたはずなのに、胸の奥がヒリヒリと疼く。頭では『今さらだ』と繰り返すのに、息だけが荒くなる。
そうして眠れない夜に考え込んでいると、窓の外からあの馬鹿の声が降ってきた。
「おーい! くーろーさーきー!!」
反射で窓を開け、思わず怒鳴る。
「うるせぇ! 近所迷惑だろ!」
外に立つ練馬と目が合う。合わす顔が無くて、咄嗟に視線を逸らしてしまう。
「悪ぃ! 今すぐ伝えたいことがあってさ!」
黒崎は眉を寄せる。今さら何を言いに来たというのか。どちらを選ぶつもりだとでも言うのか──
菊池たちとバンドを続けるのか。
自分との夢を選ぶのか。
だが練馬の答えは、どちらでもなかった。
「俺、どっちも諦めねぇ。アイツらとバンドもやるし、お前とも一緒に一生音楽やるんだ!」
その言葉は大層な妄言で、純粋な決意表明だった。呆れ半分で口元を緩み、同時に胸の奥がぎゅっと詰まる。
練馬は拳を突き上げ、さらに続ける。
「だから、お前も来てくれよ! お前がいなきゃ、俺の夢は叶わねぇ!」
あいまいな理屈もなく、ただ真っ直ぐな叫び。知り合った時から変わらない大声が、夜の住宅街に広く響いた。
「やべっ!! そんじゃあまたな!!」
周囲の家々が反応して電気が灯り、慌てた練馬は笑顔で手を振ると足早に立ち去った。
黒崎は窓辺に寄りかかり、去っていく背中を見送る。呆れたように、つぶやいた。
「なんだよ、アイツ……」
振り回されるのはいつものことだ。言いたいことだけ言って、人を巻き込む奴。
そんな練馬だからこそ、黒崎は一緒に夢を叶えたいと思った。
放課後の教室で、真っ直ぐに差し伸べられたあの手。あの瞬間からずっと。
──黒崎は指先で滲む涙をぬぐい、苦笑を漏らす。
「……これじゃ、俺が馬鹿みてぇだな」
諦めない奴だと知っていて、親友の夢を切り捨てた自分が、あまりにも小さく見える。
けれど、そんな自分をまだ必要だと言ってくれる親友が居る。
その事実を受け止めるのには、まだ涙を流し足りないようだ。
『灯詩日(ともしび)』の歌詞は何時か投稿する予定です。
一から作詞をしてみましたが、結構難しいですね……