BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
「次のメンバーどうすっかなぁー」
一人目から天才を自称する超大型ギタリストが加入して翌日──―練馬はまた何時ものように旧音楽室の机の上で寝転びつつ、購買の焼きそばパンを加えつつ、木の天井を眺めボォっと眺めていた。
そんな折、隣で自前の弁当を食べていた黒崎が先んじて釘を打ってきた。
「言っとくが、他に当てはねぇからな。俺を頼るんじゃねぇぞ」
「黒崎先輩、辞める時までボッチだったッスもんねwww ぶっちゃけ俺以外に知り合い居なかったでしょ?」
「菊池、その癖毛引き抜くぞ」
「ちょっと先輩! マジで引き抜こうとしないで! 俺のチャームポイント何スから!!」
その横では生意気な後輩かつ天才ギタリストが、オレンジジュースを加えながら、ゲラゲラと笑っている。そんな後輩が気に入らないのか、黒崎は金髪のアホ毛を掴んで、本気で抜きに掛かっている。
そんな和やか? なやり取りをしている二人をしり目に、練馬は一度加えた焼きそばパンから口を離す。
「つってもなぁ……」
ボーカルの練馬に、ドラムの黒崎、ギターの菊池と順調に集まっているように思える。ここにベース担当、欲を言えばもう一人ギター担当が居れば、丁度バランス良くバンドとして成り立ちそうだが……
「楽器できる連中は、大体軽音部か外バンに入ってるもんなぁ」
練馬も知り合い連中に当たってみるも、どいつもこいつも今のバンドが有るから無理と断られた。正直、菊池を拾えたのが奇跡のように思える。
「なぁー菊池ぃ。なんかお前の周りで誰か居ねぇの?」
「えぇ~? 俺の周りは全員バンド組んでますし……あっ、それならこの人とかどうッスか?」
そんな状況なので、試しに練馬は期待の新メンバーである菊池に、一寸の望みを託してみると、意外にも心当たりがあったようだった。
菊池が自分のスマホを慣れた手つきで操作した後、ニヤリ笑いながら、その画面を練馬の顔へ突き付けた。
「ほら、このYAGAMIっていうインフルエンサー。俺程じゃあないッスけど、ギター滅茶苦茶上手いんスよ」
見せられたのは、『YAGAMI』というSNSのアカウント。どうやら人気のインフルエンサーのようだ。如何にも女受けしそうなスイーツやフォトスポットの写真投稿や、6桁越えのフォロワー数がそれを証明している。
「普通のインフルエンサーじゃねぇの? ちょっといけ好かない感じだけど」
「いやまぁ、俺もそうだと思ったんスけどぉ。結構昔の投稿に……ほら」
投稿された大量のキラキラ写真・動画一覧を、菊池が高速でスライドしていく。そしてお目当ての物が見つかると、迷わずぽちりとタップした。
それは随分前──―投稿日時が2年前と表示された動画だ。サムネには首から下だけ写った白髪の青年と、やたら古めかしいアコースティックギターが映っており、どうやら俗にいう『弾いてみた』動画のようらしい。
「そんじゃ、再生するんで聞いてくださいねぇ……ホイッ!」
菊池が再生ボタンをタップすると、スマホのスピーカーから流れて来るのは洋曲だろうか。アコギ特有の柔らかい音に乗った、何処か古めかしい旋律だった。
──―聞いた事もない筈なのに、まるで川のせせらぎのように、自然と耳の中でスッと馴染む。それでいて奏でる音には何処か、切なさや温かみがあり、まるで曲本来が伝えたかった感情を、静かに語りかけているようだ。
「確かに……上手いな」
隣で聞いていた黒崎も、弁当を食べる手を止めて、感動したように息を呑む。練馬も口にくわえた焼きそばパンを、咀嚼する事も忘れて音に聞き入ってしまう。
動画越し──ー増してやスマホのスピーカー越しであっても届く音色。だが、そこに菊池のようなド派手なパフォーマンスや熱量は無い。寧ろ優しく浸透するような柔らかさすらも感じさせられる。
それはまるで、音自体が生きているかのように感情を揺さぶるメロディライン──ーこのギターの音もまた、菊池とは違う意味で“人を魅了する”才能を秘めていた。
──―そして、一分ちょっと動画が終了すると、折角の雰囲気をぶち壊すように、菊池が捲し立てるように喚き始めた。
「ね! 言ったでしょ! 滅茶苦茶上手ぇって! 俺これ最初に聞いた時、マジ鳥肌立って泣きそうになったくらいッスよぉ!!」
「……お、おぉ! スゲェな!」
音の余韻からようやく解放された練馬は、半分惚けた意識で空返事をする。もう終わったというのに、頭の中でまだ流れている旋律が、まだ覚めない余韻を残している。
「まぁスゲェな……で、コイツがお前の言う当てと何の関係が?」
そんな惚けた練馬に変わり、いち早く目が覚めた黒崎は、まるで探りを入れるように菊池へ伺う。
「あっ、確かにな……」
練馬も言われて気が付く。確かに菊池の言う通り、動画で弾いていた人物は、二人が思わず聞き入てしまうぐらいに上手かった。だが、それと新メンバー候補とどう繋がるのか見当が付かない。
「ちょっと先輩、こっちこっち」
「ん?」
すると菊池が何やら内緒話でもするかのように、練馬を手招きする。それに釣られて耳を寄せると、コソコソと小さな声で話し始める。
「実はぁ……この動画の人、ウチの学校の人間らしいんスよ。しかも先輩とタメ」
「マジで!? 何処情報だよそれ!!」
「いやぁ、今やってるインディーズバンドで、この動画の撮影を手伝った人が居るんスよぉ! そっから聞いちゃったんスよねぇ!」
「お手柄だぜ! 流石天才ギタリスト!!」
「あざっス!!」
全くギタリストは無いが、鼻の下を伸ばしている菊池。それを横に練馬は、興奮で鼻息が荒くなっていた。
菊池の演奏技術は確かに凄い。だがバンドとしてやるのであれば、それだけじゃ足りない。やはり曲の雰囲気を支えるサイドギターが居た方が、バンドとしての音にはもっと厚みが出る。
そういう意味で言うと、この動画に映る白髪の青年は、バンドとしての曲の雰囲気を支えるサイドギターとして、正に十分過ぎる程に打ってつけだった。
「でも、誰だって言うんだ? こんな人気インフルエンサー、ウチに居たっけな?」
しかし冷静に考えてみると、練馬は途端に顰めっ面になってしまう。動画と手がかりがあるとはいえ、流石にこの学校の同年代全員の顔を覚えていない。そんな中から一人を探し出すなど出来る筈が無い。
その時、何かが引っ掛かっているように首を捻っていた黒崎が、ふと自信なさげにボソリと呟いた。
「白髪……これ、もしかしたらアイツか?」
その呟きに、練馬の眼がギラリと光り輝いた。
「え? 黒崎、お前コイツが誰か知ってんの!?」
「いや、雰囲気がアイツに似てるなって思っただけだ」
「アイツ?」
「ほら、昼休みに屋上に居る謎のイケメンってのが、ウチのクラスで一時期噂になってただろ?」
言われて練馬が思い出したのは、三カ月ぐらい前に、クラスの女子間で一瞬だけ流行った謎の噂。偶々屋上で昼ご飯を食べようとした女子達が、儚げな雰囲気のする謎のイケメンを目撃したというアレだ。
「あぁー。アレって結局、他クラスの生徒だったって奴だろ。直ぐに分かって終わったよな」
確かその三日後ぐらいに、その正体が隣クラスの生徒だったと発覚した。そんあ速攻で廃れた噂など、練馬は今までスッカリ忘れてチア。
そうして七十五日どころか三日で終わった噂が今更何だと、と思いながら練馬は聞き耳を立てていると、黒崎は自信なさげに。
「俺も直接聞いた訳じゃねぇけど、何でも白髪のイケメンだったって……」
「よっしゃ屋上だな! ちょっと行ってくる!!」
その瞬間、練馬はバッと弾けたように旧音楽室の扉から、一気に廊下へと飛び出していた。
例え確信が無くとも、そんな話を聞いて黙っていられない。あんな音色を弾けるギタリストが万が一にでも、メンバーになってくれるのであれば、いよいよバンドとして完成に近づく。
一度は諦めた夢──―だが、もう一度走り出した夢を前にして、練馬に躊躇いなど一切なかった。
「おい待て! まだそいつ決まった訳じゃ!!」
「って、練馬先輩もう行っちゃいましたよ!!」
「あの馬鹿……また人の話を聞かずに……!!」
練馬が出て行った後、黒崎は頭を痛そうに抱えると、やがて諦めたように黙って弁当をまた食べ始める。その慣れた様子を見た菊池は、ポカンと口を開いた。
「黒崎先輩……練馬先輩って、いつもあんな感じなんスか?」
「そうだよ。アイツは昔から、アイツは一度言い出したら聞かねぇんだ」
そう言うと、黒崎は苦笑いしながら、残りの弁当を一口で掻き込んだ。
「お前も覚悟しといた方が良いぜ。その内巻き込まれるかもな」
旧音楽室を飛び出した後、新校舎を繋ぐ渡り廊下を駆け出し、屋上へと続く昇り階段を一直線。途中すれ違った「コラァ練馬! 廊下を走るなぁ!!」と教師の怒鳴り声も、聞こえないフリをして全力で階段を駆け上がる。
──―そして昇り階段の突き当りにある重い鉄扉を勢い良く開け放つと、練馬は勢いそのままに屋上へと飛び込んだ。
「ぜぇ……ぜぇ……オェ! や、焼きそばパンが喉に……じぬぅ!!」
留まった瞬間、走りながら加えたままの焼きそばパンが口内の水分を一気に奪い去る。と言うか、パンが喉に詰まって窒息死寸前みたいになってしまう。
「ぶ、ぶぇ……だ、すげて……ヘル、ぷみー!!」
青空広がる屋上なのも相まってか、いよいよ天使のお迎え的な何かが見えかけたその時。
「水、要るかい?」
まるで天の助けとばかりに、空からペットボトルが落ちて来た。
「要るぅ!!」
練馬はそれを必死にキャッチし、キャップを捩じり切ると、一息で口に詰まったパン毎、中の水を全部飲み干した。
「プハァ! マジで死ぬかと思ったぁ!!」
「君、面白いね」
「へっ?」
頭上からクスリと笑う声が聞こえる。
声のした方向を見ると、そこに見えたのは昇降口の屋根の上にたなびく、ヘアゴムで纏めた長い髪──―それは動画に映っていたのと同じく、青空に揺蕩う雲と見間違うような白い髪だ。
「君、誰?」
そんな白い髪を持った青年が、見上げている青空のように澄んだ蒼い瞳で、練馬を天井から見下ろしていた。
「もしかして動画の!?」
「アレ、僕の事知ってるの? ファンだったりするのかな」
そこはかとなく儚げな空気を纏うその青年は、興味不可争に突如現れた来訪者を観察している。それなのに何処か遠くを見ているようで、練馬は心なしか胸の内を覗かれているような気持になってしまう。
やがて満足したのか、一通り観察し終えた青年は、ようやく昇降口から屋上へと飛び降りた。
「そうだよ。僕がYAGAMI──―いや、八神 総司って言った方が良いかな?」
そして、地面にフワリと着地すると、その青年──―八神は、さも当たり前のように自己紹介する。その瞬間、練馬の心臓は一際大きく高鳴った。
「やっぱり……なぁお前、動画見たんだけどさ!! 一緒にバンドやろうぜ!!」
「バンド……?」
あのギターを弾ける本人を前にして、練馬は名乗る事も忘れて興奮交じりに喋り出す。そのせいで八神は何を言っているのか分からないようで、頭の上にハテナを浮かべた。
「あぁ……そう言う事ねぇ」
だが少しだけ考える素振りを見せると、ようやく合点がいったのか、ポンッと掌を叩いた。
「……もしかして、二年前に出したあの動画を見てくれたのかな?」
「そうそう! アレ聞いた時、スゲェなって思ってさ! なんか……こう、感情をズドンって揺らすっていうかさ!!」
走りっぱなしだったせいだろうか。頭の中がグチャグチャになって、上手く纏まらない。あの動画を見た時の感動を伝えようとしても、全く言葉にできずに歯噛みばかりが出てしまう。
そんな練馬のしどろもどろする姿を見て、八神は少しだけ瞳を細めると、口元に静かな笑みを浮かべた。
「……良いよ、面白そうだし、乗ってあげる」
「マジで!?」
上手く纏まらない思考なんて置き去りに、驚愕で言葉を失ってしまう。まさかあんな拙い誘いに乗ってくれるなんて、練馬本人でさえ思いもしなかった。
だがそれでも八神は誘いに乗ってくれた。その事実をようやくかみ砕く事が出来ると、練馬はその細い手を思わずガッシリと握ってしまった。
「お、俺! 練馬 来斗って言うんだ! 宜しくな八神!!」
「こちらこそ宜しくね、練馬君」
急な距離の詰め方にも関わらず、出会った時から八神の表情が変わらない。好意的な笑顔のまま、爽やかに返事を返す。
──―コレで残りは一人、ベース担当が加われば、いよいよ練馬達のバンドが動き出す。突然の勧誘にも関わらず、了承された返事に、いよいよ胸の内が熱く沸き立っていくのを感じる。
──―だが最後の言葉を、悪戯に吹いた風に攫われた。
「少しは楽しませてよね……練馬君」