BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
練馬と燈に任されたのは、床に散らばったケースの整理だ。
燈が床に散らばったケースの中身を戻している中、練馬はようやく整理し終わったケースの一つを持ち上げようと掴んだ。
「ね、練馬君、そのぉ……一人で大丈夫?」
「大丈夫だって! これぐらいなら俺一人でも出来っから!!」
燈が思わず整理している手を止めて、心配してくれているが、練馬は親指でグッとサムズアップしてみせる。
太古の昔から、力仕事は男の見せ所と決まっている。正直、まだ腰がヤバいが、此処でカッコいい所を見せたくなるのは、男の性と言うもの。
腹に思いっきり力を込めて、練馬は一息にケースを持ち上げる。
「よっしゃ! せぇ……ゴキョ!?」
そして腰に走った鈍い痛みに、練馬は呆気なく崩れ落ちた。
「練馬君!? 今、凄い音が!」
「あっ、あっ、アァ、これ無理。腰の骨砕けた……」
燈が慌てて駆け寄って来てくれるが、出来ればこんな醜い姿を余り見て欲しくない。カッコつけた手前、地面に無様に転がる姿を好きな子に見られるとか、軽く恥である。
「あっ、え、えと! その……ば、絆創膏!!」
「絆創膏より……湿布をぉ……」
燈は「あっ」と声を上げ、慌てて受付の方へと走って行った。恐らく、円香さん辺りから救急箱や何やらを借りて来ることだろう。
「うぅ……超、カッコ悪ぃよぉ……」
腰だけ突き出して寝転ぶ地面に、練馬の情けない涙が零れる。だが、それを拭う優しい子は此処には居なかった。
「そっち、支えといて」
「はいよ」
立希から指示された通り、黒崎はケースの雪崩に巻き込まれて倒れたアンプを持ち上げ、そのままの姿勢を維持する。
「今の内に確認頼む」
「ん」
その間に、立希がアンプや、その下敷きになっていたケーブルの破損を、スマホのライトで照らしながら隅々までチェックし始める。
「大丈夫、傷は有るけど問題ない。後で報告しておく」
「了解。そんじゃあ戻すぞ」
やはり、此処のスタッフとしてバイトしているからか、立希が手際よく確認を終える。それを合図に、黒崎は抱えたままのアンプを元の位置に戻す。
「ふぅ……これで最後か」
「……ねぇ」
そうして、一通りの機材の確認を済ませた後、ふと黒崎が一息入れていると、立希から声を掛けられた。
「アンタさ、バンド始めんの?」
「……まぁな。アイツから誘われたし」
普段、余計な話を嫌う立希にしては、珍しい事だ。そんな感想も飲み込んで、黒崎は真剣に答える。色々とあって、立希は自分の過去について話した事がある。それでこんな話をしてきたのだろう。
「ふぅん……まぁ、頑張れば」
「……言われなくても、な」
無関心にも素っ気ない激励にも聞こえる返答。それが立希の優しさなのか、そうでないのかは分かりにくい。
それでも黒崎は、不器用なりの立希の優しさだと信じて、一先ず受け入れる事にしておいた。
それは、衝撃で散らばった机の上を整理し終えた後の事だった。
「えぇ! 八神さんって、あのYAGAMIなんですかぁ!?」
「うん、でもあんまり他の人には言わないでね?」
「あっ! ごめんなさい!!」
愛音がハッとしたように大声を出した口を両手で塞ぐ。そんな素直過ぎる言動に八神は思わず、フッと笑いが込み上げた。
ふとした話の拍子に、自分が人気インフルエンサー『YAGAMI』だと話すと、途端にこのはしゃぎ様だ。いっそ演技だと思いたくなるようなミーハーの反応に、八神は益々興味が湧いて来た。
「愛音ちゃんだっけ? SNSでフォローさせてもらっても良いかな?」
「良いんですか!? 寧ろ私の方からさせてもらいたいんですけど!!」
試しに誘ってみると、自分からスマホを差し出してお願いする始末だ。チョロ過ぎないかと逆に心配したくもなってしまうが、八神も自分のスマホを取り出す。
「──―はい、これからも宜しくね? 愛音ちゃん」
「こ、こちらこそ宜しくお願いします!!」
互いのアカウントでフォローし終えると、愛音が深々とお辞儀をする。
そして、八神は今しがたフォローし終えたばかりのアカウントを見つめ、愛音にはバレないように少しの薄笑いを浮かべる。
ファンの子と連絡先を交換する事自体は、特に珍しくはない。だが、今まで出会った事もないぐらいのミーハーぶりを晒す愛音に、八神は殊更興味を抱いていた。
「今後とも、宜しくね?」
「は、はい! こちらこそよろしくお願い致します。!!」
きっと、この子ならやっていけそうだ──ーそんな淡い期待を込めて笑顔を返すと、愛音はボッと火が出た様に顔を赤らめた。
「なぁアンタ……長崎、だっけ~?」
その辺でブラブラしていた朝日奈は、偶々自分の近くで散らばった埃の掃き掃除していたそよへ、何となくそう尋ねかけた。
「……はい、何ですか?」
「それ、疲れない?」
ピクリ、とそよの眉間が動いたような気がした。だが、直ぐに穏やかな笑みに早変わりする。
「そう思うなら、手伝ってくれませんか?」
「と思うったんだけどさ~。もう人手足りてるし、やる事ないんだよねぇ」
実際、こんな狭いスタジオ裏を10人がかりで掃除する必要もない。じゃなければ、極力働きたくない朝日奈であっても、流石に何かしらは手伝っている。
「アンタだってそうじゃねぇの? 掃除する程じゃないのに、掃き掃除なんてしちゃって」
「そんな事ないですよ~」
そよが手を止めていた掃き掃除を再開する。だが、少なくとも朝日奈が見る限りでは、掃除をする必要がある程、埃が溜まっているようには見えない。
「へぇ~……まぁ、そうするよなぁ」
朝日奈は近場に在ったロッカーを開くと、そこからチリトリを手に取る。そして、丁度そよが掃いている辺りに構えた。
「……手伝わないんじゃなかったんですか?」
「手伝うフリ。そんで2人仲良くサボっとこうじゃん」
何か言いたげにそよの口をモゴモゴ動くが、やがて諦めたのか、黙って構えたチリトリの中に、大して残ってもいない埃を掃いた。
「ん……抹茶、美味しい」
一方、楽奈の方は周りが掃除やら片づけをしていようと我関せず、差し入れされた抹茶フラペチーノに手を付けていた。
隣接しているカフェスペースで購入した物らしく、飲み慣れたお気に入りの味が口一杯に広がる。そうしてほろ苦さと甘さのハーモニーに舌鼓を打っていると、ふと楽奈の目の前で誰かが足を止めた。
「おっ、ギターの子じゃないッスか?」
「……誰?」
「いやさっき自己紹介したッスよ!? 楓ッス! か・え・で! つか俺結構有名何スけど知らないんスかぁ? この前とか──ー」
ヤケにテンションの高い金髪の男の子が、捨てに行こうとしていたらしいゴミ袋片手に、グイグイと迫って来る。ウザったいので楽奈が少し距離を置いても、全く構わずにペラペラと喋り続けていた。
「──―あっ、そうそう! そう言えば、さっきのギター良かったッスよ! ま、まぁ? 俺もアレくらいなら直ぐに出来るけどぉ!」
適当に聞き流している中で、その言葉だけが楽奈の耳に入った。
「……ふぅん」
「な、何スかいきなり! もしかして俺に惚れちゃったとか!? いやぁ俺のファンとかにも悪いしなぁ!」
戯言には一切耳を貸さず、その金髪男の子の事を隅から隅までじっくりと観察する。そしてようやく満足すると、途端に楽奈は興味を失った。
「ツマンネェ男」
「は? ……は、ハァァァ!?」
最初は何を言われたのか分からなかったらしい。だが、直ぐに理解したようで、金髪男の子が眼を広げて素っ頓狂な声を上げた。
「ちょ! ちょっと! それどういう意味ッスか!?」
「じゃ」
「ちょっとぉ!?」
金髪男が慌てて問い詰めようとするが、生憎と付き合ってやる義理は無い。そそくさと抹茶フラペチーノを片手に、隙を縫ってヌルリとその場から抜け出した。
そして去り際に、楽奈はもう一度同じ言葉を呟く。
「……本当に、ツマンネェ男」
勿体ない──そう思いながら、僅かに残った抹茶フラペチーノを一口啜った。
「……何なんだよ、あの猫女はぁ」