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第13衛星軌道上基地“バンカー”は、もはや“ヨルハ司令部”としての機能を失いつつあった。
そこに渦巻いているのは、数千年の機械戦争の絶望を吹き飛ばすほどの、あまりにも純粋で、あまりにも“重い”初恋の嵐である。
「ナインズくん? 私よりも、私のお姉ちゃんの方が好みかもしれないですよ?」
メイリンが、いたずらっぽく小首をかしげ、小悪魔のような笑みを浮かべた。
彼女にとって、この「自分を神格化してくる少年」の反応は、最高の暇つぶしになりつつあった。
「メ、メメメ、メイリン様のお姉様ぁぁ////!?」
9Sのブラックボックスが、火花を散らして異音を立てる。
彼の演算回路には、メイリンという「完璧で究極の聖女」の型紙が存在する。その「姉」という概念は「聖女のさらに上位互換」あるいは「宇宙の真理そのもの」という、恐るべきバグを含んだ仮説として処理された。
「メイリン、何を言っているんだ!?ルナマリアは今、ジブラルタルにいるんだぞ! 彼女をこんな歪な場所に引き込むような冗談はやめろ!」
アスランが頭を抱えて制止する。
彼にとって部下である“ルナマリア・ホーク”が、この「人類教」の総本山に現れるなど、想像するだけで胃に穴が開きそうな事態だった。
だが、彼の呆れと脱力が、逆に9Sに油を注ぐ。
「ルルル・・ル、ルナマリア様・・という方は……。そ、その、失礼を承知でお伺いしますが……! 拙者のバディ“2B”よりも・・・2Bよりも綺麗な方なのですか!? メイリン様ッ!!」
9Sの声は、もはや絶叫に近かった。
つい数時間前まで、彼は「苦しい孤独な世界で2Bこそが唯一の光。彼女の為ならどんな危険な事をも厭わない」と心に誓っていたはずだった。
だが、メイリンという「実在する生命」に触れた瞬間、彼の
「ふふっ、お姉ちゃんはね、私よりずっと強くて、頼りになる、とっても美人さんだよ。ナインズくんみたいな“可愛い子”が、一番の好みかもね?」
「あああああッ!! か・・・・か・・かかかか“可愛い子”でござりまするかぁぁぁぁっ////ぼぼぼ・・僕が“可愛い子”ぉぉぉっ!?」
「か・・・可愛いぃぃぃ!?僕が可愛いいいきっいいっ////2Bにもオペレーターさんにも言われた事がない形容詞でごさりまするぅぅぅっ///./」
「そそそそ・・・それででででで・・・ぼぼ・僕がそのお姉様のお好みに合致しているとおっしゃるのですかぁぁぁッ!!」
9Sの感情モジュールが臨界点を突破した。
ヨルハ九号S型――スキャナー型でも優れた情報収集能力を持つはずの機体が、今や一人の少女の「お姉ちゃん」「可愛い子」という単語だけで、膝をガクガクと震わせてる。ゴーグル越しだが、白目を剥きかけてるのが分かる。
メイリンは私物の通信端末を取り出した。
画面を何度かタップしたり、スワイプした後に、端末に表示されたモノを9Sに突き出すように見せつけた。
「この人が私のお姉ちゃんよ?」
「・・っ!?!?!!!」
ゴーグル越しでも分かるかのような目を見開く。口角が下がるかのように口を開く。彼にとってあまりにも強烈だった。多くの機械生命体をハッキングして敵の内情、色んな知られざる秘密を知った時の衝撃すらも霞む程、まさに驚天動地。
全身に電撃が直撃したのか、手足が震え出して辛うじて立つことが出来てる。
彼の視界には、メイリンの赤髪ツインテールとは異なり、赤紫のショートヘアの女性。彼女よりもしっかりした体躯でありながら、曲線美のボディライン。ピンク色のミニスカで、ヨルハの扇情的な黒のミニスカとは異なり温もりを感じさせる。強くて頼りになりそうな人相。そこから滲み出る母性。
「こここここ・・・この麗しい・・めめめめめめめ女神様が・・・・メメメメメメ、メメメメメメメ、メメメ・・・メイリン様のお姉様“ルナマリア・ホーク様”でごごごご、ござりますかっ!?///////」
「メイリン・・君は何をやってるんだ・・!?こんな得体の知れない変な連中に身内の姿見せるべきでないだろう・・?」
「うおおおぉおおおおおおおっおおおっ!!!!!某は遂に遂に遂に気高き麗しい母なる女神様と出会うことに成功したでござるぅぅぅ!!成功の次は性交おおおおっおおおっオマ%△ぉぉぉぉぉぉぉっ////」
気高き2人の人間様の目の前で熱暴走して意味不明な言葉の羅列で吠える9S。おそらく正常であるなら決して・・アンドロイドであるなら発さない言葉すらも今何の躊躇もなく口に出してる・・・。
拳に力込めて、力強く天に向けて突き上げるかのように勝利のポーズをし出した!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!某の熱き魂ィィィィィィィィぉ!!!この分析スキルとハッキングスキルでお二方をお守りするでござりまするぅぅぅぅっ!!」
そんな理解不能な雄叫びを上げてる最中、メイリンは最後の締めとして彼にトドメを刺す。
「ねえ、ナインズくん?」
面白半分で、メイリンが9Sの細い手を、そっと両手で包み込むように握った。生身の人間だけが持つ、柔らかい皮膚の質感。36.5度の、狂おしいほどに確かな「体温」。
「………………ッ!!!」
9Sの視界が、真っ白なエラーログで埋め尽くされた。
あまりのドキドキに、彼の姿勢制御プログラムが完全にクラッシュする。
「あ……あう……あ・・/////」
(・・何だ!?コレは!?2Bやオペレーターさんと手を握る感触や感覚が違う・・!!違い過ぎてロジックエラーが起きてる・・!?コレは・・一体!?)
9Sは、もはや立っていることすらできず、その場にガクンと膝をついた。
メイリンの手を握ったまま、跪き、その場から一歩も動けなくなる。それは、人類への敬意という名目を通り越した、ただの「重度のメロメロ状態」だった。
「……メイリン。頼むから、エクステンデッドを物理的に破壊するのはやめてくれ・・。」
アスランは、もはやツッコミを入れる元気もなく、力なく呟いた。
「アスランさん、見てください! この子、本当に手が熱くなってますよ! エスステンデッドも知恵熱って出すんですか?」
「それは知恵熱じゃないと思うぞ・・」
跪いたまま、メイリンの手の温もりに「尊さ」の極致を見出した9Sは、虚空を見つめたまま、幸せそうにこう呟いた。
「も・・もうぅぅ地上の調査なんて、どうでもいいござりまするぅぅぅぅ/////ぼぼぼぼーぼぼぼーぼぼ僕は……一生、メメ・・メイリン様の手を握るための
『報告:9S個体の脳内データ、98%が“メイリン・ホーク”という文字列で埋没によるキャパシティオーバー。修復は不可能と判断。呆れ:人類という存在は、兵器としてのヨルハを、あまりにも容易く無力化する傾向がある。』
彼の随行支援ユニット“ポッド153”の無慈悲な機械音声が、静まり返った格納庫に響く。
一方、その光景を遠くから見ていた1人の“ヨルハ”は、なぜか胸の奥がチリチリと痛むのを感じていた。それが「嫉妬」なのか「疎外感」なのか、彼女のプログラムにはまだ、その感情を定義する言葉は存在しなかった。
「さあ、ナインズくん?壊れてないで、グフのところへ案内して。お姉ちゃんの話は、その後でゆっくり聞いてあげるから」
「は、はひぃーッ!! 拙者、地の果てまでお供つかまつるぅぅぅぅっ!!ハシュー///ハシュー///ハシュー!!ハシュぅぅぅっ!!」
メイリンに手を引かれ、フラフラと立ち上がった9S。彼女と手を介しての物理的に繋がってることにより感情モジュールの更なる乱れが生じてたらしいが・・。
ハー ハー ハー ハー ハー
(いやいや・・・異性との対話で、ここまで取り乱して不快な言葉を叫ぶ彼にマトモな案内が出来るとは思えないのだが・・・。)
アスランはもう完全に諦めてた。このバンカーにはまともに会話成立する者が誰1人居ないと言う現実に・・。
◇- 兵器開発部ラボ -◇
ヨルハ機体のメンテナンス、専用兵器の開発を担うこの区画にて、アスランが危惧していた「金箔塗りの派手な装飾」も、不敬な改造も施されていない“グフイグナイテッド”が静かに鎮座していた。
白衣を纏ったエンジニア達は、その蒼い機体を前にして、手袋をはめた指先を震わせ、数センチの距離でフリーズしていたのだ。
「……だ、ダメだ。触れない……。人類様が直接触れ、その魂を乗せて戦った『御神体』なのよ? 傷一つつけたら、私たちの融合炉が
「しかし、この未知の動力エンジンの構造やフレームや装甲や素材を解析できれば、機械戦争を終わらせる決定打になるはず……。ああ、でも……恐れ多い……ッ!」
彼女たちにとって、グフはもはや兵器ではなく「人間様の聖遺物」だった。光学スキャンだけで精一杯の解析を続けながら、この機体が戦場で機械生命体を圧倒したという報告に、数千年の絶望を打ち破る「希望」を見ていた。
どのカップリングが面白そうか?
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アスラン×2B
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アスラン×9S
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アスラン×A2
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アスラン×司令官
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アスラン×6O
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アスラン×21O
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アスラン×パスカル
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アスラン×アネモネ
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アスラン×デボルポポル