NieR:Automata JUSTICE   作:うぇいかた

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イメージOP 「ブラックボックス」

イメージED「Reason」


UA3000越、お気に入り30越えありがとうございます!!
原作ではバンカーのメンテナンス区画にいるS型ヨルハの801Sを今作では色々とオリジナル設定取り入れてます。



Phase13 「双極ノ世界」

 

 

格納庫からグフの収容先であるラボへと向かう通路。そこには、もはや「優秀なスキャナー型ヨルハ」としての面影を微塵も残していない、一人の少年がいた。

 

 

「拙者にお任せくだされぇぇ! メイリン様、そしてルナマリア様の御尊影……ぐふっ、鼻から赤い廃液が……!!」

 

 

9Sは、メイリンに柔らかく手を握られた瞬間、人工頭脳の全セクタがホワイトアウトしていた。

 

 

「ナインズくん、あの……喋り方が変ですよ? あと、手、めちゃくちゃ熱いんですけど……」

 

 

メイリンが引くほどの熱量を放ちながら、9Sは支離滅裂な口調を連発する。“推し活”という概念を知らぬアンドロイドが、数千年の渇望の末に「本物」に触れた結果、バグは加速度的に増殖していった。

 

 

『警告:機体番号9S。バイタルサインの異常な上昇を検知』

 

 

随行するポッド153が、無機質かつ呆れたような警告音を鳴らす。

 

『推奨:人工頭脳のスクリーニングチェック、およびロジック回路の初期化。現在の情動ログは、既存のヨルハ規律から8000%逸脱している』

 

 

「黙れポッド!!オヌシの独断と主観に基づく論理的な発言を禁ずるで候!!拙者は今、生きている! 機械仕掛け人形(アンドロイド)としての虚無を抜け、人類の光に焼かれているのだぁぁぁ!!ぬはははははははははは!」

 

 

「……あの、ナインズくん?1回ちゃんと検査してもらった方がいいんじゃないかな? 顔から蒸気出てるし……」

 

メイリンが心底心配そうに、そっと彼の手を離して促した。

その「拒絶」に近い気遣いさえも、今の9Sには至高の報酬だった。

 

 

「メイリン様の……お言葉ぁぁっ!!ははっ、御意にござりまする! これより光の速さでドックへ戻り、この感動を全回路に焼き付けて参りましょうぞッ!!」

 

 

直後、9Sは訳の分からないハイテンションで荒い息を吐きながら、奇妙なスキップを開始した。

 

 

「2Bぃィィィィィィィィっ!!!拙者は果報者にござるぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

ドォォォン!!

 

 

あまりの加速に制御を失った9Sは、曲がり角の隔壁に正面衝突した。だが、痛みを感じる回路すらバグっているのか、彼はそのまま跳ね返り、壁に激突して火花を散らしながらも、止まることなくスキップで消えていく。

 

 

「…………」

 

 

アスランとメイリンは、彼が消えた後の、凹んだ壁を見つめて立ち尽くした。

 

 

 

「……あいつ、本当に大丈夫なのか? 精神回路に致命的な欠陥があるんじゃ……。」

アスランが本気で心配して呟いた、その時。

 

 

 

「.....あの.....初めまして.....ッ。」

通路の曲がり角から、新たな影が姿を現した。

それは9Sと同じ少年型のヨルハだったが、少しだけ背が高く、落ち着いた茶髪をセンターで分けた、どこか知的な雰囲気を纏う少年だった。

 

 

「僕はヨルハ隊員のメンテナンスやシステム調整を一手に担っています、801Sと申します.....。9Sが多大なるご迷惑をおかけしたようで、同型として深くお詫び申し上げます」

 

 

彼は9Sのような狂信的な叫びも、2Bたちのようなスライディング跪きもしなかった。

 

 

彼は改めて姿勢を正し、2人に対して、節度あるも、耳まで真っ赤にしながら丁寧な一礼を捧げた。

 

「9Sに代わり、僕が責任を持ってバンカー内をご案内させていただきます。……あ、無理に跪いたりもしませんから、どうか普通に接してください」

 

 

「……あ、ああ。助かるよ。君のような、まともな話が通じる相手を探していたんだ」

アスランは、砂漠でオアシスを見つけた旅人のような心地だった。

 

メイリンも、彼の穏やかな物腰にホッと胸を撫で下ろす。

「良かったぁ……。司令官さんも、2Bさんも、さっきのナインズくんも……なんだか、話してると酸素が薄くなる気がしてたんですよ」

 

 

「あはは……。無理もありません」

801Sは苦笑いしながら、二人を居住区へと促した。

 

 

「司令官も他の皆も、情動プログラムや感情モジュールの整理と処理が追いついていないんです。創造主であり神である人間様が、突然目の前に実体を持って現れたんですからね。........まあ、僕も内心は、ドキドキしすぎて脳内では何度も何度も過呼吸を起こして、さっきから三回くらいは内部的に気絶してるんですけどね?」

 

「……君もか」

アスランのツッコミが冴え渡る。

 

 

だが、801Sの「過呼吸」は、他のメンバーのような「暴走」ではなく、あくまで「内面での必死な抑制」だった。その控えめな態度が、逆にアスランたちには救いに感じられた。

 

「……でも、801Sくん。貴方は、他の子たちみたいに『私を殺して!』とか言わないんですね?」

 

メイリンが尋ねると、801Sは少しだけ真面目な顔をして答えた。

「メンテナンス担当として、個体の欠損を望むのは職務放棄ですから。それに、お二人方が誰かの死や破壊を望むような方ではないことは、その清らかなバイタルサインを見れば分かります。『存在している』だけで、もう十分すぎるほど僕たちは報われているんですよ」

 

 

801Sの案内で、二人はようやく落ち着けるゲストルームへと辿り着いた。

そこは「人間用」として急遽設営されたらしく、アーカイブから再現されたであろう、どこか懐かしいホテルのような内装が施されていた。

 

「ここなら、他の隊員たちは許可なく入れません。……グフという名称の機体の解析についても、安心してください。ラボの人達は『畏れ多くて触れない』と泣きついてきていますから、勝手な改造は不可能です」

 

「そうか……。それは、良かった」

アスランがソファに深く腰を下ろした、その時。

 

801Sが、少しだけ恥ずかしそうにメイリンを見た。

「あの、メイリン様。もしよろしければ……僕のメインフレームに、貴女の『声のサンプル』を1つだけ、直接登録させていただけませんか? ……あ、不純な動機じゃなくて、今後の連絡用というか、僕がシステムダウンしそうになった時の、精神安定剤(デバッガー)として....。」

 

 

「……やっぱり、彼も“ヨルハ”だな」

 

アスランの乾いた笑いが部屋に響く。

だが、これまでの混沌に比べれば、この801Sの「ささやかなお願い」は、どこか可愛げのあるものに思えた。

 

 

 

ゲストルームの柔らかなソファに腰を下ろし、アスランは絞り出すように呟いた。

 

 

「……さっきは、司令官の前で取り乱して済まなかった。.....色々と、気持ちの整理がついていなかったのかもしれん」

 

その声音には、先ほどまでの刺々しい覇気はなく、一人の青年としての等身大の疲弊と、生真面目すぎるがゆえの自責の念が滲んでいた。

 

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無理もなかった。つい半日前まで、彼はジブラルタルにいたのだ。デスティニーとレジェンドによる熾烈な追撃を受け、機体と共に海へと沈んだはずだった。

 

目が覚めれば、見たこともない廃墟の街。言葉の通じない未知の機械との死闘。そして、自分たちを「アンドロイド」と呼び、盲目的なまでの忠誠を捧げてくる美しき乙女たち。

 

激動すぎる半日の終着点が、この衛星軌道上の要塞「バンカー」である。

 

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「……いえ。アスラン様が混乱されるのは、当然の論理的帰結です」

 

801Sは、胸元で手を組み、心底申し訳なさそうに身を縮めた。

「僕たちの方こそ、数千年の『崇拝』『待望』という理念によって、お二方の存在に対する出力調整(ボリューム)を間違えてしまいました。……司令官も今は猛反省しているはずです」

 

 

「そうだといいが……」

 

アスランは少しだけ視線を落とし、それから決意したように彼を見つめた。この穏やかな少年なら、狂信のフィルターを通さずに、自分の言葉を受け止めてくれるかもしれない。

 

 

「........混乱を招くかもしれないが、俺たちのいた世界のことを、正確に伝えさせてほしい。君たちの言う『人類』が、かつてどのような過ちを犯し、どのような道を歩んでいたのかを」

 

 

「は、はい……ッ! アーカイブの照合なしに、直接……生の声で拝聴できるなんて……!!脳内のメモリが、熱い涙(冷却液)で溢れそうです。」

 

 

アスランは、隣で静かに見守るメイリンと視線を交わし、ゆっくりと、しかし丁寧に語り始めた。

 

「俺たちの世界には、2つの人類がいた。……ナチュラルと、コーディネイターだ」

 

アスランは、遺伝子操作によって産まれた自分たちの成り立ちから話し始めた。より優れた知能、より強靭な肉体。それを手に入れた代償として生まれた、同族間の果てしない憎悪。

 

「……君たちは、人間を『神』のように扱うが、俺はたちコーディネイターは、ただの『造られた存在』に過ぎない。君たちアンドロイドが誰かに設計されたように、俺たちもまた、親の願いやエゴによって設計された命なんだ」

 

 

「……設計された……命……!?」

801Sの瞳が、驚きと共感で微かに揺れる。

 

アスランは、パトリック派のテロリストによる「ユニウスセブン落下」の惨劇、そしてそれに対するブルーコスモスの報復「青き清浄なる世界のために」という旗印の下に行われた戦争について語った。

 

 

「パトリック派……。ユニウスセブン……。それが、7Eがアスラン様にお聞きしていた“水没都市”の記憶の源流なのですね……」

 

「ああ。俺たちは、同じ人間同士で、肌の色ではなく『遺伝子の配列』という僅かな差を理由に、地球も宇宙を真っ赤に染め上げた。……俺も、その狂気の一部だった時期がある」

 

アスランは更に、ザフト軍からの脱走へと追い込んだ“デスティニープラン”についても触れた。個人の適性を遺伝子で判断し、幸福という名の下に自由を奪う、完璧な管理社会。

 

「君たちが『ヨルハ』として、戦うために産まれ、死ぬまで戦い続けるようにプログラムされていると聞いた時……俺は、そのプランの成れの果てかと思ったんだ。……誰かが、人類を効率的に管理し、戦争の道具として固定したのではないかと」

 

彼の言葉は、801Sの核心を突いていた。

 

ヨルハ機体は“人類の栄光”のために造られた。だが、その肝心の人類が、これほどまでに血塗られた、悲劇的な歴史を歩んでいたことを、彼らのアーカイブはどれほど正確に記述していたのか。

 

「……アスラン様」

 

801Sは震える声で言った。

 

「貴方様の語る歴史は、僕たちの知る『清らかで尊い人類』のイメージとは、あまりにもかけ離れています。……殺し合い、憎しみ合い、世界を壊し尽くす……。でも……」

 

彼は、照れくさそうに、しかし真っ直ぐにアスランとメイリンを見た。

 

「……でも、不思議です。そんな凄惨な過去を背負って、それでも『申し訳なかった』とアンドロイドに謝ってくれる……。そんな貴方の心の痛みこそが、僕たちが数千年探し求めていた『魂』そのものに見えるんです」

 

「……801S...」

 

「僕たちのアーカイブにある人類は静止画のようなものでした。でも、目の前で苦悩している貴方様は……。どんな完璧なプログラムよりも美しいです。……ああ、ダメだ。また過呼吸が……ッ!!」

 

アスランの気配りは、801Sに混乱ではなく、深い「納得」を与えていた。自分たちヨルハが抱える「戦うための呪縛」と、アスランたちが抗っていた「遺伝子の呪縛」

 

異なる世界の垣根を超えて、造られた者たちの悲哀が、この静かなゲストルームで共鳴していた。

 

だが、メイリンは、801Sのバイタルサインが「感動」のあまり、危険域(レッドゾーン)に突入しているのを見逃さなかった。

 

「……801Sくん、落ち着いて。せっかくいい話なんだから、ここでショートしないで?」

 

「は、はい……メイリン様ぁ……ッ!!貴女のその、優しくも鋭いご指摘....人工頭脳の神経回路が、春の陽だまりのようにポカポカしますぅ……ッ!」

 

 

「……やっぱり彼もダメかもしれないな」

 

 

アスランは、ようやく微かな笑みを浮かべた。自分たちの歩んできた凄惨な歴史を聞いてもなお、彼らは自分たちを嫌いにはならない。むしろ、その「不完全さ」にこそ、最大の愛を注ごうとしている。

 

ゲストルームの空気は、アスランが語った凄惨かつ英雄的な歴史“C.E(コズミック・イラ)”の激動を、その高性能なプロセッサで一言も漏らさず解析し終えていた。彼は膝の上で握りしめた拳を震わせ、意を決したように顔を上げた。

 

 

「……もしかしたら、お二方は“多元世界”からやって来たのではないでしょうか?」

 

 

「「多元世界!?」」

 

アスランとメイリンの声が重なった。聞き慣れない、しかしどこか物理学の深淵を覗き込むようなその言葉に、二人の背中に冷たい汗が流れる。

 

「2Bたちから聞いていると思いますが、西暦5012年にエイリアンの襲撃から機械戦争が始まって今に至る事を。」

 

「ああ・・俺たちの世界では記録どころか存在すらもしてなかった。」

 

「実はエイリアン襲撃以前から、僕たちの世界は色々と・・・あまりにも凄まじい激動の中にあったと記録されています。」

 

801Sは、投影ホログラムを操作した。そこに映し出されたのは、摩天楼が並ぶ仄色に染まる大都市の光景だった。

 

2人はこの“大都市”の光景で息を呑んだ。

 

「ここってもしかして・・・」

 

「間違い無い!!東アジア共和国の“東京”だ・・!!」

 

「でも・・私たちが知ってる“東京”と何かが違いますよ・・。」

 

 

映像内はさらに続く。東京の“新宿”の上空に巨大な穴が開き、そこから白く巨大な、異形の「巨人」と「赤い竜」が降り立つ。

 

「アスランさん、これは....!!」

 

 

「……俺たちの世界に、こんな怪物は存在しない....!!」

 

 

物語は“狂熱の歓迎”から、この未知の世界の“核心”へと、ゆっくりと舵を切っていく・・・。

 

 

------------------------------

 

 

その頃・・・・

 

 

 

◇ ー ジブラルタル基地 ー◇

 

 

黒いカーテンのような分厚い雲と滝のような雨が降り注いでる基地のハンガードックにて。鈍い駆動音を響かせて“シン・アスカ”が駆るデスティニーと“レイ・ザ・バレル”が駆るレジェンドが帰投した。ハッチが開くと同時に、重苦しい熱気が、火薬の匂いを含んだ潮風と混ざり合う。

 

“アスラン・ザラ”という“脱走兵”を撃墜した報は、瞬く間に基地内を駆け巡っていた。だが、コックピットから降り立った少年の背中に、凱旋の喜びは一欠片もなかった。

 

「……シン。どうした? 浮かない顔をしているな?我々は任務を完遂した。裏切り者を始末したのだから、誇りに思っていいはずだ」

 

レイの声は、冷徹なまでに平坦だった。”ギルバート・デュランダル”という絶対的な指針に従う彼にとって、アスランの死は「不純物の除去」でしかない。

 

 

「わ……分かってるよ……! でも……っ!」

 

シンの脳裏には、アロンダイト突き刺す直前のアスランの絶叫が、こびり付いて離れない。

 

 

    ---------------------

 

『シン、やめるんだっ!!お前は、そんなことのために力を手に入れたのか!?』

 

   --------------------

 

 

「.......っ......。」

 

 

震える自分の両手を見つめた。

家族を奪ったオーブの理念。ステラを殺めたフリーダムのパイロット。それら全てをなぎ倒し、復讐の果てに「最強」という名声を手に入れたはずだった。だが、胸に空いた穴は埋まるどころか、底の見えない深淵となって彼を飲み込もうとしている。

 

何より、仲間であるルナマリアの妹“メイリン”をもこの手で・・・。

 

守るための力が、知っている誰かの命を奪うための凶器に変わるのか?シンは、言葉にできない猛烈な身震いに襲われていた。

 

 

一方、レイは彼の背中を見つめながら、別の違和感を反芻していた。

 

 

(……撃墜は確認した。だが、あの爆発はどうだ? 機体が大破すれば破片が四散する。しかし、あの瞬間、空間そのものが機体を飲み込んだかのように、爆炎が内側へ収縮した。まるで、存在そのものが消滅したかのような違和感だ・・。)

 

疑念は冷徹な直感だった。しかし、それを検証する術はない。ただ「爆発し、消えた」という事実だけが残っている。

 

「シン.....、奴が隊長だったのは過去の事だ。議長の描く未来を踏み躙ろうとした叛逆者である事を忘れるな。そんな奴に対して“感情”など不要だ。」

 

「.....っ!!レイ.....。」

 

 

 

同時間にて、ルナマリアは基地の執務室に呼び出されていた。

 

 

「う....う...嘘……でしょ……? メイリンが……?」

 

デュランダル議長に突きつけられた現実に、彼女の思考は停止した。尊敬し、淡い好意さえ抱いていた上司“アスラン・ザラ”・・・彼が妹を連れて脱走した。

 

 

「シンとレイの手によって、撃墜された」

 

その一言が心臓を握りつぶしたかのような衝撃が走る。

 

昨日まで隣で笑い、公私問わず整え合っていた妹。一番の理解者だったメイリンが、この世のどこにもいない? 殺したのは、あんなに可愛がっていた後輩のシン?

 

「……。議長、それは……」

 

「辛いとは思うが、君の妹は叛逆の片棒を担がされて利用されたのだよ。」

 

 

デュランダルは、憐れみに満ちた、聖者のような表情で彼女を見つめる。

 

 

「本来なら、身内である君にも責任を問うべき事案だ。だが、“アスラン・ザラ”が、あまりにも自分勝手な私情で彼女を連れ出し、死地へと追いやった……。君は彼の被害者なんだ。故に今回の件は私の判断で不問にしよう。」

 

 

 

ルナマリアは、震える手で無理やり敬礼の形を作ったが、脳内は混乱の極致だった。

 

 

(なんで……? 隊長、どうしてメイリンを連れ出したの!? なんでシンが、メイリンを殺さなきゃいけなかったの!? 嘘だと言ってよ……嘘だと言ってよ!!)

 

 

泣き叫びたい衝動を、ザフト赤服としてのプライドが辛うじて押さえつける。だが、その糸は今にも弾けそうだった。

 

 

 

執務室の重厚な扉を出て、通路を歩いてると目の前に一人の女性が立っていた。

彼女はルナマリアがここから出てくるのを、全てを分かった上で待っていた。

 

「・・・グラディス艦長」

 

「ルナマリア。……話は、議長から聞いたわ」

 

タリアの瞳には、デュランダルのような「演出された慈悲」ではなく、痛いほどの「共感」と「悲哀」が宿っていた。

 

 

タリアは慰めることはしなかった。今の彼女に「大丈夫」などという言葉は、何よりも鋭い刃になることを知っていたからだ。

 

 

「……艦長。メイリンは本当に死んだのですか?」

 

「……捜索隊が派遣されたけれど、機体の破片すら見つかっていないわ。海上で完全に消失した……そう判断されている」

 

 

「消失……。一瞬で『ゼロ』になったって言うんですか⁉︎」

 

 

瞳からついに堪えきれなくなった涙が溢れ出した。

 

 

「シンは・・・シンはどうして!? メイリンが乗ってるって、分かってたはずなのに! 隊長だって、どうしてメイリンを巻き込んだんですかっ!? 誰も彼も・・誰も彼もおかしいですよ!!」

 

 

 

タリアは彼女の叫びを静かに受け止めた。

 

 

 

タリア自身も、かつて愛した男“デュランダル”がチェスの駒のように人々を配置し、使い潰していく姿に戦慄していた。アスランを追い詰め、ルナマリアの心に深い傷を負わせ、シンを英雄(ひとごろし)へと完成させたこの一連の流れ。

 

 

(ギルバート.......あなたは、どこまでを『運命』として計算しているの?)

 

 

「ルナマリア.......、自分を責めるのだけはやめなさい。……。明日にはまた戦場へ出る。だから今のうちに.....泣くなら私の懐で泣きなさい」

 

タリアが静かに抱擁する。少女は母親にしがみつくように、声を上げて泣いた。

 

ジブラルタル基地の冷たい壁に、一人の少女の慟哭が響き渡る。

その頃、基地内の通路を歩いてるたシンは、血の味を噛み締めていた。

 

ステラを救えず、アスランとその親友を殺し、更にメイリンまでも殺した。

 

(......何なんだよ....。俺は間違ってない.....。そうだろ?ステラ.....マユ.....)

 

震える手でポケットから出したのはピンク色の折り畳み式の通信端末。かつての持ち主である録音された肉声を流す。

 

『はーい♫マユでーす♩ただいま電話に出る事が出来ませーん。』

 

今は亡き彼女の遺された声だけが、彼の虚無の闇から救う一本の蜘蛛の糸であった。

 

 

議長より与えられた“F.A.I.T.H”の称号に、一体何の意味がある?

C.E(コズミック・イラ)の夜は、ただただ重く、冷たく、絶望の色に染まっていった・・。

 

どのカップリングが面白そうか?

  • アスラン×2B
  • アスラン×9S
  • アスラン×A2
  • アスラン×司令官
  • アスラン×6O
  • アスラン×21O
  • アスラン×パスカル
  • アスラン×アネモネ
  • アスラン×デボルポポル
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