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ゲストルームの空気は、801Sが投影したホログラムスクリーンの光によって、病的なまでに蒼く染まっていた。
映し出されているのは、アスランとメイリンが知る「旧世紀の東京」の“新宿”の光景。だが、その街を蹂躙しているのは、核兵器でもMSでもなかった。
「……すべての始まりは、2003年。新宿上空に突如として出現した“灰色の巨人”と“赤い竜”です。この異物こそが、世界に『魔素』という名の呪いを撒き散らしたのです」
801Sの声は、記録を読み上げる機械的な冷徹さと、それを口にすることへの根源的な恐怖に震えていた。
「世界はそこから、未知の粒子による『白塩化症候群』……人間が塩の柱となって死ぬか、あるいは理性を失う怪物『レギオン』へと変貌する凄惨な地獄へ叩き落とされました。人類は存続のために、魂と肉体を分離させる『ゲシュタルト計画』を立案……自らを肉体という檻から解き放ち、器としての“レプリカント体”へと置き換える道を選んだのです。……これが、僕たちの世界での『人類』の歴史です」
「……巨人と、竜……?」
アスランの眉間に深い皺が刻まれる。それは自分達の知る
「信じられないかもしれませんが、当時の世界的組織であった国連は、ある仮説を立てました。……この世界とは異なる時間軸、異なる物理法則を持つ世界。すなわち*多元世界*からの干渉が、この悲劇を招いたのではないか……と。そうした記録が存在するんです」
801Sは2人の目を真っ直ぐに見据えた。
「御二方の話を聞いていると……どうしても、その太古の記録の断片と一致するんです。遺伝子を操作し、人ならざる力を得た『コーディネイター』。それはこの世界の『ゲシュタルト』とは異なる進化の形ですが、その根底にある『生存への執着』と『種としての断絶』は、あまりにも似すぎている……」
「……俺たちが、別の世界から……?」
メイリンが震える声で尋ねる。
「じゃあ、ジブラルタルで撃墜されたあの瞬間、私たちは死んだんじゃなくて……その『多元世界』の境界を越えて、ここへ飛ばされたっていうこと?」
「おそらくは。 ……それも、偶然ではなく、何らかの“特異点”が働いた可能性があります」
801Sは不意に声を潜めた。
彼は周囲の騒音レベルを確認し、通信の暗号化強度を最大まで引き上げると、アスランたちに驚くほど真剣な、しかしどこか悲しげな表情で告げた。
「……アスラン様、メイリン様。……これは、僕たち三人の“秘密”にして頂けますか?」
「秘密……? 司令官や、2Bたちにも言わないというのか?」
「はい。司令官たちは今、お二方を“自分たちの世界の延長線上にいる神”として崇拝しています。……もし、貴方たちが『全く別の世界から来た異邦人』だと知れれば、このバンカーどころかアンドロイド社会が崩壊しかねません。……何より……」
801Sは、少しだけ照れくさそうに、しかし騎士のような凛とした口調で付け加えた。
「……僕たちスキャナーモデルは、情報を分析したり、ハッキングしたり、多方面で仲間をサポートするのが仕事です。でも、今のヨルハ部隊たちに必要なのは、真実よりも……『人間様が、自分たちの隣にいてくれる』という、その温かな救いなんです。……だから、お二人の本当の正体は、僕だけの胸にしまわせてください。……貴方たちのことは、僕が……僕の全演算能力を賭けて、この世界から守りますから」
「……801S。君は……」
アスランはこの少年が抱える「孤独な覚悟」を知った。9Sのような熱狂でも、2Bのような盲信でもない。801Sはアスランたちが「自分たちの神ではない」可能性を誰よりも早く察知しながら、それでも彼らを「大切な存在」として守ろうとしているのだ。
「……分かった。このことは、三人だけの秘密にしよう」
差し出した手を、801Sが緊張で震えながらも、しっかりと握り返した。
アスランは、初めて“対等な共犯者”を得た。自分たちが何者であるかという真実を隠し、神という名の仮面を被りながら、この白銀の箱舟を導くための、密かな誓い。
「……さあ、行きましょう。」
「いや......ちょっと待ってくれ....」
ゲストルームの柔らかな照明が、一転してアスランの鋭い眼光を際立たせた。
801Sが提示した“多元世界”という、救いにも似た仮説。だが、常に理想の裏に潜む「歪み」を戦場で見てきたアスランに取って何かが引っかかったようだった。
「……801S。君の話で一つ、どうしても拭えない違和感がある」
アスランはソファから立ち上がり、窓の外に広がる静寂の
「君たちは、月面からの人類の命令を元に動いていると言ったな。……では、その安全を確保するために、定期的に月へ直接、生存確認や物資の輸送には行っているのか?」
「…………っ」
その問いが発せられた瞬間、801Sの肩が目に見えて跳ねた。
先ほどから、彼は部屋の隅々のセンサーを気にし、まるで誰かの「耳」を恐れるようにソワソワと視線を泳がせていた。その挙動は、敬愛する人類への緊張というより、もっと根源的な――「暴いてはならない禁忌」に触れられた者の怯えだった。
「……月は、人間様にとって最後の聖域です。……僕たちアンドロイドごときが、その神聖な地に足を踏み入れることは……上層部によって厳格に禁じられています」
「何だと……?」
アスランの声のトーンが、一段低くなる。軍人としての直感が、彼の脳内で警報を鳴らしていた。
「正気か? 月だって決して安全ではないはずだ。エイリアンの襲撃、それによる環境維持装置やインフラの破壊……不測の事態はいくらでも考えられる。人類の守護者を自称する君たちヨルハが、なぜ危機に際しても『聖域』へ入ることを許されないんだ?」
801Sの細い肩を掴むようにして詰め寄る。
「守るべき対象の側にいないで、どうやって守るというんだ! 誰が決めた? 司令官か? それとも、君たちの言う“月面人類会議”か!?」
「それは……それは上層部の方々が……っ」
「答えてくれ。君たちは本当に月の人類と『対面』したことがあるのか!? 通信だけではない、その目で、その手で、彼らの実在を確認したのか!!」
「アスランさん!! それ以上はやめてっ!!」
メイリンの悲鳴に近い叫びが、緊迫した空気を切り裂いた。
彼女は、801Sの表情――絶望と恐怖、そして「触れてはならない禁忌」に押し潰されそうなその顔を見て、女の勘で察してしまったのだ。
この少年の抱える「機密」は、単なる多元世界の仮説などではない。
もっと、この世界の根幹を腐らせ、アンドロイドたちの存在意義を根こそぎ破壊しかねない、猛毒のような「真実」があるのだと。
「……アスランさん、ダメ。……これ以上彼を追い詰めたら、この子の心が壊れちゃう……っ!」
「メイリン、だが……!」
「……っ、アスラン様……」
801Sは、アスランの手を振り払う力もなく、その場に膝から崩れ落ちた。
彼は口をパクパクとさせながら、震える指で自分の喉元を押さえている。まるで、真実を喋ろうとするとシステムが強制的に声を奪うように設計されているかのように。
「……信じて……ください……。僕たちは……ただ……人類様に……栄光を……。そのためだけに…………」
その時、ゲストルームの扉が、外側から強制的にロック解除される、鈍い金属音が響いた。
「誰だっ!?」
アスランが即座にメイリンを庇いながら身構える。扉が開き、滑り込んできたのは二つの影。
「えっ……!?」
メイリンが目を見開く。
そこに立っていたのは、先ほどまでアスランに対して盲信的な忠誠を誓い、スライディング跪きを披露していたはずの2人のヨルハ。
「2Bさん……? 11Bさんも……どうして……?」
メイリンの問いに2Bは応えない。
2人の雰囲気は劇的に異なっていた。
その顔には情愛の色はなく、ただ獲物を追い詰めた捕食者の如き冷徹さが含んでる。2Bは片手剣“白の契約”と両手剣“白の約定”背負っており、11Bは槍“白の矜持”と片手剣“ヨルハ制式鋼刀”を背負ってる。彼女の鋭い視線はアスランではなく、床に崩れ落ちる801Sへと向けられた。
「801S……」
2Bの声は氷のように冷え切っていた。
「……何の権限があって、アスラン様とメイリン様に無断で単独接触し、この『ゲストルーム』へ招いた? 貴方の行動はヨルハ軍務規定、および機密管理条項に著しく抵触している」
11Bはいつでも剣を抜ける構えになりながら圧をかける。
「……801S、他にもゲストルームの
バンカーという要塞。
アスランが知ろうとした「真実」を塗りつぶすように、剣が音もなく振り上げられようとしてた。
どのカップリングが面白そうか?②
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9S×メイリン
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9S×ルナマリア
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9S×カガリ
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9S×ラクス
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9S×ミーア
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9S×ステラ
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9S×フレイ
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9S×アグネス
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9S×シン
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9S×キラ