NieR:Automata JUSTICE   作:うぇいかた

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原作のサブクエの「11Bの形見」とは全く異なる11Bになりますので、11Bファンの人は閲覧注意!!


Phase15「私兵」

 

緊迫した空気に、電子ロックが弾ける鋭い金属音が重なった。

 

「「――っ!!」」

 

アスランとメイリンが身構える。開かれた扉の向こうに立っていたのは、2Bと11Bだった。

 

だが、その立ち姿は先ほどまでの「跪く信者」のそれではない。背負った剣を即座に抜ける処刑人のようだ。

 

「なぜ許可もなく入ってきた? ここは801Sが案内してくれた、俺たちの休息の場のはずだ」

 

アスランが801Sを背後に隠し、一歩前に出る。コーディネイターとしての威圧感が、狭い室内を支配した。対する2Bのゴーグル越しの視線は、アスランを通り越し、震える801Sへと冷徹に突き刺さる。

 

 

「……801S。何の権限があって、人類様と単独接触した? しかもゲストルームの通信遮断(ジャミング)を無許可で実行した形跡がある」

 

2Bの声は、氷のように冷たかった。

 

「……801S。抵抗は無意味だ。速やかにこちらへ。」

 

11Bが、音もなく一歩踏み出す。その手はすでに、背負った槍“白の矜持”の柄へと伸びていた。

 

「……っ、それは……僕はただ……。」

 

膝をつき震える801S。彼は自分が触れようとしてた“モノ”の重さに、自らのアイデンティティが焼き切られる未来を予感していた。

だが、その絶望を切り裂くように、一人の男が立ち塞がった。

 

 

「答える必要はない、801S」

 

アスランがその言葉を遮り、2Bの前に立ちはだかった。その瞳には、一国の軍を背負い、あるいは友と死闘を繰り広げてきた戦士としての、峻烈な光が宿っている。

 

「……アスラン様。これは我々ヨルハ部隊の機密管理の問題です。……801Sは、許可されていないセクタの情報を“不当”に開示しようとしました。……彼には徹底したデータスクリーニングと再調整が必要です。」

 

2Bの声は揺るがない。しかし、アスランは鼻で笑った。

 

「不当だと? ……笑わせるな。俺が彼に命令したんだ。」

 

「……っ!?」

 

2Bのゴーグルの奥で瞳が見開く。隣に立つ11Bも表情を僅かに歪める。

 

 

 

「君たちの司令官は言ったはずだ。『全ヨルハを、貴方様の“私兵”として自由にお使いください』とな。……ならば、俺が801Sを指名し、俺の知りたい情報を開示させることに、何の不都合がある?」

 

司令官が恍惚とした表情で放った「あの言葉」を、この瞬間に引き出したのだ。

 

 

「人間様の言うことは、アンドロイドにおいて絶対なのだろう?」

 

 

「…………ッ」

 

 

2Bの指先が、わずかに剣の柄から離れた。

プログラムの根幹にある「人類への絶対服従」と、機密維持のための「監視プロトコル」が、彼女の脳内で激しく衝突する。アスランはザフトの赤服、オーブの代表の護衛として培った「言葉の刃」で、ヨルハの論理(ロジック)を真っ向から叩き潰した。

 

 

「…ですが、アスラン様。……人間様の安全を守るためのプロトコルには、機密情報の保護も含まれます。……801Sのようなモデルが、未整理の『毒』をお耳に入れることは、貴方様の精神衛生上、看過できません。……私達は彼を保護し調整する義務があります」

 

 

2Bは食い下がるが、アスランはあえて「神」としての尊大な態度を選び取った。

あの時、司令官が口にした「盲信ゆえの譲歩」。それを今、この窮地を脱するための、そして一人の少年を守るための「最強の武装」として逆手に取ったのだ。

 

「毒だと?調整だと?彼は俺の“私兵”として、俺の疑問に答えていただけだ。この部屋へ案内させたのも全部俺の命令だからだ。不当な拘束や詰問は許さない。キミたちは人間様の命令を疑っているのか?」

 

 

(アスランさんったら……この子を守る為にそんな嘘を……)

メイリンは分かってた。彼は801Sを庇う為に全部自分のした事にしようと嘘をついてるのだと。

 

「……アスランさん、もうやめて……。2Bさんたちの顔がとても怖いよ……」

メイリンが彼の腕に縋り付く。

 

 

「メイリン、大丈夫だ。……いいか、2Bと11B。俺はこの世界の『神』なんだろう? ならば、俺の言葉はシステムの上位にあるはずだ。……命令する。801Sへの追及を今すぐ中止し、ここから立ち去れ。……。彼には引き続き俺とメイリンの護衛を命じる」

 

「………………っ」

 

2Bの手が微かに震え、11Bが悔しげに唇を噛む。人間様の直命という重圧に彼女たちの四肢は逆らうことができない。

 

 

「…………了解しました。アスラン様の仰せのままに」

 

2Bは絞り出すようにそう答えた。

彼女の中の「人類への忠誠」が、辛うじてシステムの防衛線を押し切ったのだ。

 

 

「……801S。貴方のバイタルには明らかな異常数値が出ている。……スクリーニングは免れても、自己修復(リペア)のログを技術部へ提出することを忘れないように。……。アスラン様にご迷惑をおかけすることは重罪に値する。」

 

「……は、はい……。了解しました……2B……」

 

801Sが、消え入るような声で答える。

2Bと11Bはアスランを一瞥した。それは崇拝でもなく、敵意でもない。ただ、自分たちの「理」を破壊し始めた異物に対する深い畏怖の色だった。

 

「……失礼いたしました。アスラン様」

 

2Bが深く頭を下げる。だが、その声には拭いきれない「疑念」が混じっていた。

 

ゲストルームから出ようとする直前、2Bの足が止まった。彼女は機械的な硬度を保ったまま、しかしその指先を微かに震わせながら、アスランの方へとゆっくりと振り向いた。

 

「アスラン様……。私が貴方様に意見する立場でないことは重々承知しております。……ですが、現在、御二方はこのバンカーにおいて“神”であり、人類軍の最重要保護対象です。……私たちの“庇護下”にあることを……お忘れなきよう」

 

 

その言葉の響きは、忠誠という名の鋭い警告だった。メイリンは息を呑み、アスランの袖を強く握りしめた。2Bの言葉の裏を直感が見抜いたのだ。

 

「そして……庇護下であっても、踏み入り過ぎれば御二方の安全の約束出来かねます……。……行くわよ、11B」

 

 

 

二人が退出して扉が閉まる。

メイリンが、安堵と恐怖の混ざった溜息を吐き、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。

 

 

「……アスランさん。今のは助かりましたけど……。でも、司令官さんの言葉を逆手に取るなんて、後が怖いです……」

 

 

「……ああ。だが、彼をこのまま放り出すわけにはいかなかった」

 

 

アスランは、まだ震えの止まらない801Sに向き直った。

 

 

「801S、…………“月”には、俺たちが会うべき人間は……」

 

彼はこれ以上の言葉を直感で察したのか、言うことを止めた。

 

〔これ以上の追求はやめよう…。〕

 

目の前の少年“801S”の震えは、単なる機能不全ではない。

 

(これ以上踏み込んだら、彼を消すだけでなく、俺とメイリンにも牙を剥くだろうな。)

 

 

「……っ。あ、アスラン様……」

801Sは、自分という“人形”を対等に扱い、あまつさえ盾となって庇ってくれた彼の慈悲に、ブラックボックスが焼き切れるほどの衝撃を受けていた。

 

「ありがとうございます……。僕のような……一介のスキャナーモデルに、これほどの……。この御恩、僕の全メモリが初期化されるその瞬間まで、最優先プロトコルとして書き込んでおきますっ!」

 

過呼吸で肩を上下させながら、801Sは深々と頭を下げる。アスランはそんな彼の背中を軽く叩き、今は静かに身を引くことを選んだ。

 

「801S。君は、自分の部屋へ戻るんだ」

 

アスランは彼の身を案じて足を止めた。

 

「2Bたちの様子がおかしい。……君が俺たちに何を話そうとしたのか、彼女達は嗅ぎ回っている。これ以上、俺たちの側にいるとキミの身が危うくなる」

 

「アスラン様……」

 

「いいな?これは命令だ。君は君の職務に戻れ。……そして、もし本当に危険が迫ったら、何とかして俺に知らせろ。俺は私兵となったキミを簡単に見捨てたりはしない」

 

「……はいっ!! 了解いたしましたっ!!」

 

801Sは今日一番の、そして最も「アンドロイドらしい」凛とした敬礼を返した。彼の瞳の奥には、恐怖を塗りつぶすほどの、アスランへの揺るぎない「個としての忠誠」が宿っていた。

 

801Sが角を曲がって去っていくのを見届け、アスランは深く息を吐いた。

「……メイリン。俺たちは、俺たちの戦い方を考えよう。この基地に隠されている秘密……そして、アンドロイドたちの本音をどうにかしなきゃならない」

 

 

------------------------------

 

一方、ゲストルームを後にした廊下では、ヨルハ部隊設立以来の不穏な兆しが出始めていた。

 

先ほどまで冷徹な処刑人のような佇まいを見せていた2Bが、壁に手をつき、ゴーグルの奥で視線を彷徨わせている。

 

 

(……私は何をしようとした? 人間様に……アスラン様とメイリン様に対して挑戦的で疑うような振る舞いをするなんて……)

 

彼女の論理回路は“人類への忠誠”と“801Sへの疑念”、そして“アスランに拒絶された”ショックで支離滅裂なスパークを起こしていた。だが、その混迷を切り裂いたのは、あまりにも低俗で、あまりにも「人間臭い」絶叫だった。

 

 

「あああああ! 羨ましいぃぃぃッ!! 『アスラン様の私兵』!? 何それ! 司令官の冗談じゃなかったのぉぉぉ!?」

 

 

叫んだのは、2Bと共にいた11Bだ。彼女の端正な顔は今や、羨望と狂気で歪みきっていた。

 

「なんでだよおおおおっ!!何で私を指名してくれなかったのぉぉぉ‼︎801Sみたいなクソガキがアスラン様の最初の私兵になってやがんだああああっ‼︎私が一番だろ!?普通はぁぁぁっ!!」

 

 

 

「先輩……!!」

そこへ、11Bを慕う後輩の16Dが、ヤキモチを焼くように駆け寄ってきた。二人はヨルハ部隊内でも公然の仲……いわゆる「恋人同士」として、過酷な戦場を支え合ってきた関係だった。

 

「アスラン様に夢中になるのは良いですけど……私のこと、忘れないでくださいよ? 私だって、先輩のために……」

 

「うるせぇッ!! 口出しするな!!」

 

「……えっ?」

 

 

16Dの動きが止まった。11Bの口から放たれたのは、これまでの彼女からは想像もつかない、濁りきった怒号だった。

 

「何甘えた声で私の名前呼んでやがんだ!! このクソ女!!」

 

「せ、先輩……? 何を……」

 

「お前だよっ!!お前!!」

 

11Bはタガが外れたように、16Dの胸ぐらを掴み上げんばかりの勢いで詰め寄った。

 

「今まで黙ってたけどさぁ、お前、本当にお荷物なんだよ!! 戦場でも足手まとい、バンカーに戻ればベタベタしやがって……! 私のキャリアの邪魔なんだよ! アスラン様っていう本物の『光』が見えた今、お前みたいな安っぽい機体(ジャンク)とつるんでる時間が、反吐が出るほど勿体ねぇんだよ!!」

 

これまでに積み重なってきた鬱屈が、アスランという太陽に照らされたことで、真っ黒な影となって噴出していた。16Dはショックのあまり、声も出せずに立ち尽くす。

 

「テメェみたいな女と付き合ってたのが、私の機体人生最大の汚点だわ!! 消えろよ!!クソザコ女がぁぉっ‼︎」

 

 

「……そこまでにしなさい、11B!!」

 

あまりの罵詈雑言の酷さに、動揺していた2Bが我に返り、16Dを庇うように間に割って入った。

 

「相手は貴女のパートナーでしょう!? 感情の制御を失うなんて、ヨルハとして失格よ!!」

 

「ハァ!? 2Bィィ!?」

 

11Bは同期である2Bに対しても、剥き出しの牙を隠さなかった。

 

「恋人も居ねーのに偉そうな態度してんじゃねぇよ!! これは恋人同士の問題なんだよ!! テメェみたいな『処女』が、スカスカな正義感で口出ししてんじゃねぇよ!! この処女ヨルハ!!」

 

 

「……しょ、処女……!?」

2Bは絶句した。

そもそもアンドロイドに貞操という概念は希薄だが、11Bはアーカイブにある「もっとも相手を侮辱する言葉」を無差別に投げつけていた。

 

「2Bィ! テメェの義マ○コなんて、一生使われねーだろうな!! 埃かぶってろよ!! キャハハハハハ!!」

 

狂ったように笑う11B。その姿に、さっきまで泣きそうになっていた16Dの瞳から、スッと熱が引いていった。

 

 

(……えっ。……これ、本当に私の好きだった11B先輩……?)

 

 

16Dは、目の前で下劣な言葉を吐き散らす「かつての愛した女」を、一気に冷めた目で見つめ始めた。

 

 

 

(……引くわ。……私の人生、こんな女に捧げてたの? 汚点どころじゃないわ、これ。……ああ、この女、可哀想な人なんだ。アスラン様っていう眩しすぎる光に当てられて、中身のゴミが全部出ちゃったんだ……)

 

 

 

16Dの中で、11Bという存在が巨大な偶像から「哀れな故障個体」へと、一瞬で格下げされた。

 

 

廊下で繰り広げられている、ヨルハ史上最低レベルな言葉のキャットファイト。

 

801Sと別れたアスランとメイリンは静かにゲストルームを後にした。そして微か怒号を遠くに聞こえてたのだ。

 

「……なんか、騒がしいですね。」

 

「聞かない方がいい」

 

メイリンが不安げに振り返るが、アスランは短く答えた。コーディネイターの耳には先ほどの罵詈雑言がほんの少しだけ断片的に届いており、彼はジブラルタル以上に過酷な現実を噛み締めていた。

 

 

(どの世界でも女性が怒ると怖いのは変わらないなぁ………)

 

 

「…………でもアスランさん……あの11Bさん、後で私がボコボコに言い負かしていいですか? さっきから聞こえてくる言葉が、同じ女性として許せません」

 

 

「……手加減してやってくれ」

アスランは、メイリンの「元・ミネルバ通信士」としての本領が炸裂する未来を予感し、少しだけ11Bに同情した。

 

 

白銀の要塞バンカーにて、アスラン・ザラという「正義」が投げ込まれたことで、美しい仮面の下にある醜い情念と、驚くべき真実を曝け出すカウントダウンを始めていた。

 

どのカップリングが面白そうか?②

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