NieR:Automata JUSTICE   作:うぇいかた

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Phase4「種割レル」

   ◇◇◇

 

工場廃墟の空気が、焦げ付くような熱量に支配された。

超巨大機械生命体“エンゲルス”が、その全身を構成する巨大な歯車とクレーンを軋ませ、絶叫のような音を立てて身震いする。その頭部中央にある巨大な円形センサーが、これまで見たこともないほど禍々しい紅い輝きを放った。

 

 

『コロス!! コロス!! コロス!!』

 

それは無機質な合成音声でありながら、底知れぬ憎悪に高ぶる、狂ったようなトーンだった。巨神の胸部、装甲の隙間にある巨大なエネルギー炉が咆哮を上げ、莫大なエネルギーが一点に凝縮される。

 

「アスランさん、熱源反応が限界を突破しています!! 今までのとは比べものにならない……っ!」

 

「……っ!!」

 

アスランの直感が、全身の毛羽を立たせた。

巨神の砲口から、空間を焼き焦がすような“赤い熱線”が放たれた。それはもはや光弾などではない。大気そのものを蒸発させながら突き進む、超高密度のプラズマ。

 

アスランは反射的に耐ビームコーティングシールドを前に突き出そうしたが、直後に脳裏をよぎったのは強烈な“拒絶”だった。

 

 

(ダメだ、これでは耐えられない……! シールドごと焼き切られる!)

 

 

「・・くそぉっ!!」

アスランは操縦桿を横に叩きつけ、スラスターを最大噴射した。

蒼い巨躯が重力を引き千切るような挙動で横へとスライドする。直後、彼らがいた空間を赤い熱線が貫き、背後の廃墟ビルを一瞬で融解させ、海面に巨大な水蒸気爆発を引き起こした。

 

『回避……確認……。許サヌ‼︎、コロス!!』

 

標的を外したことが、エンゲルスの演算回路をさらなる狂乱へと叩き込んだ。巨神の肩部、背部、そして腹部のハッチが次々と開き、そこから数千という“赤い光弾の雨”が、空を埋め尽くすカーテンのように掃射された。

 

「きゃあぁぁぁっ!!」

 

逃げ場のない弾幕。メイリンの悲鳴がコクピットに響き、1Dや2Bたちの飛行ユニットが弾幕に翻弄され、機動力を削られていくのがモニター越しに見える。

 

 

(なぜだ……。なぜ、どこに行っても、こうやって命を弄ぶような戦いばかりが続く!)

 

 

アスランの脳裏に、いくつもの記憶が去来した。裏切った者、裏切られた者。守りたかったもの。そして、今まさに目の前で散ろうとしている、命を持った(と彼が信じている)少女たちの姿。

 

 

(何も守れずに、ただ逃げてきただけなのか……俺は……!!)

 

 

その瞬間!!

アスランの精神の深淵で、何かが音を立てて弾けた。脳内を駆け巡る、透明な情報の奔流。視界が急激に広がり、世界から色が失われ、代わりに全ての事象が「線」と「点」の軌跡として浮き彫りになる。

 

 

 ―― “SEED”の覚醒 ――

 

 

彼の瞳からハイライトが消え、意識は冷徹なまでの最適解へと到達する。モニターに流れる膨大なノイズ、迫り来る無数の光弾、エンゲルスの駆動音。それら全ての情報が、アスランの脳内で完璧に整理され、未来の動きとして予見された。

 

 

「いい加減にしろぉぉぉぉっ!!」

 

 

アスランの叫びは、もはや困惑でも恐怖でもなかった。それは、理不尽な破壊を撒き散らす怪物に対する、絶対的な拒絶。

 

蒼き鋼鉄の騎士の動きが、一変した。

それまでの“重厚な機動”から、物理法則を無視した“神速の演武”へと昇華されたのだ。

 

「メイリン、火器管制を俺に戻せ。全標的、一斉排除する!」

 

「え……っ、はいっ、アスランさん!」

 

アスランの指先が、ピアノを奏でるような繊細さでコンソールを叩く。

グフは、無数の光弾が作る“死の隙間”を、ミリ単位の誤差もなく縫うように飛翔した。

彼の瞳には、赤い光の軌跡が全て止まって見えていた。

 

 

「そこだッ!!」

右腕の“スレイヤーウィップ”が閃光となって伸びる。

 

それはもはや鞭ではない。意思を持った落雷。襲いくる光弾を次々と空中で叩き落としながら、ウィップの先端がエンゲルスの肩部機銃座に食い込み、超高圧電流で内部から爆破した。

 

 

続けて、腕部搭載ビームガンが連射される。

一発一発が、エンゲルスの装甲の「継ぎ目」や“センサーの死角”を完璧に穿ち、巨神の体躯を火花で包んでいく。

 

『……っ!? ポッド、あの機体の機動力、再計算!』

1Dの驚愕の声をあげる。

 

『回答:計測不能。当該機体は現在、推進剤の消費効率および機体構造の限界を無視した、理論上不可能な機動を実行中。操縦者の精神状態と機体挙動のシンクロ率が、未知の領域に到達。』

 

2Bは息を呑んだ。

ゴーグル越しに見えるその蒼い機体は、まるで“怒れる神”そのものだった。光弾の嵐の中を無傷で駆け抜け、一撃一撃で巨神を削り取っていく。それは、ヨルハの洗練されたプログラムでさえ到達できない、感情を燃料にした“コーディネイター”という名の超越者の力。

 

「メイリン! 最大出力だ! 奴の腕を落とす!」

 

「はいっ!!」

 

スレイヤーウィップを引っ込め、再びシールドに内蔵されてたビームソード“テンペスト”を抜き放つ。蒼き雷光が空を切り裂き、巨神の鉄腕に向かって、死の円舞が振り下ろされた。

 

 

巨神から放たれる無数の赤い弾幕。

テンペストを抜いたグフの姿にエンゲルスの思考回路が“危険”と判断したかのように、激しくなる。

 

 

「滅多撃ちになった・・。」

アスランは抑揚も無く呟きなぎらも、神速の如くエンゲルスとの距離が縮まる!!

 

常人ならブラックアウトするほどの強烈なGにメイリンが喘ぐ中、アスランの視界には、エンゲルスの右腕の付け根――装甲の継ぎ目に露出した動力ケーブルの束が見えていた。

 

 

「……そこで終わりだ」

 

 

グフの背部スラスターが、これまでにないほど青白い火花を散らし、機体は“瞬間移動”と見紛う速度でエンゲルスの懐へと潜り込んだ。

 

『コ、ロス、コ……ッ!?』

 

エンゲルスのセンサーが、目前に迫る蒼い死神を捉えた。しかし、その巨体では、加速しきったアスランの動きに追いつくことはできない。

 

 

ザシュッ!!

 

 

ピンク色のビーム刃が、重厚な金属の断層をバターのように切り裂いた。エンゲルスの巨大な右腕が、自重に耐えきれずゆっくりと、だが確実に胴体から分離していく。

 

 

ドォォォォォン!!

 

 

海面に叩きつけられた巨大な右腕が、猛烈な水柱を上げた。両腕を失い、完全に武装を削ぎ落とされたエンゲルス。だが、機械生命体としての執念は、まだ消えてはいなかった。

 

『……痛、イ……痛、イ。何故ダダ……?』

 

 

無機質な音声に、初めて「苦痛」のような感情が混じる。エンゲルスの中心核から、冷却水が血のように吹き出し、機体全体が激しく痙攣を始めた。

 

「アスランさん、今のうちに……! アレの中心部に、かつてないエネルギーの逆流が起きています! 自爆する気かもしれません!」

メイリンの警告。アスランの覚悟は決まっていた。

 

彼は機体を空中で翻転させると、2Bたちの飛行ユニットに向かって通信を飛ばした。

 

「そこの4機! 奴のコアを露出させる。トドメは君たちに任せるぞ! それが終われば、今度こそここから離脱するんだ!」

 

 

2Bは、その言葉の裏にある“守護”の強さを感じ取っていた。

「……了解。ポッド、最大出力で同期して。蒼い機体の軌道に合わせる」

 

『了解:随伴行動を開始。』

 

アスランは、テンペストを逆手に持ち替えた。グフの動力エンジンが、最後の力を振り絞るように咆哮する。

 

「これで……決めるッ!!」

 

蒼い閃光が、エンゲルスの胸部装甲、その一点へと集中する。

テンペストの刃が、硬質な装甲を強引にこじ開け、その奥で妖しく光る“機械生命体のコア”を白日の下に晒した。

 

「今だッ!! 撃てぇ!!」

アスランの声に呼応し、2B、1D、4B、7Eの飛行ユニットが、一斉に機首の大型レーザーをコアへと叩き込んだ。

 

 

巨大な爆発が、工場廃墟沿岸一帯を真っ白な光で包み込む。

エンゲルスの巨体がゆっくりと、崩壊するように海へと沈んでいった。

 

爆風に煽られながら、アスランは空中で姿勢を制御する。

 

静寂が戻りつつある戦場。

彼は、自分たちと、そして見知らぬ異世界の少女たちの生存を確認し、ようやく一つ、深く重い息を吐き出した。瞳に宿っていたSEEDの輝きが静かに消えていく。

 

その後に残されたのは、あまりにも静かで、あまりにも孤独で退廃した地球の風音だった。

 

 

「……助かったんだな、俺たちは」

アスランの呟きに、メイリンはただ、彼の温もりを感じるように頷くだけだった。

 

 

 

*************

 

 

こうして、エンゲルスとの死闘は幕を下ろした。

 

 

爆鳴が遠ざかり、舞い上がった煤煙が海風に流されていく。海へと沈みゆく巨神の残骸を背に、アスランは安堵の息をつく暇もなく、グフの機首を廃墟都市の境界線へと向けた。

 

安全空域へ離脱していた12D、12H、11Bが、損傷を抱えつつも合流を果たす。計7機の漆黒の翼は、まるで渡り鳥の編隊のように、蒼い巨体の後を追った。

 

工場の錆びた鉄骨が途切れ、アスファルトを突き破って巨木が生い茂る“廃墟都市”の入り口に差し掛かったその時だった。

 

「……メイリン、損傷のチェックを。それと、彼女たちの通信を……」

アスランが言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。

 

3面モニターに無数の警告音が鳴り響く。先ほどまで背中を預け合っていたはずの7機の飛行ユニットが、一糸乱れぬ機動でグフを包囲してた。

“機動形態”の飛行ユニット握るのは、身の丈ほどもある大口径の射撃兵装だ。その全ての砲口をグフのコクピットに向けて固定したのだ。

 

「えっ……!? アスランさん、ロックオンされてます! 7機全部から!!」

メイリンの困惑した悲鳴。

 

アスランの瞳に、再び冷徹な戦士の光が宿る。だが、彼は操縦桿を動かさなかった。敵意を向けるには、あまりにも道理が通らない。

 

「どういうつもりだ……⁉︎敵対行動なんてしてない筈だ・・。」

 

その困惑を断ち切るように、警戒を含んだ通信が割り込んできた。

 

 

『そこの大型機搭乗者に告げる。速やかにコクピットのハッチを開け、手を挙げて外に出なさい。』

隊長の1Dの声だ。

 

 

彼女たちヨルハ部隊にとって、この“蒼い巨体”はあまりにも不可解で、かつ強大すぎた。既存のデータベースに存在しない機体、規格外の出力、そして何より不規則で、熱を帯びすぎた、男性の肉声。

 

“エンゲルス”が排除された今、彼女たちが次に優先すべき任務は、この未知なる戦力の身元確認、あるいは無力化だったのだ。

 

本当の戦いはこの“壊レタ世界”で始まったばかりだということを、二人はまだ知らなかった。

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