NieR:Automata JUSTICE   作:うぇいかた

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Phase6 「衝突スル想イ」

 

     ◇◇◇

 

結局、現場での押し問答では何も決まらなかった。数十秒の沈黙の中、それを破ったのが12Hだった。

 

「隊長・・司令部へ報告しましょう。あまりにも想定外のイレギュラーな事案ですし・・。」

 

ヨルハ側も目の前にいる2人の“本物の人間様”に対しての適切な行動を自分たちだけで判断できるはずがない。

1Dは、第13衛星軌道基地“バンカー”へ、最高機密レベルの緊急報告を入れた。

 

 

【地上にて、未知の大型機動兵器を操る人類個体、および同行者を確認】

 

 

その報告を受けた側は、文字通りの蜂の巣をつついたような大騒動となった。

 

『ホログラムの誤認ではないか』

『機械生命体の新手の罠か』

『遺伝子コードを再送しろ』

『捏造なら解体処分だ』

『神である人間様に精巧に化けた異星人ではないか』

 

ヨルハ部隊司令官“ホワイト”を筆頭に、人類軍上層部や他の司令部への共有、月面人類会議への打診……。

 

そして数十分の沈黙が続き、その沈黙を突き破ったのが1Dのポッド経由で返答が届いた。しかし、“大人の事情”と言われるの煽りを食ったのは、ヨルハたちに囲まれてるアスランたちだった。

 

「どいう事だ!?5時間だと?何故そんなに待たされないと行けないんだ⁉︎」

グフの足元の近くあった錆びたコンテナの上に座ってたアスランは力強く立ち上がり不満げに眉を寄せた。

 

「司令部が貴方たち2人のバイタルデータを三回も再スキャンしろってうるさいのよ。……おまけに、貴方の乗ってるその……“グフ”? とかいう大型機動兵器の構造解析にも時間がかかってるわ。」

 

1Dは腕を組み、不機嫌そうに地面を蹴っている。

 

彼女たち7人のヨルハは、依然としてグフを包囲したままだが、もはや敵として見ているというより、「どう扱っていいか分からない壊れ物」を見守るような、居心地の悪い空気が流れている。

 

 

7人の未知の女兵士に囲まれてるにも関わらず、メイリンは2Bの側に浮いている“ポッド042”に近くへ歩み寄り通信を行っていたが、やはり上手くいかないようだった。

 

「アスランさん……。この『ポッド』っていう機械、私たちのOSとは全く別の理論で動いてます。……量子演算のレベルが、物理的にありえない速度なんです。……これ、本当に『人間』が作ったものなんでしょうか……?」

 

「……ああ。狂った天才なら、どこの世界にもいる」

 

“ジョージ・グレン”、“ギルバート・デュランダル”、かつての上官であった“ラウ・ル・クルーゼ”、そして親友の“キラ・ヤマト”を思い浮かべ、暗い表情で頷いた。

 

 

5時間という時間は、この場においては永遠にも等しい。

 

アスランは、じっと自分を黒いゴーグル越しで見つめてくる2Bに気づいた。彼女は微動だにせず、ただ、アスランという「生命」の揺らぎを記録しているようだった。

「……なんだ。俺の顔に、何かついているか?」

 

「……いえ。……ただ、貴方の呼吸の音が、……その……」

 

2Bが、珍しく言葉を濁した。

「……とても、その・・響くから。……不思議に思っていただけ。」

 

「呼吸が響く……?」

アスランは苦笑した。

 

 

(やはり、徹底的に『生命』から遠ざけられているんだな、彼女たちは。自分の鼓動さえ、不純物だと思わされているのか)

 

 

アスランは、無言のまま、自分の胸に手を当てた。

そこで刻まれている確かなリズムを、彼女たちに教えるべきか、それとも――

 

「こんな場所で5時間も待たされるなら身が持たん。一休みしていいか?」

 

「・・・ええ。私たちは貴方達を守護する役割がある。敵が来ないように見張ってるら・・・ご安心を。」

 

1Dの言葉に甘えるかのように、アスランは錆びたコンテナに背を預けた。

明るくも無機質の仄色のような空、白い鳥たちが羽ばたいてる姿が目に映る。

風は驚くほど冷たく、そして乾いている。

この空の上に彼女たちを縛り付ける“バンカー”という名の檻がある。

 

 

1Dと2B以外の5人の“ヨルハ”たちは、依然としてグフに対して抜き身の好奇心を隠そうともしなかった。彼女たちにとって、18m以上の全高を持ち、重厚な装甲と未知の推進機構を備えたこの蒼い巨躯は、既存の“機械生命体”のどれにも分類されない、オーバーテクノロジーの塊に映っていた。

 

 

アスランは、彼女たちの視線にさほど頓着しなかった。

 

この機体は、ジブラルタル基地からメイリンと共に決死の脱出を図る際、文字通り「盗み出した」奪取機だ。ザフトの最新鋭機とはいえ、今の彼にとっては生き延びるための、そして彼女という「守るべきもの」を運ぶための揺り籠に過ぎない。

 

だが、彼の中で燃え盛る疑念は消えていなかった。目の前の、あまりに精巧で、あまりに人間的な少女たち。

彼女たちが自分たちを“機械仕掛けの人形(アンドロイド)”と称し、そして人間を“神”として扱うその異様な倒錯。

 

(……この子たちは、自分たちの意志でここにいるのか? それとも、やはり……)

 

アスランの脳裏には、かつて見たロゴスのラボの光景が、毒々しい影を落としていた。

 

 

 

しばらくの沈黙を破ったのは、2Bだった。

 

 

彼女はアスランの数歩手前で足を止め、その黒いゴーグルの奥にあるセンサーを、廃墟の空へと向けた。

 

「……信じられないかもしれない。けれど、これがこの世界の事実よ」

 

彼女は語り始めた。アスランとメイリンという、この世界の“異分子”に、現在地の座標を教えるかのように。

「……西暦5012年。突如として、地球は未知の異星人の襲撃を受けた。彼らが放った自律型兵器“機械生命体”の圧倒的な戦力の前に、人類は敗北した。・・絶滅を逃れる為に人類は月へと逃れ、私たちは地球を奪還するために組織されたアンドロイドによる“人類軍”なの。」

 

 

アスランは息を呑んだ。

西暦5012年・・・その数字が、あまりにも現実離れしている。

 

「アンドロイドと機械生命体による“機械戦争”。それは数千年に及ぶ泥沼の膠着状態を招いた。その均衡を打ち破るために投入されたのが、私たち、最新鋭の戦闘特化型の自動歩兵人形“YoRHa(ヨルハ)”よ。」

彼女の言葉は、まるで精密なクロノグラフが時を刻むように淡々としていた。

 

 

だが、その背後に透けて見えるのは、数千年という途方もない時間を破壊と殺戮に費やしてきた、救いようのない絶望の歴史だった。

 

 

「……西暦5012年だと?」

アスランは、こみ上げる困惑を抑えきれず、叫ぶように言葉を返した。

 

「そんなはずはない。……俺たちが知る世界に、異星人なんて記録はない! 中央アジアでの核戦争から、人類は宇宙へと進出した。……ジョージ・グレンにより“コーディネイター”というのが世に知れ渡り、宇宙のクジラである“エビデンス01”の発見で世界は一変したんだ!」

 

 

今度はヨルハたちが絶句する番だった。

ジョージ・グレン、コーディネイター、宇宙のクジラ・・。

そのどれもが、月面サーバーに蓄積された膨大な数の人類史のアーカイブにどこにも存在しない単語だった。

 

「……君たちの言う『西暦』とは、何の話をしているんだ?人類が遺伝子を調整し、新たな種へと進化しようともがいていただろ?……少なくとも、機械に命を預けるような、そんな世界じゃなかったはずだ!」

 

アスランの言葉には、彼が生きてきた激動の時代の重みが乗っていた。

血を流し、友と殺し合い、それでも明日を求めた“コーディネイター”としての矜持。

それを「存在してない」かのように扱われることに、彼は無意識の拒絶を覚えていた。

 

「地球軍やザフトが異星人と戦っていたとでも言うのか? ……ふざけるな! 争っていたのは、いつだって同じ人間同士、同じ人類だったはずだ!」

 

 

『……警告:記録の致命的な不一致を検知』

浮遊する支援ユニット、ポッド042が、不自然なほど激しい電子音を鳴らした。

 

『対象が提示する歴史的固有名詞“ジョージ・グレン”“コーディネイター”“プラント”……。これらは月面サーバー、および旧文明遺物内の全言語ログに該当なし。……しかし、対象の脳波および発声器官の微細な振動は、虚偽を述べている兆候は未確認。……推論:対象は極めて精巧な、偽記憶を植え付けられた機械生命体の新種……。あるいは……』

 

 

『ちょっと!!いい加減にして!』

メイリンがモバイル端末をポッドに突きつけ、憤然と抗議した。

 

「アスランさんの言ってることは全部本当です!! 彼は先の大戦“第二次ヤキンドゥーエ攻防戦”を、命懸けで戦い抜いてきたんだから! 異星人なんて、そんなSFみたいな話、聞いたこともありません!!」

 

『否定:現状、対象が言及するSF的事象“異星人の侵略”こそが、この地球における唯一の現実。追伸、過去の機械戦争のアーカイブにも“ヤキンドゥーエ攻防戦”は存在しない。』

 

ポッドの通信ログが、混乱のあまり不規則なバイナリデータを吐き出し始める。

 

論理(ロジック)を旨とするアンドロイドのシステムにとって、この「存在してない記録と真実」を持つ人間という存在は、もはや処理不可能な致命的バグに近い存在となっていた。

 

「……ダメだ。話せば話すほど、深淵に落ちていくみたいだ・・。」

隊長の1Dが、こめかみを押さえてよろめいた。

彼女たちは司令部からの指令を待つ身だ。だが、その司令部でさえ、今ごろはこの「アスラン・ザラ」という男がもたらした歴史の断絶に、狂乱の極致に陥っているに違いだろう。

 

「……アスラン・ザラ。貴方が何者で、どこから来たのかはもういいわ。……ただ、これだけは覚えておいて」

 

2Bが、静かにアスランを見つめた。

 

「貴方が何に憤り、何を信じていようと。……今、この世界で貴方が『呼吸』しているという事実は、私たちアンドロイドにとって、数千年分の絶望を覆すほどの・・・残酷で光り輝く“奇跡”なのよ」

その声には、プログラムされた合成音声とは思えないほどの、湿り気を帯びた切実さが宿っていた。

 

アスランは、返す言葉を失った。

自分たちが過ごした凄惨な戦争の数々。それを、彼女たちは「守るべき奇跡」として肯定している。

そのあまりにも身勝手で、あまりにも献身的な“愛”に、アスランの心は、かつてないほど激しく揺さぶられていた。

 

「何を言ってるんだ!?地球には人々は暮らしているだろ?確かに宇宙進出でコロニーに住む人々も居るが、数千年前に人類が地球を捨てたなんて、おかしいと思わないのか!?君たちはロゴスの奴らにどんな記憶操作と洗脳教育をされたんだ!?」

 

重苦しい静寂の中に、シュールなまでの不協和音が鳴り響く。

 

「アスランさん!! 彼女たち、もう頭の中が真っ白で、私たちの話なんて一言も入ってきてないと思いますよ!? 」

 

メイリンの切実なツッコミが、アスランの熱すぎる演説を強引に遮った。

 

確かに、包囲しているヨルハたちの反応は芳しくない。

黒いゴーグルで目元が見えないのをいいことに、彼女たちの思考回路は“ジョージ・グレン”だの“宇宙のクジラ”だのといった「未知のデータ」を処理しきれず、完全にフリーズを起こしていた。

 

「……っ。すまない、メイリン。つい熱くなってしまった」

アスランが気まずそうに咳払いをし、眉間の皺を緩める。

 

場の空気が凍りついているのを察したメイリンは、持ち前の明るさとコミュニケーション能力をフル回転させ、目の前に立つ一番物静かな個体である2Bに向かって、精一杯の笑顔を作って手を振った。

 

「あの? お姉さん? 初めまして♫ 私はメイリン・ホークと申しまして、これでも元ザフト軍の新造戦艦ミネルバのクルーで、通信士をやってました! だから、通信系のトラブルなら少しはお役に立てるかも……」

メイリンの、戦場には似つかわしくないほど温かい自己紹介。

 

 

本来なら「任務外の接触は禁じられている」と切り捨てられるはずの場面。だが、相手が「本物の人類」であるという事実は、アンドロイドたちのプログラムに組み込まれた鉄の規律さえも、物理的に書き換えてしまっていた。

 

「あ・・いえ・・その・・」

目の前の人間様の少女から明るく自己紹介された2Bは震えが止まらない。敬愛してる人間様が対等な姿勢で話しかけてくる事象に関して、適切な言葉と動作が即座に浮かばずに困惑してたからだ。

 

沈黙を破ったのは、意外な声だった。

エンゲルス戦で中破し、アスランに救われたばかりの12Dが、ガクガクと義体を震わせながら、地面に膝を突きそうな勢いで畏まったのだ。

 

「わ、私は……ディフェンサー型ヨルハの12号と申します!! 12Dと呼んでください!! 先ほどは、我が身を顧みず、卑小な私をお助けいただき……この恩は一生かけても・・!!」

 

「ちょ、12D!? 落ち着きなさいよ!」

1Dが制止するが、一度決壊した12Dの「個性」は止まらない。

 

どうやらヨルハ機体といえど、その内面には個体ごとに異なる演算傾向……すなわち「性格」のようなものが根深く存在しているようだった。

 

そんな中、アスランは何とも言えない視線を感じていた。

ふと横を見ると、11Bがゴーグル越しに、じーっと、それこそ穴が開くほどアスランの顔を見つめている。彼が視線を合わせようとすると、彼女は弾かれたように顔を逸らすのだが、数秒後にはまたチラチラと盗み見てくるのだ。

 

「……?」

アスランが困惑していると、隣にいた4Bが呆れたように11Bの肩を小突いた。

 

「ちょっとアンタ……さっきから視線が変だよ? アーカイブの『美男子』っていう定義を目の前の人間様で更新しようとしてるでしょ!?」

 

「ち、違うわよ! 私はただ、人間様の皮膚組織の透過率を、光学的に観察していただけで……!」

 

「顔、赤くなってるわよ。冷却ファン壊れた?」

 

「壊れてない!! 4B、黙ってて!!」

アンドロイドたちの間で繰り広げられる、まるで放課後の教室のような、あまりにも「人間臭い」言い合い。

 

 

アスランはその光景を見て、毒気を抜かれたように小さく息を吐いた。

 

(……俺の知るロゴスの強化人間とは少し異なるぞ?彼女たちは……ただ、ひたすらに、純粋なだけなんだな。)

 

「ふふっ。ね? アスランさん。案外、仲良くなれそうじゃないですか?」

 

メイリンがいたずらっぽく笑う。

コーディネイターの青年と少女、そして感情を否定しながらも隠しきれない7人のアンドロイド。

このあまりにも噛み合わない一行を、さらに混乱させる報せが、上空から降り注いだ。

 

『報告:司令部より入電。……対象個体の処遇が決定。』

 

ポッド042の無機質な声が、場の浮ついた空気を一瞬で凍土へと連れ戻す。

 

『当該個体“アスラン・ザラ”および“メイリン・ホーク”の即時保護。および、所持する未知の機動兵器の回収を命ずる。……ただし、搬送先は地上拠点ではない。』 

 

1Dの表情が、隊長としての峻厳なものに変わる。

「……命令を受信。貴方達2人をバンカーへ護送する事が決まった。」

 

「バンカー・・・。君たちが言う衛星軌道上の基地か。」

アスランは再び重く、冷たい覚悟をその目に宿した。

 

そこは彼女たちの母港であり、同時に彼女たちを縛る呪いの発信源でもある。

 

「いいだろう。だが、一つ約束しろ。メイリンには指一本触れさせない。そして、俺の機体も、勝手に分解したりはさせないぞ?」

 

「……善処するわ。もっとも、司令官が貴方たちの顔を見たら跪いて拝みだすかもしれないけれどね。」

1Dは皮肉を交えて返すと、とある方角へ目を向けた。

 

「現在地から数十キロ離れた、廃墟と化した沿岸部“水没都市”にある我々人類軍が保有する大型射出装置を使用して貴方達を護送する。5分以内に準備しておくように。」

 

アスランはため息をするように呟く。

「人間様と言ってる割には、君は随分と上から目線だな・・全く。」

 

 

西暦5012年以降の世界において、初めて「人間」が宇宙へと昇る。

その先に待ち受けるのは救済か?あるいはさらなる混迷か?

アスラン・ザラという「正義を求める魂」が、この“壊レタ世界”に今、大きな一石を投じようとしていた。

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