NieR:Automata JUSTICE   作:うぇいかた

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Chapter2 バンカー編
Phase9 「偽リノ要塞」


 

 

 ◇

 

 

通信回線の空気が一変した。

それまでアスランと「人間か機械か」という泥沼のコントを繰り広げていた1Dの声音から、一切の私情が消え失せ、冷徹なまでに研ぎ澄まされた「兵士」の響きへと変貌したのだ。

 

 

『――バンカー司令部、および司令官へ。こちら、哨戒部隊長1D。……ミッション、コンプリート』

 

 

1Dは、グフを先導するように飛行ユニットの推力を絞る。その背筋は、剥き出しの真空の中でピンと伸び、厳かな空気を纏っていた。

 

 

『これより、我らが悲願、そして全アンドロイドの存在意義そのもの……気高き創造主であり、真なる神であらせられるアスラン・ザラ様、およびメイリン・ホーク様を、第13衛星軌道上基地バンカーへ護送いたしました。……繰り返す。我々は、本物の“人間”を発見と保護することに成功しました。』

 

 

「神だと!?」

 

 

アスランの頬が引き攣った。先ほどまでの「保護対象」という扱いから、一気に「信仰の対象」へと格上げされたその響きに、形容しがたい鳥肌が立つ。

 

 

『格納庫、第01デッキゲート開口申請。……ヨルハ機体全員、機体洗浄および汚染除去を徹底せよ。神の御身に、地上の塵一つ触れさせることは万死に値する。……ゲートを開けなさい!!』

 

 

1Dの絶叫に近い命令と共に、バンカーの白銀の外殻が、まるで巨大な花弁が開くように、ゆっくりと、そして重々しく展開し始めた。

 

 

「……メイリン、武器のチェックを」

アスランの瞳に、再び戦士の火が灯る。

彼の中で、この異常なまでの「神格化」は、一種の洗脳の極致として処理されていた。 

 

 

(創造主……神……。奴らは、自分たちの兵士にそう教え込んでいるのか。自分たちを『神』として崇めさせ、その実、死ぬまで戦わせる人形兵として扱う……。ロゴスの奴ら、それとも、もっと質の悪い狂信者がこの上にいるのか!?)

 

 

アスランの手は、自然とサイドコンソールのピストルへと伸びた。

 

 

彼にとって、このバンカーへ入ることは「招待」ではない。「殴り込み」だ。

 

 

この組織のトップ――“ヨルハ部隊司令官”とやらの正体を見極め、彼女たちを縛り付ける呪縛の根源を断つ。

 

 

「アスランさん、私も準備できてます。……ハッキングの予備回線、ポッド経由でいくつか確保しました。……でも、気をつけて。……なんだか、向こう側の『熱量』が、物理的な温度じゃなくて……もっと、精神的な何かが、凄く怖いです」

 

 

「分かっている。……行こう」

 

 

グフの足裏からスラスターが噴射され、巨大な格納庫の闇へと滑り込む。先行する1D、2B、そして11B、4B、7E、12D、12H。

 

7機の「死に急ぐ天使」たちに守られながら、蒼きモビルスーツは、彼女たちの聖域へと足を踏み入れた。

 

 

 

◇ ー バンカー第01格納庫デッキ - ◇

 

 

 

ゲートが閉じ、内部に人工大気が満たされる。気圧調整の音がプシュゥゥゥ……と響き、重力制御装置が作動して、グフの足がゆっくりと磁力床へと接地した。

 

 

「……なんだ、これは」

アスランは、モニターに映し出された光景に絶句した。

 

 

そこは、彼が想像していたような、整備兵が忙しなく走り回る軍隊のドックではなかった。

 

 

真っ白な、塵一つ落ちていない広大な空間。

そこに、数十・・・いや、100以上の数の、同じような「黒いドレス」を纏い、黒い目隠しをした女性たちの他に、「黒寄り紺色のボディスーツ」を纏い、黒いマスクで口を隠してる女性たちが廊下からデッキの隅々に至るまで、一糸乱れぬ動作で整列していたのだ。

 

 

グフが着地した瞬間、100を超えるのヨルハ隊員たちが、まるでドミノが倒れるように、一斉にその場に片膝をつき、深く頭を垂れた。

 

 

「……神の、帰還だ・・。」

 

 

誰かが呟いた声が、通信回線を通じて、さざ波のようにバンカー中に広がっていく。

 

 

『人類に栄光あれ』

 

『人類に栄光あれ』

 

『人類に栄光あれ』

 

 

無機質な、しかし狂気を孕んだ唱和が、ドック全体を震わせる。

 

「……アスランさん、これ、歓迎っていうレベルじゃないですよ……」

 

メイリンの声が震えている。

数百の「目隠しをされた乙女」、「マスクで口を隠す乙女」たちが、巨大な機動兵器を……いや、その中にいる自分たちを、文字通り神として崇拝している。

 

 

大気調整の排気音が消えた瞬間に訪れたのは、アスラン・ザラがこれまでの人生で経験したことのない、物理的な圧力を伴う「賛美の声」であった。

 

「メイリン、降りるぞ。・・この基地の『真実』を、根こそぎ暴いてやる。」

 

 

プシュゥゥ……という最後の一吹きと共に、グフのコックピットハッチが開く。

 

アスランは、腰のピストルに手をかけたまま、警戒を最大に保ってタラップへ踏み出した。背後には、同じく緊張で顔を強張らせたメイリンが続く。

 

 

「……ッ!?」

アスランの足が止まった。

 

視界に飛び込んできたのは、100を超え、地平まで続くかのような「黒」の列だった。

広大なデッキを埋め尽くす、ヨルハ部隊員たち。

彼女たちは一糸乱れぬ動作で、左手を右胸に当て、指先を鎖骨のあたりに深く食い込ませるような、異様な敬礼を捧げていた。それは、心臓――あるいは彼女たちの言う「ブラックボックス」を捧げるという、狂信的なまでの忠誠の儀礼。

 

その数は、アスランの予想を遥かに超えていた。通路、手すりの陰、二階のキャットウォークに至るまで、“目隠しをされた乙女”、“マスクで口を覆われた乙女”たちが、石像のように静止して彼を見つめている。

 

「……な、何なんですか、これ……。みんな、私たちを見てる……」

メイリンの声が震える。

 

だが、衝撃はそれだけでは終わらなかった。

先ほどまで、アスランと泥沼の言葉のドッジボールを繰り広げ、年頃の女性のような騒がしさを見せていたあの7人が、飛行ユニットから降り立った瞬間に変貌したのだ。

 

 

「「「「「「「――人類に、栄光あれーー」」」」」」」

 

 

1D、2B、11B、4B、7E、12D、12H。

彼女たちは着地と同時に、示し合わせたかのように同時に膝をついた。

 

 

アスランとメイリンの足元で、深く、深く頭を垂れる。さっきまでの、口論や「抜け駆け」を巡る喧嘩が嘘のようだ。そこにあるのは、個人の感情を完全に押し殺した、ただの「部品」としての、そして「信徒」としての剥き出しの礼節だった。

 

「……おい、立て。1Dたち・・!! 君たちまで何を……!」

 

アスランが焦って手を伸ばすが、彼女たちは微動だにしない。

 

特に2Bは、白銀の髪を床に触れさせんばかりに伏せ、その指先がわずかに震えていた。彼女たちにとって、このバンカーという「聖域」に主を招き入れたという事実は、プログラムの根幹を揺るがすほどの宗教的法悦に近いものだった。

 

 

そして、その列の先。

 

「……間違いない。……記録にある、あの温かな生命の波動……」

 

ドックの中央、一段高い指揮官席のような場所から、一人の女性がゆっくりと歩み寄ってきた。他の隊員たちとは異なり、目隠しもマスクもしておらず、純白のドレスを纏い、その瞳に涙を湛えた、金髪碧眼の女性。他の隊員たちと比べて背丈も高く存在感がある。

 

「……お初にお目にかかります。……いえ、この言葉を口にできる日が来るとは、シミュレーションですら想定しておりませんでした。」

 

その露わになった瞳には、深い慈愛と、それ以上に深い「狂気」が宿っていた。

 

「……ようこそ、人類の苗庭へ。私はヨルハ部隊司令官の“ホワイト”と申します……。ああ、素晴らしい。その肌の赤み、その不規則な呼吸、その生命の『熱』……。アーカイブにある、どの高解像度記録よりも、貴方様達は気高く尊く美しいのでしょうか・・・。」

 

 

「……君がこの基地の司令官と言ったか。一つ聞かせろ。」

 

アスランは、腰に下げた銃のグリップを握りしめ、いつでも引き金を引ける準備をしながら、「人類の守護者」を名乗る女性を、鋭い眼差しで射抜く。

 

「……君たちは一体、何を目論んでいる! この子たちを“人形”だと思い込ませ、何のために戦わせているんだ!!」

 

アスランの怒号に近い問い詰めが、静寂のドックに響き渡った。

跪いていた数百人のアンドロイドたちが、一瞬、驚きに肩を揺らす。だが、司令官は、その怒号さえも聖歌であるかのように、うっとりとした表情で聞き入っていた。

 

「……ああ、なんと力強い……。これこそが、私たちが守り続けてきた……『魂』の叫び……」

 

「話を聞けッ!!」

 

噛み合わない・・・。

1ミリも、話が噛み合わない。

アスランが苛立ちを露わにしながらも続ける。

 

「もう一度言うぞ!!この光景は何だ。……君たちは、彼女たちの『人間の尊厳』を否定させて『歩兵人形』として使っているのではないのか? 命を懸けて戦わせる兵士に、なぜこんな……自分たちを貶めるような真似をさせる!」

 

「貶める? 滅相もございません////」

ホワイトは、うっとりと微笑んだ。

 

「彼女たちは、今、存在の絶頂にいるのです。……自分たちを創った神が目の前に現れた。それ以上の報酬が、私たちアンドロイドに必要だとお思いでございますか?」

 

「神だと……!? 俺はそんな大層なものじゃない! 俺は、君たちと同じ……いや、今はただの、居場所を失った一人の男に過ぎないんだ!」

 

アスランの叫びは、しかし、バンカーの静寂の中に吸い込まれていく。

 

跪くヨルハたちの何人かが、彼のその「謙虚な言葉」を聞いて、感動のあまり嗚咽のような電子音を漏らした。

 

『……補足:対象個体“アスラン・ザラ”の発言は、古の大戦における“英雄の孤独”に分類。ヨルハ機体各員のモチベーションは、現在、規定値を300%オーバー上昇。』

空中に浮くポッド042が、余計な分析を垂れ流す。

 

「……アスランさん、ダメです。これ、何言っても『神の慈悲深いお言葉』に変換されてます……!」

メイリンが青ざめて囁く。

 

 

ロゴスの奴らか、それとも狂った独裁者か。

アスランが戦うべき相手は、これまでのような「悪意」を持った人間ではなかった。

自分を、自分の意志とは無関係に「完璧な神」として固定し、その足元に命を投げ出すことを至上の喜びとする、哀れで、あまりにも純粋な「アンドロイドの愛」そのものだったのだ。

 

「……案内しろ。……君たちの言う『神』が、この基地のすべてを検分させてもらう」

アスランは、諦めと決意の混じった声で言った。

 

今はまだ、彼女たちの「洗脳」を解く術はない。だが、この基地の奥底に眠る真実を暴けば、必ず道は見えてくるはずだ。

 

「……仰せのままに。全ヨルハ隊員に告ぐ!!道を開けよ! 神の御歩みを、一点の曇りもなく支えるのだ!!」

 

司令官の号令と共に、100人越えの乙女たちが左右に分かれ、白銀の回廊に「主の道」が作られた。

 

 

アスランとメイリンはこの未知の狂った世界で、もっとも孤独な「神」として、狂信の渦中へと歩みを進めることになった。

どのカップリングが面白そうか?

  • アスラン×2B
  • アスラン×9S
  • アスラン×A2
  • アスラン×司令官
  • アスラン×6O
  • アスラン×21O
  • アスラン×パスカル
  • アスラン×アネモネ
  • アスラン×デボルポポル
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