原作開始前に最難関の森で過剰に努力した俺は、いずれ破滅する推しヒロインを幸せに導きたい【聖騎士学園の転生半魔神】   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

2 / 40
第2話 二年を経て

 「ギャオオオオオオオ……!」

 

 現れた巨大な熊に、正面から向き直る。

 

 かっこつけた決意なんて口にしたけど、今はまずこいつだ。

 サイズからして、おそらく“近辺の(ぬし)”。

 ここ一か月では、一番の強敵と言えるだろう。

 

「さて、どうするかな──って!」

 

 巨大熊に気を取られていると、横から植物のツタが伸びてくる。

 

「キシャアアアアア!」

「くっ!」

 

 なんとか回避が間に合い、俺は後方に下がる。

 もう一瞬遅れていたら、危ないところだった。

 

「両方は聞いてねえよ……」

「ギャオオオオオオオオ!」

「キシャアアアアアアア!」

 

 伸びてきたのは、『殺人花』のツタ。

 俺の倍はありそうな口を持つ、魔物を食らう凶悪な植物だ。

 

「さすがは大作のエンドコンテンツ……」

 

 これが『魔神の箱庭』の日常。

 少し歩けば巨大魔物、油断すれば凶悪植物がおそってくる。

 おちおち考え事をしている暇もない。

 

「けど、良い機会ではあるかもな」

 

 俺は今、魔神の力を抑えて人型の状態だ。

 魔神の力を使えば倒せるだろうが、それでは意味がない。

 人間の学園に忍び込むなら、人の姿のままで戦わなければならないからだ。

 

 ならばこそ、人間の姿での力をつける必要がある。

 

「やっぱり“神力(しんりき)”が鍵だな」

 

 ──神力。

 この世界の人間にあふれる生命エネルギーのことだ。

 

 人間は神力を(まと)わせて身体を強化したり、放出することでエネルギー弾を撃ったりする。

 ゲームでも核となる要素だ。

 

「いくぞ──【身体強化】」

 

 半分人間である俺にも、神力は宿っている。

 学園では、神力を使った戦いが(メイン)になるはずだ。

 今から鍛えておいて損はない。

 

「うおおおおお!」

「ギャオオオオ!」

「キシャアアア!」

 

 巨大熊に、殺人花、他にも続々と集まってきている化け物たち。

 天変地異かのような光景の中に、俺も身を投じる。

 

 神力の強化方法は二つ。

 “筋トレ”と“経験値”だ。

 

 まずは、筋トレ。

 神力を限界まで使えば使う程、次に回復した時に総量が大きくなる。

 

 それから、経験値。

 魔物を倒した時、その魔物のエネルギーが神力として宿る。

 もちろん強力な魔物ほど、得られる神力は大きい。

 

「つまり──全員ぶっ倒せばいい!」

「ギャオオオオ!」

「キシャアアア!」

 

 最大のピンチは、最大のチャンス。

 魔神の箱庭(ここ)で生き延びた先には、とんでもない力が待っている。

 

「推しの力ってすげー!」

 

 推しを救いたい。

 その気持ち一つだけで、この過酷な環境で生きる活力を与えてくれる。

 その力は、エンドコンテンツをも(しの)ぐ。

 

「どうだあ!」

 

 しばらく戦った後には、魔植物は全て倒れていた。

 神力を使い(ちょっと魔神の力も使ったけど)、俺が全て蹴散(けち)らしたのだ。

 

 この地獄の中でも、俺は一筋の光へと歩み続ける。

 “推し”という光に向かって。

 

「待ってろ、レイダ!」

 

 そうして、二年の月日が過ぎた──。

 

 

 

 

<三人称視点>

 

 聖騎士学園、入学試験まであと一週間。

 

「……はあ」

 

 とある馬車に揺られる少女は、憂鬱(ゆううつ)そうなため息をついた。

 苦しい日々を過ごし、これからの生活にも期待を持っていないからだ。

 

(みにく)い貴族どもと離れられるのは幸いだけど……)

 

 少女の名は──レイダリン・アルヴィオン。

 通称レイダだ。

 

 長く綺麗な金髪。

 透き通った碧眼(へきがん)

 抜群のスタイルに、気だるそうな表情。

 

 誰もが振り返る容姿だが、棘々(とげとげ)しい態度ゆえ、その美しさは逆に周囲の反感を買ってしまっていた。

 

(いえ、どうせ学園も変わらないわ)

 

 レイダの周りには、打算や好奇の目で近づいてくる者しかいない。

 その態度には飽き飽きし、とっくに人を信用していなかった。

 信じられるのは、己が磨く剣のみ。

 

(せめて教官はマトモでいてほしいけれど)

 

 すでに周囲から距離を置いていたレイダは、剣を磨き続けた。

 その執念はすさまじく、同世代では一つも二つも抜けている。

 彼女は“天才”と呼ばれるほどの実力者だ。

 

 だが、人と関わる気がない彼女は、本来は闇墜ちルート直行である。

 

「……何か変わるかしら」

 

 しかし、この世界では違うルートを辿ることになる。

 それも、一人の少年の行動によって。

 

 

 

 

 その頃、魔神の箱庭。

 

「はっはっは! これは完璧な人間だ!」

 

 転生した時と同じく、少年は水面に顔を映す。

 そこには、確かに人の姿をした子がいた。

 

「これなら学園に行っても問題は無い!」

 

 この二年間、少年は毎日を必死で生き延びた。

 

 とにかく神力を伸ばして。

 人型に近づくよう力をつけて。

 

 結果、完全なる少年の姿ができあがった。

 名前も『オルト』と定めたようだ。

 

「ようやくだ」

 

 この二年は、長いようで短かった。

 推しに会える日は遠く感じたが、努力の日々は時を加速させた。

 途中からは、効率よく修行が出来たのも大きかったのかもしれない。

 

「ありがとう、みんな」

「「「グオオオオオ!」」」

 

 後方を振り返ると、巨大な魔植物たちが手を挙げる。

 この究極の弱肉強食世界(エンドコンテンツ)の中、オルトは頂点に立った。

 オルトが争いを止めて修行を始めると、彼らも付き合ってくれたようだ。

 

「……魔神は来なかったな」

 

 父である魔神は、結局姿を見せなかった。

 だが、オルトに寂しいという感情はない。

 むしろ放置してくれたおかげで、自由に生きられるのだ。

 

「よし」

 

 荷物を持ち上げ、ここを出る準備は整った。

 

 原作開始まで、あと一週間。

 目的は一つ。

 推しが闇墜ちする未来を回避することだ。

 

「行こう。聖騎士学園へ」

 

 こうして、少年“オルト”と、その推し“レイダ”の物語が今始まる──。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。