原作開始前に最難関の森で過剰に努力した俺は、いずれ破滅する推しヒロインを幸せに導きたい【聖騎士学園の転生半魔神】   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

8 / 40
第8話 最高で最悪のスタート

 「いよいよだな」

 

 姿見の前に立つオルトは、ビシッと身だしなみを整えた。

 その身に(まと)うのは、先日届いた“制服”である。

 

「制服よし、人間の姿よし!」

 

 今のオルトの姿を、魔神だと言う者はいないだろう。

 それほどに、ただの少年の姿がそこには映っていた。

 今日からは“聖騎士学園一年”オルトである。

 

「行こう」

 

 オルトの学園生活が今始まる──。

 

 

 

 

 聖騎士学園、入学式前。

 

「ごきげんよう」

「ええ、ごきげんよう」

 

「お前受かったのか!」

「そっちこそ!」

 

 入学式まで時間があるにもかかわらず、学園はざわざわとしていた。

 

 だが、ざわつき方が例年の比ではない。

 今年はすでに噂になっているからだ。

 多数の大物(・・)が入学してくることが。

 

「でもまあ、俺たちはモブだよな」

「ははっ、違いねえ」

「あの“四新星”と比べたらなあ」

 

 ──四新星。

 レベルが高い新入生の中でも、最も注目度が高い四人のことだ。

 

 王女に、悪人貴族など。

 試験前から噂されていた著名な四人が、試験で上から四つに名を連ねた。

 そのことから、すでに異名が付けられている。

 

 またこれは、ゲーム内にも存在する単語だ。

 四人の名前は全く同じである。

 

 だが、その中でも一際注目を集めている者がいた。

 

「おい、来たぞ」

 

 少女が降り立つと、校門前は一気に緊張が増す。

 彼女の名は──レイダリン・アルヴィオンである。 

 

「あれが噂の……」

「ああ、相変わらず怖い目付きだ」

「恐ろしい女だぜ……」

 

 入学試験時と似たような会話だ。

 しかし、今度は上級生たちも視線を向けている。

 

 こそこそと話してはいるが、いくつかはレイダの耳に入っていた。

 

「……」

 

 レイダも今更そんなものは気にしない。

 控えめにチラチラと視線を移しているのは、目的のため。

 とある少年を探しているのだ。

 

(……いない)

 

 探しているのは、オルトだ。

 特別用があるわけではないが、彼が本当に合格しているかが気になっていた。

 

 というのも先日、試験の成績を確認したレイダ。

 そこで驚くべきことを目にしていたのだ。

 

 

────

 

「嘘でしょ……?」

 

 入学試験から数日後、レイダは学園を訪れていた。

 合否判定と同時に、試験成績も開示されていたからだ。

 だが、レイダは顔をしかめていた。

 

 レイダの結果は二位(・・)

 一位は有名な悪人貴族だった。

 それも不満の原因ではあるが、さらに驚くことがある。

 

「上から四人にいない?」

 

 共闘した少年が名前が気になったのだ。

 この時点で、自身がすでに“四新星”と呼ばれていることは把握している。

 異名に興味などないが、その四人には少年も含まれていると考えていた。

 

(そんなバカな……)

 

 だが結果は、四位まで知る名前で埋まっている。

 少年らしき名前が入ってなかったのだ。

 

(あの実力、正直わたしなんて目じゃなかった……)

 

 オルトの実力は底知れなかった。

 もしかしたら、ヴァリナをも(しの)ぐほどかもしれない。

 ならばと、一度冷静になって思い直す。

 

「……まあ、合格はしてるはず」

 

 レイダは強さを追い続けている。

 そんな彼女にとっては、すでに放っておけない存在となっていた。

 

 ────

 

 

「……」

 

 数日前のことを思い返したレイダは、引き続き視線を控えめに移す。

 しかし、少年は一向に見当たらない。

 

 そこで、ふと思い出したことがある。

 

(試験の時は確か……そうだわ)

 

 試験の直前、オルトとは一度目が合っている。

 その時は、なぜか自分の進行方向を知っていた。

 ならば、今回も同じ死角にいるのではないかと仮説を立てる。

 

 すると──いた。

 

(アイツだ!)

 

 デジャヴ。

 バッと唐突に顔の向きを変えると、オルトがこっそり覗いていたのだ。

 だが、目が合った瞬間にオルトは逃げ出す。

 

「あ、ちょっ!」

 

 オルトは心の準備ができていなかったようだ。

 対して、レイダは彼を追った。

 

「待ちなさい!」

「「「……!?」」」

 

 周りからは、レイダが急に声を上げたように見える。

 何をしているんだと思われながらも、レイダは構わずオルトを追った。

 

 そうして、校舎裏。

 誰もいない場所に入ったところで、レイダが声を上げる。

 

「そこのアンタ! 待ちなさいって言ってるでしょ!」

「お、俺ですか!?」

 

 それには、オルトも思わず目を見開く。

 まさか追ってきていると思わなかったのだろう。

 しかも、その人物が“推し”なのだ。

 

「アンタ以外に誰がいるのよ!」

「……っ!」

 

 その言葉に、オルトもききーっとブレーキをかける。

 すると、校舎裏で二人だけの空間が出来上がった。

 

「「……」」

 

 そして、お互い無言になる。

 オルトは、待ちわびた制服姿のレイダに動揺しきっていたのだ。

 

(せ、制服……! やばい尊い! これ尊さが事件だよ!)

 

 そんな状態で、口を開けるはずもなく。

 バクバク鳴っている心臓を抑えるのに必死だった。

 だが、急に相手が黙れば、さすがに不審にも思う。

 

「あ、あの……?」

「!」

 

 オルトはレイダをうかがうように口を開いた。

 しかし、レイダは答えない。

 

(あ、あれ、何を言えば……)

 

 レイダは、他人に一切の興味を向けてこなかった。

 そのため、会話の始め方が分からない。

 焦りからか、“名前を聞く”という目的も忘れてしまっていた。

 

「えと、用があったんじゃ……?」

「~~~っ!」

 

 そう言われれば、余計に言葉が出てこなくなる。

 レイダもパニックになろうとしていた。 

 

 そして、とっさに出たのは──“ツン”。

 

「べ、別にアンタに用なんかないんだからねっ!」

「……!?」

「じゃあもう行くから! フン!」

 

 そう言い放ち、レイダは背を向ける。

 そのまま、ありえない早足でスタスタと歩いて行った。

 

 対してオルトは──

 

「がはぁっ!」

 

 大量の血を吐いた。

 

 追いかけられ、声をかけられたと思えば、「用はない」と強い口調で(ののし)られた。

 状況だけ考えれば意味が分からないが、オルトは一向に構わなかった。

 

「あれが、レイダのツンだと……?」

 

 受けた言葉が、夢にまで見たツンだったからだ。

 その破壊力に、意識を失いかける。

 『魔神の箱庭(エンドコンテンツ)』ですら倒せなかったオルトは、レイダ(推し)の一言であっさり倒れる。

 

「は、ははは……全てが報われた」

 

 もうここで死んでもいいと、本気で思った。

 それほどに最高のスタートだった。

 

 すると、本当にオルトの目の前が真っ暗になる──。

 

 

 

 

「──あれ」

 

 ふと目を覚ましたオルト。

 少し痛い頭を抑えながら、時間を確認する。

 

 そして、諦めたように乾いた笑いを浮かべた。

 

「ははっ、もう入学式終わってら」

 

 最高のスタートから一転。

 いきなり入学式をすっぽかすという、最悪のスタートになったオルトであった──。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。