転生鴉「アイほど歪んだ呪いはないよ」   作:サルミアッキ

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 あなたはどこまでも特別よ



命の終わりとボーイ・ミーツ・ガール

 ガァガァと、鴉たちが鳴いている。

 

 朝焼けに霞みがかかる東京の空の下、とあるアパートメントでは、見るも無残な光景が広がっていた。

 赤い血が玄関から室内のドアに向かって続き、その終着点で、見目麗しい女性が壁にしな垂れかかっている。それはまるで、朝早くに起きてまだ眠く、再び夢の中に沈んでいくような穏やかな顔。

 だが、その目には光が無い。星の光が宿っていたはずの紫の瞳は、既に死の黒色で覆われていた。刺し貫かれた腹部から流れる血も止まっていた。すでに星は砕かれ、再び瞳に光を灯すことは無い。

 

「いいかい、星野愛久愛海。ある言葉を借りて言わせてもらうよ」

 

 開け放たれた玄関の扉の向こうに、黒衣に銀髪の少女が立っていた。神風が吹き、外から鴉の羽が舞い、血痕の上に降り積もっていく。

 

「……」

 

 血に汚れるのも構わずに蹲り母親に縋りついていた金髪の幼子が、殺意の籠った青い目を少女に向けてくる。だが、鴉の少女は構うことなく廊下に土足で踏み入り、刺された女の傍らにふわりと立った。

 

 

 

「 アイほど歪んだ呪いはないよ 」

 

 

 

 疫病神のように淡々と語る少女は、悪意より生まれる力と力を掛け合わせ、反転したエネルギーを死にたての女へ注ぎ込む。医者が縫合するように傷口に光の糸が集い、あっという間に傷口を塞いでしまった。驚いた様子の転生者の少年の背後に、彼女はついでとばかりに視線を向ける。

 

(……やれやれ。言っておいてなんだけど、本当に愛が呪いに転じるなんてね。恐ろしいまでの親心、と言えば良いのかな)

 

 初対面(前世からの付き合い)であるはずの少女が良く知る星野アクア(雨宮吾郎)の背後に、凄まじい巨躯を持つ生霊が形を成しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりは、なんてことはない。ただ、無償の恩を受けただけ。人に捥がれた翼を、人に再び戻してもらっただけ。

 それだけは真実だったのを、人の体となった今も覚えている。

 

 きっかけは『さりな』と呼ばれた少女が、前世の一つである(わたし)を助けたことだ。

 野生で二十年近く自然の厳しさを学んできたというのに、不覚にも人間の仕掛けた罠にかかった私。そんな私を躊躇いなく拾い上げ、彼女は『ゴロー』と呼ばれた医者に助けを求めた。幼い子どもそのものの未熟な願い。世界を知らない無責任な言葉。だがそれでも、可哀想だというありふれた善意だけで、彼女らに助けられたのは真実だった。

 

 暖かい日だった。さりなはゴローと共に外の空気を吸っていた。車椅子をゴローに押され、幸せそうにしている。手にはお気に入りのアイドルのキーホルダーを握っていた。

 けれども、私が目を離した隙のことだった。さりなはそのキーホルダーを何処かに落としてしまったらしい。その時のさりなの落ち込み様は見ていられなかった。ゴローもさりなが落ち着くまで傍にいてあげていたが、その気落ちした様子はちっとも良くならなかった。

 

 ————次の日は雨が降っていた。その次の日は雷が鳴る程の悪天候だった。一週間、氾濫した川の水は収まらなかった。

 

 ————ああ、やっと見つけた。

 

 こんこんと、私はくちばしでさりなの病室のガラス窓を叩く。室内にいたさりなとゴローは驚いた顔をする。まぁそうか。ずぶ濡れの鴉が、『アイ無限恒久永遠推し!!!』と刻まれたキーホルダーを咥えて持ってきたのだから。

 さりなとゴローの失せ物を見つけた笑顔に思わず嬉しく思う。気分は手のかかる子供を世話する母親だ。君たち二人なんて、私から見れば子どもみたいなものだし、うん。君たちはどこまでも特別だよ。

 

 それからは、時たまさりなの病室に顔を出した。窓ガラスを何度かつつくと、彼女は嬉しそうに私を招き入れる。

 

 野に咲く季節の花を一輪ずつ、彼女のお見舞いとして持って行った。それは私とさりな、そしてゴローの一週間に一度の日課になっていった。

 

 ある日、何を思ったか、さりなはお熱のアイドルを私相手に推し活してきたりもした。『アイ』という妙に聞き覚えのあるアイドルの映像がテレビから流れるのを、私はくちばしにサイリウムを咥えてヘドバンしながら眺めていた。一緒に赤いサイリウムを振るさりなは兎も角、ゴローは『カラスってこんなに頭良かったっけ?』と訝しんでいたが。

 

 ————病院で静かに息を引き取った、脳腫瘍の少女を覚えている。

 

 ————崖から突き落とされた、少女の担当医を覚えている。

 

 そして、覚えている。私もまた、誰に見つけられることも無く死んだことを。神様の世界から零れ墜ちた魂と混ざり合い、魂が不完全な人の子の中に宿ったことを。

 

 そして、ようやく思い出した。この世界が嘘という虚構(フィクション)の中にあることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界のすべては嘘だ。

 

 この世界に価値はなく、愛だとか、友情だとか、いかにも意味ありげで素晴らしそうなものも、本当は価値など微塵もない。捏造して、誇張して、都合の悪い部分はきれい(不自然)に隠す。ならば、上手な嘘を吐き、自分も他人も騙せる人間が幸せになれる。

 そうだ。この世界の99%は幸せな人間でできている。恋をして、愛をして、明日を望んで夢を見る。でも、そんな当たり前を手にできなかった1%は確かに必ず何処かにいて。世界を壊す理由なんて、いつだって1つ。

 

 そんな人間は、すべてが嘘な世界を、どんな力で塗り替えようとするのだろう。

 

 その力の源は、人の悪意。

 失望。恐怖。絶望。醜悪。孤独。孤立。軽蔑。嫌悪。不安。無力。嫉妬。不信。憤怒。憂鬱。虚飾。

 その果てにある破壊願望。

 

 平安の呪人、番の流星(ふたごぼし)の二十指から創られた、世界を破滅させる使い捨ての(がん)。デタラメで馬鹿げた魔のまじない。願い、叫びで世界を撃ち抜く魔弾であり、この世界の悉くを呪う外法。

 魔の力だから、魔法。呪う力だから、呪術。これで引き起こされるのは、悪意そのもの。

 

(……なんて、セカイ系の物語なら語り部のモノローグで告げられるんだろうね)

 

 今、()は禁書庫と呼ばれる場所で、人目を避けて古い草紙を読んでいる。成る程。死んだ鴉の魂が神に接触(漫画知識をダウンロード)し、人の子に転生してはや三年。ここは漫画【推しの子】の世界だと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。

 

「ここが歴史の長い社家だからか、オカルト方面の専門的文献が異様に多いね。はー、気が滅入る。転生したあの子たちは元気かなぁ……結末は知っているとは言え、複雑だよ」

 

 おっと、いけないいけない。調べ物の続きをしないと。

 これらの文献によれば、九世紀あたりから明確に現実世界とズレが出ているね。この世界では竹取物語は史実のできごととして記録されているらしいけど。はぁ……。

 つまり、ここは『かぐや様は告らせたい』も同時に存在している世界線ということになる。まぁ、創造主が同じだし、想定はしていたのだけれど。

 

「にしても、『本来の世界線の私』の偽名の由来だけれど。やっぱりイザナミ(星野アイ)の禊で生まれたアマテラス(ルビー)の兄弟の方じゃなくて、月そのものの方だよね。はは、あんな『恋愛ポンコツの転生前』を自称するなんて大変だろうに。……いや、逆に本当のツクヨミかスサノオ(アクアマリン)の身代わりとして名乗ったのかな。だとしたら、まぁ理解できるなぁ。私もあの二人には幸せになってほしいし」

 

 いや、それだけじゃない。某呪術の戦いもかくやな部分もあるが、この負の感情から生まれる魔導の法術指南書、朧げながら記憶に覚えがあるんだよね。『インスタントバレット』、だったかな。推しの子の転生に何らかのかかわりがあるとは示唆されてはいたけど……成る程ね。

 

「鴉から幼子に生まれ変わったと思ったら、次から次へとせわしない毎日だ。……そうは思わない、『調停役の魔女』の人? わざわざ時間遡行とはご苦労なことだね。君の思い人は幸いにもこの時空では、世界を滅ぼそうと思っていないみたいだし。ところで百年後の世界の終わりは確実なのかな?」

「……そうかい、やっぱり分かっているんだね」

 

 時が止まっていたかのような僅かの間に、私の背後には『尖った三角帽を被った十代後半の少女』がいた。

 

「分かっているわけではないよ。創造神の世界にいた存在であっても、こちらの世界の極一部、その一幕を見るだけしかできないし。運命を変えるほどの全知全能の力を持つわけでもないし」

 

 畳の上で寝そべって足をパタパタさせながら、時間の向こうからやってきた魔女っ子の様子を伺ってみた。私の瞼にかかる銀髪を小さい手でかきあげ、視線を向ける。

 

「ただ、魔女のお姉ちゃん。『君が生まれた時空の未来』と、『こっちの時空の今』は二つ……いや三つばかり世界を構築する要素が増えていることは知っているよ。その差異が、君が愛する人を不幸から普通へと押し上げたのかもしれないね」

 

 というか、私の生まれた年にも何故だかズレがあるみたいだし。

 はーやめやめ。ごろりんちょ、と。山積みにされた古書、奇書の中から適当な一冊を引き抜いて気紛れに頁を開く。どさどさと崩れる埃塗れの和本を一冊、魔女のお姉ちゃんは手に取った。あ、それ春本だよ。

 

「……はぁ。君は特異点だよ。名を呪術的に奪われ、神の使いとして選ばれた仔。誰でもないが故に誰かの代わりになれる御子。君という存在が時空を歪ませている。だから私はこの時空に不時着することになった」

「それは……ごめん。でも仕方がないじゃないか、『古砂(ふるすな)(ゆめ)』。私だって神様の世界から落っこちて、鴉になって、それから人間になるなんて思ってもいなかったんだし」

「波乱万丈だね。君の人生、あー……いや、君はまずいか。何て呼べばいいかな?神の御使い様とか?」

 

 それはちょっと堅苦しいなぁ。出自は違うとはいえ、同じ視点で話せるこのお姉さんとは仲良くしたいし。多分、こんな私と話しても気安いタイプだと思うんだよ。

 

「……そうだね。なら、『ツクヨミ』。うん、やっぱりこの名前が一番良い。私の名前は『ツクヨミ』だ」

「それでも滅茶苦茶仰々しいね。その歳で厨二病罹患してるの?」

「異能力者をインスタントバレット(破滅願望の弾丸)、なんて名付けるお姉さんがそれを言うんだ?」

「ぐはっ……。ちょ、ちょうど年頃だっただけだし? 今は違うし?」

 

 難点は、言動が厨二病感甚だしい女の子二人の会話がかなり分かりにくいってことかなぁ……。でも、自分で言うのもアレだけれど、せっかく鴉から銀髪赤眼の美少女に生まれ変わったんだからロールプレイ程じゃないにしても、ミステリアスに振舞いたいよね。

 

「インスタントバレット、ねぇ。使い捨ての弾丸って意味だったらまぁ的を射ているけど。どんな本質を現しているのか何も分からないのが難点だよね。異能の言い換えで特別感を出したいのは分かるけど。この辺りは分かりやすさ重視の方が良いんじゃない?伝統的なオカルトネーミングとかの方が力の形がイメージしやすくて、能力の性能も上がるかもよ?」

「お願いしますもう止めてください死んでしまいますぅぅぅ……」

「大丈夫だよ。死んでも転生できる土壌だからね、この高千穂(天孫降臨の地)

 

 そんな感じで、私ことマセガキ疫病神ちゃんのツクヨミは、タイムスリッパーの魔女のお姉ちゃんと出会ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今生の私の生い立ちを整理するとしよう。

 

 原作と呼ばれる世界では、ツクヨミを自称する私は不思議子供なんて呼ばれる素性不明の美少女だった。漫画内では説明されることは無かったが、小説版で明かされた事実としてはオカルトの世界に籍を置いていること、格式高い社家同士の間に生まれた名前のない子であるということが判明している。

 だが、それだけだ。それ以外のバックグラウンドというか、作中の不思議現象をどうしてそんなことできるんだお前、みたいな説明が一切無かった。

 それで気になって、書庫とか倉庫とかに潜り込んで調べてみることにしたのだが。

 

「うわぁ。これはきっついね。ナニコレ、特級呪物だらけじゃないか」

 

 出るわ出るわ。何故かこの身体になってからは、()()は見るだけで解る。人間とナニカが混ざり合った姿形のミイラとか、呻きが響くように刀身が震え続けている錆びた剣とか。……そういえばかぐや様とか恋愛代行とかで忘れていたけど、この世界のベースにあるのって異能もののibだったわ。

 

 なにより私の生家があるここ、宮崎県高千穂町が神話的に意味のある立地で天然の結界になっているらしく、とんでもない文献やらオカルト物品が納められていた。そういうものが、お祓いという名目で全国各地から送られてくるらしい。

 

 ああ、そうそう。私が生まれた家の名前は、八咫烏陰陽道高千穂流派・賀茂家である。だから、少なくともこの世界の私の名前は本来なら賀茂■■■になるんだろうけど。

 しかし、賀茂家、()()ねぇ。……インスタントバレットの設定周りといい、なんか呪術廻戦っぽいなぁ。というか九世紀ごろの出来事からして、若干混ざってない?

 

「私の体に発現した能力もアレだし……」

 

 負の感情エネルギーを呪力と言うならば、インスタントバレットの力の源はまさにそれ。負の感情から発生する最悪のエネルギーにして行き付く極地、破壊願望。ibの力も疑似・生得術式みたいなもんだし、ib発現度も五段階評価だから呪術師みたく特級~四級に分けられるし、しっくりくるね。

 

「この平安の呪人、通称『番の流星』ってどう考えても……。この文献の書き方からすると、封印じゃなくて誰かが完全に倒したみたいだし。羂索の名前も見られるけど、こっちも死んでるし」

 

 それに五条家と禪院家も江戸時代に衰退して消滅、加茂家は分家筋が各地に散らばって名前も変えて、賀茂家(私んち)とかが細々続いている程度だし。

 

「……ツクヨミちゃん。この竹取物語・異聞録って言うの、見た?」

「ん? いや、転生体がいる四宮家を()()()良いかなと思って後回しにしていたけれど、何か目ぼしい情報でもあった?」

 

 三角帽子の魔女の声に振り返る。

 

「うん。月人、つまり異星人の能力もインスタントバレットの力に似ていると思ってね。いや、君の家の伝統に言うなら()()かな? かぐや姫を名乗る宇宙人、どうやら平安時代に二回目の来訪をしたらしくてね。その時に『番の流星』を含めたかなりの数の陰陽師、呪詛師、エトセトラを倒したらしいよ。えーとなになに……『質量を持たせた負の感情を光にして放つ』術を使って饒速日命十種神宝神将を鏖殺した、ねぇ」

 

 ……おいダブラさんと同じ術式じゃないか。すげーなかぐや姫。アタリ能力もさることながら、これまこーらに準ずるナニカも倒してるよね? 人外魔境平安京戦やったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは閉鎖的な村落だった。宮崎の田舎町の、更に奥。人間が住むのには向かない山中に、歴史の裏に潜む異能力者は因習を規範として古くさく慎ましく暮らしていたが、ここの纏め役である賀茂家の屋敷だけは広大だった。

 それが、気持ちが悪かった。狭い世界の中で、無駄に間延びしたこの住まいは、非常に息が苦しかった。虚栄と嘘、腐敗に満ちた家の中で、子どものふりをし続けるのは、精神を病みそうだった。

 

「■■■を連れて来い。■■■は儂の(あれ)が『八咫烏の木乃伊』を呑み込み孕んだ御子だ。さぞかし有用な神使になるだろう。術で名を奪い、神を降ろす体に作り替える浴の準備は既に済んでいるな?」

「はい、御当主様」

 

 今までは年相応の振舞いをしていたわけだが、家のお手伝いさんたちに連れられて、武家屋敷の離れのお堂で何らかの検査を受けた結果、私は地下の座敷牢に入れられた。

 

「……ま、わかっちゃいたけどさ。やっぱりインスタントバレットの家庭環境しかり、呪術師の家庭環境しかり。人格面にロクなヤツがいないからこうもなるよ。うん」

 

 賀茂家当主である今生の父に潰された眼球から、熱を帯びた体液が絶えず垂れていく。

 

「……、大丈夫?」

 

 出会って数か月経つ魔女の声が隣から聞こえて来た。瞬間移動をしてこの地下牢に入って来たらしい。なんやかんやで友達のような関係を築けていたらしく、彼女の心配の感情が見て取れた。……まあ、目は見えないんだけど。

 

「うん。この程度なら問題ない。私の術式、鴉たちと視覚共有をするって能力だし、目が潰れても大したデメリットにはならないよ」

「いやいや。そうじゃなくてね?」

「それに人からの愛とか優しさとか、貰いたいわけじゃないからね。元鴉の転生者だし。というか、大義名分を得られてラッキーだとも思ってるよ」

 

 黒い巫女服の布ずれの音が、冷え切った牢の空気を震わせた。腱を切られた脚を何とか動かし、腕を使って起き上がる。

 

「大義名分?」

「うん。とりあえず、賀茂家壊滅のお家騒動だ」

「……おい。おいおいおい?」

 

 身体を巡る負のエネルギーを掛け合わせ、傷つけられた各部位の新陳代謝を加速させて、傷一つなく欠損を復元する。

 

「反転術式、問題なし。それじゃあ葦を啣んだし、一族郎党皆殺し」

 

 白い光が治まるのが、視力が回復した肉眼に映った。顔に残る血痕を拭い、屋敷の外にいたカラスの群れと意識を共有する。

 

「『篳黒鳥(ヒッチコック・バーズ)』」

 

 賀茂家の崩壊が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、これは……?」

 

 八咫烏陰陽道を継承する社家の当主、『賀茂憲倫』は茫然としていた。

 

「『伊勢神風(クリティカル・レイヴンミニッツ)』」

 

 空を覆う黒鳥の群れ。数万羽は軽く超える数の暴力に、賀茂家の術師たちは成すすべなく命を奪われていく。

 その鳥たちを指揮するのは、地下牢に入れたはずの彼の娘だった。

 

「……、そ、うか……。そうか————、っ!」

 

 憮然としていた男の顔が驚愕から激情に歪み、思い通りに動かなかった道具に怒りを向ける。

 

道具(こども)使い手(おや)の足を引っ張るなど、あってはならぬ!」

 

 賀茂憲倫の体から呪力が起り、生得術式の効果で周囲に閃光が瞬き始める。

 

「来い! 出来損な」

「『迦波羅(かばら)八咫烏(やたがらす)』」

「イ゛っ」

 

 巨大な三つ脚鴉の式神が音の速さで振り抜いた翼で、男の体は粉微塵に磨り潰された。白髪の幼女にとっては、その男のことなど有象無象の一つに過ぎなかったらしい。

 やがて、賀茂家やその周囲の村落から悲鳴が絶えた。残されたのは異能を身に宿す死体の山のみ。グロテスクに積み上がるソレを虫けらのように眺めると、幼子はカラスたちに言葉を告げた。

 

()()()()()()()

 

 ガァガァと、鴉たちが鳴いている。

 

「『御烏喰(おとぐい)』」

 

 黒い羽根が舞い、黒鳥たちは地に伏せた死肉を啄み始めた。死んだ術師の脳髄を啜ったカラスたちが骸から生得術式を抽出し、主である白髪の幼児に捧げ始める。

 

「さようなら、呪術師(さるども)。これでようやく、私の使命を全うできる」

 

 ツクヨミはそう言って、微笑んだ。

 




 続く、のか?
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