ワタクシが新時代の破壊者ですわ~ァ!   作:サイリウム(夕宙リウム)

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プロローグ 2

 

 

「あら、田辺さん?」

 

「んん? あぁ竹ちゃんか。スカウトかい?」

 

「えぇ、半ば付き合いのようなものですが……。田辺さんも? 久方ぶりの復帰、確か新しく茶髪の子をチームに入れたとお聞きしましたが。大層“我”の強い子の様で。」

 

 

そう言いながら、田辺トレーナー。長らく現役から退いていた老骨ながら、一切の油断を許さぬ名将の横へと腰を下ろします。

 

少々“彼の復帰理由”に関して探りを入れたい気持ちがあるのは確かですが……。今この場、模擬レースというスカウトの場で聞くようなことではないでしょう。いつものように懐からアロマシガーを取り出し、寂しさの残る口元へ。サングラスの奥の瞳を少し細めた彼に気が付かない振りをしながら、火を灯します。

 

 

「……元気じゃのぉ。そして相変わらず耳が早い、ちょっと早まったかもしれんな。」

 

「御冗談を。」

 

「ほっほっほっ! まぁ儂もそんなもんじゃ、もう年じゃしそう何人も見てやることは出来んからの。若いのへの指導がてら寄ったようなものじゃ。……だがお前さんの場合、暇じゃろ?」

 

「えぇまぁ。」

 

 

彼が指摘されたように、自身は今現在担当と呼べる子を預かってはいない。

 

より正確に言えば少し前までは愛馬が居たのは確かだが……。急にその愛馬がフランスに飛び失踪したため、実質的に空白になっている。まぁよくある事なので既に手続きは済ませてあり、書類上は『海外留学』という形に納まっている。

 

さらに自身の育成方針は放任に近く、“アイツ”は指導を必要としない程に育ってしまった。現状の維持程度であれば提携している現地のトレセンで十分だし、勝手に強くなって帰って来るのが自身の愛馬だった。つまり今のこの身は、完全なフリーとなっている。

 

 

「3年で戻って来るとは言っていましたが、学園一の問題児のことです。どうせ何か理由をつけて問題と一緒に帰って来るでしょう。それまで少し羽を伸ばさせてもらいますよ。」

 

「ま、それが良さそうだの。」

 

 

そんな言葉を交わしながら、自然とターフに視線を向ける私達。

 

スカウトする気が無いとしても、根っからのトレーナーであることは事実です。走る彼女たちが居れば、視線をむけてしまうというもの。更にそこから誰がどういった才を持つのか分析してしまうのは職業病と言っていいでしょう。

 

特に隣の彼からすれば、今回出走する子たちは今年デビューする可能性の高いウマ娘たち。

 

教え子である『フジキセキ』の紹介で新しく担当することになった『ジャングルポケット』と同期のウマ娘たちが出てくるのだ。敵情視察の一環として、サングラスの下にある視線が鋭くなるのも仕方のないことだろう。

 

 

「……飛びぬけているのは、あの飛び入りの子ですかね?」

 

「かのぅ。」

 

 

彼がそう言った瞬間に、大きな柏手。それと同時に走り始める彼女達。

 

模擬レースの開幕だ。

 

 

「ッ!?」

 

 

瞬間、脳裏に浮かぶ嫌な記憶。

 

そして重なる、“彼女”の姿。

 

……あぁ、最悪だ。点と点が繋がってしまった。

 

 

「ほぅほぅ、あやつは追込か。距離が短いとはいえ、タイミングを掴めるかだが……。む? どうした竹ちゃん。」

 

「あ、あぁ、いえ。……ちょっと三女神を呪いたくなりまして。放っておいてください。」

 

「それは放っておいていいのかの……?」

 

 

あぁ、最悪だ。自身の愛馬にして頭痛の種。彼女が何故このタイミングで日本を離れたのか魂で理解してしまった。そして“3年”という期間も。

 

思わずその場で蹲り、大声で泣きそうになってしまうが……。今は出走者の子たちにとって人生を掛けた大事な模擬レース。邪魔してはならないと根性だけで感情を押し込み、口元を抑えながら視線を向ける。

 

 

(見慣れた、追込。あぁ、やっぱり“血筋”だ。)

 

 

今回行われている模擬レースは、本格的なトレーニングを始めていない言わば“幼駒”たちのレース。その距離も1200と短く、傾斜も少ない場所で行われている。そのため一部のトレーナーからは『順位ではなくその走りに注目すべき』と呼ばれるものとなっています。

 

しかしながら走る当事者、ウマ娘たちからすればそんなもの関係ありません。彼女達は皆中央で生き残り勝つためにやって来たのです。アピールの為に走り方だけを意識しすぎ、負けてしまうなど言語道断。今、自分たちの出来る全てを持って、真っ先にゴール板を駆け抜ける。

 

レースにおいてそれ以外考える必要はない。

 

 

(そんな真剣勝負、粗削りながら全力で走るからこそ、理解できてしまう。)

 

 

……自身の愛馬は、色々と特殊な存在です。

 

ウマ娘たちが別世界の魂を受け継ぎ、ターフにて力を発揮するのはおとぎ話になるほどありふれた話なのですが……。自身の愛馬は、“本来失うはずの前世の記憶”を持ったままこちらに来てしまった子です。

 

数は多くはありませんが、“前世”を知る者や、“前の世界”に接続できるもの。神秘にあふれたウマ娘だからこそ起きるそんな不思議な現象。……アイツは、そんな理不尽の権化でした。

 

 

(思い出すだけで頭が痛くなってきますけど、四本足の謎生物や前世の私を見せられたら……、ねぇ?)

 

 

世界を勝手に行き来し、連れていかれた“史実”と呼ばれる世界。

 

そこには謎のウマと呼ばれる存在がいて、“騎手”として時代を走り抜けた老いた私の姿が。まぁそこまで見せられれば信じるほかありませんし、受け入れるしかありません。

 

 

(お陰様でこちらで今後起きることまでネタバレされたんですけどね。)

 

 

言ってしまえば未来の知識です。誰がどのレースで勝つのかという情報はトレーナーからすれば値千金の知識と言えるでしょう。だからこそなのですが……。

 

私は、トレーナーという職から1歩身を引きました。

 

知っていることは確かに強みでアドバンテージと言えるでしょうが、“史実”と呼ばれる世界を知っているからこそ、私は彼女たちに重ねてはいけないものを重ねてしまうでしょう。同じ魂を受け継いでいるとはいえ、完全な別人なのです。彼女達を通じて、他の誰かを見てしまう。

 

努力次第で“史実をひっくり返す”ことも可能なのです。

 

そんな状況でしっかりと担当を見てあげられないトレーナーなど、存在する価値もありません。

 

 

(ですが、何事にも例外は存在します。……彼女も、その一人。)

 

 

担当の“アイツ”が言うには、我々が認識できる世界は幾重にも広がっているとのこと。つまり“史実”以外にも世界があり、ウマ娘の魂も“史実”以外の世界から流れて来ることもありうる。

 

そしてアイツは、“史実”とは別の世界からやってきたウマ娘。

 

当然その血族も、此方に流れて来る可能性がある、

 

自分本位で世界を遊び場と思っている気の狂った“アイツ”が身を引いたのです。立ち位置的には子、いや“孫世代”。可愛い子孫を預けるから仕事しろ、と言っているのでしょう。

 

……まぁ、百歩譲ってそれは良いんです。

何度か似たようなことはさせられましたから。

 

でもね?

 

 

(アイツの血筋って総じて癖を超えた狂ウマ娘ばっかだから胃が死ぬッ!)

 

「うむ、いい走りじゃの。走り方や表情からして、距離に合わせず自身の得意を取った形か。自信があるのはいいことじゃ。」

 

 

思わず頭を抱えそうになったが、隣の田辺さんの声で正気に戻る。

 

……そう、今は模擬レースの真っ最中。集中しなければ。

 

 

(あの子の名前は……、『ゲートクラッシャー』か。)

 

 

此方にも響く実況の声を聴きながら、視線を戻していく。田辺さんが言う様に、ゲートクラッシャーが選択したのは適正のあるのであろう『追込』だ。

 

距離が短いレースにおいて有利とされる戦法は、前に付くこと。これは距離が短く仕掛けどころのタイミングが難しく、中長距離のようにスタミナ配分をあまり考える必要がないことから来ている。

 

纏めると『逃げ』や『先行』は優位に成りやすいのだ。

 

中央に入学できるレベル、レースに人生をかけるウマ娘たちからすればその程度常識。事実彼女以外のウマ娘たちは皆、逃げや先行を選択している。そんな中で一人、不利な戦術を選ぶということは……。

 

 

(その走りに絶対の自信があるからに他ならない。)

 

 

仕掛け所を間違えれば掲示板にすら入れないのが追込、人生が掛かっているともいえる模擬レースに置いてそんなピーキーな戦法を取れるということは、それだけ自信があり、肝が据わっているということ。

 

 

「良いな、それにいい顔をしておる。“悪くない”のぉ。」

 

「ですねぇ。……胃薬注文しなきゃ。」

 

「……本当に大丈夫か竹ちゃん。っと、そろそろじゃぞ。」

 

 

薬とアロマシガーの減りがまた途轍もないことになりそうだと思いながら、ウマ娘たちは最終コーナーへと入る彼女たちを眺める。

 

ここを抜ければ最後の直線。稼いだリードを維持するか、末脚を持って抜き去るかの勝負。逃げを選択した子たち、先行を選択した子たちがその精神をさらに研ぎ澄ましていくが……。

 

 

 

 

最後方の暴君が、産声を上げる。

 

 

 

 

『ワタクシの前を走る全て、蹂躙して差し上げますわァア!!!』

 

 

 

場違いな叫び声と共に、爆発する地面。

 

全てを踏みつぶすかのような轟音と共に、追込の彼女が行動を始める。

 

最後方を走ったことで貯まったスタミナとフラストレーション、その二つを糧に爆発させる究極の末脚。コーナーで大きく外側に斜行しながらも、どんどんとその順位を上げていく。

 

気が付いたときにはもう先頭で、更に離れていく後続との距離。

 

 

「ふーむ、決まったの。……む、行くのか竹くん。」

 

「はい、えぇ。非常に不本意ながら。」

 

 

あの走り方、あの叫び、そしてにじみ出る性格。

 

彼女は掛けた首輪を食いちぎり、周囲を破壊し尽くす暴君。

 

そして彼女が“アレ”の血縁である以上。私以外が担当した時、本当に死人が出る可能性が出てくるでしょう。

 

 

(……なんで鍛えちゃったんでしょうね、私。)

 

 

一部のトレーナーはウマ娘に蹴られても耐えれる謎性能をしていることもありますが、全員ではありません。そして平均的な能力の高さと引き換えに、暴力性が跳ね上がったあの血筋を受け止め切れるのは片手で数えるレベルでしょう。

 

手の空いている私が行かず、柔らかい他のトレーナーが受け持ってしまえば……。考えたくもない結末が待っている。

 

本当に不本意ですが、“アイツ”のおかげで周囲からは“超癖ウマ娘専門のトレーナー”だと思われています。実際癖のある子しか担当できなかったので仕方ない所ではありますが、私が動けば“その危険度”も伝わる事でしょう。

 

 

「では、“逝って”来ます。」

 

「……そんなに“癖”なのか?」

 

「悲しいことに。」

 

 

アロマシガーを片付けながら、天を見上げ深呼吸。

 

まるでこれから処刑場に行くかのような面持ちで、歩き始めます。

 

するとまぁ、察してくださったのでしょう。田辺さんは勿論、此方に気が付いた方々が一斉に手を合わせてきます。これから生贄になる我が身を思ってのことでしょうが、そんなことするなら変わってください。

 

え、嫌? でしょうね。

 

 

(どうやら先ほどの走りに光を見た方もいたようですが、私が動いたせいで諦めてしまったようですね。……まぁ本当に覚悟がないと途中でストレスで死ぬから正しい判断だという他ありませんが。)

 

 

さて、どのようにお相手すればいいですかね?

 

担当する以上、彼女の勝利の為に動くのがトレーナーです。“史実”を知るがゆえに重ねてしまうのが自身の悪癖ですが、彼女の場合。『ゲートクラッシャー』の場合、史実と重ねようにも存在しないウマです。そこは問題ないでしょう。

 

しかし代わりに出てくるのが、“史実を変えてもいいのか”という悩みです。

 

ですが……。

 

 

(トレーナーならば、自身の担当を第一に考えるもの。いくら相手がクソなほどに癖ウマ娘でも、それは同じ。……私だって、その走りに“何も感じなかったわけではない”のですから。)

 

 

そんなことを考えながら、未だ勝利の喜びに浸る“お嬢様”に近寄って行く私。

 

そのことにかの癖ウマ娘も気が付いたのでしょう。天から降り注ぐスポットライト(日光)に酔いしれていた顔を少しだけ引き締め、視線を合わせてきます。……自己を『ワタクシ』と言っていましたし、家柄のある子なのでしょう。少し合わせて話しましょうか。

 

 

「……失礼、レディ。少しお時間頂いても?」

 

「あら、ん"ん"ん"ッ! ……えぇ、よろしくてよ。このゲートクラッシャー様に何の御用かしら!?」

 

 

喉を鳴らしたせいで『エセお嬢様』の可能性が出てきましたが、表情はキープ。

 

話し方から理論や計画より、勘と勢いを大事にするタイプだと見受けられます。ならば“好みだろう”動きをすることで、ぐっとその可能性は上がる。

 

物語で出てくる従者のように頭を下げながら、紡ぐのはスカウトの言葉。

 

 

「端的に申し上げます。貴殿の覇道、支えさせて頂いても?」

 

「なるほどなるほど! スカウトってことですわね! いいですわね、いいですわね! そう来なくちゃ! 何故か貴女様しか来ていないのがかなり業腹ですが、私好みのセリフ選びはとっても好み!!!」

 

「感謝を。」

 

「……ちなみにお聞きしますが、チームのお誘いだったり?」

 

「いえ、貴女だけです。」

 

「なおよしですわ!!!」

 

 

異様に上がる口角を抑えながらも、早口で言い切る癖馬。

 

実際は一人いるが、“アイツ”は全てが終わるまで戻って来ることはないでしょう。その辺りを弁えているというか、“親”や“祖父”の出る幕は無いと考えている可能性が高い。

 

そう考えていると、気分が最高潮に達したのでしょう。彼女の口角が異様なほどに上がり始める。

 

 

「良いでしょう! 神に等しいこの玉体! 触れる栄誉差し上げましょう! 光栄に思いなさいですわ! おーほっほっ!!!」

 

「有難き幸せ。」

 

 

よし、成功。

 

早速これから必要書類の提出。と行く前に、聞きたいことが幾つか。

 

その“名前”から半ば確信していたことですが……。

 

 

「では早速お聞きしたいのですが、今年度に入ってからゲートの破損・不調が相次いでおります。そして非常に貴女と“似通った”ウマ娘の姿を現場で見たというお話が一つ二つ三つ。……理由は勿論、お分かりですね。」

 

「ぁ」

 

 

それまでの高笑いが一瞬にして止まり、思いっきり顔を背ける彼女。

 

そして即座に発揮されるのは、その末脚。

 

勘違いで合ってほしいという願いもむなしく、やはり犯人だったようです。まぁ“あの子”の血筋って総じてゲート難ですからね。仕方ない。けれどトレーナーとして、大人として、すべきことがあるのです。

 

絶叫を上げながら、逃走を始めるゲートクラッシャーでしたが……

 

 

「わ、ワタクシの辞書に“ゲート”などと言う不要物は存在しないのですわッ! 三十六計逃げるに如かずッ! 逃走あるのみィィィ!!!!!!」

 

遅いッ! 制裁ッ!!!

 

 

それよりも早く回り込み、鉄拳を叩き込む。

 

途轍もない轟音と共に叩き込まれたソレは、頭にコミックのようなたんこぶを生成。足元に生じたクレーターと共に、その意識をしめやかに刈り取ります。把握しているだけで30のゲート破損。そのほかの実行犯もいるでしょうが、スカウトが成立した以上、この身が監督者。“手に負える間”に、何とか矯正してしまわなければいけません。

 

空気抵抗によって生じた熱と煙を手を振ることで払いながら、首根っこを掴んで移動を始めます。

 

 

「はぁ。後で始末書、書かないとですね。」

 

 

 

 





〇ゲートクラッシャー

没落名家出身お嬢様系ウマ娘。お金がないためトレセンの学食をタッパーに積める姿が良く確認されている。今回使用した“黄金色のお菓子”は勿論手作りであり、バターも砂糖もケチっている(味はいい)。ツインテが特徴的であり、『新時代の扉』を破壊するために動き始めている様子。

扉もゲートも同じようなものですわァァァアアアアア!!!

思考も行動もちょっとアレであり、ゲートを忌み嫌っている。というかゲートが存在するだけで世界にとって悪影響だと信じて止まず、定期的に破壊活動を行っている。彼女の朝の日課とは破壊活動だった。なお本作時空トレセンではそこまで珍しい趣味嗜好でなく、非公式ながら『ゲート撲滅委員会』などが存在している。事実フランスの凱旋門を破壊した化け物もいるので本件は可愛らしいもの。(凱旋門破壊者は『あなたはウマ娘である。』を参照。)


〇トレーナー(本名:竹 林)

最初に担当したウマ娘が前述する凱旋門を破壊する(実物&レース)様なヤバウマ娘だったため、周囲から“超癖馬”担当だと思われているトレーナー。既にその立ち位置を確立してしまっているので逃げ場はない。

そんな癖ウマ娘たちに揉まれた結果、0.6桐生院並みのパワーを有している。そのため本格化前のウマ娘なら制圧は可能。得意技は『愛のげんこつ』。

理事長秘書から依頼されたため、実は数日前からゲート破壊活動を行っている存在を探していた。かなり優秀なトレーナーではあるが、担当ウマ娘に常に振り回されているためその実力を発揮できたことは少ない。名前がコンプレックスなので弄ると締められる。要注意。作ったクレーターは後でちゃんと埋めた。





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