ワタクシが新時代の破壊者ですわ~ァ!   作:サイリウム

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ホープフルS 2

 

 

「あ! あれは……。タナベトレーナー? 本当に復帰されたんですね!」

 

「そのようですね。」

 

 

ジャングルポケットを始めとした若駒たちがターフへと上がり始めたころ。その観客席にて言葉を交わす2人のトレーナー。

 

来年のデビューに控え自身の愛バに一つの目標を見せるため足を運んだ桐生院葵と、自身が担当するウマ娘の一人が観戦を希望したため休養の一環としてやってきた樫本理子。新任ながら桐生院の出ということで注目度が高い彼女と、URA幹部としての役割も持つ彼女。同性ということもあってか、後者が前者を気にかける形で共に観戦することになったのが伺える。

 

 

「よほど引かれるウマ娘でも現れたか。あるいは心残りでもあるのか……。何にせよ、喜ばしいことです。」

 

 

タナベトレーナー。教え子の一人であるフジキセキと、もう一人の教え子であるジャングルポケットの友人たちに囲まれている彼。視線を向けながらそう呟く彼女だったが、そろそろファンファーレが鳴り響き始める時間であることも確か、視線をターフへとずらす彼女だったが……。

 

もう一人の同僚が、目に入る。

 

 

「……そういえばタケトレーナーもでしたか。」

 

「え? あ、ほんとですね。」

 

「祈ってらっしゃらないということはこのレース、荒れるでしょうね。」

 

 

どこか強い疲労を匂わせながら、そう呟く樫本。

 

普段とは違うその様子を疑問に思い、口を開こうとする桐生院。天性の才もさることながら非常に努力家である彼女は、既にトレセン内すべてのトレーナーの顔と名前。そして担当までも頭に入れ切っている。本人からすれば実際に顔を合わした際の話題の為と軽いもののつもりだったが、その情報量はかなりのものだ。しかしながら未だ新人ということもあり、把握できていないことも多い。

 

それを樫本も理解しているのだろう、軽く頷きながら後輩への説明をし始めた。

 

 

「貴女も知る様に、彼女はレース展開予想に置いて頭一つ飛びぬけています。まるで自分がターフを走ったかのように読み進め、十数の展開を即座に導き出す。もし彼女がウマ娘の背に乗って走っていれば常勝、少なくとも掲示板を外すことはありえないと言われるほどに。」

 

「はい、以前指導して頂きましたが、本当にすごい方でした。」

 

「しかし彼女の才は、ほとんど使われることはありません。これは偏に……、癖ウマ娘。そう呼ばれる者たちとの相性が良すぎるからです。」

 

 

樫本の言う通り、エセお嬢様を担当することになった彼女は癖ウマ娘。それも超が付くほどヤバい奴らに絡まれ続けている。

 

初めての担当が文字通り凱旋門を爆破し国際問題を引き起こしたと思えば、次の担当は首根っこを掴み深海まで連れていく。その次は世界中の海岸線を徒歩で歩いて地図を作るために失踪し、挙句の果てには月に自分の帝国を勝手に建国し始めるウマ娘まで。トレセンどころかURA、もっと言えば日本を巻き込んで問題を引き起こす超癖な奴らばかりだったのだ。

 

逃げようにも逃げられず、ずっとその対処に追われる日々。まぁそんな癖ウマ娘たちがトレーナーの指示なんか聞くわけもなく、どれだけ彼女が展開を考え勝ち筋を用意したとしても、全て無視される。しかもただ本能のままに走って、勝って帰ってくるのだ。ひたすらに哀れである。

 

 

「ですがその暴走も、本格化が始まってからのものばかり。つまりまだ本格化が始まっていないジュニア期ならば、その力関係は彼女に軍配が上がります。」

 

「……つまり、指示を聞いてくれるってことですか?」

 

「えぇ。確か新しい担当の名は“ゲートクラッシャー”。これまで3戦3勝、そのすべてを“スタミナで押し潰す破滅逃げ”で勝ち抜いてきたそうですが……。」

 

 

そう呟きながら、軽い思考を巡らせる樫本。

 

彼女が思い浮かべる竹林という女性は、癖ウマ娘たちに揉まれながらも『生き残ってきた』側の人間である。つまり癖ウマ娘が途轍もない問題を引き起こしても、そのすべてを気合で消火してきた人物でもあるのだ。本人は望んでいなかっただろうが、その情報操作能力の高さや各社情報筋との太いパイプの存在は決して無視できない。

 

そして彼女は、使えるものは何でも使う人間である。

 

 

(今回の1番人気はペリースチーム。それにアグネスタキオン、ジャングルポケットと続き、彼女の担当であるゲートクラッシャーは4番人気。その走りは往年のカブラヤオーを見る様なものですが……。)

 

 

彼女。エセお嬢様の所詮を目にしたことのある樫本だったが、感じたのはただ一つ。

 

“あまりにも合っていない”

 

破滅逃げと呼ばれる戦術にも、一定の理と術というものが存在している。けれどゲートクラッシャーが見せたそれには全くと言っていいほど策がない。ゲートを出た瞬間に暴走し、暴走したまま走り抜ける。それがレースと言えるか怪しいほどのものだった。

 

それ以外のレースは目を通せていないが、どれも使った戦術は同じと聞いている。

 

体力はあるようだが、暴走だけで勝てるほどレースは簡単ではない。これまで無敗なのは確かだが、それでもついた評価は4番人気。

 

 

(そこまでは、理解できます。ただ……、周囲の表現が少し異常。)

 

 

トレーナー業務の一環として彼女もレース新聞などに目を通すのだが……、そのすべてに『ゲートクラッシャーは破滅逃げ』という文面が乗せられていた。4番人気なため大きな見出しではなかったが、書かれている文面は細かい表現が異なりながらも内容は同じ。常人、普通のトレーナーであれば『1~3番人気の取材に労力を割いて、それ以外はおざなりなのかな』と感じるだろうもの。

 

しかし彼女は、ちがう。

 

 

(“URA職員”として、彼女の後始末に関わったことがありますが……。世論操作とも呼べるその情報統制は明らかに1個人のトレーナーが持っていいものではありませんでした。まぁ教え子の引き起こす問題が異常すぎて、それぐらいないと鎮火できないというのは確かでしたが……。)

 

「……樫本さん?」

 

 

そう考えていた時に、鼓膜を震わす桐生院の声と、鳴り響くファンファーレ。

 

鳴り響くソレに少し耳を抑えながらも、思考を収めていく彼女。その力量などが危険視されているのは確かだが、“かのトレーナー”が善人に位置することは樫本も理解するところ。時たま自身の手元にある“力”を再認識してしまい赤子のように泣き叫ぶ姿も確認されるため、“悪いこと”にはならないのは確かだ。

 

ただ前述したように、トレーナーというものは『担当の為なら何でもする』ような人種しかいないため……。

 

 

「失礼。……とにかくこのレース、見応えのあるものになるでしょう。しっかりと見ることをお勧めします。」

 

「あ、はい! ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(んっん~! ポッケ様が考えているのは『纏めて俺の速さでブチ抜く』あたりですかねぇ? ま! ワタクシという主役を輝かせるために頑張ってくださいまし~!)

 

 

職員様方に無理矢理ゲートに押し込まれながら、そんなことを考えます。

 

正直に言えば、ワタクシをこんな狭い場所に押し込むなど言語道断。絶許でブチ転がしコース、全て振り払い暴れてやりたいところですが……、真横の観客席に我が従者。トレーナーがいます。しかも滅茶苦茶ガン飛ばしてきてる。ここで暴れたら即座に締め墜とすぞ、ってことでしょう。業腹を超えたエクストリームグランドムカ着火ファイヤー腹でございますが、我慢するしかありません。

 

 

(にしても、“我が従者”は面白いことをお考えの様で。)

 

 

思い出すのは、ワタクシのルート選択を為した日。

 

このホープフルに出走することを決めた日のことです。ゲート試験という悪魔の所業に関し色々と制裁を受けてしまったのですが、それ以外は非常に“面白い”内容でした。何でも我がトレーナーは“策”を考えるのが非常にお好きなようでしてね? ワタクシからすればそんな小細工などザコのすること。この高貴で栄光に塗れた時代の寵児ことゲートクラッシャー様には必要ないと言いたかったのですが……

 

 

『ゲク子、まだ本格化前でしょう? クラシックに入る頃には突入するでしょうけど、ホープフルだと少し不安が残る。これがまだOPとかの少人数ならなんとかなるのでしょうが、G1となると話は別。少なくとも1度はその注目を外しておきたいところです。』

 

 

彼女の言う通り、未だ我が身は本格化に至っておりません。

 

そろそろという気は自身でもしているのですが、フルスペックを発揮するにはもう少しお時間を頂きたいといった所。しかしながらそれは他の出走者たちも同じ。ワタクシとしましては単純なパワーだけで押し倒したかったのですが……。

 

まぁはい。人の身でしかないこのクソトレーナーに制圧されてる時点で、うん。あ、あんまり逆らう気に成れないというか、逆らったらまたげんこつ喰らいそうというか。あ、いや話を聞いてなかったわけではないのですよ? 我が至高の追い込みを使い過ぎて警戒されてしまい、ブロックされて本来の力を出せないというのを危惧していらっしゃるのでしょう?

 

 

『お、おーほっほっ! 我が意を得たり、ですわ~!!!』

 

『使い方間違ってない? ……うん、じゃあとりあえず従ってくれるという形で行きましょうか。それで使えそうなのは……。ホープフルまで全て、“破滅逃げ”でかき回してみましょう。』

 

『…………このワタクシに、“逃げ”ろ。あ、いや何でもないです。だから拳握らないでッ!?』

 

 

最初何を言っているのだとつい声を荒上げてしまいましたが、拳を握られればもうどうしようもありません。ほ、本格化さえすれば力関係が逆転するのにッ! も、もうすぐなのにッ! か、神に愛されたはずのワタクシがッ! このドブカスがッ!

 

ま、まぁ簡単に言うと、トレーナーはワタクシの得意戦術を隠したいというおつもりの様です。……模擬レースで追い込みしちゃったのですが、大丈夫なのですかね?

 

 

『問題ないですよ。模擬レースは模擬でしかありません。それに、トレーナーが付いて戦術が変わるのはよくあること。それに……、今の時代はかの世紀末覇王。テイエムオペラオーの時代でしょう? 勝ち過ぎてつまらなくなったレースに、“新しい話題”を提供して差し上げるんです。ま、匙加減はこちらで調整いたしますが。』

 

 

おぉ、テイエムオペラオー様。夢でもそんな方がいらっしゃいましたね。

 

確かに破滅逃げと言えば、かのカブラヤオー様の雄姿が思い浮かびます。かなりピーキーな戦術だからこそ、人々の注目を集め記憶に残る。何を考えているのかは解りませんが、この世界と等価値な我が玉体にスポットライトが当たると考えれば、良い策なのかもしれません。

 

……ん? でもまだあの方はシニア期に入ったばかりのような気が。現実では皐月賞をお取りになった以外はあまりぱっとされておらず、世紀末覇王などという呼び名も“まだ”されていなかったはずですが……。

 

 

『……そうだゲク子。貴女に刺さりやすい言い方をしてあげましょうか。』

 

『刺さりやすい?』

 

『えぇ。……これまで暴走逃げしかしていなかった子が、“出遅れてもう終わった”と思われた後に、“追い込みで全て抜き去った”としたら……。とても、面白いことになりそうではありませんか?』

 

 

あら。

 

あら、あら、あら。

 

……このトレーナー。解っておりますわねッ!

 

ま、そういう事なら仕方ありません!

 

ワタクシもウマ娘ですし?

これまでOPのかなり短い距離しか走って来ませんでしたがファン様はいらっしゃいますし?

“4番人気”とちょうどいい注目度でございますし?

 

皆様の注目を浴びるのにこれほど最適なタイミングは存在しないでしょう!

 

 

本日のホープフル、最初の数秒ほど“あえて遅れて”差し上げて、演出させて頂くというのもやぶさかではありま『ガコンッ!』

 

……ガコン?

 

 

 

 

【さぁスタートしまし、っとぉ! ゲートクラッシャー全く出ていない! 大幅に遅れましたッ!】

 

 

 

 

目の前にある、何故か開いた景色。

 

その奥を走る、他の出走者の皆様。

 

そしてゲート横で顔を手で覆いながら空を見上げているトレーナー。

 

 

え、えっと……。出遅れは、3秒くらい?

 

 

 

「お、おわぁぁぁぁ!!!!! や、やらかしましたわァァァアアアアア!!!!!!!」

 

 

 

 






〇竹林トレーナー(超意訳)

せや! ゲク子に破滅逃げさせて、G1本番で本来の追い込みさせたろ! まだ本格化来てないけど、肉体強度とスタミナえぐいからOPの短距離ならいけるっしょ。……いやなんでこの子まだ本格化来てないのにこんな体堅いの? スタミナあるの? バケモンか? と、とにかく『バカねトレーナー! 最初から最後まで1番前を走れば1番なのよ!』を実行!

本格化来たら無視できるだろうけど、今は注目を浴びすぎてブロックされたら突破できない可能性が高いからね。仕方ないね!(これで3戦3勝)あ、あと違和感持つ奴もいるだろうから、いい感じに情報操作もするやで。おらマスコミ! いうこと聞け! ウチの馬鹿ども(過去担当)が何故かお前らのスキャンダル大量に持っとるからのぉ? 解るよね♡ うんうん、勿論勝ったら“貴社を優先的に”取材させてあげるから……(n枚舌外交)。まぁそれで無理だったらフランスから“アイツ”呼べばうまくいくだろ。文字通り吹き飛ばすだろうし。使える物は使わないとね♡

あとはゲク子! お前は良い感じに出遅れて『破滅逃げ』失敗した! って他出走者に思わせれば完璧やで! 警戒が薄れて誰も意識してなかった時に、追い込みで全部吹き飛ばすんや! ま、お前元々かなりのゲート難だし、特に何もしなくても出遅れはするやろうけど……。




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