世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉 作:ヒツジ(ラム肉
第9話 「少年、生存者」
ヒャッハー!
ヒャッハーダム誕生――
それは荒野の力学を書き換える事件である!
水。
電力。
補給。
奪えば未来。
逃せば終焉。
そして当然の帰結――
争奪戦であるゥ!!
だが忘れてはならない。
あのダムには、
あの怪物が棲みついていることを――!!
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水だった。
すべての始まりは水だった。
荒野において絶対的価値を持つ資源。
弾薬よりも希少。
燃料よりも重要。
そして時として、
人命よりも優先されるもの。
ヒャッハーダム復活。
浄水設備再稼働。
発電設備部分復旧。
その情報は瞬く間に周辺勢力へ伝播した。
半信半疑だった噂は、
やがて確定情報へ変わる。
「本当に水があるらしい」
「しかも安定供給だ」
「電力まで使える」
荒野の住民にとって、
それは奇跡ではない。
標的である。
ある集落の長老が呟いた。
「奪えば生き残れる」
結論は早かった。
実に世紀末らしい判断。
交渉ではない。
同盟でもない。
襲撃。
夜陰に紛れた奇襲作戦。
車両総動員。
武装班投入。
成功すれば繁栄。
失敗すれば消滅。
そして――
「ヒャッハー!!」
結果は語るまでもなかった。
爆音。
熱水。
絶叫。
襲撃部隊は壊滅した。
だが。
問題はそこではない。
「……ヒャッハー」
ダム上部。
ヒャッハーは理解していた。
誰が来たのか。
どこから来たのか。
なぜ来たのか。
驚くほど理性的に。
異様なほど冷静に。
「ヒャッハー!!」
報復は迅速だった。
炎だった。
すべては炎だった。
集落へ向かう黒塗りのバイク。
防壁突破。
防衛線崩壊。
火炎。
破壊。
蹂躙。
夜空を染め上げる業火。
家屋が燃える。
空気が焦げる。
人が叫ぶ。
「ヒャッハーだァ!!」
少年は震えていた。
瓦礫の陰。
崩れた壁の裏。
視界が揺れる。
鼓動が暴れる。
呼吸が乱れる。
だが。
彼の恐怖は今に始まったものではない。
記憶は数日前へ遡る。
集落の門前。
砂煙を引き裂いて現れた黒い影。
黒塗りのバイク。
逆立つモヒカン。
「ヒャッハー!!」
住民たちが武器を向ける。
緊張。
殺気。
混乱。
そして。
「撃つな撃つな」
妙に落ち着いた声。
場違いなほど自然な口調。
「今日は戦いに来たんじゃねぇ」
ざわめき。
困惑。
理解不能。
「交渉だ」
少年には意味が分からなかった。
荒野で交渉?
モヒカンが?
だが次の瞬間。
銃声。
熱水。
悲鳴。
そして。
「ヒャッハー!!」
世界が壊れた。
噴き荒れる熱水。
倒れる住民。
砕かれる防壁。
振り下ろされる硬鞭。
「ヒャッハー!汚物は消毒だァ!!」
狂喜。
純粋な歓喜。
そこに怒りはなかった。
憎悪もなかった。
楽しんでいた。
ただそれだけ。
その事実だけが、
少年の精神を深く焼いた。
やがて静寂。
燃え残る集落。
崩れた日常。
失われたすべて。
少年は立ち尽くす。
理解不能の現実。
帰る場所の消滅。
握り締めた拳から血が滲む。
「……ヒャッハー……」
それは復讐ではない。
まだ違う。
怒りとも違う。
言葉にならぬ感情。
ただの呪い。
忘れないという呪い。
消えない記憶。
数年後。
荒野を歩く一人の影。
少年は成長していた。
背には巨大な鉄塊。
重刃刀。
常識外れの質量武器。
彼の歩みは静かだった。
感情は薄い。
だが視線だけは揺るがない。
遠く。
ヒャッハーダム。
瞳に宿るものはただひとつ。
因果。
終わらせねばならぬ何か。
逃れられぬ精算。
荒野の風が吹き抜ける。
少年は呟いた。
「待っていろ……ヒャッハー……」
それは宣戦布告ではない。
運命の確認だった。