世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉 作:ヒツジ(ラム肉
ヒャッハー!
輸送隊壊滅!補給路消滅!被害拡大!!
荒野では日常茶飯事――
……のはずだったのだが?
今回ばかりは規模が違う!!
そしてついに動き出す巨大勢力!
荒野最大級武力集団――
軍閥参戦であるゥ!!
--------------------
軍閥とは何か。
荒野における秩序。
暴力の集積体。
資源の管理者。
交易の支配者。
そして――最大級の武力装置。
荒野では個人の力など誤差に過ぎない。
真に世界を動かすのは組織である。
その軍閥司令部へ、重苦しい報告が届けられた。
「第三輸送部隊、壊滅」
「補給物資、全損」
「生存者……ゼロ」
室内に沈黙が落ちる。
誰もすぐには口を開かなかった。
「……またか」
幹部の一人が低く呟く。
感情ではない。
確認作業に近い反応。
だが報告官の顔色は明らかに異常だった。
「被害地点は……」
一瞬の逡巡。
「ヒャッハーダム周辺です」
空気が変わった。
わずかながら。
だが確実に。
「……例の場所か」
別の幹部が眉をひそめる。
ヒャッハーダム。
帰らずのダム。
災害指定区域。
軍閥内部ですら既に周知されつつある異常地帯。
だが依然として理解不能な報告内容。
「単独犯という話だったな?」
確認。
当然の疑問。
「はい……モヒカンの男が一人」
失笑が起きる。
本来なら笑い飛ばすべき案件。
戦車を保有する軍閥が、たった一人を恐れる?
あり得ない。
常識的には。
だが。
報告書の続きがその空気を凍らせた。
「被弾多数」
「車両破壊」
「交戦形跡あり」
「……生存者ゼロ」
沈黙。
今度は完全な静寂だった。
「証拠は?」
幹部の声が一段低くなる。
「破壊状況が……異常です」
写真資料が投影される。
潰れた装甲車。
ねじ曲がった鋼板。
爆発では説明不能な破壊痕。
「……なんだこれは」
誰かが呟く。
「硬質打撃痕……?」
軍事経験を持つ者ほど違和感を覚える。
通常兵器の結果ではない。
火力の痕跡ではない。
純粋な質量破壊。
「ふざけた報告だな」
否定。
だが確信は持てない。
理解が拒絶される。
「同様の被害が複数確認されています」
報告官が続ける。
「輸送隊」
「偵察隊」
「独立ハンター部隊」
「接触した勢力、すべて壊滅」
ざわめき。
そして不快な沈黙。
偶然ではない。
異常事象。
軍閥の幹部たちは理解していた。
問題は被害規模ではない。
再現性。
単独犯による継続的壊滅。
それは組織論理の否定を意味する。
「……存在そのものが脅威か」
幹部の一人が静かに呟く。
誰も否定しない。
否定できない。
「目撃証言は?」
「共通しています」
映像記録が再生される。
爆音。
黒塗りのバイク。
異様な挙動。
そして。
「ヒャッハー!!」
室内の空気が凍り付いた。
記録越しですら伝わる異常な圧力。
「なんだこのテンションは……」
「戦闘中だぞ……?」
理性の欠片もない歓喜の絶叫。
だが映像内の挙動は異様なほど合理的。
精密。
高速。
致命的。
狂人の動きではない。
兵士の動きでもない。
分類不能。
「……厄介だな」
結論だけが残る。
軍閥は合理で動く。
感情ではない。
恐怖でもない。
計算と効率。
そして支配維持。
「放置すればどうなる?」
問い。
誰も即答しなかった。
だが答えは明白だった。
権威の失墜。
補給路の不安定化。
恐怖均衡の崩壊。
荒野秩序そのものの揺らぎ。
軍閥の敗北は世界の不安定を意味する。
「……討伐するしかない」
最終結論。
苦渋でも何でもない。
当然の処理判断。
「過剰戦力を投入する」
戦術担当が即座に資料を展開する。
戦車。
装甲車。
重武装兵。
火炎部隊。
対拠点制圧規模の兵力。
単独犯相手としては異常極まりない布陣。
だが誰も異議を唱えない。
「念のためだ」
その言葉にすべてが集約されていた。
理屈ではない。
違和感に対する保険。
軍閥とは未知を嫌う存在である。
そして。
ヒャッハーダム。
当の怪物は相変わらずだった。
「ヒャッハー……♪」
畑の手入れ。
設備点検。
異様な平穏。
遠くの地平線。
巨大な砂煙。
戦車群。
車両列。
重武装部隊。
常識的武力の象徴。
それを視認したヒャッハー。
一瞬の沈黙。
そして。
「ヒャッハー!!」
歓喜。
純粋な歓喜。
「いいねぇ……!!」
声が震えていた。
恐怖ではない。
期待で。
「やっとまともな客が来やがった!!」
災害は歓迎していた。
軍閥の総力を。
破壊される秩序。
衝突する暴力。
荒野最大規模の戦闘。
すべてを。
娯楽として。
「ヒャッハッハァ!!」
笑い声が荒野へ響く。
それは宣戦布告ではない。
純粋な喜悦だった。