世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉   作:ヒツジ(ラム肉

15 / 45
第13話 「軍閥、動く」

ヒャッハー!

 

輸送隊壊滅!補給路消滅!被害拡大!!

 

荒野では日常茶飯事――

……のはずだったのだが?

 

今回ばかりは規模が違う!!

 

そしてついに動き出す巨大勢力!

 

荒野最大級武力集団――

軍閥参戦であるゥ!!

 

--------------------

 

軍閥とは何か。

 

荒野における秩序。

 

暴力の集積体。

 

資源の管理者。

 

交易の支配者。

 

そして――最大級の武力装置。

 

荒野では個人の力など誤差に過ぎない。

 

真に世界を動かすのは組織である。

 

その軍閥司令部へ、重苦しい報告が届けられた。

 

「第三輸送部隊、壊滅」

 

「補給物資、全損」

 

「生存者……ゼロ」

 

室内に沈黙が落ちる。

 

誰もすぐには口を開かなかった。

 

「……またか」

 

幹部の一人が低く呟く。

 

感情ではない。

 

確認作業に近い反応。

 

だが報告官の顔色は明らかに異常だった。

 

「被害地点は……」

 

一瞬の逡巡。

 

「ヒャッハーダム周辺です」

 

空気が変わった。

 

わずかながら。

 

だが確実に。

 

「……例の場所か」

 

別の幹部が眉をひそめる。

 

ヒャッハーダム。

 

帰らずのダム。

 

災害指定区域。

 

軍閥内部ですら既に周知されつつある異常地帯。

 

だが依然として理解不能な報告内容。

 

「単独犯という話だったな?」

 

確認。

 

当然の疑問。

 

「はい……モヒカンの男が一人」

 

失笑が起きる。

 

本来なら笑い飛ばすべき案件。

 

戦車を保有する軍閥が、たった一人を恐れる?

 

あり得ない。

 

常識的には。

 

だが。

 

報告書の続きがその空気を凍らせた。

 

「被弾多数」

 

「車両破壊」

 

「交戦形跡あり」

 

「……生存者ゼロ」

 

沈黙。

 

今度は完全な静寂だった。

 

「証拠は?」

 

幹部の声が一段低くなる。

 

「破壊状況が……異常です」

 

写真資料が投影される。

 

潰れた装甲車。

 

ねじ曲がった鋼板。

 

爆発では説明不能な破壊痕。

 

「……なんだこれは」

 

誰かが呟く。

 

「硬質打撃痕……?」

 

軍事経験を持つ者ほど違和感を覚える。

 

通常兵器の結果ではない。

 

火力の痕跡ではない。

 

純粋な質量破壊。

 

「ふざけた報告だな」

 

否定。

 

だが確信は持てない。

 

理解が拒絶される。

 

「同様の被害が複数確認されています」

 

報告官が続ける。

 

「輸送隊」

 

「偵察隊」

 

「独立ハンター部隊」

 

「接触した勢力、すべて壊滅」

 

ざわめき。

 

そして不快な沈黙。

 

偶然ではない。

 

異常事象。

 

軍閥の幹部たちは理解していた。

 

問題は被害規模ではない。

 

再現性。

 

単独犯による継続的壊滅。

 

それは組織論理の否定を意味する。

 

「……存在そのものが脅威か」

 

幹部の一人が静かに呟く。

 

誰も否定しない。

 

否定できない。

 

「目撃証言は?」

 

「共通しています」

 

映像記録が再生される。

 

爆音。

 

黒塗りのバイク。

 

異様な挙動。

 

そして。

 

「ヒャッハー!!」

 

室内の空気が凍り付いた。

 

記録越しですら伝わる異常な圧力。

 

「なんだこのテンションは……」

 

「戦闘中だぞ……?」

 

理性の欠片もない歓喜の絶叫。

 

だが映像内の挙動は異様なほど合理的。

 

精密。

 

高速。

 

致命的。

 

狂人の動きではない。

 

兵士の動きでもない。

 

分類不能。

 

「……厄介だな」

 

結論だけが残る。

 

軍閥は合理で動く。

 

感情ではない。

 

恐怖でもない。

 

計算と効率。

 

そして支配維持。

 

「放置すればどうなる?」

 

問い。

 

誰も即答しなかった。

 

だが答えは明白だった。

 

権威の失墜。

 

補給路の不安定化。

 

恐怖均衡の崩壊。

 

荒野秩序そのものの揺らぎ。

 

軍閥の敗北は世界の不安定を意味する。

 

「……討伐するしかない」

 

最終結論。

 

苦渋でも何でもない。

 

当然の処理判断。

 

「過剰戦力を投入する」

 

戦術担当が即座に資料を展開する。

 

戦車。

 

装甲車。

 

重武装兵。

 

火炎部隊。

 

対拠点制圧規模の兵力。

 

単独犯相手としては異常極まりない布陣。

 

だが誰も異議を唱えない。

 

「念のためだ」

 

その言葉にすべてが集約されていた。

 

理屈ではない。

 

違和感に対する保険。

 

軍閥とは未知を嫌う存在である。

 

そして。

 

ヒャッハーダム。

 

当の怪物は相変わらずだった。

 

「ヒャッハー……♪」

 

畑の手入れ。

 

設備点検。

 

異様な平穏。

 

遠くの地平線。

 

巨大な砂煙。

 

戦車群。

 

車両列。

 

重武装部隊。

 

常識的武力の象徴。

 

それを視認したヒャッハー。

 

一瞬の沈黙。

 

そして。

 

「ヒャッハー!!」

 

歓喜。

 

純粋な歓喜。

 

「いいねぇ……!!」

 

声が震えていた。

 

恐怖ではない。

 

期待で。

 

「やっとまともな客が来やがった!!」

 

災害は歓迎していた。

 

軍閥の総力を。

 

破壊される秩序。

 

衝突する暴力。

 

荒野最大規模の戦闘。

 

すべてを。

 

娯楽として。

 

「ヒャッハッハァ!!」

 

笑い声が荒野へ響く。

 

それは宣戦布告ではない。

 

純粋な喜悦だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。