世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉   作:ヒツジ(ラム肉

17 / 45
第15話 「軍閥逆襲決定」

ヒャッハー!!

 

討伐隊壊滅!!

 

装甲も戦術も意味を成さず!!

 

荒野最大武力、前代未聞の敗北!!

 

そして当然の帰結――

 

軍閥、ブチ切れ確定であるゥ!!

 

これは討伐ではない!!

 

報復でもない!!

 

戦争準備開始だァ!!

 

--------------------

 

軍閥司令部。

 

分厚い鋼板で覆われた地下施設。

 

荒野の中では異様なほど堅牢な構造。

 

無機質な照明。

 

乾いた空気。

 

重苦しい沈黙。

 

その中心。

 

一枚の報告書が机の上に置かれていた。

 

誰も触れない。

 

誰も口を開かない。

 

やがて。

 

「……事実か?」

 

低い声が落ちた。

 

司令官。

 

軍閥の頂点に立つ男。

 

対拠点制圧。

 

都市襲撃。

 

数百規模の戦闘経験。

 

荒野における暴力の象徴。

 

その男の声に。

 

わずかな揺れがあった。

 

「はい」

 

報告担当の士官が答える。

 

声は規律通り。

 

だが。

 

背中には冷汗が滲んでいた。

 

「討伐隊……全滅」

 

一拍。

 

「戦車部隊……大破」

 

さらに一拍。

 

「装甲車両……壊滅」

 

沈黙。

 

空気が凍る。

 

誰も呼吸しない。

 

できない。

 

常識が拒絶していた。

 

「……単独犯だな?」

 

司令官の問い。

 

確認ではない。

 

拒絶である。

 

「……はい」

 

士官が絞り出す。

 

「交戦対象……ヒャッハー」

 

名を口にした瞬間。

 

室内の空気がさらに重くなった。

 

誰もが知っている。

 

だが誰も理解できない存在。

 

「馬鹿な」

 

吐き捨てるような声。

 

司令官ではない。

 

幹部席の一人だった。

 

「あり得ん」

 

別の男が続く。

 

「戦車だぞ」

 

「装甲車だぞ」

 

「訓練兵ではない」

 

「正規戦闘員だ」

 

言葉が重なる。

 

だが。

 

反論にはならない。

 

現実は覆らない。

 

司令官は黙って報告書を見つめていた。

 

紙。

 

数字。

 

被害一覧。

 

損耗率。

 

理性的に記述された絶望。

 

やがて。

 

「……映像は?」

 

短い問い。

 

士官が一瞬だけ硬直する。

 

そして。

 

「提出済みです」

 

端末が起動する。

 

ホログラム展開。

 

戦場記録。

 

ダム周辺。

 

戦車列。

 

討伐隊。

 

そして。

 

黒い影。

 

「…………」

 

誰も言葉を発しない。

 

できない。

 

ヒャッハー。

 

弾幕を突っ切る。

 

爆炎を踏み台に跳躍する。

 

装甲車を殴り倒す。

 

戦車へ飛び乗る。

 

熱水噴射。

 

硬鞭破壊。

 

「……何だこれは」

 

幹部の一人が呟く。

 

恐怖ではない。

 

理解拒絶。

 

世界観崩壊。

 

「編集ではないのか?」

 

別の男。

 

「錯覚では?」

 

「誤認識だ」

 

「光学障害だ」

 

理屈が並ぶ。

 

だが映像は残酷だった。

 

砲撃直撃。

 

爆炎。

 

煙。

 

そこから飛び出すモヒカン。

 

完全な悪夢。

 

司令官の拳がゆっくりと握られる。

 

ミシ……と音が鳴る。

 

「……ふざけるな」

 

極めて静かな声。

 

だが。

 

それは嵐の前兆だった。

 

「我々は何だ」

 

顔を上げる。

 

瞳に宿る怒気。

 

「荒野最大武力だぞ」

 

誰も返答しない。

 

「秩序を維持する側だ」

 

「恐怖を管理する側だ」

 

「敗北など概念として存在しない」

 

言葉が重く落ちる。

 

「それが」

 

報告書へ視線を落とす。

 

「たった一人に踏み潰された?」

 

沈黙。

 

誰も否定できない。

 

できるはずがない。

 

現実だからだ。

 

司令官はゆっくりと立ち上がった。

 

椅子が軋む。

 

その音すら重く響く。

 

「問題は被害ではない」

 

幹部たちへ視線を巡らせる。

 

「面子だ」

 

空気が変わる。

 

軍閥的論理。

 

絶対の価値基準。

 

「軍閥が敗北を許せばどうなる」

 

誰もが理解していた。

 

「荒野秩序が崩壊する」

 

「賊徒が暴走する」

 

「集落が独立する」

 

「支配構造が瓦解する」

 

一つの敗北。

 

それは組織にとって致命傷となる。

 

「……許さん」

 

低く唸る。

 

「絶対に許さん」

 

そして。

 

即断。

 

「総力戦準備」

 

室内が凍り付く。

 

「……司令官?」

 

士官の声が揺れる。

 

「拠点制圧規模を超える」

 

「戦争規模動員」

 

誰もが言葉を失う。

 

「ヒャッハーダム」

 

司令官の瞳が燃える。

 

「あの地点ごと消し飛ばす」

 

命令が連鎖する。

 

「兵站を集中しろ」

 

「重戦力を呼び戻せ」

 

「予備戦車を前線へ」

 

「長距離砲撃準備」

 

 

それはもはや討伐ではなかった。

 

報復でもない。

 

全面戦争。

 

軍閥が本気で怒った瞬間である。

 

その頃。

 

ヒャッハーダム。

 

荒野に不釣り合いな巨大構造物。

 

その上部。

 

「ヒャッハー……♪」

 

男は鼻歌交じりだった。

 

意味不明なご機嫌。

 

戦車残骸。

 

装甲部品。

 

謎の配線。

 

奇怪な改造作業。

 

「いやぁ……楽しかったなァ……!」

 

満足げな独り言。

 

その視線の先。

 

地平線。

 

異様な規模の砂煙。

 

通常ではあり得ない量。

 

通常ではあり得ない密度。

 

ヒャッハーの手が止まる。

 

ゴーグル越しの視線。

 

「……お?」

 

やがて。

 

姿を現す。

 

戦車列。

 

装甲車群。

 

車両群。

 

武装バイク。

 

輸送部隊。

 

視界を埋め尽くす軍閥主力。

 

荒野最大規模の軍事移動。

 

普通の人間なら。

 

恐怖する。

 

逃走を考える。

 

絶望する。

 

だが。

 

ヒャッハーは違った。

 

一瞬の沈黙。

 

そして。

 

「ヒャッハー!!」

 

絶叫。

 

歓喜。

 

狂喜。

 

異常反応。

 

「いいねぇぇぇ!!」

 

声が震えていた。

 

恐怖ではない。

 

歓喜で。

 

「やっとだ……!」

 

立ち上がる。

 

武器を掴む。

 

硬鞭。

 

熱水装置。

 

すべてが戦闘姿勢へ。

 

「これだよ……これ……!!」

 

恍惚。

 

純粋な期待。

 

「中途半端じゃねぇ……!」

 

軍閥主力を見下ろしながら。

 

「まともな戦争ってやつだァ!!」

 

怪物は理解していた。

 

自分が何を引き起こしたのかを。

 

軍閥がどれほど怒ったのかを。

 

その上で。

 

心の底から喜んでいた。

 

「ヒャッハッハァ!!」

 

荒野に響く狂気の笑い声。

 

世紀末世界最大級の衝突。

 

それが今。

 

幕を開けようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。