世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉 作:ヒツジ(ラム肉
ヒャッハー!!
討伐隊壊滅!!
装甲も戦術も意味を成さず!!
荒野最大武力、前代未聞の敗北!!
そして当然の帰結――
軍閥、ブチ切れ確定であるゥ!!
これは討伐ではない!!
報復でもない!!
戦争準備開始だァ!!
--------------------
軍閥司令部。
分厚い鋼板で覆われた地下施設。
荒野の中では異様なほど堅牢な構造。
無機質な照明。
乾いた空気。
重苦しい沈黙。
その中心。
一枚の報告書が机の上に置かれていた。
誰も触れない。
誰も口を開かない。
やがて。
「……事実か?」
低い声が落ちた。
司令官。
軍閥の頂点に立つ男。
対拠点制圧。
都市襲撃。
数百規模の戦闘経験。
荒野における暴力の象徴。
その男の声に。
わずかな揺れがあった。
「はい」
報告担当の士官が答える。
声は規律通り。
だが。
背中には冷汗が滲んでいた。
「討伐隊……全滅」
一拍。
「戦車部隊……大破」
さらに一拍。
「装甲車両……壊滅」
沈黙。
空気が凍る。
誰も呼吸しない。
できない。
常識が拒絶していた。
「……単独犯だな?」
司令官の問い。
確認ではない。
拒絶である。
「……はい」
士官が絞り出す。
「交戦対象……ヒャッハー」
名を口にした瞬間。
室内の空気がさらに重くなった。
誰もが知っている。
だが誰も理解できない存在。
「馬鹿な」
吐き捨てるような声。
司令官ではない。
幹部席の一人だった。
「あり得ん」
別の男が続く。
「戦車だぞ」
「装甲車だぞ」
「訓練兵ではない」
「正規戦闘員だ」
言葉が重なる。
だが。
反論にはならない。
現実は覆らない。
司令官は黙って報告書を見つめていた。
紙。
数字。
被害一覧。
損耗率。
理性的に記述された絶望。
やがて。
「……映像は?」
短い問い。
士官が一瞬だけ硬直する。
そして。
「提出済みです」
端末が起動する。
ホログラム展開。
戦場記録。
ダム周辺。
戦車列。
討伐隊。
そして。
黒い影。
「…………」
誰も言葉を発しない。
できない。
ヒャッハー。
弾幕を突っ切る。
爆炎を踏み台に跳躍する。
装甲車を殴り倒す。
戦車へ飛び乗る。
熱水噴射。
硬鞭破壊。
「……何だこれは」
幹部の一人が呟く。
恐怖ではない。
理解拒絶。
世界観崩壊。
「編集ではないのか?」
別の男。
「錯覚では?」
「誤認識だ」
「光学障害だ」
理屈が並ぶ。
だが映像は残酷だった。
砲撃直撃。
爆炎。
煙。
そこから飛び出すモヒカン。
完全な悪夢。
司令官の拳がゆっくりと握られる。
ミシ……と音が鳴る。
「……ふざけるな」
極めて静かな声。
だが。
それは嵐の前兆だった。
「我々は何だ」
顔を上げる。
瞳に宿る怒気。
「荒野最大武力だぞ」
誰も返答しない。
「秩序を維持する側だ」
「恐怖を管理する側だ」
「敗北など概念として存在しない」
言葉が重く落ちる。
「それが」
報告書へ視線を落とす。
「たった一人に踏み潰された?」
沈黙。
誰も否定できない。
できるはずがない。
現実だからだ。
司令官はゆっくりと立ち上がった。
椅子が軋む。
その音すら重く響く。
「問題は被害ではない」
幹部たちへ視線を巡らせる。
「面子だ」
空気が変わる。
軍閥的論理。
絶対の価値基準。
「軍閥が敗北を許せばどうなる」
誰もが理解していた。
「荒野秩序が崩壊する」
「賊徒が暴走する」
「集落が独立する」
「支配構造が瓦解する」
一つの敗北。
それは組織にとって致命傷となる。
「……許さん」
低く唸る。
「絶対に許さん」
そして。
即断。
「総力戦準備」
室内が凍り付く。
「……司令官?」
士官の声が揺れる。
「拠点制圧規模を超える」
「戦争規模動員」
誰もが言葉を失う。
「ヒャッハーダム」
司令官の瞳が燃える。
「あの地点ごと消し飛ばす」
命令が連鎖する。
「兵站を集中しろ」
「重戦力を呼び戻せ」
「予備戦車を前線へ」
「長距離砲撃準備」
それはもはや討伐ではなかった。
報復でもない。
全面戦争。
軍閥が本気で怒った瞬間である。
その頃。
ヒャッハーダム。
荒野に不釣り合いな巨大構造物。
その上部。
「ヒャッハー……♪」
男は鼻歌交じりだった。
意味不明なご機嫌。
戦車残骸。
装甲部品。
謎の配線。
奇怪な改造作業。
「いやぁ……楽しかったなァ……!」
満足げな独り言。
その視線の先。
地平線。
異様な規模の砂煙。
通常ではあり得ない量。
通常ではあり得ない密度。
ヒャッハーの手が止まる。
ゴーグル越しの視線。
「……お?」
やがて。
姿を現す。
戦車列。
装甲車群。
車両群。
武装バイク。
輸送部隊。
視界を埋め尽くす軍閥主力。
荒野最大規模の軍事移動。
普通の人間なら。
恐怖する。
逃走を考える。
絶望する。
だが。
ヒャッハーは違った。
一瞬の沈黙。
そして。
「ヒャッハー!!」
絶叫。
歓喜。
狂喜。
異常反応。
「いいねぇぇぇ!!」
声が震えていた。
恐怖ではない。
歓喜で。
「やっとだ……!」
立ち上がる。
武器を掴む。
硬鞭。
熱水装置。
すべてが戦闘姿勢へ。
「これだよ……これ……!!」
恍惚。
純粋な期待。
「中途半端じゃねぇ……!」
軍閥主力を見下ろしながら。
「まともな戦争ってやつだァ!!」
怪物は理解していた。
自分が何を引き起こしたのかを。
軍閥がどれほど怒ったのかを。
その上で。
心の底から喜んでいた。
「ヒャッハッハァ!!」
荒野に響く狂気の笑い声。
世紀末世界最大級の衝突。
それが今。
幕を開けようとしていた。