世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉 作:ヒツジ(ラム肉
ヒャッハー!!
軍閥総力戦、壊滅!!
荒野最大勢力、まさかの全面敗北!!
そして導き出される苦渋の選択――
停戦交渉!!
世紀末世界に最も似合わぬ理性的行動!!
だが相手はあのヒャッハー!!
嫌な予感しかしねぇぞォォォ!!
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軍閥司令部。
空気は重かった。
異様なほどに。
沈黙。
誰も口を開かない。
机上に積み上げられた報告書。
損失一覧。
被害記録。
全滅判定。
「……信じられん」
幹部の一人が呟く。
声に力はない。
それも当然だった。
戦車群壊滅。
重装甲部隊壊滅。
総力戦部隊壊滅。
あり得ない。
常識が拒絶する結果。
「単独犯だぞ……?」
確認するような声。
だが返答はない。
誰もが分かっていた。
事実であると。
「……戦力ではどうにもならん」
別の幹部が低く言う。
怒りではない。
諦観でもない。
純粋な現実認識。
「被害が拡大するだけだ」
合理的結論。
だが。
それは軍閥にとって最悪の選択肢だった。
交渉。
停戦。
妥協。
軍閥とは暴力による秩序。
絶対的武力。
恐怖による支配。
それが。
たった一人に粉砕された。
「……認めるのか?」
誰かが問う。
敗北を。
屈辱を。
恐怖を。
長い沈黙。
そして。
「……交渉するしかない」
絞り出される結論。
苦渋。
だが否定できない。
ヒャッハー。
あの異常存在は、
通常の敵ではない。
勝敗の枠組みそのものが通用しない。
「使者を出せ」
命令が下る。
「白旗を持たせろ」
「刺激するな」
「絶対に挑発するな」
異様な指示の数々。
それだけで状況の異常性が理解できる。
相手は、
国家でも軍隊でもなく、
ただのモヒカンである。
その頃。
ヒャッハーダム。
「ヒャッハー……♪」
怪物は相変わらず上機嫌だった。
ダム上部。
瓦礫。
残骸。
焼け焦げた戦場。
そのど真ん中で、
鼻歌交じりに設備をいじっている。
完全に通常運転。
そこへ。
白旗。
接近する一台の車両。
「……ん?」
ヒャッハーが顔を上げる。
視線固定。
数秒の観察。
そして。
「ヒャッハー!!」
なぜか嬉しそうだった。
「なんだァ?」
使者到着。
車両停止。
扉が開く。
震える軍閥の男。
白旗を掲げ、
恐る恐る歩み出る。
戦場の誰よりも緊張していた。
「……何の用だ?」
ヒャッハーの声。
妙に普通。
妙に穏やか。
だが逆に恐ろしい。
使者の喉が鳴る。
唾を飲み込む。
そして。
「て……停戦交渉を……」
一瞬の沈黙。
ヒャッハーの動きが止まる。
空気が凍り付く。
そして。
「……ヒャ?」
素っ頓狂な声。
本気で意味が分からない顔。
「停戦?」
首を傾げる。
実に純粋な疑問。
使者の背中を冷汗が流れる。
ヒャッハーは続けた。
「なんで?」
場の空気が死ぬ。
「まだ全然楽しめるだろ?」
絶句。
価値観の断絶。
軍閥側の常識が崩壊する瞬間。
戦争とは目的のための手段。
資源。
支配。
秩序。
だがこの男は違う。
「まぁいい」
ヒャッハーが肩をすくめる。
あまりにも軽い反応。
「条件は単純だ」
使者が息を呑む。
恐怖。
緊張。
絶望的な要求を覚悟する。
だが。
「しばらく俺にちょっかい出すな」
沈黙。
理解不能。
「……それだけだ」
使者が呆然とする。
「……それだけ?」
思わず聞き返してしまう。
ヒャッハーは笑った。
「ヒャッハッハァ!!」
実に楽しそうに。
実に愉快そうに。
「戦争なんざ口実だ」
戦場が静まり返る。
「俺はただヒャッハーしてぇだけだ」
理屈ではない。
思想でもない。
目的でもない。
ただの欲求。
ただの衝動。
だが。
それこそが最も恐ろしい。
使者は初めて理解する。
この存在の本質を。
敵ではない。
交渉相手でもない。
災害。
現象。
理解不能領域。
「……分かりました」
震える声で答える。
拒否権など存在しない。
「では……停戦成立ということで……」
ヒャッハーは興味なさそうに手を振った。
「好きにしろ」
あまりにも無責任。
あまりにも自然。
まるで、
最初からどうでもよかったかのように。
使者撤退。
車両離脱。
軍閥側へ帰還。
そして司令部。
報告。
沈黙。
誰もが同じ感想を抱いていた。
勝てない。
理解できない。
関わってはいけない。
ヒャッハー。
それはもはや個人名ではない。
概念。
災害分類。
荒野の新たな法則。
一方その頃。
ダム上部。
「ヒャッハー……♪」
当の本人は、
完全に通常営業へ戻っていた。
まるで戦争などなかったかのように。
「さて……」
工具を放り投げ、
荒野を見渡す。
「次は何して遊ぶかねぇ……」
この瞬間。
荒野の誰もが知らなかった。
停戦という選択が、
さらなる悪夢の前触れに過ぎなかったことを。
ヒャッハーは止まらない。
止まる理由が存在しないのだから。