世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉 作:ヒツジ(ラム肉
第38話・最終決戦(前編) 「泥と火と鉛の祝祭」
ヒャッハー!
引かれた最後のレバー! 解放されたのは超兵器ではない!
ダムに沈み、溜まり、圧縮され続けた“堆積物”――土石流!
逃げれば飲まれる! 止まれば潰れる! 進めば焼かれる!
だが世紀末の住民は止まらない!
そしてヒャッハーは“最終決戦装備”を装着し、戦場そのものを娯楽へ変える!
泥・火炎・弾幕が交差する、世紀末最大級の地獄が開幕だァ!!
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ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
大地が唸っていた。
耳ではない。骨が聞いている。内臓が揺れている。
ダムという巨大構造物が、世界そのものを震わせている。
「……出るぞ!!」
誰かが叫んだ。
次の瞬間、ダム側面の排出口が黒く滲む。
水ではない。濁流でもない。
粘度と重量を持った“異様な質量”が、ゆっくりと動き出す。
ズルゥゥゥゥ……
「堆積物だ!!」
理解した瞬間、戦場の空気が凍った。
あれはただの泥ではない。
長年の砂、岩、金属屑、瓦礫、何もかもが沈み、圧縮され、固まりかけた“死の質量”だ。
ドバァァァァァッ!!
土石流が解き放たれた。
「退避ィィ!!」「逃げろォォ!!」
車両が沈む。
履帯が埋まる。
装甲が持ち上がり、横倒しになり、そのまま呑まれる。
戦車ですら“重さ”が武器にならない。重いほど沈む。
砲撃が止まる。
弾幕が散る。
戦術が崩れる。
誰もが理解する――この相手は、戦えない。
だが。
「ヒャッハッハァ!!」
笑い声が響いた。
土石流の轟音に負けない、異様に明るい狂気の声。
ダム中央部。
レバーの横。
ヒャッハーが両腕を広げていた。
「いいねぇ……!!」
恐怖と焦りで歪む戦場を見下ろし、怪物は震えていた。
恐怖ではない。歓喜で。
「やっぱ必要だよなァ!!」
叫ぶ。
「恐怖!!」
「焦り!!」
「理不尽!!」
そして、笑みを深くして言い放つ。
「今俺を倒せば――止められるかもしれねぇぞォ!!」
その一言が、戦場を変質させた。
土石流を見て逃げるはずだった兵が、前へ向き直る。
賊徒が目を血走らせる。
ハンターが歯を食いしばる。
軍閥の残兵が吠える。
止める方法は一つしかない。
“原因”を潰す。
ヒャッハーを倒す。
「突撃ィィィ!!」
誰が叫んだかは分からない。
だが、それで十分だった。
戦車が前進する――泥へ沈みながら。
装甲車が加速する――流れに弾かれながら。
武装バイクが突っ込む――転倒し、投げ出されながら。
恐怖が、怒りへ反転する。
焦りが、狂気へ昇華する。
その中心で。
「ヒャッハー……♪」
ヒャッハーは背後へ歩いた。
レバー横に鎮座する無骨な鉄箱。
あまりに“用意”が良すぎる、嫌な存在。
「さて」
次の瞬間。
ガァン!!
蹴り上げられた鉄箱が宙を舞い、蓋が吹き飛ぶ。
中身が露出する。
火炎放射器。
ミニガン。
予備の硬鞭。
補助タンク。
予備配線。
固定具一式。
戦場が凍り付く。
“まだ増えるのか”という絶望が、喉の奥で固まる。
ヒャッハーは一つずつ拾い上げる。
乱暴ではない。丁寧だ。
まるで儀式。あるいは、戦闘前の支度。
背部へ火炎放射器を固定。
カチリ、とロックが噛み合う音。
ホース接続。圧力確認。
腕部へミニガン装着。
給弾ライン接続。駆動チェック。
腰部へ予備硬鞭懸架。
補助電源リンク。
手際が良すぎる。
遊びではない。
“最終決戦をするための用意”だ。
ヒャッハーが顔を上げる。
満面の笑み。
目が光る。純粋な獣の光だ。
「最終決戦の時間だァ!!」
ドガガガガガガガ!!
ミニガンが咆哮する。
鉛の雨が戦線を削り取る。
兵士が倒れ、車両が穿たれ、装甲が剥がれる。
悲鳴が上がる前に、火炎が走る。
ゴォォォォォォッ!!
熱が空気を奪う。
呼吸が燃える。
視界が揺れる。
そこへ硬鞭が落ちる。
ゴシャァッ!!
装甲が砕ける。
骨が砕ける。
“砕くための武器”が、世界を理解させる。
戦場は完全に地獄へ変わる。
泥流が後方を呑み込み、前方は火炎と弾幕が塞ぐ。
逃げ場が消える。
そして、全員が悟る。
これは戦争ではない。
怪物の祭りだ。
ヒャッハーは叫んでいた。
「ヒャッハッハァ!! 最高じゃねぇかァ!!」