世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉 作:ヒツジ(ラム肉
ヒャッハー!
軍閥代表の息子、渾身の一撃!!
怪物ヒャッハー、胸部貫通!!
だが戦場は歓喜しない!!
誰も勝利を叫ばない!!
なぜなら相手はあのヒャッハー!!
そして今起きたのは討伐ではなく――
因果の成立だからであるゥ!!
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ズドォッ。
その音だけが異様に鮮明だった。
爆発も。
銃撃も。
土石流の轟音すらも。
一瞬、遠のいた。
刃。
ヒャッハーの胸部から突き出た鋼。
時間が停止したかのような静寂。
「……は?」
誰かの間抜けな声。
それは戦場全体の総意だった。
理解が追いつかない。
状況が脳へ届かない。
ヒャッハー。
あの怪物。
戦車を殴り飛ばし、
レーザーを振り回し,
土石流すら娯楽扱いした存在。
それが。
刺された。
しかも。
極めて原始的な手段で。
ただの刺突。
ただの刃。
「な……」
「刺さ……った……?」
銃を構えた兵士の腕が震える。
引き金にかかった指が動かない。
戦場の全員が同じ違和感を抱いていた。
勝った。
そう認識していいはずなのに。
まるでそんな空気ではない。
なぜなら。
刺した張本人ですら凍り付いていたからだ。
軍閥代表の息子。
荒い呼吸。
震える肩。
「はぁ……はぁ……」
確かな手応え。
肉を裂き,
骨を抜け,
心臓近傍へ届いた感触。
だが。
目の前の男は。
倒れない。
ヒャッハーはゆっくりと視線を落とした。
自らの胸部。
突き出た刀身。
滴る血。
「……ヒャッハー……」
小さな呟き。
それだけで戦場の背筋が凍る。
笑っていた。
「……は……はは……」
微かな呼気。
震え。
だがそれは衰弱ではない。
歓喜。
「ははははは……!!」
徐々に大きくなる笑い声。
「ヒャッハッハァ……!!」
狂喜。
純粋な狂喜。
「いい……!」
誰も動けない。
誰も呼吸できない。
怪物は致命傷を受けている。
それは確実な事実。
なのに。
空気は完全に逆だった。
支配されている。
依然として。
ヒャッハーという存在に。
少年は目を見開いていた。
至近距離。
つば競り合いの直後。
押し潰されかけた刃。
その先にあった光景。
「……なんで……」
理解不能。
憎悪。
怒り。
恐怖。
それらとは異なる感情。
違和感。
「……なんで笑ってやがる……」
ヒャッハーは顔を上げた。
血塗れ。
胸部貫通。
それでも。
満面の笑み。
「最高じゃねぇか……!!」
絶叫。
歓喜。
「これだよ……!」
拳を握り締める。
刃が刺さったまま。
まるで気にも留めず。
「これなんだよ……!!」
戦場へ向けた声。
世界へ向けた声。
「暴力の果てじゃねぇ!!」
「火力の差でもねぇ!!」
「技術でもねぇ!!」
ニヤリと嗤う。
「因果だ」
その一言が。
戦場を貫いた。
誰もが直感的に理解する。
この男は。
敗北を認識していない。
むしろ。
歓喜している。
「いい刺しだ……」
息子を見る。
賞賛の眼差し。
「恨み。」
「怒り。」
「積み重ねた時間。」
「全部乗ってやがる。」
息子の歯が震える。
「……黙れ……」
だが声に力はない。
ヒャッハーは心底嬉しそうだった。
「そうだ……」
小さく頷く。
「それでいい……」
血を吐きながら。
致命傷のまま。
「それが人間だ……!!」
その瞬間。
戦場の誰もが悟る。
これは討伐ではない。
勝利でもない。
怪物が。
怪物の理屈で。
世界を肯定している場面だった。