世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉   作:ヒツジ(ラム肉

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第39話(前編) 「世界が刺した日」

ヒャッハー!

軍閥代表の息子、渾身の一撃!!

怪物ヒャッハー、胸部貫通!!

 

だが戦場は歓喜しない!!

誰も勝利を叫ばない!!

 

なぜなら相手はあのヒャッハー!!

そして今起きたのは討伐ではなく――

因果の成立だからであるゥ!!

 

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ズドォッ。

 

その音だけが異様に鮮明だった。

 

爆発も。

 

銃撃も。

 

土石流の轟音すらも。

 

一瞬、遠のいた。

 

刃。

 

ヒャッハーの胸部から突き出た鋼。

 

時間が停止したかのような静寂。

 

「……は?」

 

誰かの間抜けな声。

 

それは戦場全体の総意だった。

 

理解が追いつかない。

 

状況が脳へ届かない。

 

ヒャッハー。

 

あの怪物。

 

戦車を殴り飛ばし、

 

レーザーを振り回し,

 

土石流すら娯楽扱いした存在。

 

それが。

 

刺された。

 

しかも。

 

極めて原始的な手段で。

 

ただの刺突。

 

ただの刃。

 

「な……」

 

「刺さ……った……?」

 

銃を構えた兵士の腕が震える。

 

引き金にかかった指が動かない。

 

戦場の全員が同じ違和感を抱いていた。

 

勝った。

 

そう認識していいはずなのに。

 

まるでそんな空気ではない。

 

なぜなら。

 

刺した張本人ですら凍り付いていたからだ。

 

軍閥代表の息子。

 

荒い呼吸。

 

震える肩。

 

「はぁ……はぁ……」

 

確かな手応え。

 

肉を裂き,

 

骨を抜け,

 

心臓近傍へ届いた感触。

 

だが。

 

目の前の男は。

 

倒れない。

 

ヒャッハーはゆっくりと視線を落とした。

 

自らの胸部。

 

突き出た刀身。

 

滴る血。

 

「……ヒャッハー……」

 

小さな呟き。

 

それだけで戦場の背筋が凍る。

 

笑っていた。

 

「……は……はは……」

 

微かな呼気。

 

震え。

 

だがそれは衰弱ではない。

 

歓喜。

 

「ははははは……!!」

 

徐々に大きくなる笑い声。

 

「ヒャッハッハァ……!!」

 

狂喜。

 

純粋な狂喜。

 

「いい……!」

 

誰も動けない。

 

誰も呼吸できない。

 

怪物は致命傷を受けている。

 

それは確実な事実。

 

なのに。

 

空気は完全に逆だった。

 

支配されている。

 

依然として。

 

ヒャッハーという存在に。

 

少年は目を見開いていた。

 

至近距離。

 

つば競り合いの直後。

 

押し潰されかけた刃。

 

その先にあった光景。

 

「……なんで……」

 

理解不能。

 

憎悪。

 

怒り。

 

恐怖。

 

それらとは異なる感情。

 

違和感。

 

「……なんで笑ってやがる……」

 

ヒャッハーは顔を上げた。

 

血塗れ。

 

胸部貫通。

 

それでも。

 

満面の笑み。

 

「最高じゃねぇか……!!」

 

絶叫。

 

歓喜。

 

「これだよ……!」

 

拳を握り締める。

 

刃が刺さったまま。

 

まるで気にも留めず。

 

「これなんだよ……!!」

 

戦場へ向けた声。

 

世界へ向けた声。

 

「暴力の果てじゃねぇ!!」

 

「火力の差でもねぇ!!」

 

「技術でもねぇ!!」

 

ニヤリと嗤う。

 

「因果だ」

 

その一言が。

 

戦場を貫いた。

 

誰もが直感的に理解する。

 

この男は。

 

敗北を認識していない。

 

むしろ。

 

歓喜している。

 

「いい刺しだ……」

 

息子を見る。

 

賞賛の眼差し。

 

「恨み。」

 

「怒り。」

 

「積み重ねた時間。」

 

「全部乗ってやがる。」

 

息子の歯が震える。

 

「……黙れ……」

 

だが声に力はない。

 

ヒャッハーは心底嬉しそうだった。

 

「そうだ……」

 

小さく頷く。

 

「それでいい……」

 

血を吐きながら。

 

致命傷のまま。

 

「それが人間だ……!!」

 

その瞬間。

 

戦場の誰もが悟る。

 

これは討伐ではない。

 

勝利でもない。

 

怪物が。

 

怪物の理屈で。

 

世界を肯定している場面だった。

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