世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉   作:ヒツジ(ラム肉

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第39話(後編) 「ヒャッハーの意味」

ヒャッハー!

怪物、致命傷!!

だが崩れぬ災害の王!!

 

勝利でも敗北でもない!!

そこにあるのはただ一つ!!

 

己の生き様を貫いた男の――

最終演説であるゥ!!

 

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ヒャッハーは倒れなかった。

 

胸を貫かれながら。

 

血を流しながら。

 

命を削りながら。

 

それでも。

 

ダムの柵へ身体を預け,

 

笑っていた。

 

「……ヒャッハー……」

 

呼気が震える。

 

だがその表情は穏やかだった。

 

今までの狂喜ではない。

 

異様な静けさ。

 

戦場の誰もが言葉を失っていた。

 

撃てない。

 

動けない。

 

理解が拒絶されている。

 

なぜなら。

 

怪物が“終わりの顔”をしていたからだ。

 

「……いい刺しだったぜ……」

 

軍閥代表の息子を見る。

 

その視線に敵意はなかった。

 

純粋な賞賛。

 

「見事な因果だ……」

 

息子の歯が軋む。

 

「……黙れ……」

 

だがヒャッハーは笑う。

 

小さく。

 

満足げに。

 

「いいんだよ」

 

血を吐きながら呟く。

 

「それでいい」

 

そして。

 

ゆっくりと視線を移した。

 

少年へ。

 

「……坊主」

 

その呼びかけに,

 

少年の身体が強張る。

 

だが。

 

ヒャッハーの声音は奇妙なほど優しかった。

 

「長かったなァ……」

 

少年の拳が震える。

 

怒り。

 

憎悪。

 

それらは確かに存在していたはずなのに。

 

今この瞬間。

 

別の感情が混ざっていた。

 

困惑。

 

理解不能。

 

「……何がだ……」

 

ヒャッハーは笑う。

 

「全部だよ」

 

荒野を見渡す。

 

泥流。

 

残骸。

 

焼け焦げた大地。

 

「この世界も」

 

「お前の人生も」

 

「俺のヒャッハーも」

 

風が吹く。

 

血臭と硝煙を巻き上げながら。

 

ヒャッハーは目を細めた。

 

「なぁ坊主」

 

「仇討ちってのはよォ……」

 

少年の視線が揺れる。

 

「スッキリしたか?」

 

その言葉。

 

それは挑発ではなかった。

 

純粋な問い。

 

少年の喉が詰まる。

 

言葉が出ない。

 

なぜなら。

 

答えが分からなかったからだ。

 

憎んでいた。

 

倒すためだけに生きてきた。

 

それなのに。

 

「……俺は……」

 

声が震える。

 

「……俺は……」

 

ヒャッハーは静かに頷いた。

 

「分からねぇよなァ」

 

優しい声音。

 

異様なほど優しい。

 

「当然だ」

 

「人間ってのはそういう生き物だ」

 

血が滴る。

 

だが怪物は笑っていた。

 

「正義だの」

 

「悪だの」

 

「そんなもんは後付けだ」

 

戦場の全員が聞き入っていた。

 

誰も口を挟めない。

 

「大事なのはなァ……」

 

ヒャッハーが指を立てる。

 

「自分で選ぶことだ」

 

「自分で動くことだ」

 

「自分で責任を持つことだ」

 

少年の瞳が揺れる。

 

ヒャッハーは続ける。

 

「世界がどうとかじゃねぇ」

 

「時代がどうとかじゃねぇ」

 

「他人がどうとかじゃねぇ」

 

笑う。

 

静かに。

 

満足げに。

 

「自分の因果を受け入れろ」

 

沈黙。

 

その言葉の重さが戦場へ沈む。

 

「それでいい」

 

「それだけでいい」

 

ヒャッハーの視線が遠くなる。

 

空。

 

荒野。

 

ダム。

 

「それがよォ……」

 

かすれた声。

 

「ヒャッハーって生き方だ」

 

誰も動けない。

 

誰も呼吸できない。

 

怪物の言葉が世界へ染み込んでいく。

 

「俺はなァ……」

 

小さく笑う。

 

「好きに暴れて」

 

「好きに壊して」

 

「好きに笑って」

 

「好きに死ぬ」

 

血に濡れた顔で嗤う。

 

「最高の人生だったぜ……!!」

 

その瞬間。

 

少年の奥歯が軋む。

 

なぜだ。

 

なぜこの男は。

 

ここまで満足げなのか。

 

「……ふざけるな……」

 

かすれた声。

 

ヒャッハーが視線を戻す。

 

「ん?」

 

「ふざけるなよ……!!」

 

少年の叫び。

 

「お前のせいで何人死んだと思ってやがる!!」

 

「何人の人生が壊れたと思ってやがる!!」

 

怒り。

 

憎悪。

 

感情の爆発。

 

だが。

 

ヒャッハーは。

 

笑った。

 

穏やかに。

 

「ああ」

 

あまりにもあっさりと。

 

「ああ、知ってる」

 

戦場が凍る。

 

「だから言ってんだろ」

 

口角を歪める。

 

「悪因悪果だ」

 

「因果応報だ」

 

「全部まとめて俺の人生だ」

 

少年の呼吸が止まる。

 

言葉が出ない。

 

ヒャッハーは続けた。

 

「綺麗に生きる気なんざ最初からねぇ」

 

「英雄になる気もねぇ」

 

「救われる気もねぇ」

 

静かに笑う。

 

「俺は汚物だ」

 

その言葉。

 

それは自嘲ではない。

 

誇り。

 

「暴力の時代でしか生きられない」

 

「そんな世界でしか呼吸できない」

 

「そんな生き物」

 

ニヤリと嗤う。

 

「それが俺だ」

 

風が吹き抜ける。

 

ヒャッハーの身体が揺れる。

 

限界が近い。

 

誰もが理解する。

 

それでも。

 

怪物は最後まで怪物だった。

 

「だがなァ……」

 

少年を見る。

 

優しく。

 

どこか愉快そうに。

 

「お前らは違う」

 

戦場を見る。

 

生き残った者たちを見る。

 

「好きに生きろ」

 

「好きに抗え」

 

「好きに因果を背負え」

 

そして。

 

最後に笑う。

 

「それが人間だろ?」

 

静寂。

 

世界が完全に停止したかのような空気。

 

ヒャッハーはゆっくりと目を閉じた。

 

「俺は……」

 

かすれた声。

 

「最後の時まで……」

 

そして。

 

満面の笑み。

 

「ヒャッハーでいたぞ……!!」

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