世紀末ヒャッハー伝説 〈汚物は消毒だァ!!〉 作:ヒツジ(ラム肉
最終話
「汚物は消毒だ」
ヒャッハー!
怪物、致命傷!!
戦場静止!!
因果、ついに収束!!
暴力の王。
理不尽の化身。
災害指定存在。
世紀末最大の異常――
ヒャッハー、その最期が今ッ!!
ヒャッハーは倒れなかった。
胸を深々と貫かれながら。
ダムの柵へ身体を預けたまま。
血が流れる。
止め処なく。
静かに。
確実に。
命を削り取りながら。
誰の目にも明らかな致命傷。
誰の常識でも説明可能な死の領域。
それでもなお。
怪物は立っていた。
「……ヒャッハー……」
かすれた呼気。
焼けた喉。
崩れかけた肉体。
だが。
その顔には笑みが浮かんでいた。
苦悶ではない。
恐怖でもない。
満足。
純粋な満足。
戦場は凍り付いていた。
誰も動かない。
誰も撃たない。
誰もが理解していた。
この瞬間の意味を。
ひとつの時代の終焉を。
ヒャッハーはゆっくりと視線を巡らせた。
荒野。
破壊の残骸。
焼け焦げた大地。
立ち尽くす人間たち。
「……いい景色だ……」
小さく呟く。
そこに狂気はない。
ただの感慨。
ただの本音。
そして。
不意に。
ヒャッハーは懐へ手を伸ばした。
戦場の緊張が跳ね上がる。
武器か。
爆弾か。
最後の悪あがきか。
だが。
取り出されたのは。
銃でも刃でもなかった。
一冊の古びた本。
煤けた表紙。
擦り切れた角。
油と砂に汚れた頁。
ヒャッハーはそれを無造作に放り投げた。
「受け取れ」
軍閥代表の息子が反射的に掴む。
困惑。
理解不能。
「……これは……?」
ヒャッハーは笑った。
弱々しく。
だが。
妙に満足げに。
「ダムの運用だ」
静かな声。
「補修箇所」
「限界水量」
「設備制御」
「調整手順」
「全部書いてある」
息子の瞳が揺れる。
戦場がざわめく。
ヒャッハーは続けた。
「今の時代……」
ゆっくりと空を見上げる。
白濁した世紀末の空。
「こんなもん」
ニヤリと嗤う。
「ケツを拭く紙にもなりゃしねぇ」
乾いた笑い。
だが。
そこに滲むのは嘲笑ではない。
世界への理解。
どうしようもない現実の肯定。
「だがな」
視線を戻す。
息子へ。
少年へ。
戦場へ。
「使えるもんは使え」
「生き延びろ」
「好きにやれ」
少年の呼吸が止まる。
言葉が突き刺さる。
「それが人間だ」
風が吹く。
血の匂いを巻き上げながら。
ヒャッハーの身体が揺れる。
限界。
誰もが理解する。
そして。
怪物は最後に笑った。
「結局よォ……」
かすれた声。
「この世界は変わらねぇ」
荒野を見渡す。
「暴力の時代でしか生きられねぇ」
静かな断言。
絶対的事実。
「だったらどうする?」
自問。
即答。
「暴れるしかねぇだろ」
笑う。
心底楽しそうに。
「好きにやって」
「壊して」
「奪って」
「ぶっ壊して」
満足げに呟く。
「……気分は最高だったぜ……」
ふらつく脚が前へ出る。
柵から身体を離す。
崩れかけた肉体。
それでも。
最後まで。
怪物は立っていた。
「分かるか?」
静かな問い。
「この時代における――」
一拍。
満面の笑み。
「汚物ってのはなァ……」
血塗れの指で自分を指す。
「俺だぁ……!!」
沈黙。
そして。
爆発する咆哮。
「ヒャッハー!!」
魂の絶叫。
存在証明。
怪物の最終宣言。
「汚物は消毒だァァァ!!」
跳躍。
誰も反応できない。
誰も止められない。
ヒャッハーの身体が宙を舞う。
下方。
唸り狂う土石流。
圧縮された質量の奔流。
怪物は。
その濁流へ身を投じた。
飲み込まれる。
沈む。
消える。
完全に。
姿を消した。
轟音だけが残った。
誰も動かない。
誰も言葉を発せない。
やがて。
誰かが呟く。
「……ヒャッハー……」
それは恐怖でも。
嘲笑でもない。
ただの実感だった。
怪物がいた時代の終わり。
荒野は答えない。
だが。
吹き荒れる風だけが、
どこか楽しげに鳴いていた。
ヒャッハッハァ……