神の血を受け継ぐ者:世界樹の守護者 ( Inheritor of Divine Blood: Guardian of the World Tree) 作:Sol Pendragon
オムニシエント・ピーオーブイ(Omniscient POV)
「私は誰か……? 私は……セイバー(Saber)だ」
アルスの左手の紋章が深紅に輝いた。
「えっと……セイバーさん、どうしてうちにいるの?」とアルスは尋ねた。
「全部説明するのは面倒だ。さっきの質問を考えながらその木に触れろ。それと、英霊(Heroic Spirits)と英霊の座(Throne of Heroes)についても思い浮かべろ」
冷たい声だった。
「それで本当に何か分かるの?」と半信半疑で聞き返す。
ここ数日、彼はワールド・ツリー(World Tree)や、見え始めた奇妙なもの――マナ(mana)を理解しようとしていた。触れても何も起きなかった。だから疑うのは当然だった。
「本当に鈍いな。さっさと触れろ」
視線を感じる気がして、彼は従った。
手が触れた瞬間、今度は違った。金色の光が腕から全身へ広がる。はっきりとした繋がり。感情まで伝わる。
嬉しさ。高揚。
「……僕の両親を殺したの?」
声が震える。だが目は逸らさない。
感情が揺れ、複雑に絡む。悲しみ。
金色の文字が浮かぶ。
『NO』
アルスは気づかぬうちに止めていた息を吐いた。胸が激しく鼓動する。
嘘かもしれない。それでも信じたかった。悪意は感じなかった。
涙がこぼれる。緑の光が包み込み、疲労と重圧を溶かす。
慰められているのだと理解した。
「教えて。あなたは何? 守護者って何をするの?」
『私はワールド・ツリー。この星と全生命は私と繋がっている。守護者の真の役目は、私を他の位相へ安全に繋ぐこと』
「他の位相?」
『時が来れば話す。今は生きよ』
彼は深追いしなかった。
「彼女は何? どうしてここに? 英霊と英霊の座って?」
再び光が弾け、知識が直接流れ込む。英霊、サーヴァント(Servants)、令呪(Command Seals)、英霊の座。
理解は説明なしに完了した。
だが負荷は重い。息が荒くなる。
手を離すと光は消えた。
「……あの時、本当に何もできなかったの?」
沈黙の後、声。
「私が召喚された時、両親は既に死んでいた。生きていたのは君だけだ」
震え、そして深く息を吸う。
彼は頭を下げた。
「命を救ってくれてありがとう。一生忘れない。あなたにも、ワールド・ツリーにも感謝してる」
枝が揺れ、葉が舞う。
「礼はいらない。取引を果たしただけだ」
「それでも、ありがとう」
舌打ち。
「立て。もう行く」
「待って。本当の名前は? 姿は見せられない?」
「必要ない。セイバーでいい。不可視は気に入った」
「じゃあ……ヒーローって呼んでいい?」
長い沈黙。
「私は英雄ではない。英雄は失敗しない。セイバーと呼べ。危険な時は守る。明日来い。最低限の護身術を教える」
声に痛みが滲んだ。
風が止み、気配が消える。
その夜、アルスはさらに多くを知る。魔術、神、まつろわぬ神、カンピオーネ(Campione)。
世界は思っていたより深い。
翌日から剣の基礎訓練が始まった。剣だけは半ば可視化される。
三か月が過ぎる。
スミコの容体は悪化する。
ワールド・ツリーは多量のマナを消費していた。残りは結界維持やセイバーへの供給に必要だった。
やがて恐れていた時が来る。
スミコは二十五年の闘病の末、息を引き取った。
葬儀の後。
「一人でここにいるべきじゃない」とナオ。
ヒロも説得する。
だがアルスは拒む。
部屋へ駆け込み、涙を流す。
そこに小さな少女がいた。
金髪を青いシュシュで結んだ少女。顔に漫画が乗っている。
「ナオさん……?」
少女が目を開ける。
「ママ?」
誤認。
気づき、慌てて鼻を殴る。
「ご、ごめん!」
「君は誰?」
「早坂愛(Hayasaka Ai)。母と来たの」
やがて名を告げ合い、彼女は去る。
その夜、ヒロが部屋に入る。
沈黙。
「どうして僕だけ?」
震える声。
「皆いなくなる」
ヒロは遮らない。
「祖母は強かった。人生を恨まなかった」
静かに語る。
「死者に縋るな。生きろ。前へ進め」
荒いが温かい手が頭に置かれる。
「でも……痛い」
「ああ。痛くて当然だ。それだけ大切だった証だ」
アルスは額をヒロの腕に預け、静かに震える。
外では夜風が揺れる。
見えない場所で、ワールド・ツリーと、一人の女もまた、同じ痛みを抱えて見守っていた。
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