神の血を受け継ぐ者:世界樹の守護者 ( Inheritor of Divine Blood: Guardian of the World Tree) 作:Sol Pendragon
全知視点
夜は神社の境内に静かに降りていた。灯りは消え、月明かりとワールドツリー(World Tree)の淡い輝きだけが空き地を照らしている。
アルス(Ars)は今や十五歳になっていた。背は伸び、肩幅も広がったが、まだ細身だった。両手には包帯が巻かれ、鋭い剣をしっかりと握っている。その向かいに立っているのはセイバー(Saber)だった。
彼女が携えている武器は一本だけ。細く真っ直ぐな刀身で、重い剣というよりはレイピアに近い。動くたびに月光を受けてきらりと光る。それ以外の彼女の姿は、相変わらず見えないままだった。
ここに留まっていた数年の間に、彼女はアルスに本当の名を告げ、何度か不可視を解除したこともあった。それでも彼女はセイバーと呼ばれること、そしてこの姿のままでいることを好んだ。まるで何かを忘れようとしているか、あるいは何かから逃れようとしているかのように。
いつもの訓練の時間だった。
セイバーは何年も彼を鍛えてきたが、それを正式な指導と呼ぶのは正確ではない。彼女は体系的なレッスンよりも実戦を重んじ、経験と圧力によって成長を強いることを信条としていた。
だからこそ、実際の戦闘を通して叩き込んだ。もちろん、力は常に抑え、誤って彼を殺してしまわないよう細心の注意を払っていた。
年月を経て、アルスはマナの基礎を掴み、それで自らの身体を強化する術を身につけていた。
「来い」
アルスが先に動いた。
ティン
踏み込み、剣を振るう。セイバーは手首を返し、その一撃を受け流した。火花が散る。衝撃が手に痺れを走らせる。立て直す前に、彼女の刃が肩を軽く叩いた。
「大振りだ。いつも隙を作る」
アルスは歯を食いしばり、再び攻める。今度はより速く。マナで強化された彼の身体は常人を遥かに超えていたが、セイバーはそもそも普通ではない。低く狙い、角度を変え、彼女を押し込もうとする。
彼女は同じ高さで受け止める。それでも、まるで石を打っているかのようだった。
剣と剣が何度もぶつかり合い、夜に小さな金属音が響く。アルスの呼吸は荒くなり、腕が焼けるように痛む。
距離を詰めようと前へ踏み込む。
セイバーが足を動かした。
腹部を正確に蹴り抜く。
アルスは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。肺から空気が鋭い音と共に吐き出される。
「立て」
彼は転がり、無理やり立ち上がった。
「前のめりになるな」とセイバーは続ける。「攻撃時にバランスが崩れる。背筋を伸ばせ。足元の地面を感じろ」
再び激突する。
今度は彼女の攻撃が脚を狙う。強くはないが、正確だ。彼はよろめいた。
「構えが甘い。逃げる準備をしているような立ち方だ」
アルスは足を広げ、重心を落とす。
良くなった。
だが、まだ足りない。
彼女の刃が喉元一寸で止まる。
「遅い」
彼が剣を持ち上げるのも困難になるまで続いた。シャツは汗で濡れ、手は震えている。
やがてセイバーが一歩退いた。
「終わりだ」
アルスは片膝をつき、荒く息をついた。
「寝ろ。学校がある」
彼は頷いた。
後に布団に横たわる。身体中が痛む。近道を選べばワールドツリー(World Tree)の力で治癒できるが、長年の経験でそのマナが貴重で有限だと知っていた。
それはセイバーの存在維持にも使われている。軽々しく使いたくはない。でなければ、祖母の時と同じことが起こりかねない。
それに、自分の力で耐えたかった。
横になりながら、頭の中で何度も反芻する。すべての失敗、すべての踏み違い。彼女の言葉は肉体の痛みよりも深く刺さる。
気づけば眠りに落ちていた。
朝はすぐにやって来た。
顔を洗い、制服に着替え、外へ出る。神社は何事もなかったかのように静かだった。
鞄を肩にかけ、アルスは学校へ向かった。
同じ頃、イタリアのどこかで、港町の半分が廃墟と化していた。サルヴァトーレ・ドーニ(Salvatore Doni)は一年前にカンピオーネ(Campione)となったばかりの新参者で、最近になってヘレティックゴッド(Heretic God)と対峙した。その余波は壊滅的で、近隣のコッパーブラッククロス(Copper Black Cross)に重い負担がのしかかっていた。
メンバーたちは迅速かつ組織的に動き、破壊を津波の結果に見せかけていく。
新入りの一人は目を見開き、目の当たりにした力の規模を理解できずにいた。他の者たちはそれに気づき、首を振る。
「考えるな。理解できるわけがない。カンピオーネ(Campione)は……人間じゃない。怪物だ」
作業を進めながら、彼らは証拠を消していく。カメラ、目撃者、戦闘を記録し得るものすべてを。何も残してはならない。
そのとき、新入りの視線が廃墟近くに芽吹いた小さな植物に留まった。奇妙だった。かすかに光っているように見える。
やがて異変が起こる。残留していた神性のエネルギー――カンピオーネ(Campione)とヘレティックゴッド(Heretic God)の衝突の余波――が、その植物へと引き寄せられていく。ゆっくりと、緑の葉が金色へと変わり始めた。
興味に駆られ、手を伸ばす。指が触れた瞬間、鋭い電撃が走り、彼は仰向けに吹き飛ばされた。
「どうした?」
「わ、わかりません……」
「仕事に集中しろ。初日でクビになりたいのか?」
「い、いや……見ましたか? あれ……」彼はまだ混乱している。
「何だ? 早く言え。仕事がある」
「あの……植物が……周囲のエネルギーを吸っていて……」声がわずかに震える。
「植物だと? 誰か魔法でも使ったのか?」
「しばらくして金色になって……触ったら、感電して……」
「ヘレティックゴッド(Heretic God)の術かもしれんな。だが、奴の死と共に消えるはずだが」
「どこだ? 指せ」
新入りが前方を指差す。
だが見たときには、植物は消えていた。完全に消失している。誰も他に見ておらず、確認しようとしても何も残っていなかった。
そこへパオロ・ブランデッリ(Paolo Brandelli)が到着する。元コッパーブラッククロス(Copper Black Cross)の大騎士、現在の指導者だ。
鋭い目で辺りを見渡し、即座に表情を曇らせる。何かがおかしい。
ヘレティックゴッド(Heretic God)との戦闘後に残るはずの神性の残滓が、本当に消えている。
その頃、遠く離れたアルスの家では、小さいが異様な出来事が起きていた。
ワールドツリー(World Tree)の巨大な枝の一つが柔らかな金色の光を放ち始める。やがて未熟な小さな緑の果実が実り、その一部はすでに金に染まり始めていた。木のエネルギーが静かに唸る。まるで遠いイタリアの動きを感知しているかのように。
夕暮れ時。太陽は沈みかけ、ヒロ(Hiro)は静かな湖の岸辺に座っていた。水面は澄み、沈む太陽の赤を映して輝いている。
過去を思い出したいとき、彼はここへ来る。かつて元妻にプロポーズした場所だ。今も空間を見つめ、物思いに沈んでいる。
アルスが背後から近づく。ヒロの隠れ場所は前から知っていた。何も言わず、隣に腰を下ろす。
「学校はどうだ? 新しい学校で友達はできたか?」ヒロは前を見たまま、左手の指の間に煙草を挟んでいる。
「悪くない。思ってたほどじゃない」アルスはヒロを見る。「秀知院学園(Shuichi'in Gakuen)はエリート校だから、もっと気取ってると思ってた。家柄で近寄りがたい連中ばかりかと。でもそうでもない。ただのエリート校って感じだ」
ナオ(Nao)が入学を手伝った。普通は幼稚園から高校まで通うが、編入制度も存在する。珍しいが。
「順応できてるなら何よりだ。友達は?」
「何人かは」
二人は夕焼けを眺めながら、取り留めのない話を続ける。
「煙草、やめられないのか?」ヒロが二本目に火をつけたのを見てアルスが言う。「肺にいいことないだろ」
ヒロはヘビースモーカーだ。何を言ってもやめない。妻と息子と離れた後の対処法なのかもしれない。
「わかってるだろ」ヒロは静かに言う。「煙草だけが、俺に残ったものだ」
アルスは言い返したかった。自分がいると言いたかった。だが言えなかった。皆いなくなった。そして、いつかヒロも……。
気づけば夜になっていた。湖畔の灯りも消え、闇が広がる。二人は静かに帰路についた。
帰宅後、アルスは枝に実る小さな果実に気づく。ワールドツリー(World Tree)――いや、彼がそう呼び始めたリア(Leah)の果実を見るのは初めてだった。
毎回ワールドツリー(World Tree)と呼ぶのは長い。リアは以前、飛行機事故の際に彼を救うため別の果実を使ったことがあると話していた。
「またゴールデンフルーツ(Golden Fruit)を作ってるのか?」
小さな緑の果実には、すでに金の筋が浮かんでいる。枝の一部も金色に変わっていた。
年月を経て、アルスとリアの繋がりは深まった。今では触れなくとも、近くにいれば会話できる。
「うん。必要な力を集められる場所に届いた。でも完全に実るにはあと数年かかる」空中に金色の文字が浮かぶ。
「ついにその時か」
ゴールデンフルーツ(Golden Fruit)を再び作れるようになれば、ガーディアン(Guardian)としての役割を説明するとリアは言っていた。
何かしてやりたかった。救われるだけで終わりたくない。
「そうだね。果実が完全に実ったら、ディメンショナルゲート(Dimensional Gate)を開く」
「どこへ?」
驚きはない。セイバーがこの世界の出ではないことも、リアが同様の方法で彼女を呼んだことも知っている。
「私にもわからない。新しい世界だ。マナが最も濃い場所に私の枝を植えてほしい。定期的にマナを供給して、成長させて」
「行き先もわからないのは危険だな」アルスはわずかに笑う。「でもやれる」
「浮かれるな。ゲートを開くにはまだ数年分のマナが必要。それにセイバーは同行できない。最初は一人だけ」
「問題ない」アルスは自信を見せる。「失敗を心配させないくらい強くなる」
「準備なしで行かせない。この果実はあなたのため。完全に実れば、向こうで生き残る力を与える」
セイバーは傍らで見ていた。リアの影響で彼女もすべてを見聞きできる。
未知の世界へ無警戒に飛び込もうとするアルスに業を煮やし、彼を掴んで訓練場へ引きずっていった。恐れと規律を叩き込むために。
そうして時は流れ、三年が過ぎた。アルスは十八歳に。ゴールデンフルーツ(Golden Fruit)は完全に実り、出発の日が来る。
果実を手にする。金色で、林檎より少し大きく、温かい。
「食べればいいのか?」
「うん。全部食べて。残さないで」
言われた通りにする。
「で……どうなる?」食べ終えた彼が言う。「何も変わらない」
「心配いらない。発現には時間がかかる。何らかの能力を得るはず。私にも何になるかはわからない。他の世界で知っているものを基にした」
「待つだけか?」
「うん。でも時間はない」
「どういう意味だ?」
「果実を消費した今、すぐにゲートを開く必要がある。でなければ再び十分なマナを集めるまで待たねばならない。今しかない」
果実を実らせた金の枝が輝く。リアは小さな欠片を折り取り、アルスに渡す。
「最もマナが濃い場所に植えて。成長するまで供給を。そうすればまた話せるし、セイバーも連れていける」
「ここは?」アルスは問う。「まだ何も話してない」
「大丈夫。私が対処する。うまくいけば、長くは離れない」
アルスは剣を取り、セイバーが鍛冶屋から借りてきた小さな鎧を身につける。代金は事前に置いてきた。
日本には今も技を守る職人がいる。消えさせまいと。
必要な金を集めるため、アルスは長年アルバイトを重ねた。許可なく借りる形だが、今はそれでいい。
準備を終え、アルスはゲートをくぐった。
目を開けると、眩い光が視界を満たしていた。
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このフィックは本当に皆さんの応援が必要です。皆さんのサポートを見ることが、私のモチベーションになります。
いよいよダンマチ(DanMachi)編が始まります。カンピオーネ(Campione)の世界で時間を停止させるほうがいいと思いますか?それとも両方の世界を並行して進行させるほうがいいでしょうか?アルスはしばらくすると、それぞれの世界を行き来するようになります。
ぜひフィックについての感想をコメントやレビューで聞かせてください。少なくとも、書くのは本当に大変なんです。
私は筆が遅いですが、楽しんでいただければ嬉しいです。他のフィックもWebNovelでぜひ読んでみてください。そしてディスコードにも参加してください。
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