神の血を受け継ぐ者:世界樹の守護者 ( Inheritor of Divine Blood: Guardian of the World Tree)   作:Sol Pendragon

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(Chapter 6) 6. ブレイブ・ニュー・ワールド(Brave New World) パート1

アルスの視界を眩い光が満たし、鋭い刺激に思わず目を細めた。彼はぎゅっと目を閉じ、片手で顔を覆う。

 

やがて光は徐々に弱まっていった。再び目を開けると、そこは洞窟のような場所だった。

 

天井の裂け目から陽光が差し込み、石壁に淡い光の筋を落としている。

 

外では蝉が鳴き、鳥たちが互いに呼び交わしていた。

 

空気が違う。澄んでいて、どこか張りつめている。彼が慣れ親しんだ重たい汚染の気配がない。日本は他国よりも綺麗だったとはいえ、それでも違いは明白だった。

 

この世界の住人は、少なくとも彼の世界の人類のように環境を破壊してはいないらしい。

 

ゆっくりと息を吸い込み、アルスは洞窟の出口へと歩み出した。

 

その瞬間だった。

 

何の前触れもなく、激痛が頭を貫いた。続いて強烈な吐き気が襲う。彼は前かがみになり、その場で吐き出した。身体が言うことを聞かない。

 

発作は短時間だったが圧倒的だった。全身から力が抜け、足元がふらつく。

 

しばらくして、彼は無理やり身体を起こした。最悪の波は過ぎ去ったが、口内には苦味が残り、呼吸はまだ乱れている。

 

原因はわからない。異世界を渡った負担か。それともゴールデンフルーツ(Golden Fruit)を食べた後の能力の覚醒か。答えは出ない。

 

だが、何かが内側で変わっていた。微かに感じる。新しい何かが自分の中に根付いたような感覚。まだ曖昧だが、自分の能力についてぼんやりとした理解があった。

 

アルスは大きなバックパックを肩から下ろし、水筒を取り出す。

 

口をしっかりとゆすぎ、慎重に数口飲んだ。ゲートをくぐる前に、三日分の食料と水を用意していた。

 

どこに出るかも、食料や水が手に入るかもわからなかったからだ。

 

丈夫な登山用パック、コンパクトなテント、自力で生き延びるための基本的な装備。可能な限り準備は整えてきた。

 

腰には剣。シャツの下、胸元にはリア(Leah)――ワールドツリー(World Tree)の枝の欠片が、首飾りのようにぶら下がっている。

 

持ち物がすべて無事であること、そして頭痛が耐えられる程度に収まったことを確認すると、彼は出口へ向かった。

 

もし吐き気と頭痛がリアのゲート(Gate)を通る代償なら、厄介だが受け入れるしかない。再び使うなら耐える必要がある。

 

だが今は、それよりも先にやるべきことがあった。

 

洞窟を出たアルスを待っていたのはジャングルだった。巨大な木々が四方を囲んでいる。現代人である彼にとって、ジャングルに留まる選択肢はない。

 

毒虫や未知の生物がいるかもしれない。何が潜んでいるか見当もつかない。

 

まずは文明を探すべきだ。まだ日が高い。立ち止まる余裕はない。夜になれば危険は増す。まずは進む方向を決める。

 

鈍い音を立ててバックパックを地面に置き、素早く高い木に登った。

 

頂上から見渡しても、広がるのは果てしない密林のみ。どんな動物や危険種がいるのか想像もつかない。

 

視線を東へ向けたとき、それを見つけた。塔だ。空に届くほど高く、地面より雲に近い。

 

何なのかはわからない。だが普通ではない。その足元には、かろうじて都市らしきものが見える。

 

視力が良いからだけではない。セイバーとリアに鍛えられ、マナで強化しているからでもある。何より、塔も都市も巨大だった。

 

とはいえ距離は遠い。

 

アルスはあの都市を目指すことにした。途中に村や町があれば情報も得られるだろう。

 

位置から判断して、東西に走る小道が見える。まずはそれを辿る。

 

素早く降り、荷物を担ぎ直し、道へ向かって駆け出した。

 

四十分ほど走り、ようやく道に出る。その間、物音のする方向は避け、極力音を立てないようにしていた。

 

密林はどこまでも続く。あの音の主が人間でないことは確信している。

 

こんな場所に人が住むだろうか。遊牧民かもしれないが、それでも可能性は低い。

 

おそらくは危険な獣か、別の何か。

 

そもそも、この世界に人間がいる保証すらない。

 

まったく異なる存在が支配している可能性もある。

 

現代日本で学んだことが一つある。自分より強く、環境に適応した存在の縄張りに軽々しく踏み込むな。

 

危険な密林で生き延びる者は、よそ者に優しくはない。

 

それでも村を見つけるのが最優先だ。

 

そんなことを考えていたとき、予想外のものを目にした。

 

『ゴブリンか?!』

 

それが最初の感想だった。

 

十八年の人生で漫画や小説を大量に読んできた彼には、一目でそれがゴブリンに見えた。

 

多くのゲームや物語では、スライムと並ぶ最下級モンスター。

 

確信はないが、目の前のそれはあまりに一致している。

 

緑色で太った小柄な人型。大きく突き出た目。

 

見ているだけで鳥肌が立つ。よろよろと歩き、動きは鈍い。単独で、アルスの半分ほどの背丈しかない。

 

六フィート一インチの長身、背中に流れる獅子のような白髪。並ぶと子供にしか見えない。

 

まだ気づいていない。

 

好機だ。

 

アルスは静かにバックパックを下ろし、剣を握って近づく。

 

セイバーとの長年の訓練が彼を形作った。マナを覚醒させ、身体に巡らせ、常人を超える力と速度、持久力を得ている。

 

どれほど通用するかはわからないが、素人よりはましだ。剣術の積み重ねもある。

 

それでも胸に忍び寄る緊張は消えない。初めて見る本物の怪物。恐れるのは当然だ。

 

背後まで静かに距離を詰め、剣を突き出す。

 

刃はその頭部を貫いた。

 

怪物は獣じみた悲鳴を上げ、数秒暴れた後に崩れ落ちる。一度痙攣し、動かなくなった。

 

アルスは動かず見つめる。完全に死んだと確信して、ようやく息を吐いた。

 

あっさりだった。

 

拍子抜けするほどだが、証明したいわけではない。

 

未知の世界、未知の森で正面から戦うほど愚かではない。怪我や感染、毒を受ければ終わりだ。長引けば仲間に囲まれるかもしれない。

 

ここがどこかもわからない。

 

この世界で彼は一人だ。

 

無謀に死ぬ気はない。世界を理解し、文明に辿り着いてから試せばいい。

 

少なくとも人間が住めない場所ではなかったことに感謝する。

 

空気が毒だったり、酸素がなければ即死だった。

 

だからマスクも、食料も、水も持ってきた。

 

幸い、簡易マスクは不要だった。

 

首や心臓を狙わず、頭を刺したのには理由がある。生物学がわからない。

 

剣は良い品だ。名工からセイバーが“借りて”きた。

 

だが人の剣は厚い骨を何度も断つ設計ではない。刃こぼれや破損の危険がある。修理も交換もできない世界で壊すわけにはいかない。

 

だから高品質のナイフも複数、きちんとしたサバイバルキットも用意した。出発前にアマゾン(Amazon)で注文したものだ。できる限りの準備はした。

 

多くの生物は脳を破壊されれば死ぬ。だが心臓の位置は種による。

 

人間と違っていたら?

 

脳が最も確実だった。

 

ゴブリンのようなそれは大量の血を流している。アルスはしゃがみ込み観察した。

 

やはり不気味だ。

 

そして不安がよぎる。

 

もしこれがこの世界の普通の住民だったら?

 

今、一般市民を殺したのでは?

 

一瞬その考えが残るが、すぐに振り払う。

 

違う。モンスターだ。

 

見た目も動きも、感じも。

 

それでも刃が肉と骨を断つ感触は脳裏に残る。

 

不快だ。セイバーとの訓練より遥かに現実的。

 

だが厳しい年月が彼を支える。

 

リアが示した道を選んだ時から、覚悟はあった。

 

命を救われ、多くを与えられた。その代償として、これくらい耐えられずしてどうする。

 

日本での猪や鹿の狩猟経験が血と死に慣れさせていた。なければもっと動揺していただろう。

 

さらに別の考えが浮かぶ。

 

モンスターは戦利品を落とす。

 

耳、牙、爪、魔石。

 

死体を調べると、小さな結晶のような石が埋まっているのを見つけた。

 

本当に魔石かもしれない。

 

ナイフで慎重に掘り出す。

 

「おわっ!」

 

結晶を取り出した瞬間、死体は灰となって崩れ消えた。

 

アルスは固まる。

 

牙が一本だけ地面に残る。結晶は手の中。血は一部残っているが、大半は消えていた。

 

謎だ。

 

この世界の生物は皆こうなのか。死ぬと消えて戦利品を残すのか。自分も殺されれば同じか。

 

死体はどこへ行く? マナに変わるのか? それともこの結晶を持つモンスターだけか。

 

疑問が溢れる。

 

だが立ち止まれない。

 

結晶と牙をバックパックに入れ、道を速足で進む。

 

九時間後。

 

ゴブリンのようなものに十三体遭遇。

 

幸い単独か少数。弱い。セイバーとの訓練で問題ない。

 

今や結晶十四個、牙七本、爪二本。

 

必ず落とすわけではないらしい。

 

途中で休憩し、食事と水分補給もした。

 

だが節約する。森を抜けるまでどれほどかかるかわからない。

 

文明に辿り着いても、この世界の通貨がなければ食料を買える保証はない。

 

結晶や素材に価値があることを願う。

 

缶詰や保存食は長持ちするが無駄遣いはしない。必要最低限だけ。

 

その時。

 

声が聞こえた。

 

誰かが話している。

 

塔の方向を意識して進んできたアルスは、素早く道を外れ音の方へ向かう。

 

やがて二人の男が歩きながら話しているのを見つけた。

 

「すみません、ちょっと――」

 

姿を見た瞬間、二人は警戒態勢に入る。一人は槍を構え、もう一人は剣を抜く。

 

「####***#*……」

 

その瞬間、理解した。

 

『しまった。言葉がわからない』

 




[A/N:

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