ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

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第10話:神殺しの残滓、あるいは深淵の警告

 

『豊穣の女主人』の扉を閉め、夜風に吹かれた狩人の背後に、一人の女性が立ちはだかった。

燃えるような朱色の髪を三つ編みにし、細めた瞳でこちらを覗き込む小柄な女性。

『ロキ・ファミリア』の主神、ロキ。

「ちょっと待ちぃな、お兄さん。うちのベートをあんなボロ雑巾にしてくれて、タダで帰れる思てへんやろ?」

背後には酒場から這い出してきた団員たちや、主神を護衛するように立つアイズたちが控えている。狩人は足を止めず、ただ仕込み杖をカツンと鳴らした。

「……退け。神よ。これ以上、私を不快にさせるな。私は今から、宿に戻って眠るだけだ」

「はっ、えらい自信やな! どこの誰とも知らん不審者が、オラリオの王者に牙剥いたんや。どこの神さんに飼われとるんか知らんけど、それ相応の落とし前はつけてもらわんとなぁ?」

ロキが不敵な笑みを浮かべ、狩人の肩に手をかけようとした、その時だった。

「………………」

狩人が、ゆっくりと狩人の帽子を脱ぎ、その瞳でロキを真っ向から射抜いた。

その瞳の奥には、オラリオの神々が数万年かけても理解し得ない「真理」の深淵が渦巻いていた。

「——啓蒙を、分かち合おう」

刹那。ロキの視界からオラリオの街並みが消え去った。

血のように赤い月。大地を埋め尽くす死体の山。そして、それらを「餌」として屠り続ける、人ならざる巨大な『上位者』の影。

「ッ……カ、ハッ……あ、あああああ……ッ!!!」

ロキは悲鳴すら上げられず、その場に膝を突いた。廃人こそ免れたものの、激しく嘔吐し、自らの腕を抱きしめてガタガタと震えが止まらない。

「ロキ!」

アイズが剣を抜き、狩人へと鋭い視線を向ける。だが、狩人がただ一歩、前へ踏み出しただけで、剣姫の身体は生物的な本能によって硬直した。

(——動けない。……死ぬ。今、この人が一歩動けば、私は『私』でなくなる)

狩人は、震えるロキを冷酷な瞳で見下ろし、極めて低く、冷淡な声で告げた。

「……神よ。お前たちが戯れている『退屈な不滅』など、この深淵の前では砂粒に等しい。二度と、私の前に立つな。次は、その神核を直接『狩り』にいく」

狩人は帽子を被り直し、杖の石突で床を強く叩いた。その音と共に、ロキを襲っていた悪夢の残影が霧散する。

「カツン、カツン……」

一定のリズムを刻みながら、安宿へと向かって夜の闇に消えていく背中。

アイズは剣を握ったまま、脂汗を流して蹲るロキを支えるのが精一杯だった。

「ロキ……大丈夫? 今の、何……?」

アイズの問いに、ロキはしばらく言葉が出ず、ただ震える手で自分の口元を拭った。

「……アイズ。あいつには……あいつにだけは、絶対に近寄ったらあかん……。あんなん、恩恵(ステイタス)がどうこう言うレベルの存在やない。どこの神さんの眷族かも分からんけど……いや、あれはそもそも『誰かに仕える』ようなタマやないわ……っ」

ガチガタと歯の根が合わないまま、ロキは遠ざかる帽子を見つめて呟いた。

「あれは……神様を『獲物』として見とる。あんなもん……オラリオに置いといたら、いつか世界そのものが『狩られる』で……」

翌朝。

エイナに教えられた安宿の一室。

扉を叩いたベル・クラネルを、狩人は一顧だにせず突き放した。

「……強くなりたい、などという安っぽい感傷を私にぶつけるな。生きたければ、勝手に這い蹲っていろ。……失せろ。これ以上、私の時間を奪うな」

バタン、と無慈悲に閉まる扉。

ベルは廊下で呆然と立ち尽くす。

狩人にとってベルは、ただの「死に急ぐ個体」に過ぎなかった。

これで矛盾は解消されたでしょうか。ロキは「得体の知れない化け物」に遭遇した恐怖に震えている状態です。

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