ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

12 / 29
第12話:八つ当たりの咆哮と、不招な剣姫

 

第15階層、大樹の迷宮。

「……チッ、……クソッ」

暗い森のあちこちで、ミノタウロスの悲鳴と、肉が裂ける不気味な音が響き渡っていた。

狩人はかつてないほどに不機嫌だった。

原因は、先ほどギルドの裏部屋で一時間、エイナから浴びせられた「烈火の如きお説教」である。

悪夢を終わらせた狩人の双肩が、ハーフエルフの少女の正論を思い出すたびに、目に見えて力なく落ち込む。

「……私は、ただ、羽虫を払っただけだ。……何故あそこまで言われねばならぬ……。納得がいかん……」

その鬱憤を晴らすかのように、仕込み杖の蛇腹刃が唸りを上げ、ミノタウロスの巨体を次々と細切れに変えていく。魔石を拾い集める使者たちも、主人のあまりの荒れっぷりに、心なしか「クケ……」と顔色を伺うように縮こまっていた。

そこへ、一筋の鋭い風が吹き抜ける。

銀色の髪をなびかせ、アイズ・ヴァレンシュタインが巨木の影から姿を現した。

「……見つけた」

アイズは剣を抜き、真っ直ぐに狩人を見据える。昨夜のロキの怯えよう、そして今朝のギルドで見せた「叱られて項垂れる姿」とのあまりのギャップ。彼女はその正体を確かめずにはいられなかった。

「……あなたと、手合わせをしたい。昨日の、あの感覚……あれが何なのか、教えて」

だが、狩人は振り返りもせず、血に濡れた杖を無造作に振り払った。

「……帰れ」

「……え?」

「帰れと言っている、羽虫。……お前と関われば、またあのお節介な導き手(エイナ)の顔が浮かぶ。……これ以上、私を説教の火種に巻き込むな」

狩人は狩人の帽子を深く被り直し、心底不快そうに吐き捨てた。

彼にとって、アイズは「最強の剣姫」などではない。「関わるとエイナにめちゃくちゃ怒られる、最大級の厄介事」でしかなかった。

「私は嫌いなのだ。神の恩恵(ステイタス)という甘い毒に浸かり、自分を強者だと錯覚している人形どもが。……そして何より、あのお説教の時間は、悪夢よりも精神を削る」

「……ステイタスが、毒……?」

アイズが戸惑い、一歩踏み出す。その瞬間、狩人の周囲の空気が一変した。

項垂れていた気配が消え、底知れぬ「殺意」の渦がアイズを包み込む。

「……聞こえなかったのか。これ以上近寄るなら、エイナにバレぬよう、ここでその首を狩ってから埋めるぞ。……神の人形が、私に触れるな」

冷徹な言葉と共に、仕込み杖がカシャリと駆動音を鳴らす。

アイズは本能的に剣を構えた。昨夜の絶望的な恐怖とは違う。目の前の男は今、純粋に「邪魔なものを排除する」ための、冷たく研ぎ澄まされた刃となっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。