ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ) 作:もいもい130
第15階層、大樹の迷宮。
「……チッ、……クソッ」
暗い森のあちこちで、ミノタウロスの悲鳴と、肉が裂ける不気味な音が響き渡っていた。
狩人はかつてないほどに不機嫌だった。
原因は、先ほどギルドの裏部屋で一時間、エイナから浴びせられた「烈火の如きお説教」である。
悪夢を終わらせた狩人の双肩が、ハーフエルフの少女の正論を思い出すたびに、目に見えて力なく落ち込む。
「……私は、ただ、羽虫を払っただけだ。……何故あそこまで言われねばならぬ……。納得がいかん……」
その鬱憤を晴らすかのように、仕込み杖の蛇腹刃が唸りを上げ、ミノタウロスの巨体を次々と細切れに変えていく。魔石を拾い集める使者たちも、主人のあまりの荒れっぷりに、心なしか「クケ……」と顔色を伺うように縮こまっていた。
そこへ、一筋の鋭い風が吹き抜ける。
銀色の髪をなびかせ、アイズ・ヴァレンシュタインが巨木の影から姿を現した。
「……見つけた」
アイズは剣を抜き、真っ直ぐに狩人を見据える。昨夜のロキの怯えよう、そして今朝のギルドで見せた「叱られて項垂れる姿」とのあまりのギャップ。彼女はその正体を確かめずにはいられなかった。
「……あなたと、手合わせをしたい。昨日の、あの感覚……あれが何なのか、教えて」
だが、狩人は振り返りもせず、血に濡れた杖を無造作に振り払った。
「……帰れ」
「……え?」
「帰れと言っている、羽虫。……お前と関われば、またあのお節介な導き手(エイナ)の顔が浮かぶ。……これ以上、私を説教の火種に巻き込むな」
狩人は狩人の帽子を深く被り直し、心底不快そうに吐き捨てた。
彼にとって、アイズは「最強の剣姫」などではない。「関わるとエイナにめちゃくちゃ怒られる、最大級の厄介事」でしかなかった。
「私は嫌いなのだ。神の恩恵(ステイタス)という甘い毒に浸かり、自分を強者だと錯覚している人形どもが。……そして何より、あのお説教の時間は、悪夢よりも精神を削る」
「……ステイタスが、毒……?」
アイズが戸惑い、一歩踏み出す。その瞬間、狩人の周囲の空気が一変した。
項垂れていた気配が消え、底知れぬ「殺意」の渦がアイズを包み込む。
「……聞こえなかったのか。これ以上近寄るなら、エイナにバレぬよう、ここでその首を狩ってから埋めるぞ。……神の人形が、私に触れるな」
冷徹な言葉と共に、仕込み杖がカシャリと駆動音を鳴らす。
アイズは本能的に剣を構えた。昨夜の絶望的な恐怖とは違う。目の前の男は今、純粋に「邪魔なものを排除する」ための、冷たく研ぎ澄まされた刃となっていた。