ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

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第13話:悪夢の拳、あるいは静寂の制裁

 

「……待って。私は、ただ——」

アイズが風を纏い、一閃を放つ。その剣筋は、神の恩恵(ステイタス)によって極限まで高められた速度と、彼女自身の天賦の才が結実したものだ。

だが、狩人は杖を振るわなかった。

彼が軽く手をかざすと、仕込み杖は淡い光の粒子と共に、彼が抱える「血の遺志」の澱みの中へと吸い込まれ、姿を消した。

(消えた……!? 魔法の収納袋(アイテムボックス)もなしに……!)

アイズの瞳が驚愕に揺れる。

その隙を、狩人は逃さない。剣を振るうための「間合い」を完璧に潰す一歩。羽毛が落ちるような静けさで、彼は死の圏内へ潜り込んだ。

「……神の人形よ。その力、あまりに騒がしい。……少し静かにしろ」

狩人の両手が、脱力したままアイズの懐へ滑り込んだ。

指先を丸めた、狂気の徴たるあの構え。

かつて悪夢の主が、自らの頭に籠を被り、狂乱の最中に繰り出した「メンシス神拳」

ドッ、と鈍い音が森の静寂に溶けた。

「……っ、が……あ……!?」

アイズの肺から空気が強制的に排出される。

ステイタスの防御を透過し、直接内臓の震動を狂わせるような不可解な打撃。

痛みというよりは、全身の神経が「逆流」するようなおぞましい不快感。

狩人は止まらない。左右の掌を交互に、ぺちぺちと、しかし確実にアイズの急所へと叩き込んでいく。

その連撃と共に、狩人の口から、かつて悪夢の主が上げた歓喜の咆哮が、冷淡な囁きとなって漏れ出す。

「……素晴らしい、マジェスティック! 悪夢に舞う人形よ、これこそが我らが求めた『瞳』の欠片か?」

「あ……が、な……に、これ……」

「……走れ、走れ。出口のない迷宮を。ステイタスなどという泥にまみれ、夜の終わりを夢見るがいい。……だが、夜は長く、そして決して明けないのだ」

一見すれば無様な連撃。だが、一撃ごとにアイズの「気」の巡りは遮断され、ステイタスがもたらす超常的な身体能力はバラバラに解体されていく。

剣を握る力が抜け、アイズはその場に膝を突いた。

傷はない。出血もない。だが、立つことすらままならないほどの精神的な「不快な悪夢」が体内を駆け巡っている。

「……これなら、あのお節介な導き手(エイナ)に言い訳も立つ。傷一つ付けていないのだからな。……ただ、少しばかり『素晴らしい(マジェスティック)』真実を分かち合っただけだ」

狩人は遺志の中から狩人の帽子を(あるいは深く被り直し)、這いつくばるアイズを冷淡に見下ろした。

「ステイタスという殻を脱ぎ捨ててから来い、人形。お前たちの戦いは、ただの踊りだ。……素晴らしい(マジェスティック)ほどに、無意味なな」

狩人は、使者たちがいつの間にか拾い集めていた魔石の山を遺志の底へ沈めると、そのまま森の奥へと消えた。

残されたのは、外傷一つないまま、ただ「世界が歪んで見える」ほどの残響に震える最強の剣姫だけだった。

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