ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

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第19話:オラリオを揺るがす「愛の咆哮」

 

翌朝。第18階層リヴィラの街に、一晩で熟成された「悪夢の如き噂」が爆発的に広がっていた。

「聞いたか? あの帽子男、アイズと密会してただけじゃねえ。ギルドの受付嬢に立体映像越しにマジェスティックな愛の告白をして、三時間も悶絶してたらしいぞ」

「剣姫を侍らせながら受付嬢に愛を叫ぶ……まさに外道の極みだな」

噂は伝言石の速度を越え、地上へと到達。

そしてその日、狩人が潜伏する安宿の前に、オラリオの二大勢力を中心とした神々が「神威」を撒き散らしながら集結していた。

「おらぁぁぁ! 出てこんかい、その『まじぇすてぃっく』とやらの変質者ぁ!!」

「私のベルくんにトラウマを植え付け、アイズにまで手を出した不届き者はどこのどいつだぁー!!」

ロキとヘスティア。普段は犬猿の仲であるはずの二柱が、共通の「憤怒」を前に共闘体制を敷き、宿屋の扉を蹴破らん勢いで詰め寄っていた。

宿屋の一室。

狩人は、ベッドの上で膝を抱えて丸まっていた。

「…………もう、嫌だ」

昨夜の三時間に及ぶエイナの遠隔説教により、彼の精神は枯渇し、今はただの「傷ついた中年男性」のオーラを放っていた。

だが、その絶望をよそに、影の中から這い出した使者たちは、かつてないほど活発に動き回っていた。

彼らは無言のまま、しかし一糸乱れぬ動きでエイナの説教ポーズ(指差し)を模倣し、影の中で何度も「拝む」ような仕草を繰り返している。一人の使者は、どこから持ってきたのか小さな木の棒を掲げ、エイナの指先を再現するように、虚空を熱心に指し示していた。

「……やめろ。……その動きはやめるのだ。……思い出して、また頭痛がしてきた……」

狩人は遺志の中から仕込み杖を(もはや自暴自棄ぎみに)引き出した。

外からは「まじぇすてぃっく! 出てこい!」「アイズに変な祈りを教え込むな!」という怒号が地鳴りのように響いている。

もはや宿屋暮らしどころではない。

ここに留まれば、神々の嫉妬とエイナの追加説教という二重の悪夢に飲み込まれるのは明白だった。

「……引っ越しだ。ダンジョンの深層にでも、拠点を構えてやる……」

狩人は立ち上がり、帽子をひったくるように奪い返すと、深く被り直した。

窓から外を見ると、そこには血走った眼をしたロキと、紐を揺らしながら激昂するヘスティアの姿。

「……素晴らしい(マジェスティック)な。……どいつもこいつも、狩られたいと見える」

狩人が窓枠に足をかけた瞬間、背後の影から使者たちが一斉に飛び出し、主人の後に続いた。彼らは無言で、しかし全力で「マジェスティック」なポーズを崩さないまま、空中を滑るように窓の外へ消えていく。

こうして、宿屋を追われた孤高の狩人と、無言で狂気を体現する使者たちによる、オラリオを舞台にした「全力の逃走劇」が幕を開ける。

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