ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ) 作:もいもい130
ギルド地下資料室。そこは窓もなく、ただ古びた紙の匂いとエイナの執念だけが充満する、狩人にとっての新たな「悪夢」であった。
「……ぐ、ぬ……『わ』……『た』……『し』……」
狩人は狩人の帽子を目深に被り、震える手でペンを走らせていた。その横では、エイナが監視の目を光らせ、少しでも手が止まれば「ほら、次!」と鋭い催促が飛んでくる。
そこへ、申し訳なさそうに扉を叩く音がした。
「あ、あの……狩人さん。エイナさん……」
ベル・クラネルだった。昨日の「鬼ごっこ」と「マジェスティックな誤解」を深く反省した彼は、せめてものお詫びにと、勉強に役立ちそうな本を数冊抱えていた。
「これ、宿屋に落ちてた本なんですけど……。読み書きの練習に使ってください! 昨日は本当に、変な勘違いをして逃げ回ってすみませんでした!」
「……少年。その心遣いだけは、受け取っておこう」
狩人は死にかけの魚のような目で本を受け取った。ベルが去った後、エイナがその一冊を手に取り、満足げに頷く。
「ちょうどいいですね。内容が難しすぎず、感情豊かな表現が多い本です。さあ、この中から好きな一節を選んで書き写してください」
だが、ベルが持ってきたその本は、よりによってオラリオで大人気の**『情熱の愛の詩集:君の瞳は魔石の輝き』**であった。
一時間後。
「……できました。導き手よ。これで……外へ出してもらえるか」
狩人は魂の抜けた顔で、一枚の紙をエイナに差し出した。そこには、練習の成果(と使者たちの不必要な協力)によって、驚くほど力強く、そして「読みやすく」なった文字が並んでいた。
エイナはそれを受け取り、一読した。……そして、その場で石のように固まった。
『 ああ、麗しき導き手よ。
お前の瞳は、私を狂わせる深淵。
今すぐその唇で、私の孤独(あくむ)を塞いでくれ。
マジェスティック。お前こそが私の宇宙だ。 』
「………………」
資料室に、かつてない静寂が訪れる。
影の底では、使者たちが「主様の想いが完璧に伝わった!」と確信し、影絵でハートマークを作ってクケケと小刻みに揺れている。
「……狩人……さん」
「……何だ。正しく書けているはずだ」
「出 直 し で す。」
「な……ッ!?」
「こんな破廉恥な文章、どこで覚えたんですか! ベルくんに変な本を渡さないよう言っておきます! そしてあなたは、反省文をさらに追加で五十枚! 終わるまで食事抜きです!!」
「……素晴らしい(マジェスティック)……! 文字とは、これほどまでに人を破滅させる力を持っていたのか……!」
狩人は慟哭し、再び机に突っ伏した。
ヤーナムの獣を狩る方が、一億倍も容易かった。
一方その頃、ベルは廊下で「喜んでくれたかなぁ」と無邪気に微笑んでおり、アイズは資料室の扉の外で「唇で……塞ぐ……? 新しい技……?」と、また一つ危険な「啓蒙」を高めていた。