ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

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第27話:謝罪の儀式、あるいはメンシスの啓蒙演説

 

オラリオの広場は、かつてない緊張感に包まれていた。

事の始まりは、ベルが落としたあの一通の「恋文(メンシス流)」である。それを拾い上げたロキとヘスティアが、文中の『私の捕食者』という一節を巡って、「これはウチのアイズのことや!」「いいえ! ベルくんの守護神である僕のことだよ!」と、神威を激突させる大喧嘩に発展してしまったのだ。

「……いいですか、狩人。今日こそ、あなたのその『マジェスティックな脳内』を叩き直します」

エイナ・チュールは、もはや怒りを通り越して静かなる「裁き」のオーラを纏っていた。

彼女に引きずられるようにして広場へ連行された狩人は、狩人の帽子を深く被り、まるで処刑台へ向かう罪人のような足取りであった。

その背後では、使者たちが無言で、しかし恭しくエイナの定規を捧げ持ち、影の中で「これから素晴らしい説教(典礼)が始まるぞ」と、小刻みに震えながら期待に満ちたクケケという喉鳴らしを響かせている。

「いたぞ! その変な手紙を書いた元凶、マジェスティック男や!」

「ベルくんにあんな破廉恥な、しかも血生臭い文章を教え込んだのはお前かぁー!」

ロキとヘスティアが、同時に狩人の胸ぐら(とコートの襟)に掴みかかった。

だが、今の狩人は、連日のエイナによる教育と、メンシス学派の陰謀という妄執により、逆に一本の「芯」が通ってしまっていた。

狩人はゆっくりと顔を上げ、神々の瞳を真っ直ぐに見据えた。

「……神々よ。お前たちの争いは、あまりに矮小だ。……愛とは、そのような『所有』の奪い合いではない」

「あぁん!? 何やと、この変質者が!」

「……愛とは、メンシスの如き狂気。自らの脳を焼き、宇宙の深淵を覗き込み、そのおぞましさに狂喜しながらも、ただ一人の『捕食者』に自らを捧げる……血塗られた供儀なのだ」

狩人の声が、広場中に朗々と響き渡る。

使者たちが影の中からワラワラと這い出し、神々の足元で一斉に「マジェスティック・ポーズ」を決めた。

「少年が書いたあの一節……『胸を裂き、瞳を埋め込め』。これこそが、メンシス学派が数千年の果てに辿り着いた、究極の親愛の形! ステイタスという殻を脱ぎ捨て、魂の肉を喰らい合う……素晴らしい、マジェスティック!!」

「……あ、あの人……またやってる……」

遠巻きに見ていたベルが、ガタガタと震えながらアイズの影に隠れた。アイズはアイズで、「胸を……裂く……? ……難しい。……まずは、服から……?」と、またしても危険な解釈を深めている。

「お前たちの愛は、ただの戯れだ! 獣の如き渇望なき愛など、ヤーナムの泥に等しいッ! さあ、私を、そしてこの少年を、深淵なるお勉強(あくむ)へと誘うがいいッ!!」

狩人が両手を天に掲げ、歓喜の咆哮を上げたその瞬間。

パァァァァァァァンッ!!

エイナの特注定規が、狩人の後頭部をマッハの速度で捉えた。

それはもはや物理現象というよりは、神の雷(いかずち)であった。

「熱 弁 し て る 暇 が あ っ た ら 謝 り な さ い ッ ! !」

エイナの定規が、摩擦熱で赤く発光している。

「何を勝手に、ベルくんをメンシスとかいう怪しい学派に勧誘してるんですか! それにロキ様、ヘスティア様! この人は今、重度の『お勉強疲れ』で頭がマジェスティックになっているだけです! 真に受けないでください!」

「……ぐ、ぬ……導き手よ……。……今の打撃、実に……マジェスティックな……衝撃……」

狩人は白目を剥きながら、その場に力なく崩れ落ちた。

使者たちは、主人の敗北(あるいはエイナへの服従)を見て、「主様がまたしても聖母に浄化された!」と、無言で床をぺちぺちと叩き、歓喜の舞を捧げている。

「……今日から反省文、二百枚追加です。……ロキ様たちへの謝罪文も、一文字でも間違えたら即、定規ですよ?」

「……あ……ああ……。……素晴らしい……。……文字が、血に見える……」

狩人はエイナに襟首を掴まれ、再びギルドの「檻」へと引きずられていった。

神々はその圧倒的な「教育の暴力」の前に戦意を喪失し、ベルは「もう二度と代筆は頼まない」と心に誓った。

オラリオの広場に残されたのは、使者たちが影の中に描き残した、巨大な『 ま じ ぇ す て ぃ っ く 』の文字だけであった。

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