ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

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第5話:理想値の輝きと、密入の代償

 

ダンジョン第一階層。

『蒼の秘薬』で門番の目を欺き、物理的な掟を無視して潜り込んだ狩人にとって、ここはもはや「狩り場」ですらなかった。

右手には常に仕込み杖が握られている。

正面から襲いかかるゴブリンに対し、彼は杖の先端を変形させぬまま、その鳩尾へ正確に突き入れた。石突きの衝撃で魔物の肺が潰れ、動きが止まる。

「カシャッ!」

鋭い機械音。

杖を振り抜くと同時に、銀の節々が分離し、内部の仕込み刃が連なって伸びる。変形状態。

刃の連なりが異様な軌道を描き、死角から迫るコボルトを瞬時に切り刻んだ。

狩人は一息に杖を元の形態へと戻し、コン、と床を叩いた。

(やはり、遺志が薄すぎる)

狩人が魔石に触れると、それは光の粒子となって彼の内側へ消えた。足元では、姿を現した「使者」たちが魔石を回収しては主人の影へと捧げている。

様子見は十分だ。狩人は身を翻し、再び秘薬の霧を纏って、何も気づかぬ門番の横をすり抜けて地上へと戻った。

ギルドのカウンター。

「……換金を頼む」

聞き慣れた低い声に顔を上げたエイナ・チュールは、数秒間、彫像のように固まった。

「か、狩人さん……? どうして、そこにいるんですか?」

「……戻っただけだ」

狩人が無造作に手を振ると、カウンターの上に数十の魔石が「ジャラジャラ」と実体化した。それを見たエイナの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

「…………ちょっと。ちょっと待ってください。裏の部屋へ来なさい。今すぐに」

エイナは震える手で「受付休止」の札を立てると、狩人の腕を掴んで、ギルド奥の応接室へと引きずり込んだ。

「……何の真似だ、導き手よ」

「それはこっちのセリフです! あなた、どうやって入ったんですか!? 門番さんは!? ファミリアの登録も、恩恵(ステイタス)もまだなんですよ!? 密入です、完全な不法侵入です!」

部屋の扉を閉めるなり、エイナの「お話(お説教)」が爆発した。

「いいですか!? オラリオにおいて、ギルドの許可なくダンジョンへ入るのは重大な規約違反なんです! もし見つかったら、あなたは即座に追放、最悪の場合は投獄されてもおかしくないんですよ! 門番さんに怪我はさせてないでしょうね!?」

「……羽虫がいたが、霧と共に通り過ぎただけだ。傷一つ付けていない」

「霧って何ですか!? そもそも、恩恵もない一般人が一人で潜るなんて、自殺志願者と一緒です! 私がどれだけ心配したか……!」

エイナは机をバンバンと叩きながら詰め寄る。狩人は狩人の帽子を深く被り直し、気まずそうに視線を逸らした。

幾千幾万の夜を越え、数多の神を屠ってきた男が、一人のハーフエルフの少女の正論に完全に気圧されている。

「……もう、本当に……。この魔石、どう処理すればいいのよ……。あ、待って、何ですかこの黄金の石は!?」

エイナの目が、魔石の中に混じっていた「黄金の血晶石」を捉えた。

「……使者が磨いていた。金になるなら、何でもいい」

「何でもよくありません! こんなの、ギルドの鑑定課に回したら大騒ぎになります……! 密入に、謎の高純度結晶……。あなた、私を失業させる気ですか!?」

エイナは頭を抱えて椅子に崩れ落ちた。

だが、その瞳には怒りだけでなく、呆れと、そして「とんでもない人に関わってしまった」という、妙な高揚感すら混じっていた。

「……いいですか。この魔石は、私が『裏のルート』でなんとか換金してきます。血晶石、でしたっけ? これは絶対に他所で見せちゃダメですよ。没収します!」

エイナはそう言い放つと、血晶石を大切そうに(そして震える手で)懐にしまった。

「今日起きたことは、私とあなたの秘密です。いいですね? その代わり、明日こそはちゃんとファミリアを探すこと! 約束ですよ!」

「…………よかろう」

狩人は小さく頷いた。

厳しいお説教。だが、その根底にあるのが自分への純粋な危惧であることを、彼は「啓蒙」など使わずとも理解していた。

窓の外では、ギルドの吹き抜けの影から、その「魂の輝き」に魅了された銀色の女神が、蕩けるような視線を階下の異邦人へと注いでいた。

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