ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

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第6話:銀の輝きと、深淵の啓蒙

 

エイナが必死に裏で書類を偽造し、狩人の「密入」を揉み消そうと奔走している、その時だった。

換金を待つ狩人がギルドのロビーに佇んでいると、不自然なほどに周囲の喧騒が遠のいた。

人の波が割れ、そこへ一人の女性が歩み寄ってくる。

銀色の髪。慈愛と残酷さが同居したような、完璧なまでの美貌。

その場にいる冒険者たちが、種族を問わず魂を奪われたように立ち尽くす中、狩人だけは不快げに眉をひそめた。

美の女神、フレイヤ。

彼女は、自らの『魂を視る目』が捉えた、かつてないほどに「透き通った死の輝き」の正体を確認せずにはいられなかった。

「……ねぇ、貴方。そんなに深い孤独を纏って、どこへ行くつもりなの?」

フレイヤは甘美な声を響かせ、狩人の前に立った。

彼女の目は、今まさに狩人の内側……その魂の深淵を暴こうと、全霊の「視線」を注ぎ込む。フレイヤにとって、下界の住人の魂を愛でることは、唯一無二の愉悦だ。

だが。

「…………覗くな」

狩人が、静かに狩人の帽子の縁を直した。

その声は極めて低く、冷淡だった。土足で自分の領域に踏み込もうとする「神」という存在への、生理的な拒絶。

だが、フレイヤは止まらなかった。

彼女の瞳が、狩人の魂の「底」に触れた。

「ッ……ああ、あ…………っ!?」

フレイヤの身体が、激しくのたうつように震えた。

彼女が視たのは、美しい輝きなどではなかった。

幾千幾万の夜。

月が赤く染まり、大地が血を啜る絶望の輪廻。

名もなき神々が肉の塊へと還元され、宇宙の真理が、おぞましい触手と瞳の群れとなって脳髄を直接掻き回す光景。

それは、美の女神が数万年かけて積み上げてきた「価値観」を、一瞬で塵へと変えるほどの凄絶な『啓蒙』の濁流だった。

「……はっ、あ、あぁ……っ!」

フレイヤは、その場に膝を突いた。

彼女の瞳からは、理解を超えた情報量に焼き切られたかのように、涙が溢れ出す。

魂を視るはずの女神の目が、初めて「視てはいけないもの」に触れ、そのあまりの美しさと悍ましさに、彼女の神核が悲鳴を上げていた。

「なに……? なんなの、その……、その恐ろしくて、愛おしい真実(ひかり)は……っ!」

フレイヤは肩で息をしながら、自分を見下ろす狩人を見上げた。

恐怖。絶頂。そして、狂おしいほどの渇望。

本来なら発狂していてもおかしくない衝撃を受けながら、それでも彼女は「美」の神として、その深淵に魅せられてしまった。

狩人は、震える女神を冷徹な瞳で見下ろし、手に持った仕込み杖をカツン、と石畳に鳴らした。

「……導き手はどこだ。この羽虫は、あまりに眩しすぎる」

「羽虫……っ。ふふ、私をそのように呼んだのは、貴方が初めてよ……」

フレイヤは、崩れ落ちた姿勢のまま、恍惚とした笑みを浮かべた。

彼女の目には今も、狩人の背後に広がる「宇宙的悪夢」の残像が焼き付いている。

「ねぇ……貴方。私のファミリアに来ない? 貴方のその……『悪夢』を、もっと近くで愛でさせて……」

「……断る」

狩人は一瞥もくれず、換金を終えて戻ってきたエイナの方へと歩き出した。

「ちょ、狩人さん!? フ、フレイヤ様に何をしたんですか!? というか、何で女神様が床に転がってるのー!?」

エイナの絶叫が再びギルドに響き渡る。

フレイヤは、遠ざかる狩人の背中を見つめながら、自分の震える指先をそっと唇に当てた。

「……あんな魂、手に入れないわけにはいかないわ。例え……私が壊れてしまったとしても」

最強の女神が、真の意味で「恋」に落ちた瞬間。

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