ヤーナムの狩人とオラリオの導き手:啓蒙から始まる恋文字(れんじ)   作:もいもい130

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第7話:月なき夜の休息

 

フレイヤの熱に浮かされたような視線、そしてギルドを包む異常な熱狂から逃れるように、エイナは狩人の腕を引いて裏口から通りへと飛び出した。

「もう……! 密入の次は、あのフレイヤ様をあんな風にするなんて! あなた、自分がどれだけ大変なことをしたか分かってるんですか!?」

エイナは息を切らしながら、詰め寄るように狩人を見上げた。

当の本人は、狩人の帽子を深く被り直し、相変わらず無機質な表情で仕込み杖をカツンと鳴らすだけだ。

「……眩しすぎる羽虫だった。私は、ただ待っていただけだ」

「それがフレイヤ様だって言ってるんです! ……はぁ、もういいです。とにかく、今夜はこのお金で、まずはどこか宿を見つけて休んでください」

エイナは、魔石と血晶石の一部を換金して得た、新米冒険者には過ぎたる額の金貨が入った袋を狩人の手に押し付けた。

「明日、またギルドに来てください。その時に、あなたに合った『ファミリア』を一緒に探しましょう。約束ですよ?」

「…………承知した。導き手よ」

街の喧騒から少し離れた、古びた宿。

狩人は部屋に入り、扉を閉め、閂を下ろした。

ヤーナムの「悪夢」とはあまりにかけ離れた、温すぎる夜。

足元では、実体化した数人の使者たちが、部屋の隅で珍しそうにクケケと喉を鳴らしている。一人の使者は、水差しから汲んだ水で、主人のためにと熱心に仕込み杖の継ぎ目を清めていた。

(ファミリア、か……)

神の下僕となり、その恩恵を授かって生きる「眷族」。

狩人にとって、それは最も忌むべき姿の一つだった。彼はかつて、夢の主や上位者と契約を交わしたが、それは決して「眷属」として傅くためではない。あくまで目的を果たすための対等な、あるいは呪わしい契約に過ぎなかったのだ。

神の傘下に入るという選択。それは彼にとって、自らの本質を歪めるような、馴染まぬ毒のように感じられた。

翌朝。

約束通り、狩人はギルドのエイナのデスクを訪れていた。

エイナは大量の資料を机に広げ、気合の入った顔で彼を待ち構えていた。

「おはようございます、狩人さん。さて、今日は本腰を入れて『ファミリア』選びです!」

エイナは真剣な眼差しで、狩人の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「あなたの実力は規格外です。でも、今の状況だと『ロキ』や『フレイヤ』といった大手はお勧めできません。私が探したいのは、あなたの力がただ利用される場所ではなく、あなたが無理なく居られる場所です」

エイナは、狩人の持つ「他者に縛られない」という強烈な拒絶の気配を感じ取っているようだった。

「……よかろう。お前の選ぶ道を聞こう、導き手よ」

狩人は短く応じた。

契約でもなく、眷属でもない。ただ、この導き手が示す「生存の最適解」がどこにあるのか。彼はそれを、一人の狩人として見定めるつもりだった。

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