ヨハネの四騎士と聖園ミカ   作:到頭

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Gardenia Sogno Soir(夢を見た日)

ゲームが始まった。

なぜそれがわかったか、と言われればその理由は明確だった。

「ザ、自然だね。ここは」

キヴォトスとは似ても似つかない自然が広がっていた。

そして、目の前にはその自然に似つかわしくない巨大なテーブルがあった。

「先生、ポケットになんか入ってない?私はこの……武器キット?ってのがあったよ」

武器キットなるものは本当にポケットに入っていたのか疑問になるほどの大きさで、工具箱にも見えた。一応自分の服にもないかくまなく探してみるが、シッテムの箱以外はなかった。

 

「先生!ルールが送られてきましたよ!」

少しがっかりしているとアロナの声が聞こえてきた。

「日記でも説明でも話されてないルールがちらほらありますね」

あの謎の声…随分適当だな。

"なにか、重要そうなルールはある?"

「はい!騎士を倒すと追加で2名を参加させられるようになるみたいです!」

あまり生徒を巻き込みたくはないな…

「敵の強さについていけなくなり始めたら呼ぶというのはどうでしょうか?」

"そうしてみるね"

「それと、最初は初期配布で武器キットと目の前のテーブルで武器が作れるみたいです!」

戦えるミカだけが武器キットなるものを持っていたのはそういうことか

そのことを伝えようと口を開くと、それより先に

ミカが不思議そうな声色で話しかけてきた。

「そういえばさ、現実世界の武器は弱体化されてるんだよね。たしか」

"そうだね"

ミカが近くの木に照準を合わせて引き金を引く……倒れることはないにしても本来なら木に傷ぐらいはつくだろう。

しかし

「うそっ、そもそも届いてない!?」

弾丸はほんの50cmにも満たないところで減速していき地面に落ちた。弱体化は思っていたよりもガッツリ弱体化されるらしい。

"って、なると…"

"やっぱり武器キットとテーブルで武器を作らないとなのかな"

テーブルの方に目を向ける。自分の体より一回りか二回り広く机の上には様々な器具が置いてあった。

「先生、武器キット開いてみて良い?」

"いいよ"

ミカが開いた武器キットを横目で見てみる。

中には7つの紙が入っていた。

「直剣」「刺剣」「双剣」「鎌」「斧槍」「大槌」「両刃斧」随分アグレッシブというか、殺意が高いというか、そういうピックアップだった。

「なかなかに迷うラインナップだね。」

"ミカにはどれも似合いそうだね"

「なるべく強そうなのが良いし、大槌にしようかな」

"ミカらしいね"

武器キットから大槌の紙を取り出し、テーブルに置くと自動で武器が作り出された。

ゲームというだけあってそこらへんは親切仕様と言ったところだろうか

「これが、大槌?」

"大槌の名に恥じないデカさだね"

デカい説明不要、ミカの腕力があるから持ててるけど、私じゃ確実に腕の筋肉がいかれる大きさをしている。

「ちょっと重いね、これ」

ちょっと…ちょっとかぁ。

しかし、こう。

"絵になるね"

大槌を振り回しているミカはこう、絵になるというか…絵になる。

「ぇえ?そうかなぁ」

"そりゃもう"

さて、武器を作ったとはいえ、その威力はどれほどかとか、気になることはあるが……

"やっぱゲームなんだから敵が必要だよね"

結構わちゃわちゃやってたつもりだが、敵は今のところ見ていない。

「先生!敵は特別な建造物か、夜に出てくるみたいです!」

私の思考を読んだかのようにアロナが説明してくれた。

今はまだ日照りの良い昼ごろだろう。試すなら建造物に行かないとか

"ありがとう"

 

シッテムの箱には白紙の地図も送られているようで、自分たちの言ったところは追加されていくらしい。

「先生!気をつけてください!!ボスの反応があります!」

"ボス?12体のどれか?"

「いえ、12体とは別にボスがいるらしく、今さっきルールの追加が確認されました!」

ルールの追加…あの声めちゃくちゃ適当……追加って何さ、最初に全部説明してくれ

「12体に該当しないボスは特別な防具であったり、現実から持ってきた武器、」

「あるいはこちらで作った武器の強化素材が手に入るみたいです。」

寄り道要素含めて満載なゲームといったところだろうか、ゲームなんだし楽しまないとね

"ミカ、この先にボス格がいるみたい"

「りょーかい☆力試しにちょうど良いね。」

「先生、ボスの名前とレベルが判明しました。」

レベル…ルールにあった倒されるほど強くなるってのはレベルが上がっていくということだろうか

"教えてくれる?"

「はい!ボス名口無しの竜、レベルは7です!」

レベル7は高いのか?それとも低いのか?

「レベルは上限が600ほどらしいのでめちゃくちゃ弱いです!」

"けど、それは私たちも同じでしょ?"

「そうですね、ミカさんは低く見積もってもレベル5です。先生はもちろん1ですよ。」

もちろん、というのはいささか気になる言い方だが、この際よしとしよう。

「先生、ボスってあれのこと?」

ミカが指差す先にはくすんだ水色をし、喉元がしわがれたこう、乾燥しているような、壮絶な傷が見えた。

「やれるだけ、やってみよっか」

ミカが大槌を構える。

口無しの竜もこちらに気付いたようで、何かを準備している。

"支援するね、ミカ"

竜が唸る、ような動作を見せる。

ような動作というのは名の通りというべきか、音が出てないのである。

「なーにしてるのかな♪」

 

口無しの竜って名前を知らないミカからしたらきっとあの動きは意味がわからないだろう。

 

"ミカ、油断しないでね"

「わかってるよ☆」

竜が腕を振り払う、動きがのそのそしていてあまり驚異は感じない。

ミカは軽々しく攻撃を避け伸びた腕に大槌を打ち下ろした。

「いったぁっ!?」

ミカの振り下ろした大槌は簡単なまでに弾かれた。

「先生!口無しの竜は防御タイプです!!喉を喉を狙ってください!」

"ミカ、喉を狙って!"

「りょーかい!」

ミカは弾かれた大槌を一度離した。地面に落ちる寸前に踵で大槌を蹴り上げ持ち直した。

竜の方は…鈍臭いといった感じだった。

次の攻撃の準備をしてるのだろうが、鈍臭い…防御タイプっていうか。こう、なんか違う。なんだろう?

"ミカ、左から来るよ!"

今度は全身を捻っての尻尾攻撃だろう、しかしミカに当たることはなかった。

ミカは地面を蹴り上げ大槌と一緒に跳んだ。

「いっくよー♪」

捻った体を戻した竜の喉にちょうどミカの体が来た。

ミカのフルスイングは喉に直撃し…なかった。

ギリギリで竜が退け反ったことで直撃には至らなかった。

「うっそぉ、案外動けるんだね。」

「先生!今の一撃で1/4が削れました」

案外体力は多くないらしい。それともミカの火力が高いのか?

「多分両方です!」

両方かー、なんか不便だなあの竜

「次は直撃させるよ!」

ミカは地面に大槌を叩きつけると、まるで…まるで、まるでなんだろ?

うーん、あれだ棒高跳びの要領で上に飛ぶと喉にフルスイングを叩きつけた。

"……えげつないなぁ"

「ヨシ撃破ぁ!」

一気に残り3/4の体力が削れた。コワイ

竜は力なくぐったりと倒れた。

地面に伏すと、肉体が崩れていき鱗だけが残る。

「これは何?先生」

"多分、特別な装備を作る素材?"

「はい、!先生。それは確かに装備用の素材です。けど、まだ使えません!」

アロナの元気で現実を突きつける声が聞こえる。

"まだ使えないの?"

「まだ使えません」

アロナ曰く口無しの竜の鱗を使って作れる装備には他にも必要な素材があるとかなんとか。

「ねね、先生。この鱗」

"あー、えーっと…まだ使えないみたいだよ?"

「そうじゃなくてね?この鱗すっごい綺麗だよ?」

ミカの言葉に私も鱗を見てみる。

光にかざせば陽の光が薄浅葱の輝きが見えた。

"確かに綺麗だね"

どこか心に引っ掛かるところはあるが、それを差し引いても綺麗だった。

 

 

 

私の名前は聖園ミカ…今、先生に膝枕をしています。

前からいきなり飛びすぎ?

じゃぁ…少し時間は巻き戻って。

あの竜を討伐してすぐのこと

 

「先生、大丈夫?」

先生は竜の鱗を全部持ってくれた。

大槌を持ってはいるが、

確実に私の方が力はあるし、多分あれぐらいなら大槌と一緒に持てる。

けれど、先生は

"ミカは戦闘頑張ったんだから私に任せてよ"

そう言って、先生は全部持ってくれた。

その後は何かあるわけでもなく、頑張ってる先生を眺めながらテーブルの方へと向かった。

 

 

"ぜぇ、ぜぇ…ついた"

先生って案外動けるんだよね。

それでもあれぐらいで息が絶え絶えになってるの、ちょっとかわいい

「お疲れ様、先生。少し休憩しよっか。おいで?」

お姉さん座りってやつ?で地面に座って…膝を軽くぽんぽんと叩き、先生の頭を誘う。

先生は本当に疲れていたのだろう。特になんの抵抗も示さずに頭を置いて横になった。

「どうかな?ナギちゃんには結構好評なんだけど」

"(……空が半分しか見えない)"

「せんせ?今変なこと考えなかった?」

"……気のせいだよ"

「そーう?」

確実に失礼なことを考えたように感じたんだけど…

気のせいだよね♪

……そこからは特に話さず静かな時間が流れた。

青々と生い茂る草花と優しい自然の空気に揺られている。

ここだけ見ればピクニックの一幕と勘違いしてしまいそうなほど平和だった。

後ろに大槌と鱗があるけど……まぁ、そんな感じで

 

「今こうなってるんだよねぇ///」

優しく先生の前髪を払い顔を見る。

安心しきっているようで、一抹の不安もなく完全に寝ているようだった。

「先生、流石に不用心すぎない?」

わかっている。

先生がどんな人間かなんて。

底抜けた優しさそれが先生っていう人の性。

優しい時間が流れる。

優しくて静かだけど確かに存在するその時間を私は噛み締めていた。

 

………

「んん、?ふわぁ〜」

先生に膝枕をしていたはずが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

先生は未だ私の膝の上で寝息をかいていた。

起きる前となんの変わりもない風景がそこに広がっていた。ただ一つ、陽の光を除いて。

「せんせ!先生!起きて!」

先生の体を揺らして起こす。

先生は少し眠そうに上体を起こした。

"どうしたの?ミカ"

「夜が来るよ!よーる!」

"こういう"ゲームなら簡単に予想がつく。

夜は昼間には見られない敵が現れる。そう相場が決まっている。

 

"スゥー……ミカ。敵の軍勢、来るよ"

「ボス格は居そう?」

先生は首を横に振る。

軍勢と言っても統率もクソもない雑魚の群れということだろう。

大槌を構える。

辺りから影が見える。

ゾンビ映画に出てきそうな屍にミイラ…スライムにゴブリン?が影を作ってるのはすぐ見えた。

「せんせ、ちゃんと私の後ろにいてね?」

 

先生は戦えない。

だから、守らないと…

"任せたよ。ミカ"

「任せてよ♪」

敵がどんどんと集まってくる。10、20……100はいないかな。

それぐらいの量の敵が正面から迫っていた。

めんどくさい。

それが一番に抱いた感情だった。

これだけ多い敵相手に先生を守りながら戦うというのはいささか面倒である。

なら!

「ちょっと待っててね先生」

"え?"

 

地面を蹴り敵の群れの中央へ跳ぶ。

「いっくよー!!」

思いっきり力を込めて大槌を叩きつける。

衝撃で地面と敵が歪む。

敵は何体倒せただろうか、とりあえず30は倒した気がする。

「夜っていってもこんなものなんだね。」

"ミカ!気をつけて。敵のレベルが上がったよ!"

たしか敵を倒すごとに上がっていくんだっけ。

たしかに、この程度の強さじゃやりごたえがないから、ゲームとして面白くないね。

 

新しくきた敵の群勢を前にそんなことを考える。

敵を倒すごとにレベルが上がるっていうけど実際どういう風に変わるんだろうか。

そんな疑問を抱きつつまた、地を蹴り跳ぶ。

先ほどと同じならまた着地地点に集まって簡単に全滅を取れる…が。

「うっそぉ、強くなるってそういうこと?」

着地地点に集まる事はなく、冷静に回避に徹していた。

 

攻撃は空を切り、私は敵陣のど真ん中で包囲された。

「ふーん、脳無しのくせに頭回るんだね。」

しかし、どこまで行っても脳無しは脳無し、避けたはいいもの攻撃はお粗末なものだった。

「あはは♪それで殴ってるつもり?」

 

大槌を振り回す。

優雅に…華麗に…そして暴力的に。

レベルアップというのは力が強くなったり、というのよりは「敵もまた学習する」という事なのだろう。

跳んで叩き潰す。

なんて単純な攻撃を40?とかそれぐらいの敵に叩き込めば学習されるのは必然というものなのだろう。

だが…

「まだまだ弱いね。」

雑魚敵でも何かしらアイテムを落とすらしい。

大量のアイテムに囲まれながら西に傾く月光と共に私は立っていた。

"……お疲れ様、ミカ"

「敵はまだきそう?」

"いいや、多分来ない"

先生はそういうと、手に持っているタブレットの画面を見せてくれた。

『Break time』…この場合の意味は休憩時間?

 

"1日に出てくる敵の数は決まっているみたい"

無限湧きではないらしいことを先生は教えてくれる。

上限まで倒すと『Broken time』が表示され、次の日になるまで敵が新たに生まれる事はないらしい。

初日の夜というだけあって、敵は強くなかった。

そこまで疲れもなかったため、敵のドロップ品を集めながら今後の方針を先生と話し合うことにした。

「どーする?今後の流れ」

戦利品を集めながら先生にそんなことを問う。

先生の持ってるタブレットにはルールが入っている。

ただ闇雲にやるよりきっといいと思う……んだけど

"どうしようね"

先生の回答は思った数倍投げやりだった。

それだけじゃない、手探りで一つ一つ進めていくとか言いそうな目をしていた。

「せ、先生?」

"手探りで一つ一つ進めていこう!"

「確かにゲームだよ?けどメインストーリーとかなさそうじゃん!手探りなんて時間かかっちゃうよ!!」

先生は少ししゅんとしたかと思うと、すぐに凛とした表情になって話し始めた。

"このゲーム、今いる現世ともう一つの世界……『 』があるみたい。"

もう一つの世界、少し想像つきずらいけど、キヴォトスからここに来たように、ここからその『 』に行けるってことかな?

「そこには何かあるの?」

"この先ボス討伐必須になるものがちらほらあるらしい"

あの竜以外当たってないからボスの強さはちょっとわからないけど、ボス達を倒すための準備用の場所って考えればいいのかな?

"あとほとんどの素材はボスを倒さないとらしいよ"

違った。普通にボス居る場所なんだ……え?

ボスを倒すために必要なアイテムを手に入れるためにはボスを倒さないといけなくて?

けど、そのボスを倒すためにはアイテムが必要で

「?????……えっと、ボス討伐に必要なアイテムは『 』にあるんだよね?」

" そうだね"

「で、そのアイテムを手に入れるにはボスを討伐しないといけないんだよね?」

"………"

え?いきなり黙らないで欲しいんだけど…え?何?怖いよ!

先生がジリジリと近づいてくる…それに倣って私もジリジリと後退りする。

"大丈夫、大丈夫だよ。ミカ"

優しい声色でそういってくるが…何が大丈夫なのかわからない。

「先生流石に何の説明もなしには無理があるよ?」

"無理かぁ"

私の拒絶に先生は素直に諦めてくれたのか、前進をやめ、少し残念そうな顔をしていた。

「ちゃんと説明して?」

"任せなさい"

先ほどの問答を忘れたのだろうか、自信満々そうな先生に一抹の不安を感じながら耳を傾けた。

"『 』にいるボスは封印の鍵持ちじゃないボスで、"

"『 』にあアイテムは鍵持ちボス討伐にってことね"

 

「…『 』に居るボスはあの竜みたいな感じってこと?」

"そうだね"

なぜ最初からそれを言ってくれないのか、という不満を視線と肘で表現する。ゲームのことになると先生の精神年齢は下がるのかな♪

 

 

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