その飲みかけ、致死量につき。――男女比1:4の世界で普通に生活する俺が、飲みかけボトルを置き忘れた結果――   作:やっくん。

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13話 この男、勘違いにつき

――カフェレゼール、開店前

 

 店長がキッチンで何かをごそごそやっている。

 

「悠くん、ちょっといい? 新しいメニューのアパタイザーを考えてるんだけど、味見してもらえる?」

 

 白いプレートに、小魚のフライが並んでいた。

 

「小魚のフリット、レモン添えだよ。どう?」

 

「何の魚なんですか、これ」

 

「キスだよ。今が旬でおいしいんだよ〜」

 

「へー、そうなんですね。じゃあ遠慮なく」

 

 パクッ。

 

「……うまいっすね。ただ、味付けがちょいディープというか、キスにレモン添えても相殺できてないかも」

 

「う〜ん、僕もそこが気になってたんだよね〜。ありがとう、参考になったよ」

 

「ところで最近は暑いから、揚げ物系ってあんまり出ないと思うんですけど」

 

「まぁ、そうなんだけどね……でも、上が定期的に新メニュー作れってうるさくてさ」

 

「店長も大変ですね……」

 

 ふと、思い出したことがあって店長に聞いてみた。

 

「話変わるんですけど、天気が良いと思って洗濯物を外干したんですけど、なんか小さい砂みたいなのがくっついて、逆に汚くなってたんですよね。何か知ってます?」

 

「あ〜、僕は洗濯しないし、そもそも男の仕事じゃないよ。はぁ……メニューどうしよう……」

 

 その時、近くで作業していた真鍋さんが顔を上げた。

 

「あ〜、それ鉄粉よ〜。近くに大きな鉄工場あるから、外干しをすると洗濯物についちゃうのよね〜」

 

「あ、そうだったんですねぇ」

 

「そうよ〜。だからみ〜んな部屋干しにするか乾燥機なの。地元民はみんな知ってるよ〜。悠くん、もしかして県外からきたのかしら?」

 

「あー……まぁ、そんな感じです」

 

 ははは、と笑って誤魔化した。

 

◇

 

――レゼール、開店

 

「いらっしゃいませ、二名様ですね。どうぞ、ご案内します」

 

 女性客を窓際のテーブルへ誘導する。

 

「四名様ですね。こちらへどうぞ」

 

 続いて四人組のお姉さんをテーブル席へ案内をする。

 

「八名様ですね。奥の席へどうぞ」

 

 一時間もすると、店内にはお客が溢れていた。

 

 あっ、三番テーブル空けないと次のお客が入れないな。

 

 オーダーをさばきながら頭の中で段取りを組む。

 

 お客の回転率が落ちると、なぜか小鳥さんの機嫌が悪くなるからな……

 

 そうなると、小鳥さんは本社からの査察官じゃないか、という話が本当に思えてくる。

 

「今はそれより……」

 

 周囲をキョロキョロと素早く見渡した。

 

 手が空いてそうなのは……小鳥さんだけ。

 

 彼女はボーッとレジ前に立っている。

 

 どうしよう……迷うなぁ。

 

 というのも、彼女は俺が指示を出すと、一瞬だけキッと鋭い目つきで睨んでくるからだ。

 

 でも、今は背に腹は代えられない……か。

 

 ピピッ。

 

「小鳥さん、三番テーブルの片付けお願い」

 

 インカムで短く伝えた。

 

 彼女には目を向けないようにして。

 

◇

 

 フロアを動き回っていると、あることに気づいた。

 

 店内には女性客ばかり。

 

 テラス越しに見える通行人も女性ばかり。

 

 男性もいないことはないが、十人通ったら一人か二人くらいのもの。

 

 

 この世界って――

 

 少し立ち止まった。

 

 もしかして、男が少ない?

 

 

 

 いや、気のせいだな。

 

 街を散策していると普通に男を見るし、今回は偶然だな。

 

 それよりも今はオーダーを回さないと。

 

「あの〜すいません。この、『小魚のフリット〜レモンソースを添えて〜』を一つお願いします」

 

「はい、かしこまりました」

 

「あっ、こっちもそれを一つお願いします」

 

 別のテーブルからも声がかかる。

 

 店長の方をちらっと見ると、カウンターで嬉しそうにウインクを返してきた。

 

「ウインクきもっ!」

 

 ちょうど隣にいた真鍋さんがツッコミを入れた。

 

◇

 

――カフェレゼール、閉店

 

「ふぅ、今日の仕事もがんばったー」

 

 その日の営業も終わり、俺、店長、真鍋さんと小鳥さんの四人でバックヤードで歓談をしていた。

 

 そんな中、店長が紙袋を持って現れる。

 

「みんなー、さっき知り合いから焼き芋もらったんだけど、よかったら食べてね」

 

 湯気の立つ焼き芋が、人数分バックヤードのテーブルに並べられる。

 

「おいしそうっすね」

 

「金蜜金時(きんみつきんとき)って言って、ちまたではキンキンって言われててさ〜」

 

 どうやら、有名な焼き芋らしい。

 

「へぇ、初めて聞きました。おいしそうですね」

 

「あら、悠くん。キンキンの焼き芋知らないの〜? アツアツで美味しいのよ〜」

 

 それは熱いのか、冷たいのか、どっちなんだ……

 

 テーブルに目を移すとホクホクと湯気が立っている。

 

 少し距離を置いて隣に座る小鳥さんが、じっとテーブルの上の焼き芋を凝視している。

 

 もしかして食べたことがないのかな……

 

「じゃあ私、一本丸々いただくわね〜」

 

 真鍋さんがヒョイと腕を伸ばし、ひとつを手に取った。

 

 小鳥さんは、まだ手を出そうとしない。

 

 あっ、そういうことか。

 

 俺は焼き芋をひとつ手に取り、ポキッと半分に折った。

 

「どうぞ」

 

「……いただきますわ」

 

 素直に受け取ってくれる彼女。

 

 やはりそうだ。

 

 一本丸々食べるのはキツい。だから食べるかどうかを迷ってた――という読みが見事に当たった。

 

 俺も自分の焼き芋を手に取り、口にする。

 

「蜂蜜がかかってるみたいに甘いっ! うん、これイケますね!」

 

「そうでしょー」

 

 店長が自分のことのように嬉しそうに笑う。

 

 小鳥さんの方を見ると、さっきまでの躊躇がどこへいったのか、パクパクと景気よく食べている。

 

 そのあと、四人でとりとめのない話をしていた。

 

 小鳥さんはほとんど聞いているだけだったけど、この場に残っているということは、嫌ではない、ということだろう。

 

 そんな時だった。

 

 

 

 ぷぅ――

 

 

 

 静かなバックヤードに、小さな音が響いた。

 

 

 

 シーン……

 

 

 

 えーっと……もし店長なら、性格的に自分から言うはず。

 

 となると……犯人は真鍋さんか。じゃあ、ここは俺が。

 

「あ、すいませーん、おならしちゃいましたー」

 

「やめてよ〜!男の人ってほんと」

 

 真鍋さんが笑いながら、真っ先に俺のセリフに乗っかった。

 

 やっぱり、彼女だった。

 

 その後、お互いが気まずくなることはなく会話は自然と続いた。

 

 いつのまにか、バックヤードの時計の針は九を指していた。

 

「じゃあ先に帰るね。戸締りよろしく〜」

 

 店長が手を振りながら控室を出ていった。

 

 隣に座っていた小鳥さんも、すぐに立ち上がる。

 

「わたくしもお先に失礼いたします」

 

 そう言って、急いで扉から出ていってしまった。

 

 残ったのは、俺と真鍋さんの二人。

 

 ちょうどいいタイミングだ。

 

「ちょっといいですか?」

 

「え、なに〜内緒の話?」

 

「いや、内緒ってことはないですけど……ちょっと大事な話が」

 

「え〜、なんかこわいな〜」

 

「いや、えっと……実は……すいません!」

 

 俺は深々と頭を下げる。

 

「来週に手渡すはずだった子猫の件なんですけど、……やっぱり、やめることって――」

 

「え〜!? 飼う気満々だったのに〜。まぁ準備はまだできてないんだけどね」

 

 真鍋さんが苦笑いをする。

 

「私はいいけど、猫ちゃんは大丈夫〜? 次の飼い主は決まってる?」

 

「はい。今預かってるくれてる方が、そのまま飼いたいって」

 

「あぁ、そっかぁ。うん、わかったよ〜。でも、旦那も楽しみにしてたし、少し寂しい気もするわね〜」

 

「そうなんですね……ほんと、すいません」

 

「じゃあ……貸しイチだよ♪」

 

「え〜、さっきオナラ庇ったんで、帳消しになりません?」

 

 手を合わせて冗談っぽく言ったが、真鍋さんはキョトンとしている。

 

「あれ私じゃないわよ〜」

 

 

 

「え……」

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