その飲みかけ致死量につき。――男女比1:4の世界で普通に生活する俺が、飲みかけボトルを置き忘れた結果   作:やっくん。

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13話 この男、ホールリーダーにつき

――カフェレゼール、開店前

 

 店長がキッチンで何かをごそごそやっている。

 

「悠くん、ちょっといい? 新しいアパタイザーのメニュー考えてるんだけど、味見してもらえる?」

 

 白いプレートに、小魚のフライが並んでいた。

 

「小魚のフリット、レモン添えだよ。どう?」

 

「何の魚なんですか、これ」

 

「キスだよ。今が旬でおいしいんだよね〜」

 

「へー。じゃあ遠慮なく」

 

 ひょいぱく。

 

「……うまいっすね。ただ……味付けがちょいディープというか。キスにレモン添えても相殺できてないかもです」

 

「う〜ん、僕もそこが気になってたんだよね〜。ありがとう、参考になったよ」

 

「ところで最近は暑いから、揚げ物系ってあんまり出ないと思うんですけど」

 

「まぁそうなんだけどね……定期的に新メニュー作れって上からうるさくてさ」

 

「店長も大変ですね……」

 

 ふと思い出したことがあって、続けた。

 

「そういえば、天気が良いと思って洗濯物を外干したんですけど、なんか小さい砂みたいなのがくっついて、逆に汚くなってたんですよね。何か知ってます?」

 

「あ〜、僕は洗濯しないし、そもそも男の仕事じゃないよ。はぁ……このメニュー考案も仕事じゃなかったら絶対やらないのに……」

 

 その時、近くで作業していた真鍋さんが顔を上げた。

 

「え〜知らないの? この近くに大きな鉄工場あるから、外干しすると鉄粉がついちゃうのよ〜」

 

「え、そうだったんですか」

 

「そうよ〜。だからみ〜んな部屋干しにするか乾燥機。この辺の人はみんな知ってると思ってたけど……悠くん、もしかして県外からきたのかしら?」

 

「あー……まぁ、そんな感じです」

 

 ははは、と笑って誤魔化した。

 

 

――カフェレゼール、開店

 

「いらっしゃいませ、二名様ですね。どうぞ、ご案内します」

 

 女性客を窓際のテーブルへ誘導する。

 

「四名様ですね。こちらへどうぞ」

 

 続いて四人組のお姉さんをテーブル席へ案内をする。

 

「八名様ですね。奥の席へどうぞ」

 

 

 一時間もすると、店内にはお客が溢れていた。

 

(あっ、三番テーブル空けないと次のお客が入れない)

 

 オーダーをさばきながら頭の中で段取りを組む。

 

(お客の回転率が落ちると、なぜか麗華さんの機嫌が悪くなるからな……)

 

 そうなる理由を考えると、麗華さんは本社からの査察官じゃないか、という話が現実味を帯びてくる。

 

「今はそれよりも……」

 

 周囲をキョロキョロと素早く見渡した。

 

 手が空いてそうなのは……麗華さんだけ。彼女はボーッとレジ前に立っている。

 

(どうしよう……)

 

 少し迷う。というのも彼女は俺が指示を出すと、一瞬だけキッと睨んでくるからだ。

 

(でも今は背に腹は代えられない……か)

 

 ピピッ。

 

「麗華さん、三番テーブルの片付けお願い」

 

 インカムで短く伝えた。

 

 彼女には目を向けないようにして。

 

 

 フロアを動き回りながら、ふと気づいたことがあった。

 

 店内を見渡すと、女性客ばかり。

 

 ガラス張りのテラス越しに外の通りを見ても、女性ばかり。

 

(あっドローン飛んでる)

 

 男性は十人通ったら一人か二人くらいのもの。

 

(この世界って――)

 

 少し立ち止まった。

 

(もしかして、男が少ない?)

 

 いや、でも街を散策していると普通に男を見るんだよな。

 

 不思議に思いながら、さりげなく店内を見回す。

 

【豆知識:ここの市長は男性保護を強く政策に掲げており、男にとって住みやすいまちづくりに力を入れている。メンズデイの実施や居酒屋の男子会割引など。そのため、この地域だけ男性の居住率が高く、姿を見かけやすい。テラスの外に女性が多かったのは悠を一目見ようと女性たちが周囲を歩いているため】

 

 まぁあとでゆっくり考えるとして、今はオーダーを回さないと。

 

「あの〜すいません。この、小魚のフリット〜レモンソースを添えて〜を一つお願いします」

 

「かしこまりました」

 

「あっ、こっちもそれ、お願いします」

 

 別のテーブルからも声がかかる。

 

 店長の方をちらっと見ると、カウンターの中でうれしそうにウインクを返してきた。

 

「ウインクきもっ!」

 

 ちょうど隣にいた真鍋さんがツッコミを入れた。

 

 

――カフェレゼール、閉店

 

「ふぅ今日の仕事もがんばったー」

 

 その日の営業も終わり、俺、店長、真鍋さんと麗華さんの四人でバックヤードで一休み中、店長が紙袋を持って現れた。

 

「みんなー、さっき知り合いから焼き芋もらったんだけど、よかったら食べてね」

 

 湯気の立つ焼き芋が、人数分、バックヤードのテーブルに並べられる。

 

「おいしそうっすね」

 

「金蜜金時って言って、ちまたではキンキンって言われててさ〜」

 

 どうやら一級品種の焼き芋らしい。

 

「へぇ、初めて聞きました。おいしそうですね」

 

「あら悠くんキンキンの焼き芋知らないの〜?アツアツで美味しいのよ〜」

 

(熱いのか冷えてるのかどっちなんだ)

 

 テーブルに目を移すとほくほくっと湯気が立っている。

 

 少し距離を置いて隣に座る小鳥麗華さんが、じっとテーブルの上の焼き芋を凝視している。

 

(もしかして食べたことがないのかな……)

 

「じゃあ私一本丸々いただくわね〜」

 

 真鍋さんがヒョイと腕を伸ばし、ひとつを手に取った。

 

 麗華さんはそれでもまだ、なかなか手を出そうとしない。

 

(あっ、そういうことか)

 

 俺は焼き芋をひとつ手に取り、ぱきっと半分に折った。

 

「どうぞ」

 

「……いただきますわ」

 

 素直に受け取ってくれた。

 

 彼女は一本丸々はきつくて食べるかどうか迷ってた、というところだろう。

 

 俺も自分の分をぱくっと食べる。

 

「うん……蜂蜜がかかってるみたいに甘くて……イケますねこれ!」

 

「そうでしょー」

 

 店長が自分のことのように嬉しそうに笑う。

 

 麗華さんの方を見ると、さっきまでの躊躇がどこへやら、パクパクと景気よく食べている。

 

 そのあと、四人でとりとめのない話をしていた。

 

 麗華さんはほとんど聞いているだけだったけど、それはそれで輪の中にいる感じがして悪くはないというような雰囲気。

 

 そんな時だった。

 

 

 

 ぷぅ

 

 

 

 静かなバックヤードに、小さな音が響いた。

 

 シーン……

 

(うーん……店長なら絶対自分から言うよな。となると……犯人は真鍋さんか)

 

 ここは俺が。

 

「あ、すいませーん、おならしちゃいましたー」

 

「やめてよ〜!男の人ってほんと」

 

 真鍋さんが笑いながら真っ先に俺のセリフに乗っかった。

 

(やっぱりそうか!)

 

 その後お互いが気まずくなることはなく会話は自然と続いていく。

 

 バックヤードの時計の針が、ゆっくりと進んでいた。

 

「じゃあ先に帰るね。戸締りよろしく〜」

 

 店長が手を振りながら控室を出ていった。

 

 隣に座っていた麗華さんもすぐに立ち上がる。

 

「わたくしもお先に失礼いたします」

 

 そう言って、急ぐように扉から出ていってしまった。

 

 残ったのは、俺と真鍋さんの二人。

 

(ちょうどいいタイミングだ)

 

「ちょっといいですか?」

 

「え、なに〜。内緒の話?」

 

「いや内緒ってことはないですけど……ちょっと大事な話が」

 

「え〜なんかこわいな〜」

 

「いや、えっと……実は……すいません!」

 

 俺は深々と頭を下げる。

 

「来週って言ってた白猫なんですけど、その件……やめることってできますか?」

 

「え〜!? 飼う気満々だったのに〜。まぁ準備がまだできてないんだけど」

 

 真鍋さんが苦笑いをする。

 

「でも、次の飼い主は決まってるの?」

 

「はい。今預かってる方が、そのまま飼いたいらしくって」

 

「あぁそっかぁ。旦那も楽しみにしてたし、少し寂しい気もするわね〜」

 

「ほんと、すいません」

 

「じゃあ……貸しイチだよ♫」

 

「え〜。さっきのおなら庇った件で帳消しにしてもらえませんか」

 

 手を合わせて冗談っぽく言うと、真鍋さんが少し間を置いてから言った。

 

 

 

「え……わたしじゃないわよ〜」

 

【あとがき】

誰しもがオナラを漏らした経験はある……よね?

えっ……ない?

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