その飲みかけ、致死量につき。――男女比1:4の世界で普通に生活する俺が、飲みかけボトルを置き忘れた結果――   作:やっくん。

22 / 22
22話、この女、ギャルにつき

――モモの視点――

 

 ジャーン、ジャーン、ジャカジャカジャカ――!

 

「男なんてクソくらえっ! まともなヤツはいやしねぇ!」

 

 駅前の広場。夕暮れの人混みの中で、あたしたちは声を枯らして叫ぶ。

 

 誰も足を止めない。

 

 みんな、あたしたちを一瞥して、めんどくさそうに通り過ぎていく。

 

 時々、聞こえてくるのは心ない声ばかり。

 

「うわ、下手くそ」

「音程外れてんぞ」

「ブスのくせに何イキってんの」

「おい、男を馬鹿にすんな。男女差別じゃん」

「つーか、お前らみたいなの相手にする男、どこにもいねぇからw」

「下手な歌聞いてやったんだから、金払えよ」

 

 ……ほんと、男ってクズばっか。

 

 でもね。

 

 全然、気になんないんだよねー。

 

 だって、この気持ちを思いっきり叫んでるだけで、最高に気持ちいいからさー♡

 

 胸の奥に溜まったドロドロを、ギターに乗せて全部ぶちまける。

 

 これ以上の快感、あーしは他に知らないわ。

 

 ……まぁ、歌とギターの練習はさすがにもうちょっとした方がいいっしょ、自分w

 

「せやかて、モモ」

 

 曲が終わると、相方がため息まじりに言った。

 

「ライブしても、全然誰も聞いてくれへんやん」

 

 ナナミは、たくさんの人に見てもらったり、注目されたりするのが好きなタイプ。

 

 だから最近は不満ばっかりだ。

 

「音楽やるからには売れなきゃ意味ないやろ。バズりたいねん、うちは」

 

「まぁまぁ、気長にいこーよ」

 

「その気長が、もう二年やで」

 

 ……またこの話だ。

 

 バンドのことになると、あたしらは途端にギスギスする。

 

 ライブするたびに、ちょっとした言い合いになっちゃうんだよねー。

 

 プライベートはめちゃくちゃ仲いいのに。幼稚園からのずっ友だし。

 

 でも――正直、あたしたちの解散は近いのかもしれない。

 

 ナナミは「売れたい」。

 

 あたしは「叫びたい」。

 

 同じバンドやってるのに、見てる場所がちょっとずつズレてきてる。

 

 あーしはただ歌って叫んでができれば、それでいーんだけどなー。

 

◇

 

 ――あれは、少し前のこと。

 

 いつもみたいに路上で叫んでたら、一人の男が立ち止まった。

 

 あーしらの歌って、男なんてマジでクソっていう過激なのばっかだから、たまに絡んでくる男がいるんだよねー。

 

 過去に浴びせられた言葉の数々を思い出す。

 

 ……ったく。男ってほんとクズばっか。

 

 だから、今、立ち止まったこいつもどうせ同じだろう。

 

 あたしは心の中でそう身構えた。

 

 その男は何も言わず静かに聴いていた――曲が終わる最後まで。

 

 曲が終わると、ポケットから何かを取り出して、足元の空っぽのギターケースに向かってひょいと投げ入れた。

 

 それがギターケースを飛び越え、こちらの方へ転がってくる。

 

 チャリン。

 

 硬貨があたしの目の前で倒れて止まった。

 

 ……え。

 

 五百円だった。

 

 たった、ワンコイン。

 

 でも――

 

 それは、あたしたちが初めてもらったおひねりだった。

 

 顔を上げたときには、もうその男の姿はなかった。

 

「……ナナミ。今の、見た?」

 

「見た見た! おひねりやろ!? 初めてやん、うちら!」

 

 ナナミが、ギターを放り出して駆け寄ってくる。

 

 二人で五百円玉を囲んで、しばらくぴょんぴょん跳ねた。

 

◇

 

「ねぇナナミ……あーしら、CD作ろうよ」

 

「は? 急やな」

 

「なんか、形に残るもの残したいなーって。前のライブみたいな日をさ」

 

「ええやん! ジャケットはうちがデザインするわ!」

 

 ナナミは目立つのが好きだから、めちゃくちゃ乗り気になった。

 

 それからすぐに、CD作りに取り掛かる。

 

 ライブハウスを借りて音源を録り、ジャケットはナナミが手書きでデザインした。

 

 そのデータを代行業者に送って、CDの形にしてもらう。

 

 二人で貯めたバイト代を全部つぎ込んで、段ボール三箱分のCDを刷った。

 

 バンド名は『初期衝動ガールズ』、タイトルは『男なんてクソくらえ!』。

 

 ちなみに、あーしの数少ない友達の一人に大手のCDショップ――エッフェルタワーレコードでバイトしてる子がいる。

 

 その子に頼み込んだら、インディーズコーナーの端っこなら置いてもいいって。

 

 あたしもナナミも、めちゃくちゃ期待してたと思う。

 

「これで全部売れたら、重版や、重版!」

 

「重版ってw まだ一枚も売れてないからw」

 

 でも、現実はそんなに甘くなかった。

 

 毎日、学校帰りにあたしたちのCDが置いてあるお店に寄って確認する。

 

 あ……まだ一枚も減ってない。

 

◇

 

 ある日見に行ったら、CDはお買い得ワゴンの中に移されていた。

 

 叩き売りコーナーだ。

 

「……いやー、置いてもらえてるだけ、ありがたいねー」

 

 あたしはへらっと笑った。

 

 でも、相方は違った。

 

「はっ、ふざけんなっちゅーねん!」

 

 本気でキレてた。

 

「うちらの曲を勝手に安売りコーナーにせんといてや」

 

 それ以降、あの子は「あそこ行ったら、テンション下がんねん」と言って、CDショップにはついてこなくなった。

 

 気持ちはわかる。

 

 自分たちの全部が詰まったものが、投げ売りされてるの見るのつらいもんねー。

 

 ……でも、あーしは半ば習慣になっちゃってて、今日もついついエッフェルタワーレコードに寄っちゃった。

 

 ワゴンを覗き込む。

 

「……おー」

 

 減ってるよぉ。

 

 一枚だけだけど。

 

 あーしはレジにいる友達に声をかけた。

 

「バイトおつー」

 

「あっ、モモ。ちょっと聞いて聞いてっ!」

 

「どしたー? やけに興奮してんじゃん」

 

「すっっっごいかっこいい男の人が、あんたたちのCD、買っていったよっ!」

 

「……そうなんだ」

 

 いまさら、男なんて。

 

 どうせ、また面白半分とか冷やかしでしょ。

 

「しかもね、『ファンです。応援してます』って、言付けまで残していったんだよっ!」

 

「……ふーん。そっかー」

 

 知らん男に応援されもなー。

 

「……モモ、あんた口元がゆるゆるになってるよ」

 

「は? そんなわけないけど」

 

 慌てて手で口を覆う。

 

「……モモ、次は顔がにやけてる……」

 

「……にやけてないしっ! 花粉! 花粉のせいだしー!」

 

「今、冬だけど」

 

「……もう、うっさいなー」

 

◇

 

 今日は朝からナナミとカフェでお茶してた。

 

 昨日のこと、一応報告しなきゃねー。

 

 あーしはナナミにCDが売れたことと、ファン一号の存在を伝えた。

 

「え、まじかいな」

 

「そうそう。かっこいい男の人が買ってって、応援してますって」

 

「やっぱ、分かるヤツには分かんねん!」

 

 幼馴染は一気に上機嫌になった。現金なもんだ。

 

「それにしても、そのイケメン……会ってみたいわぁ。なぁ、モモ」

 

「あーしは興味ないしぃ。……あっ」

 

 その時、あたしの目がある一点に吸い寄せられた。

 

 向こうの電柱の近く――誰かを待ってるらしい一人の男。

 

 ……絶対、ナナミのタイプだ。

 

「ナナミ、あそこに男の人が立ってるよー」

 

「ほんまや。……うほっ、いい男」

 

「ウホって、ゴリラ化してんじゃんw」

 

「乙女に向かってゴリラとか、言わんとってくれる?」

 

 あーしらのどうでもいい話が一段落して電柱の方へ視線を向けると、男はまだそこに立っていた。

 

「……まだいるねー、あの人」

 

「ほんまやなぁ。にして……ええ男や。……モモもそう思わへん?」

 

「……べつに。男なんてみんな一緒でしょ」

 

 あーしはそっち関係は正直よくわかんない。

 

 昔の男のことがあってから、男を「かっこいい」とか思う回路がブッ壊れちゃったんだと思う。

 

「あの人どっかで見た気すんねんけどなぁ……」

 

「ナナミに男の知り合いなんていないっしょー」

 

「……い、いるわ…… 親族でいいなら……」

 

 それノーカンでしょ。

 

「でもなぁ……あんないい男を、一時間近くも待たせるなんて。相手の女の顔をおがんでみたいわ」

 

「まぁ……ねぇ」

 

 男が女を待つことはあっても、女が男を待たせるなんてのは、まずありえない。

 

 どんな女なんだろ。

 

 ちょっとだけ興味が湧いた。

 

「相手にドタキャンされたんかも……。よし、うちが慰めに行こう」

 

「なんでそうなるw」

 

 あたしが笑った、その時だった。

 

 ふと顔を上げると――

 

 ――うわ。

 

 とんでもない美人が、ものすごい形相であたしらのことを睨んでいた。

 

「え、今の人、こわっ」

 

「めっちゃ睨んできたんだけど……」

 

 あたしは知らなかった。

 

 その美人が、さっき話してた「イケメンを待たせてる女」であることを。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

鬱ゲーの全滅イベントで年上ヒロイン達を庇ったら【暴食の魔人】になって生き残った。――「理性が消える前に殺して」と頼んでも、曇った彼女たちが許してくれない。(作者:菊池 快晴)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

ダークウェブソウル通称【DWS】』▼最悪の鬱ゲーにして最高の泣きゲーと名高い、狂気のダークファンタジー。 ▼その世界に、モブ・雑用係のレイとして転生した俺は、ゲーム知識を駆使して最愛の年上ヒロイン」たちと家族のような絆を育んでいた。▼しかし、このゲームには回避不可能な「全滅イベント」が存在する。 ▼シナリオ通りなら、俺の師匠も、先生も、聖女も、みんな魔人に殺…


総合評価:6952/評価:8.78/連載:27話/更新日時:2026年03月07日(土) 10:02 小説情報

男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴(作者:陽波ゆうい)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

男女比3:1の世界に転生した。▼って、おいこれ、男がチヤホヤされる貞操逆転世界ってやつじゃねーじゃん!?▼野郎が多くなったら、寝取りが増えるだけだろっ。▼だから俺は、女の子にモテることを諦めることにした。▼※カクヨムでも掲載しています。


総合評価:3797/評価:8.03/連載:24話/更新日時:2026年06月01日(月) 22:22 小説情報

あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する(作者:あに)(オリジナル:ファンタジー/日常)

身体がちょいとガタつくけど、大丈夫。▼僕はみんなのお兄ちゃんだからね。▼カクヨムの方にも投稿してます


総合評価:3639/評価:8.34/連載:20話/更新日時:2026年05月16日(土) 17:04 小説情報

急に貞操逆転世界とか言われても(作者:卵全部割れた)(オリジナル:現代/恋愛)

▼急に貞操逆転世界の住人らしき人の中に精神だけ放り込まれた人の話▼


総合評価:6878/評価:8.17/連載:7話/更新日時:2026年05月04日(月) 15:03 小説情報

貞操逆転世界で勇者パーティーの雑用やってます(作者:恋狸)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

四天王の毒を食らって動けなくなってからパーティーメンバーの様子がおかしい気がする▼※掲示板回多め▼カクヨムでも投稿し始めました。


総合評価:16407/評価:8.72/連載:9話/更新日時:2026年03月20日(金) 21:07 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>