偽装された異世界召喚〜最強の偽装スキルで復活した俺は、魔神たちから世界を救う〜 作:石畑サン輔
しばらく山道を歩いた。
ついに、森から開けた場所に出れた。
「ちょ、ちょっと……置いてかないで……」
運動不足が仇になった。
おまけに寝不足で精神的疲労。
ここまで来れた、そんな自分を褒めよう。
レイネは前で立ち止まっていた。
ようやく彼女に追いついたぞ。
体調も回復してきた。
だがそれよりも、道が険しくて普通に息切れする。
そんな俺を見て、レイネはため息をついた。
「あら、白い彼はあんなに強かったのに。
アメハルはすごくだらしがないのね」
「う、うるさいな。これでも全力なんだよ」
正直、もう一回変身してやろうか悩んだ。
ダサい気がするのでこれは隠すけど。
「それよりも、ほら」
レイネは指を差す。
その先には、明かりの灯る集落があった。
小規模だが、明らかに人が住む村だ。
「今夜はあそこで身を隠すしかないわ。
追手が来ないうちに早くいきましょう」
「……追手に、見つかったときは?」
「戦うだけよ。そうならないよう祈ることね」
んな無茶な……。
レイネは村へ続く坂道を下っていった。
ここはアスタフィア王国から、どれくらい離れているんだ?
あとから俺たちを追う奴らがいたとして。
ここまですぐに追いつける距離にもいないはず。
「……っ!」
と、得体の知れない獣の遠吠えが聞こえてきた。
何かが羽ばたいた音もする。
後ろを振り返ると、真っ暗闇の森が。
「……ま、魔物とか平気でいそうだな。異世界だし」
いつ何が飛び出してもおかしくない。
そんな気がする。
俺は急ぐように坂を下った。
「ええ、なので一晩だけ泊めていただきたく……」
「なるほど。そういうことなら歓迎しよう」
「ありがとうございます」
レイネは村の前で、門番らしき人物と先に話をしていた。
丁寧な口調と柔らかい声。
さっきまでの彼女はどこへ行ったのか。
「そちらの少年も?」
「はい、魔物退治の依頼に苦戦しまして。
あのように疲労困憊なのですよ」
魔物退治?
それっぽい理由を捲し立てているな。
「それはそれは。
さあどうぞ中へ、今夜は村の宿屋に泊まるといい」
案外、すんなりと村の門を開けてくれた。
もっと警戒されると思っていたが、安心した。
俺は軽くお辞儀をして、レイネと村に入る。
おお。
村の中は篝火で照らされていて、暗くはない。
森と比べての話だが、安心感というものが違うな。
村人は、数人出歩いているのが見える。
俺たちには目もくれない。
旅人はそれほど珍しくもないのだろう。
「適当に理由をつけてしまったけれど、無事入れたわね」
「適当って……」
「早く宿に行きましょう。
今後の方針を決めないと」
レイネは平静な顔つきで、俺の前を進んでいく。
正直、苦手なタイプだ。
外見はすごく可愛らしい。
俺が出会ってきた異性の中では、彼女の容姿はトップクラスだ。
ただ、それと負けないくらい強気な内面。
どうしても心が萎縮してしまうのだ。
これも、面と向かって女子と話す機会が少なかった弊害か……。
「ここね」
レイネは一軒の建物の前で止まった。
建物の扉を開け、入っていく。
ここが、宿屋?
なんだか古臭いが、こういう文化を受け入れることも大切だろう。
俺は宿屋らしき建物へ足を踏み入れた。
「……いらっしゃい」
かろうじて聞き取れた。
ずいぶん覇気のない歓迎だな。
受付には、目元に隈ができたおじさんが立っていた。
黒ずんだ壁。
軋む床。
年季が入った宿屋らしいが……少し不気味だ。
「何名で」
「2人」
「部屋は2つでよろしいかな?」
「一部屋でお願いするわ」
「え!?」
流石に聞き流せなかった。
なにをスムーズに会話してるんだ!
今、一部屋と言ったのか?
「なによ?」
レイネは文句でもあるのかという目をして振り返った。
不意に殴られたかのような衝撃。
それはつまりこの美少女と俺が、一緒の空間で寝るということで?
その経験を今日ここで!?
「ど、どうして?」
「別にあなたと同じ部屋でも気にしないわ。
それに一部屋の方が安いし、何かあったとき動きやすいでしょう?」
いいんですか!?
願ってもない申し出だが……。
「それはそうだけど、こっちが気にするというか。俺、一応男ですよ?」
仮にも男子高校生だった者だ。
一般童貞に、いきなりその刺激は強いぞ。
多少の動揺と緊張は当たり前、だろう!?
俺のぎこちない様子に、レイネはジト目になった。
「なに? ……変な想像でもしたの?」
「い、いや!?」
図星です。
強く否定したが、逆に怪しかった。
断じて、その「変」とやらを期待しているわけではなく!
「ふん、安心なさい。
もしあなたがその気になっても――」
レイネは静かに笑った。
「容赦なく、燃えカスにするだけだから」
否、笑っていない。
声色と心が、明らかに。
「一部屋で」
「そうかい。奥の4号室だよ」
彼女はおじさんから鍵を受け取った。
スタスタと、無言で宿屋の階段を上がっていった。
「もえ、かす?」
こわい。
それに尽きる表現だった。
怒らせるとまずいタイプか。
こりゃ、余計なことは言わないほうがいいぞ。
漫画のようなお約束は、妄想程度に控えるのが身の為だな。
「はぁ……」
身体、精神ともに疲れた。
俺はため息をつき、階段に向かおうとする。
「待ちなされ、お客さん」
「はい?」
突然、呼び止められた。
受付のおじさんだ。
こっちにおいでと手招きしている。
「ずいぶんとお疲れの様子。
これを差しあげましょう」
そう言って何かを差し出された。
これは……包み紙?
紐で硬く結ばれた、手のひらに収まるくらいのもの。
「えっと、これは?」
「安眠効果のある薬草ですよ」
「薬草?」
「これを火で焚いて置いておけば、今夜はぐっすりと眠ることができるかと」
「へぇ、そんなものが」
火で焚く。
お香みたいな、良い香りが出るのか?
この世界の嗜好品的なものらしい。
「もらっていいんですか?」
「ええ。宿屋のサービスなので、お気になさらず」
良いサービスだ。
ただより嬉しいものはない。
おじさんの所作は丁寧だった。
見た目や雰囲気だけで判断するのはよくないか。
若干の抵抗はあったが、薬草の包み紙をもらう。
俺はジャージのポケットに、それを突っ込んだ。
……でも、やっぱり雰囲気は不気味だ。
「あ、ありがとうございます。
これで俺もぐっすりですね……はは」
精一杯の、目上に対する会話を試みる。
すると受付のおじさんは、薄ら笑いを浮かべた。
お化け屋敷のギミックですか?
「ごゆっくり」
「は、はは」
もう耐えられない。
俺はそそくさと階段に向かった。
とはいえ、せっかくもらったし焚いてみよう。
なにせ今の俺には魔力がある。
小さな火ぐらい、自分の魔法で出してみせるとも。
「っと、部屋は……4号室だったか」
ギーギーと鳴る床。
階段から、4つ目の扉の前まで歩いていく。
壁に燭台がある。
照らしているのは僅かな範囲だけだ。
この細長い廊下を進むたびに、恐怖を煽ってくる。
「なんでこんなに暗いんだ。
明かりぐらいもっとつけてくれよ……!」
真っ当なクレームだろう。
いくらなんでも設備不足だ!
異世界ではこれが常識なのか……?
ちなみに、俺はお化け屋敷へは行かない派。
別にビビリなわけではない。
必要ないから行かないだけだ。
何事も明るい方がいい、そうだろう?
目的地の部屋に着いた。
さっさと扉を開けて、4号室の敷居を跨いだ。