偽装された異世界召喚〜最強の偽装スキルで復活した俺は、魔神たちから世界を救う〜 作:石畑サン輔
6畳ほどの広さ。
木製のシングルベッドと、小さな机と椅子がある。
意外にも窮屈ではなかった。
簡素で必要最低限といったところだ。
「きたわね」
先にいたレイネに出迎えられた。
彼女はベッドの上に腰を下ろしている。
そして部屋に入ってきた俺を、凝視してきた。
「ようやく、落ち着いて話せるな」
俺は備え付けてある机へ向かい、椅子に腰掛けた。
彼女の隣に座る度胸はない。
「じゃあ改めて……君が何者なのか聞かせてほしい」
「いいわ。
アメハルは人畜無害みたいだしね、教えましょう」
どういう評価に落ち着いたんだ?
でも、信用してくれてなによりだ。
レイネは一呼吸して、話し始める。
「私は、この世を荒らす悪――魔神を殺すために旅をしているの」
彼女の目的が明らかになった。
度々出てくる、魔神という存在。
それを倒す旅ねぇ……。
「そもそも、魔神って?」
「200年前、勇者に退治された魔王と入れ替わるように、奴らは現れた。
そして、多くの国を壊滅に追いやった」
それが魔神。
まるで漫画みたいだ。
でも、実際にあったであろうお伽話らしい。
魔王を倒したと思ったら、次は魔神です。
……なんて、たまったもんじゃないな。
「当時の勇者が戦って、なんとか相討ちまで持っていったらしいわ。
けれど、魔神の存在は世界各地で確認されている」
「それが、あのフェイルノートだったと」
「魔王に引けを取るどころか、はるかに超えた力を持った巨悪の怪物……それが魔神よ」
噛み砕いて、要約しよう。
とんでもなくヤバい奴ってことか。
レイネはそれを相手に、戦うと言った。
「聞いただけでかないっこないって感じだけど、どうして――」
「私の兄は魔神に殺された」
なぜ魔神を倒したいのか。
そう聞く前に、レイネは言った。
「だから殺し返す。兄の仇を取る。
シンプルだけど、これが私の強い原動力なの」
それは至極当然で、真っ当。
正義のためではない。
あくまで私欲。
レイネの瞳を見た。
そこには、憎悪のような感情が含まれている気がした。
「あー……そうなんだ」
俺は反応に困った。
目線を逸らし、素っ気ない返しをしてしまった。
復讐のため、か。
……家族を失う辛さは理解できる。
他人に奪われたのなら、なおのこと。
一生消えない傷をつけられた。
であれば、その怒りを捨てることは不可能だろう。
「長く旅をしてきてようやく、魔神の1体がアスタフィア王国にいることを突き止めることができたの」
レイネは俯き、声のトーンが下がった。
……魔神の1体?
「ちょっと待ってくれ。魔神って、フェイルノートだけじゃないのか?」
「そうよ、全部で3体いるらしいわ」
その事実が驚きだ。
フェイルノートの他にあと2体?
「なのに……魔神と戦うどころか、眷属に遅れをとるなんて笑い話ね」
レイネは渇いた笑いをこぼす。
彼女は自分の短剣を、強く握りしめていた。
眷属っていうのは、アルタのことか?
恐ろしいほど強かった。
それでいて容赦がなかった。
フェイルノートを打倒する前の問題だ。
あのアルタよりも魔神が強いことになる。
おまけに国そのものが操られている、と。
それをレイネ1人だけで、成そうとしていたとは。
まさに鬼畜難易度じゃないか。
「でも俺を助けてくれた。おかげで、こうして生きてる」
「ただの、なりゆきよ……」
謙遜できたんだ。
そんな言葉が頭に浮かんだが、言わなかった。
強気な彼女が、弱気になっていたから。
……俺に、できることはないか?
恩返しというやつをしたい。
レイネが可哀想に見えた。
なんでもいいから、言葉をかけてあげたかった。
『すべての魔神殺し』
ふと、脳裏をよぎった。
誰かがそうつぶやいていた。
でも誰だ? いや、誰でもいいか。
気づけば口は、自動的に開いている。
――待て。
気軽に言っていいのか?
「大丈夫。これからは俺も手伝うつもりだ、だからなんとかなるって」
言ってしまった。
楽観的で、馬鹿っぽい。
お人好しにも似つかない、無責任なセリフを。
「いいじゃん魔神討伐。魔王退治よりもすごい感じがしてさ!」
「……え?」
そうだ。
今ここには俺がいる。
慰めになるかはわからない。
目的は一緒なんだ。
協力すれば、突破口は見えるはず。
「どうして、まだ手伝ってほしいなんてお願いは……」
「ん? あれ、なんでだっけ?」
魔神を倒さなきゃいけない。
そんな気がする。
疑問に思う前に口が動いていた。
善意?
それとも、雪辱を晴らしたいから?
「まあいいか。とにかくもう休もう、体がクタクタでしょうがないんだ」
「……そう、ね。ますます、アメハルのことがわからなくなったけれど」
俺たちは一旦切り上げた。
疲れた体を癒す方向にシフトする。
しかし、ベッドが一つしかないということは。
どっちかが床に寝るわけにもいかない。
やはり一緒に寝るほかないのでは――
「あ、そうだ」
俺は話を和ませるものを思い出した。
「受付のおじさんから、リラックスできるものもらったんだよ。つけてもいい?」
「リラックスできるもの?」
俺はさっきもらった包み紙。
ポケットから手のひらに出して、レイネに見せる。
「それは……」
するりと紐を引っ張る。
紐は想定していたよりも硬く結ばれていなかった。
俺は中身を見るために、封を解こうとした。
「火の魔法って使える? ぜひご教授――」
「ダメ、捨ててッ!」
なぜかレイネが、ベッドから飛び出した。
どうしたんだ。
必死に手を伸ばし、焦った顔をしている。
彼女の声が、異様にスローに聞こえるが……。
「はい?」
熱い。
手のひらでジリジリとした痛みが走る。
熱々のやかんを、直に触ってしまった時のような。
何事だ。
俺は下に目線を落とす。
赤と黄色の光が、飛び込んできた。
瞬間。
目の前が爆ぜた。