偽装された異世界召喚〜最強の偽装スキルで復活した俺は、魔神たちから世界を救う〜 作:石畑サン輔
「うわっ!?」
反射的に、両手で顔を覆う。
「つぅあ、あ?」
やがて光が収まって、周りを見ると――
「――成功した? あれ、失敗だと思ったけど」
「え……?」
知らない場所だった。
広くて明るい。
洋風の王室みたいな空間だ。
床や壁に物が散乱している。内装は妙に綺麗で、なかなか見応えがある。
ってちがう、そうじゃない!
「……なんだここ」
今見ているのは夢、それともVRか?
これは現実なのか?
その区別がつかない。
いきなり場所が変わるのは、異常でしかない。
意識ははっきりしている。
なにより、気分がすこぶるいい。
さっきまでの記憶も鮮明で、状況だけが意味不明だ。
いや、そんなことよりも。
目の前にいるこの人は、誰だ?
「――僕の世界へようこそ。
さっそく確認だけど、君は異世界からきた人間でいいのかい?」
実に可憐な、美しい少女がそこにいる。
若干低めの、落ち着いた声のトーンだ。
膝まで伸びた銀髪。
引き込まれるような蒼い瞳。
幼すぎず、大人すぎない容姿だ。
黒と青のドレスに身を包んでいる。
少女はコツコツと靴音を立て、俺の前にやってきた。
「え、えーっと……?」
単に美しいだけじゃない。
何もかもを見透かしたような、優しい笑顔で俺を見ていた。
総括すると、心を奪われてしまいそうだった。
「い、異世界? ここって異世界、なんでしょう、か?」
タジタジになって聞いた。無理ないだろう。
思わず見惚れそうになった。
初見で胸を撃ち抜かれそうなんだ。
すると少女は、不思議そうに首を傾げた。
「おや、僕たちと同じ言語だ。どこかの辺境地から呼び出しちゃったのかな?」
少女はずいっと顔を近づけてきた。
ち、近いよ!?
距離感が無垢な動物と変わらない気がする!
「でもその格好は変だね、見たこともない」
彼女の俺を吟味する視線が妖しい。
それでいて、ドキドキさせるようなその笑み。
とろけそうな声色も相まって、緊張が――
「主様、彼は混乱しているようです。
主様の美貌に見惚れて、会話もままならない様子」
奥から声が聞こえてきた。
白と金の鎧を着た、騎士風の女性がいた。
ブロンド髪でポニーテール、凛々しさがある。
「彼の体に魔力は感じません。魔道具は機能していないみたいですね」
「魔力がない……ということはゼロなのかい?」
鎧の女性は、望遠鏡のようなもので俺を見てきた。
え、なに?
どういう世界観のセットなの?
「おっと失敬。やっと成功したのが嬉しくてつい……ね」
このシチュエーションは見覚えがあるぞ。
そう、確か異世界もののアニメだったか。
召喚された主人公が美少女にお出迎え……?
待ってくれ。
それじゃあまるで、俺が本当に異世界にきてしまったみたいじゃないか。
主様と呼ばれた少女が、咳払いをした。
「では改めまして、僕はフェイルノート。
この世界の神様だよ。そしてここ――アスタフィア王国の王でもある」
「は、はぁ……?」
少女はフェイルノートと名乗った。
それも、神と王を自称して。
インパクトのある自己紹介だな。
アスタフィア王国なんて名前は聞いたことがない。
俺が知らないだけか?
「はい、僕の自己紹介はおわり。
さあ、次は君の名前を聞かせてほしい」
どうしたものか。
正直に名乗った方がいいのだろうが、不安だ。
簡潔すぎて、素性もわからない相手だぞ?
俺は数秒沈黙した。
導き出された答えは単純だ。
まあ――可愛いからいいか!
「……曇、雨晴です」
「クモリアメハル、珍しい響きの名前だね。
召喚は成功したようだ。ね? アルタ」
鎧の女性はアルタと言うらしい。
アルタさんは嬉々として、こちらに駆け寄ってきた。
「はい、私も確かに見ました。主様の召喚陣から、彼が呼び出されるところを!
偉業を成し得たこの場に立ち会えて、私は光栄です!」
「召喚陣? うわっ」
今俺が立っている床。
そこには綺麗な円の、召喚陣なるものがあった。
複雑な模様で、赤い色だ。
ゲームで見たことはある。
現実で見るとなかなか精巧で、迫力があるな。
「フフ、そうだろう? 僕も嬉しいよ。
エルド以外に他の世界があることを証明できた。これで、次の段階に進めるよ」
フェイルノート様は髪を掻き上げ、胸を張った。
その様子に、アルタさんは興奮したように賛美を送る。
「はい! 私も心待ちにしておりました。
主様に仕える騎士として、これほど誇らしいことはありません!」
これが、異世界語だとでもいうのか?
どう聞いても流暢な日本語だ。
外国人特有のイントネーションもない。
俺は今すごく落ち着いている。
数分前まであんなに落ち込んでいたのに、だ。
目の前で繰り広げられる百合の空気のせいか?
なぜかは知らない。
妙に心がスッキリしているような……?
「さて、じゃあアメハル。僕に従ってくれるかい?」
フェイルノート様に笑顔でそう言われた。
だから俺は咄嗟に答えてしまった。
「ん? えっと、従うって……なんの話でしたっけ?」
――その瞬間、空気が変わった気がした。
しん、と音が吸い込まれたかのように消えた。
フェイルノートもアルタさんも、微動だにしない。
目を見開いて、俺を見てくる。
え……なんだ?
空気が一気に冷えた気がして、息が詰まった。
この静寂は体に毒だ。耐えられない。
話しかけなければ。
「……あ、あの? どうかしました?」
急に黙ったフェイルノートに聞く。
すると、彼女は笑みを浮かべた。
「ううん、ごめん。何でもないよ」
いたって平然だ。
けれど、あたたかさを感じない。
さっきまでとはまるで、別人のようだった。
「そうだ! アルタ、アメハルに王都を案内してあげてよ。実際に見てまわったほうが楽しいと思うし」
「はっ! その責務、喜んで拝命いたします」
さっきの静寂がなかったかのようだ。
話が急に進んでいく。
俺が口を挟む余裕なんてなかった。
「ごめんね、僕はまだやるべきことがあるんだ。
悪いけど、あとはアルタが説明してくれるよ」
「はぁ……そうなんですか?」
「ではアメハル様、王都にお連れいたします。さ、こちらへ」
異世界の王都か。
どんな場所なのか非常に気になる。
気にはなるのだが……これでいいのだろうか?
「じゃあね、アメハル。そしてありがとう」
お礼を言われた?
ありがとうって、何に対しての?
その声がやけに明瞭に聞こえた。
俺はアルタさんと共に、この部屋を後にするしかなかった。