偽装された異世界召喚〜最強の偽装スキルで復活した俺は、魔神たちから世界を救う〜 作:石畑サン輔
俺は部屋を出て、真っ先に驚愕した。
「……おぉ、壮観ですね」
目の前に広がるのは、広くて長い廊下。
太陽光に照らされて美しく光る、白い石造りの床。
規則正しく並ぶ柱と点在する扉。
これが本物の城かぁ。
異世界に来た実感が湧くというものだ。
「アスタフィア王城です。この国の根幹、とも言えます」
アルタがさっと横に立つ。
やわらかな声でこの場所を教えてくれた。
召喚される前は、深夜だったはずだ。
元いた世界と時間軸も違うのだろうか。
太陽光は昼に浴びるものと相違ない。
「改めて、私は騎士のアルタと申します。
これから王都へご案内いたしますが、その前に」
アルタが俺の足に視線を向けてきた。
そういえば俺は今、直の靴下で床を踏んでいる。
召喚されたのは、自分の部屋を出た直後か?
「《エルダ・ダーク・ボックス》」
「え」
彼女が手を差し出すと、空気が微かに揺れた。
黒くて淡い光の渦が生まれていた。
魔法陣みたいなものが出現して、クルクルと回っている。
次の瞬間には――アルタの手に銀色の靴が収まっていた。
「こちらをお履きください。サイズは合うはずですよ」
「……マジでか」
アルタはにっこりと微笑む。
俺は戸惑った。
放心しながら、差し出された靴を受け取った。
「――すごい!」
今のってひょっとして、魔法!?
何もないところから物を出してみせたぞ!?
四次元ポケットみたいに!
ゲームとは違う、本物の魔法をこの目で見たんだ。
内心興奮しながらも、あまりはしゃがなかった。
アルタさんが、首を傾げていたからだ。
俺の「すごい!」は、ここじゃ普通なのかもしれない。
渡された靴を履く。
思ったよりも、しっかりと足に馴染んだ。
それはそれとして、ジャージと鉄製の靴はちょっとミスマッチな気がするが。
「ではいきましょう。私の後についてきてくだされば」
「は、はい」
そう言われて、俺はアルタさんの後に続いた。
長い通路の奥へと歩いていく。
俺の想像通りの、中世風のファンタジー世界。
魔法の概念があることもわかった。
「異世界、異世界……」
なんか呼吸が荒くなってきたな。
無意識に独り言が出てしまった。
そうだ、将来を考えずに済むことを喜べ。
ひとまずは、元の世界は忘れてしまってもいいだろう。
しばらく歩いて、城から広い庭に出た。
丁寧に手入れされ草木。
鳥のさえずりが耳に心地よく届く。
人影はなく、どこか不思議な気配がする。
「今は皆、王都での職務に出払っています。
主様がいらっしゃいますので、警備は無用です」
アルタが前を歩きながら説明してくれた。
あのフェイルノートという神様。
小さくて可愛らしい見た目だったが、ああ見えて実は武闘派とか?
「馬車に乗って移動します。アスタフィアは歩くにはここから少し距離がありますし、なにより快適です」
アルタが指差す先には、馬車が用意されていた。
二頭の馬がブルルと踏み鳴らしている。
馬車に乗るなんて、当然初めての経験だ。
「アメハル様、後ろの席へどうぞ」
「ああ……どうも」
アルタが軽く頭を下げ、扉が開く。
いかにも騎士っぽい仕草に思わず照れてしまった。
俺は奥の席に座り、反対側にアルタ。
馬の操縦席には、全身鎧の人がいる。
馬車はバチンと音を立てて、静かに動き出した。
ガタガタと揺れている。酔わないといいが。
「なにぶんこの城は、山の上にありますので、王都へは少々時間を要します。
それまで、あなたの疑問にお答えいたしましょう。と、窓の外をご覧ください」
アルタさんの視線に誘導され、俺は窓の外を見た。
目に飛び込んできたのは――
「我らが星見の国、アスタフィア王国です」
山と森に囲まれながらも、存在感を隠せない国。
時の重みを感じさせる建物たちが、ひとつの都として静かに息づいていた。
俺は改めて、異世界にやってきたと実感した気がした。
緩やかな坂道を、右に左にと揺れながら進んでいる。
景観は見事なものだ。
ずっと外を眺めていても飽きない。
だが、この景色よりも大事なことがある。
「質問、してもいいんですか?
あえて言われるまま、何も聞かずについてきちゃいましたが」
「えぇ。アメハル様の数多の疑問を晴らす、そのお手伝いをさせていただければ」
アルタにそう返されて、少しほっとした。
ここまで色々聞きたくて仕方がなかった。
「じゃあ、遠慮なく。
――なんで俺はこの世界に呼ばれたんですか?」
そう、これが問題だ。
召喚されてすぐ確認すべきもの。
なぜ俺が召喚されたか、それをまだ説明されてない。
どうか魔王を倒して、とか。
世界を救うのにあなたの力が必要なんです! とか。
今のところ、それがない。
ただ呼ばれてどこかに連れていかれるだけだ。
これじゃあ目的もわからないまま、なんとなくでクエストを進めるみたいなものだ。
だから、まずはこの疑問を解消しておきたい。
「残念ですが、お答えできません」
「はい?」
聞き間違いか?
お答え、できません??
もっと耳を澄ませてみよう。
「主様にその許可をいただけていないのです。
申し訳ありませんが、別の質問を」
「…………はい?」
もう一度聞いても、そう聞こえたな。
あんたが質問に答えるって言ったんでしょうが。
俺を召喚した理由を、話せないだって?
最も知りたいことを知れないというのか。
俺はその事実に、姿勢が前のめりになる。
「いや、いやいやいや。何か理由があって、俺を呼んだわけですよね? たとえば、俺が勇者で、魔王を倒してほしいとか――」
「魔王はすでに勇者によって滅ぼされました。
この世界に脅威とされれる者はいません」
いるのかよ勇者。
しかも魔王はもう倒されてるし。
「それじゃあ、俺はなんのために?」
「ご安心を。主様はあなたの来訪を次へ活かしてくださいます。人類は救済され、新たな時代が訪れることは、すでに約束されたようなものなのです」
アルタは祈るように、手を合わせて言った。
まるで意味がわからない。
救済ってなんだよ、曖昧すぎるだろ。
俺の質問と答えが合ってませんよ!?
「……そ、そうですか」
俺は反射的にそう返した。
揺れる馬車に身を委ねて、もう一度外を眺める。
もしかして俺は、やばい連中に呼ばれてしまったのではないか?
この短時間でそんな可能性が浮上した。
「他に気になることはありますか?」
ねぇよ。
と、はっきり答えられる度胸はない。
気になることって言ったってなぁ――
「……アスタフィアの、名物とか教えてくれますか」
「大星見鏡にプロキオ博物館。食べ物ならシルバーボアの串焼きが美味しいですよ」
聞いておいてあれだが、立て続けに知らない単語を並べないでほしい。
心なしか頭がクラクラしてきた。
寝不足のせいか? 徹夜が続いたからな。
それとも、俺を呼んでおいて蚊帳の外にしてくるこの対応のせいか?
「遠慮なくご質問ください。あぁ、アスタフィアの歴史について解説でも」
「いえ、大丈夫です。ちょっと頭が痛いので、仮眠取ってもいいですか」
「これは、失礼しました。ですが何かあれば、すぐにこのアルタをお呼びいただければ」
アルタは穏やかに微笑む。
その反対に、俺は苦笑いを浮かべてしまった。
質問はひとまずもういい。
これ以上、頭痛を引き起こさないためにも……。
――――
「到着しましたよ、アメハル様」
アルタの声。
眠りかけた俺の意識が覚醒した。
ガラガラと、道を進む音が聞こえる。
窓からチラリと見えたのは、人の建造物。
目線を落とすと、人間のものらしき頭が通っていく。
他にも、動物の耳らしきものがついた頭が――?
俺は思わず身を乗り出した。
「おぉ!?」
こ、これが異世界の王都!?
決して素朴ではない、家の造りと色。
自然ながら統一された彩り。
これらがこの国の豊かさを表している気がした。
道には、星模様のペイントか?
星空をカラフルに描いたような道が、奥までずっと続いていた。
見ていて心が晴れる色合いだ。
まさに異文化の街並み。
異世界っぽい!
「これから王都を順に回っていきます。
気になるものがありましたら、馬車を停めますのでお声かけください」
アルタさんが観光ガイドみたいになっている。
胸が高鳴った。
目に映るすべてが新しい。
異世界万歳!
「あそこに見えますのが、アスタフィア王国が誇る大星見鏡です」
あのドーム状の建物のことか?
大星見鏡ってさっき言ってたやつだな。
「天体を拝むために作られた装置です。天文と魔法の向上に大きく貢献しています」
――魔法。
俺の心は一気に跳ねた。
「魔法、魔法っていいですよね。ファンタジーの代名詞と言ってもいいくらい」
そう魔法は人類の夢。
使えたらハッピーになれるもの堂々の第1位!
俺は長いことそれに憧れていたんだ。
「魔法をご存知ですか? 魔法は私たちの世界において欠かせないものですが、アメハル様の世界にも存在するのですね?」
「……あるかは知らないけど知ってるというか。とにかく、ここの魔法について知りたいというか!」
自分の欲を隠さずアルタに訴えてみた。
今のところ、俺は異世界に召喚されただけの一般人だ。
日常でさりげなく魔法を使って、スマートに暮らす。
そんな生活を送りたいという願望がある!
「では、近くに魔法訓練場があります。そこで実際に説明いたしましょう。冒険者ギルドへ向かってください」
「冒険者、ギルド!?」
なんてことだ。
まさか、想像していたままの組織があるのか……?
期待を膨らませながら、馬車に揺られる。
本物の神秘が、俺を待っているんだ!