偽装された異世界召喚〜最強の偽装スキルで復活した俺は、魔神たちから世界を救う〜 作:石畑サン輔
夜の街の中心に、俺は悠然と立つ。
心地いい。
さっきまでの不調が嘘みたいだ。
瀕死から快調へ、そんな劇的な変化を遂げたのだ。
「俺はオーバーキャスター。略さず呼べよ」
偽装という言葉。
それを口にしたとたん、状況は一変した。
謎の声。
突然生えた力。
なぜ死ななかったのか。
契約とは何か――
気になるが今は置いておこう。
目先の目標は、敵の打倒だ。
新たにこしらえた姿で、アルタと対峙する。
「オーバーキャスター……?」
アルタが困惑していた。
無理もない。
顔つきは似ているようで異なる。
背丈も伸びている。
髪色は黒から白へ反転した。
筋肉だって、前より発達している。
「これなら戦える、今の俺は最強だ!」
拳を握り締めた。
両腕を上げ、この歓喜を解放する。
この奮い立った昂りを、抑えられるはずがない。
学校指定のジャージから、戦うための服装に。
ボロついたマントもちゃんとある!
「なにが――」
赤髪の女の子も、端っこで愕然としていた。
大丈夫。
コイツは俺がなんとかする。
そう語りかけるような顔を向けてあげた。
女の子はさらに困惑するようだった。
「話が違いますね。
今、貴方から感じ取ったのは間違いなく魔力。
まさか隠していたのですか?」
アルタはそう言って剣を構えた。
不愉快だ、そう言わんばかりの目をしている。
魔力。
あの、力が湧き上がるような感覚のことか?
でも、そんなのはどうだっていい。
「俺にはわからない。
この世界やお前たちの目的、俺の身に起こったことさえも」
重要なのは、戦う力を手に入れたこと。
この局面をなんとかする希望だ。
だから言ってやる。これからすることを。
「だから、騎士アルタ。
とりあえずお前を倒して、それから考えるよ」
俺はアルタを指を差した。
この宣言はハッタリなんかじゃない。
それができる確信が今の俺にはある。
「……大きく出ましたね」
不機嫌ながら笑みを浮かべたアルタ。
彼女は、剣を前に突き出した。
「貴方が有力な人材だと証明できたのなら、処遇を変える検討をしていただけるかもしれませんよ」
「んー、それはいい。どうせまた裏切られ――」
最後まで言い終わっていない。
にも関わらず、アルタはこちらに迫っていた。
曇雨晴には、認識できなかった速度だ。
俺はアルタの剣を片手で止める。
「ッ!」
「ひどいな、話してる途中はなしだろ」
身体能力も問題なし、と。
掴んだ剣を離してやる。
その一瞬の隙をつき、蹴りをお見舞いした。
よし、動ける。
本当にオーバーキャスターになっているんだ。
「ぐっ、今のは……魔力が込められていない?
純粋なパワーでこれを?」
アルタは勢いよく後退した。
彼女は体勢を整え直し、地面を軽く踏みしめている。
「《ヴェルト・シャイン》」
どんなに速かろうが、今なら追える。
光を帯びたアルタが突っ込んできた。
それを難なく躱せてしまうほどには、余裕だ。
「本当にッ、先ほどとは別人ですねッ!」
アルタは俺の後ろにまわる。
そして、驚異的なジャンプ力で上へ跳んだ。
「《エルダ・シャイン・ホークス》!」
カッと空が光った。
まるで流星群だな。
鳥の形をした光弾が、無数に落ちてきているのが見えた。
当たればひとたまりもない。
であれば、あれらをすべて避けるだけだ。
地面を蹴って、走り抜ける。
降ってくる光の雨を、当たる寸前で躱していく。
「おっ」
移動していたその先に、アルタが待ち構えていた。
光弾が破裂した土煙の中だ。
まだ空中にいたはずじゃ?
猛スピードで先回りとは恐れ入った。
「《ヴェルト・シャイン》」
薙ぐように放たれた、極光の刃。
俺を斬ったときと同じ軌道だ。
だが速度が増している。
おそらく威力も。
だが見える。
動きを合わせられる。
二度、同じ目に合うつもりはない。
「――驚きました、これを防ぐとは」
タイミングよく剣をぶつけた。
彼女の剣の勢いを相殺する。
「驚くなかれ、初期装備は絶対に壊れない!」
この剣は、サービスと同時に配られた剣だ。
故に良心設計。
破壊不能武器として、プレイヤーたちに好評だった。
内心ハラハラはした。
果たして、その性能のままなのかと。
想定通りで助かった。
アルタの剣の重み。
それがズシンと体に響いた。
若干腕がぷるぷるする程度で、本当によかった。
「私の剣を、そんな質素な剣で耐えるとは……」
「GKOは親切なゲームなんだ。
ルーキーに配られる武器の耐久度は無限なのさ」
運営万歳。
どうしてサービス終了したんだ運営。
「ふふ……何を言っているのかわかりません」
身体能力は上々。
武器も設定通りとは。
これが偽装? 本物そのものじゃあないか!
このまま、俺のペースに持ち込んでやる。
「性格、変わりましたか?
あの弱腰の情けない貴方は、どこへ行ったのですか?」
「これが俺だからな」
「その自信に満ちた態度を、崩したくてたまらない」
「なに――」
剣が、重く……!?
片手で余裕を見せていた。
それを両手に持ち変えて、支えるほどまでに俺が押されている?
「私は星国を守護する1人の騎士。
ゆえに、それ相応の力を持たなければならない」
まずい。
押し負けそうだ。
アルタの体に帯びている光。
それがだんだんと強くなっていってる気がする。
「私の魔力総量をみたでしょう。
全力でも、2時間の戦闘継続は可能です。たっぷりとお相手して差し上げます」
キラキラと輝いている。
あれはアルタの魔力というやつか?
なんて威圧感と神々しさ。
「いいぜ……望むところだ」
啖呵をきった手前、ビビるわけには――
「はっ!? はいっ、主様ッ!」
「あ?」
ふっと軽くなった。
剣にかかっていた重みが消えた。
アルタの輝いていた光も、急激に弱くなって……。
彼女は、空を見上げて笑った。
「はい、はい。それは……はい、承知しました」
誰かと、話している?
アルタはどこかと交信するように、こめかみを押さえている。
俺との戦いを放置して。
アルタは、剣を下ろした。
「主様はこうおっしゃいました。
『クモリ・アメハルを生け捕りにしろ』と」
「はあ?」
俺の方に向き直って、そう言った。
「つまり、評価が逆転したということ。
おめでとうございます。貴方はフェイルノート様に認められたのです!」
「バカにしてんのか?」
俺の口角がピクリと動いた。
おかしさではない。
苛立ちからだ。
絶対剣は下ろしちゃダメだ。
油断もするな。
曇雨晴のように、考えなしで動くのもやめろ。
「認められて、なんだって?」
「今後の召喚実験のために、生かしてくださるとのこと。
喜ばしいことです、手足は取られても少しは長生きできるかと」
「上等だよ。なぁにが騎士だ、悪党め」
はっきりしたのはいいことだ。
気兼ねなく、本気で武器を向けられるというもの。
絶対後悔させてやる。
「じゃ、今度はこっちからいかせてもらおうか。
遠慮なくぶちのめして――」
前へ飛び出そうとした。
その時、強い力によって後ろへ引っ張られた。
「ぐうぇっ!?」
だ、誰かに服の襟を掴まれている!
いや、すぐにその手を離したぞ!?
「どわッ!」
体が浮く。
俺はびたーん! と、地面に墜落した。
気づくと、路地裏の入り口だった。
「いって……なにすん――」
上を見上げると同時だ。
俺の手首がガシッと掴まれた。
「立って、逃げるよっ!」
「あぁ!? って、いたなぁそういえば」
謎の赤髪美少女じゃないか。
自分のことに手一杯で忘れていた。
さっき脱いだ黒いローブをまた着ていた。
掴まれた俺の手首を引っ張ってくる。
こっちにくるようにと促してきた。
「てっきりもう帰ったのかと」
「ずっといたわよ。それより、この国を出るわ。あなた正気なんでしょう?」
正気?
あぁ、そうだ。
剣を持ち直し、その場を立ち上がる。
「いや、俺は戦わないと。
まだボス倒せてないしな」
「私と一緒にきて。逃げる方法が…………え?」
負けたままなんだ。
これじゃあ気はおさまらない。
離れてしまったアルタの方へ、俺は歩こうとした。
「また逃げるつもりですか? 私としては、穏便に済ませたいのですが」
どの口が言っているんだ。
と、言おうとしたところで、何か音が聞こえてくる。
これは、足音?
それも一つじゃない、たくさんだ。
大通りの奥を見てみると――
「あれは……」
人が集まってきていた。
あれは、アスタフィア王国の住民たちか?
続々と、アルタの周りに集まってくる。
みな、生気を吸い取られたような顔をしていた。
「さあ皆さん、彼らを捕まえましょう。主様が褒めてくださいますよ」
アルタのその言葉が合図になった。
集団が一斉に動き出す。
全員が武器を持ち、無表情でこっちに走ってきた!
「私に、ついてきて」
「でもこのまま逃げちゃ、格好がつかない。ただでさえひどい目にあったのに――」
「格好!? それなら私カッコ悪すぎてしぬわ!
とにかく今は、ここを離れるべきよ!」
赤髪の女の子は声を張り上げた。
体を翻し、路地裏に走っていく。
彼女を追うべきか?
そもそも信用してもいいのか?
この姿でまた敗走するわけには――
「ああクソッ、おぼえとけ!!」
考えている暇はなかった。
屈辱だ。
いつか必ずこの決着をつけてやる。
心の中でそう誓った。
俺は多勢の敵に背を向け、少女の後を追った。