偽装された異世界召喚〜最強の偽装スキルで復活した俺は、魔神たちから世界を救う〜 作:石畑サン輔
「お前の名前は!」
走る。
ながらで、赤髪の女の子に名前をたずねた。
彼女は振り返って答えてくれる。
「レイネ。呼び方は任せるわ」
「じゃあレイネ、逃げる方法があるんだよな? 俺はどうすればいい!」
レイネはアルタたちと敵対している。
事情は知らない。
今信じられるのは、彼女だけなんだ。
「この先に、私が描いておいた魔法陣がある。
そこまで駆け抜けるわよ」
魔法陣がある場所?
俺を呼び出した召喚陣を思い出す。
それは、一目見ただけでわかるものなのか?
「それまで捕まらないように……まえッ!」
彼女に指摘された方向。
道角で、男が待ち伏せしていた。
男の持つ斧が、俺に振りかざされる。
「あっぶねぇなぁ!」
俺は剣を無造作に振った。
金属が擦られる音が鳴る。
斧を咄嗟に剣で受け流せた。
素早い動作で、男をなぎ倒す。
「……《アルマ・ファイア》」
「ッ! 《ヴェルト・サンダー》!」
レイネは赤い雷を纏った。
彼女は俺を守る形で前に出る。
前から、火炎放射が飛んできていた。
それを切り裂き、炎を払う。
「めんどうね、囲まれてる」
いつの間にか囲まれていた。
ぞろぞろと、アスタフィアの住民たちがやってくる。
前と後ろ、多勢で俺たちを挟んでいた。
彼らの目は、もれなく虚ろだった。
「コイツら、操られてるとかそういう類いか?」
「今の彼らに自分の意思はない。
……全員、フェイルノートに脳を弄られてる」
フェイルノート。
あの可憐な姿が思い浮かぶ。
見た目とは裏腹に、ドス黒いものが渦巻いているのだろうか。
「フェイルノート、ね。
この国はアイツに乗っ取られてるってことか?」
「そういうことになるわ」
この人たちを倒すのは、少し忍びないな。
彼らもまた被害者なんだ。
やりたくてやっているわけじゃない。
よし、素通りだな。
倒さずに逃げる。
最高速で、目的地へ向かおう。
「レイネ、道案内を頼む」
俺は剣をしまう。
流れる動きで、レイネの足を持ち上げた。
許可は待たない。
「え、ちょっと!? なにを――」
困惑するレイネ。
それを無視して、彼女を抱きかかえた。
軽い。
「《エルダ・ファイア・バースト》」
「《エルダ・ウィンド・カッター》」
「《エルダ・アイス・ボール》」
詠唱する声が重なって聞こえてくる。
俺は瞬時に、頭上へ向かって飛んだ。
壁を蹴って利用し、屋根に逃げる。
その直後――路地裏に爆発が起きた。
俺は民家の屋根に乗った。
間髪入れず、駆け出した。
レイネを落とさないように、支えて疾走する。
「まっすぐで、いいんだよなっ!」
「そ、そうだけど……自分で走れるわ!」
「この方が速く着くだろ。あと、舌噛むぞッ……!」
「きゃっ――!」
もっとスピードを上げた。
途中下車の要請は拒否。
強く地を蹴り、屋根から屋根へと飛び移る。
屋根に登ってくる連中が見えた。
それでもお構いなしだ。
風となって、置き去りにするだけだ。
「そこッ、下降りて!」
「了解……!」
俺は示された場所で急カーブする。
即座に民家の屋根から飛び降りた。
魔法陣とやらはどこだ。
イメージ通りの丸い円だろう?
俺の視線の先には、まばゆい光しか――
「《ヴェルト・シャイン》」
アルタがいた。
降りた下には、彼女が待ち構えていた。
手に持つ極光の剣。
それを今、まさに振り抜こうとしている。
「マジかッ!」
速すぎるにも、ほどがある。
ここに来ると読んでいたのか?
こんな一瞬で回り込むとは……!
俺たちは落ちる。
重力に引っ張られ、勢いは止まらない。
「任せてッ、《ヴェルト・サンダー》!」
「は? ぐおっ――!」
レイネの声と同時。
俺の腹が鈍い痛みに襲われた。
レイネが腕の中を離れる。
俺の体を足場にして、飛び出したからだ。
直後に見えたのは、刃と刃がぶつかる瞬間だった。
レイネの、赤い雷をまとった双短剣。
アルタの極光の刃を受け流す。
「《アルマ・サンダー》、吹き飛んでッ!」
「――っ!」
レイネの手のひらで、雷鳴が爆ぜる。
アルタは朱色の雷に飲まれた。
また民家の壁を破って、吹き飛んだ。
「ったく、俺を踏み台にしやがって……」
俺は不恰好に背中から落ちた。
さっきから落ちてばかりじゃないか?
「ここよ、この中に!」
すぐに起き上がる。
レイネが立っている下に、魔法陣があった。
地面が光ってその存在を主張していた。
「い、色々と荒いな」
レイネが、俺に手を差し伸べてくる。
言われた通り、その魔法陣の中へと走って――
「待ちなさい。いっては、いけない」
崩れ落ちる民家の側。
アルタがその奥で呼び止めてくる。
俺はつい、その声に足を止めてしまった。
「逃げてしまえば、貴方は辛い運命を辿ることになる。
何をしようと結果は変わらない、より凄惨な死を迎えるだけなのですよ?」
「ほう、そりゃこわい」
脅しか。
それとも警告か。
俺はアルタに顔は向けない。
ただ耳だけを傾ける。
「偉大なる主、フェイルノート様の眷属として。
最後の忠告です。大人しく捕まりなさ――」
「じゃあな」
聞くだけ無駄だった。
当たり前だ。
誰がそれに従うというのか。
俺は決心した。
必ず、お前たちを後悔させてやると。
「楽に死ぬか、苦しんで死ぬか?
冗談じゃない。その前に、死にたくないんだよ」
俺はレイネの手を掴む。
魔法陣の中に飛び込んだ。
指や手のひらに、ビリッとした感覚が走る。
「《エルダ・サンダー》――」
魔法陣が赤い光を放った。
囲うように迫る住民たち。
彼らを前に、レイネは声を上げた。
「《ライトニング・ワープ》ッ!!」
その瞬間。
雷が落ちたような音が轟いた。
いや……俺たちが雷になったみたいだった。
天へ昇る龍のように。
俺たちは上空へまっすぐに移動していた。
ある高さまで到達したと思ったら。
斜めに、降下し始めた。
「うわああああああ!!」
こわいッ!
これ大丈夫なのか!?
天地が逆さまになる。
高所、急角度からのジェットコースター。
まるで流星だ。
俺たちは今、真っ逆さまに落ちている!
俺は絶叫した。
レイネは無言だった。
落ちるスピードが増している。
地面に激突して死ぬんじゃないか? これ。
俺たちは手を繋いまま、山の中に落雷した。