偽装された異世界召喚〜最強の偽装スキルで復活した俺は、魔神たちから世界を救う〜 作:石畑サン輔
雷が地面に落ちる。
この身をもって、それを体験した。
なかなかできることじゃないな。
「いたい」
雷鳴が轟いた後だ。
俺は土の上を盛大に転がった。
その勢いが止まって目を開ける。
夜の星空が無限に広がっていた。
と、その星空に人影が差し込まれる。
「成功してよかった。
2人での転移は不安だったから」
レイネだ。
大の字で寝転がる俺を見下ろしてきた。
失敗していたらどうなっていたか?
今は聞かないでおく。
「初めて会った姿に戻ってる。
それがあなたの素顔ってことでいいのかしら?」
「え? あ――」
元の、俺だ。
自分の服装はジャージになっていた。
アルタからもらった鉄靴を履いている。
オーバーキャスターの変身が解けた?
おそらく、いつも通り曇雨晴。
さっき力は一体……。
「急いでここを移動するわ。
ついてくるなら好きにして」
「ちょ、ちょっと!?」
レイネは先に歩き出してしまった。
俺は体を起こし、辺りを見渡す。
夜の森だ。
木々が立ち並ぶ山道。
ここに大の字で寝ていたようだ。
アスタフィア王国を囲む山のどこかだろうか。
レイネの背中が離れていく。
俺は迷う。
彼女に、ついていくべきか。
レイネは知っている様子だった。
フェイルノートや、あの国の事情を。
結果的に助けられた。
今この場にいるのはレイネのおかげだ。
……レイネは、信用していいよな?
「待ってくれ!」
意を決した。
ジャージについた土汚れを払う。
信用以前の問題だ。
今は彼女にしか頼れない。
俺は小走りして、レイネに追いついた。
「教えてほしい、何が起こったのか。
……なんで殺されかけたのか!」
レイネは立ち止まり、振り返る。
「それはこっちのセリフ。
私からすれば、あなたが正気を保ってあそこにいたことが異常だわ」
彼女は俺を観察してくる。
目を細めて、見定めるように。
最近ジロジロ見られることが多いな……。
「つい助けてしまったけど、怪しいわね。
まずあなたが何者かを教えなさい。それから話すかどうか決める」
「俺が何者か?」
人畜無害のひ弱な異世界人だよ。
なんて、ふざけているのかと怒られそうだ。
別に隠すこともない。
正直に話そう。
信用を勝ち取るなら、それが手っ取り早いし。
「俺は曇雨晴。17歳だ。
出身は日本で、大好物は寿司。
曇家3人兄妹の次男にして、高校3年生――」
「下手くそな自己紹介ね、まあいいわ」
必死に伝えたつもりなんだが。
レイネは呆れたような顔をした。
「17歳ってことは、私より年下じゃない。
これからは私を命の恩人として、敬いながら喋ること。いい?」
「……俺も君を助けたよ?」
「それは、あの女に少し遅れをとっただけ。
私のおかげで逃げられたんだから、もっと感謝なさい」
態度でかいな。
でもまあ事実だ、文句は言わないさ。
謙虚さを持ち合わせていれば、最高だっただけだ。
「アメハル、あなたはどうしてあそこにいたの」
俺はここまでの経緯を簡潔にまとめた。
そして二言で話す。
「フェイルノートって美少女に、あの国で召喚された。
そしたら、訳のわからないまま殺されかけた」
夕日を背にした、あのアルタの姿。
思い出すだけで恐怖する。
背筋に寒気が走るトラウマを、あの騎士に残されてしまった。
「理不尽にもほどがある。どうしてこんな目に――」
「魔神フェイルノートがそういう奴だから。
簡単なことよ」
レイネは拳を握り締めた。
フェイルノートのことを魔神と、そう呼んだ。
「ま、魔神?」
繰り返すと、レイネは答える。
「知らない? 人類を脅かす敵よ。
人の心に漬け込んで支配する、姑息で卑怯な奴」
「なんだそりゃ……」
この評価からするに、ろくでもない人物らしい。
魔神とは、とんでもなく危険な響きだ。
確かに「神」と名乗ってはいた。
善性とは言えない類いだったというわけか……。
レイネはその魔神と、何か因縁が?
今度はレイネが何者なのかを聞こう。
そう声をかけようとする。
だが突然、体がドッと重くなる感じがした。
「ぐっ……なんだか、急に疲れがきたような……?」
頭が少しクラつく。
膝をついて呼吸をせざるを得ない。
レイネは「あぁ」と答える。
「魔力切れ? やっぱりあの『契術』は、強力な分消費が激しい能力だったのね」
言われたことが半分くらい理解できなかった。
魔力切れ? けいじゅつ?
前者はなんとなくわかる気もする。
だが後者は初耳だ。
「生き返ったのは契約したからか。
その理由なら納得」
「け、けいじゅつ? 契約ってなんの話?」
勝手に納得されては困る。
当事者が置いてけぼりですよ?
呆れと疑念。
レイネはその両方が入り混じった表情をした。
「はあ?」
「……なんだよ」
なんで俺を睨むんだ。
そんな「ふざけているのか」みたいな顔をされても。
「もう契約内容を忘れたの?
悪魔と契約を交わす、それを忘れることは自殺行為に等しい。勝手に破棄すると死ぬって噂の代物でしょう?」
「なにそれ。本当に知らないから怖いんだけど!?」
悪魔と、契約だって?
物騒な内容に胃もたれしそうだった。
そんなものにチェックした覚えはないぞ!?
……いや、待てよ?
もしかしてあれか?
死にかけたあの時に聞こえた謎の声か?
契約がなんたらと言っていた気が――
「ふーん……覚えてないのね、まあいいわ。
せいぜい些細なミスで死なないよう心がけることね」
「軽く片付けていい話じゃないよ! 些細なミスで死ぬことがあるの!?」
命懸けのNGワードゲーム。
知らぬ間にそれに参加してしまった気分だ。
あの力を使うたび精神がすり減るとか、そういうデメリットがあるパターンだろ。
焦る俺とは裏腹に、レイネは平然と駆け足になる。
「無駄話してる暇はないわ。この近くに村があるはずよ、ひとまずそこに身を隠しましょ」
「全然無駄じゃないって!
あっ、ちょっと置いてかないで!」
俺の声は届いていないのか。
レイネの足は速くなっていった。
乗り物酔い。
あと立ちくらみが混ざったみたいな体調だ。
それでも、レイネについていかないといけない。
いくらなんでも酷だと思う。
「……魔力切れ、か。
それってつまり、俺にも魔力があるって意味じゃ?」
あの時、体に湧き上がった感覚。
あれが魔力というやつか。
ついに、俺も念願の魔力持ちになったわけだ。
ここまで流れはすごく悪い。
でもこれで、夢だった魔法も使えるようになる!
……どうして急に魔力が?
俺の魔力量はゼロだと聞いた。
斬られる前まで予兆も何もなかったはず。
死に際で急に覚醒した、とか?
「クソ、何事も十分な説明が要る性格だってのに!」
半病人が行くには、険しい山道。
多くの理不尽に苛つきつつ、ふらふらと登っていった。