ハリーポッター プリムローズ通りの怪物 作:匿名魔法使い
2話 ホグワーツ特急 交差する3つの孤独
本当にここかぁ?
僕は、疑いながら、その柱を見続ける。既に3人がここを通過したのだが、全然入る気にならないよ。だって柱だよ。入る場所じゃないよ
それでも、入らなきゃ、進めない。そう、進めないんだ。意を決して、地面を蹴る。カートがゴトゴトするが、気にならない。僕は、柱をぶつからずに通過することができた
「……本当に入れた」
僕は、時間通りに来たが、コレは既に席が埋まってるかもしれないな。次からはもっと早めに来よう
荷物を取り、カートを返す。そして、急いで特急に乗る。しかし、どこもかしこもコンパートメントは埋まっているなぁ。あ、このコンパートメントは、女の子一人だ
しょうがない、もうここしか無いから、お邪魔させてもらおう
「こ、こんにちは。ご一緒してもいいですか?」
「……どうぞ」
「ありがとう!」
チラリと目線が光るが、少女は、すぐに自分が持ってる本に目を落とす。どうも、僕には何も興味が無いらしい。まぁ、初対面だしね、そんなもんかな
荷物を上にあげ、彼女の斜め向かいに座る。少女が呼んでいる本を見る。魔術の教本っぽいけど、よく分からない。うーん、昨日までに、一応全部読んでみたんだけど、そんなページあったかなぁ
「ねぇ、君。何読んでるの?」
「……高度な変身術の理論書」
「え」
「………はぁ「すごいっ!」っ!?」
高度な変身術の理論書!? すごい、だってコレは、1年生の枠をはるかに凌駕している! 変身術自体は1年生からある授業だから、そこまで難しい術じゃない。けど、高度な変身術の理論書は、たしか、6年生レベルのはずだ!
すごいなぁ!
「すごいなぁ! だって、それ、6年生の本でしょ? すごいなぁ。君みたいな人もいるんだぁ! ホグワーツってすご!」
「…………べ、別に。大した事じゃないわよ。ただ知識としてあるだけで、使えるわけじゃ無いからね」
「えぇ? でも、僕は知らないもん。でも、君は知っている。僕がどれだけ考えても、どれだけ時間をかけても分からないのを、君は知ってるんだ! すごいよ!」
「そ、そう? なら、感謝しておくわ。ありがとう。……そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私は、アイリス。アイリス・フェンウィックよ。あなたは?」
「僕はアーサー。アーサー・ペンハリス。マグル出身だよ。よろしく」
「こ、こちらこそ、よろしく」
僕は隣に行き、右手を差し出す。少女、アイリスも僕の右手を握り返してくれた。はぁ、なんか、不安だったけど、友達も出来そうだし、良かったぁ
もう1つ、そこにある本のことも知りたいな
カラカラカラ
コンパートメントの扉が開く。そこには、僕の目から見ても圧倒的な美少女がこのコンパートメント入ってきた
すごい子だなぁ。なんでこんな子がここに? ん、アイリスはこの子を知ってるのかな。ちょっと嫌そうな顔。あれ、でも、この子の、目。見たことあるこれは
「すまないね。他の車両が騒がしくて。同席させてもらってもいいかな?」
「僕は構わないよ。アイリスは?」
「………どうぞ」
「いいってさ! 初めまして、僕はアーサー。マグルだけど、大丈夫そ?」
「初めまして、私はセレスティア。セレスティア・ヴァンス・グレアム。私は純血主義ではない。気軽にティアと呼んでくれ」
「分かったよ! ティア!」
「!?」
「………本当に、呼んでくれるとは」
「え、あれ? もしかして、ダメだった?」
「いや! そうやって呼んでくれ! 全然ダメじゃない! むしろいい!」
「う、うん。ダメだったら、言ってね? 僕、あんまりそういうの分からないから」
「分かった。なら、この3人の時か2人の時に頼む。すこし、恥ずかしいからね」
「わかった!」
よ、良かったぁ。なんか、変わった子だなぁ。こんなに可愛いのに、あんな目をしてる。アレは、ここ数ヶ月見てきた目だ。僕とおんなじ、そして、アイリストおんなじの、寂しい目だ
友達もどんどん増えそうだな。もう1人くらい入ってこないかなぁ
◇
アイリスside
「…………」
(はぁ、嫌になる。また、学校に通わないといけないなんて)
アイリスは、半純血だ。そのため、一時だがマグルの学校に通ったことがある。その時に、自分の異常さに気付いたのだ
周りが、あまりにも幼すぎる。コレは、マグルの学校もそうだし、魔法使いの親戚の子達もそうだ。話が合わないし、何より、自分よりも知識が無い子供、と思う自分が嫌だった
初めての子に自分より下、と思ってしまう自分が本当に嫌いだった。だから、一時期、本を読むのを止め、周りがしている遊びをやった。ダメだった。負けない。周りの子とレベルが違いすぎて、他の子達が彼女を避け始めてしまった
アイリスは、諦めた。そして、また、知識を詰め込み、気を紛らわすしか無かった。自分は、この先、『友達』なんて出来ないんだろう、と言う絶望を抱えて
アイリスが空のコンパートメントを開ける。早めに来た彼女は、いくらかあったコンパートメントの中でも、状態が悪そうなところに入る。ここなら、あまり人も入ってこないだろう、と
時間は経ち、この車両も少しはざわついてきた頃、彼が入ってきた
「こ、こんにちは」
チラリと見る。その一瞬でよかった。彼の目は、少し見覚えがあった。それは、孤独を知っている目だった
「どうぞ」
彼は荷物を上げ、斜め向かいに座る。孤独は、好きでは無いが、嫌いでは無い。静かにしてくれるなら結構だ
「ねぇ、君。何読んでるの?」
そんなこと知ってもどうしようもないくせに、と思いながら、アイリスは律儀に答える。ここで無視をしてもいいが、そんな子供じみたマネが彼女に出来るはずがない。素直に教える。それが、自分を孤独にさせる一言でも
「…………高度な変身術の理論書」
「え」
やはりとしか言うことがない。アイリスは、この人となら、すこし、仲良くなれるかもしれないと思っていた。同じ孤独を知っている目を持っている彼となら
しかし、現実は残酷だ。そんなこと、夢見るからダメなんだと、諦めたその時
「すごい!」
え?
「すごいなぁ! ──────────!」
あまり話が入ってこなかった。自分がどう返事をしたのかも覚えていない。ただ、彼の言葉が、胸の、奥に染み込んできた、感じがする
アイリスは、心地よい気分を感じている、と思っていると、彼の名前が知りたくなった
「私は、アイリス。アイリス・フェンウィック。貴方は?」
「アーサー。アーサー・ペンハリス! よろしく!」
右手を差し出される。握手だ。あ、握手なんて、初めて、するかも
ぎこちなく、右手を差し出す。まだ、11歳なのに、少し手が硬い。異性と喋って、触るなんて、本当に初めてだ
あ、しかも、彼、かなり魔力が高い。今まで気づかなかったけど、魔力が垂れ流しになるなんて、本当に魔力が高いんだ
カラカラカラ
彼女は、確か、はぁ。うるさくなりそうね
◇
セレスティアside
「グレアム様。こちらへどうぞ」
彼女は、取り巻きに案内されたコンパートメントに来ていた。そこでは、既にお菓子や、飲み物が用意されていた。キチンと列車の揺れでもこぼれない処置も施された状態で
セレスティアは、表面上で取り繕う。今まで通りだ。いつもの事だ。だが、もう、自分は、グレアム家のお嬢様じゃない。ホグワーツの1人の生徒として、生きて行きたい
「すまない。1人にさせてくれないかな? 荷物も自分で運ぼう」
「い、いえ! そんなもの私めが!」
「大丈夫です! 必要になったら持っていきます!」
「いや、私が運びますから!」
「なら、荷物だけ頼むよ。少しだけ気分が優れないからね。ここで待っていてくれ」
「「「はい!」」」
セレスティアはコンパートメントを出る。そこにはいつも通りの鉄仮面が彼女の表情に乗っかっていた
社交界、食事会、様々な用事が彼女の鉄仮面を成長させた。この歳で、この美貌で、しかも、文武両道の非の打ち所の無い完璧な令嬢
それがセレスティアを成長させ、孤独にさせた。初めは彼女も友達を作る努力をした。しかし、彼女のステータス、生まれ、完璧さがソレを阻んだ
少しでも仲良くなったと思ったら、見ていたのはセレスティアでは無く、グレアム家。少し話すようになったと思ったら、見ていたのは、容姿のみ。セレスティアの事は見ていない
「…………」
(はぁ。いつまで、こんな事をしないといけないんだろう)
車両を歩く。認識阻害の指輪をつけているため、すれ違う人には、セレスティアだと思わせないようにして面倒事を避ける
そうして、コンパートメントの中を見ながら歩く。歩く。歩く
少し古めのコンパートメントを見つける。そこには同学年と思われる男女1人ずつがいて握手を交わしていた。もう、ここでいいか
セレスティアは。諦めていた。自分を知らない人はいない。なぜなら、自分は、「聖28一族」に準ずる古き純血の名家。しかも、あの『マルフォイ』とも、タメを張れるぐらいには家が太い
カラカラカラ
少女がバッと手を引っこめる。確かに、男女が触れ合っていたらなにか勘違いを想起させてしまうかもしれない。だが、セレスティアには、あまり関係がなかった
本当にそんなことどうでもよかった。彼女達から離れれば、それで良かったのだ
「すまないね、他の車両が騒がしくて。同席させてもらってもいいかな?」
「僕は構わないよ。アイリスは?」
へぇ。彼女は、アイリスと言うのか。知らない本だが、教本っぽいね。確実に2年生以上の読み物だね。彼女はレイブンクローに入るのかな?
この子は、私のことを知らないのかな? なら、マグル出身だね。私の家系は、純血主義ではないから。ま、純血主義だったとしても、私には関係ないけどね
「…………どうぞ」
邪魔しちゃったかな?
「いいってさ! 初めまして、僕はアーサー」
「初めまして、私はセレスティア。セレスティア・ヴァンス・グレアム。気軽にティアと呼んでくれ」
ま、誰も呼んでくれないけどね
「分かったよ! ティア!」
え、いま、なんて? て、ティアって呼んでくれたのかい? ま、まってくれ!ほ、「本当に、呼んでくれるとは」
「あれ、もしかしてダメだった?」
なっ、私としたことが、口に出てた! と、取り繕わないと!
「いや! そうやって呼んでくれ! 全然ダメじゃない! むしろいい!」
ああ、やばい! 取り繕っているつもりが、墓穴を掘っていそうだ! と、とにかくここを乗り越えれば、もしかしたら!!
「う、うん。ダメだったら、言ってね? 僕、あんまりそういうの分からないから」
「分かった。なら、この3人の時か2人の時に頼む。すこし、恥ずかしいからね」
「わかった!」
よ、よし。何とかなったか? まさか、こんな所で、『友達』を作ることができるなんて。諦めていたけど、まさか、諦め無くていいのかな
3人の孤独が交差した。そして、3人の物語が始まる