ようこそ自由気ままな奴がいる教室へ   作:アマテラスすず

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2章
一難去って、また一難


 

 7月1日。今日はプライベートポイントが支給される日だ。

 

 Dクラスは5月、6月とクラスポイントがゼロだったため、金欠の生徒が多い。

 

 だが、中間テストを乗り切ったご褒美とでもいうのか、クラスポイントが0から87まで増えており、それを知った生徒たちは大いに喜んでいた。

 

 僕はBクラスから貰ったポイントがまだあるのでそこまで生活には困っていない。

 

 とはいえ、いずれはなくなる。

 

 些細なポイントではあるが、貰えるのならそれに越したことはない。

 

 しかし、おかしなことにまだポイントが振り込まれていない。

 

 最初は僕だけに不具合が生じているのかと思ったが、教室に行ってみるとどうやら他のクラスメイトにも振り込まれていないようだ。

 

「清隆も振り込まれてないのか?」

 

「ああ、櫛田が言うには他クラスの生徒も振り込まれていないそうだぞ」

 

「他クラスも?」

 

 Dクラスだけじゃなく他クラスもか。

 

 それって、他の学年もそうなのか?

 

 確認するため、僕は楓花に電話をかける。

 

『直経か。どうかしたか?』

 

「確認したいことがあってさ。二年生はプライベートポイントって振り込まれてる? なんか一年は全クラス振り込まれていないみたいなんだけど」

 

『私はちゃんと振り込まれていたぞ。おそらく他のクラスメイトもな。いつもと変わらない様子だ』

 

「そっか。三年生は分からないけど、もしかしたら一年だけかもな。このトラブルは」

 

『クク、一難去ってまた一難というやつか。今年の一年生は面白そうで羨ましいな』

 

「勘弁してくれ。ポイントがまた貰えなくなるかもしれないんだ。さすがにずっとゼロっていうのは、後のことを考えると困る」

 

『悪い悪い。私に何か協力できることがあればいつでも言ってくれ。君のためなら動こう』

 

「その時が来ればそうするよ。またな」

 

 そう言って、僕は通話を切る。

 

「誰と電話してたんだ?」

 

「二年の先輩。いつか紹介するよ」

 

「おはよう、お前たち。席につけ」

 

 佐枝ちゃん先生が教室に入り、生徒たちに座るように促す。

 

「先生! 今朝確認したらポイントが振り込まれてなかったんすけど、どういうことですか!?」

 

「落ち着け、池。今から話す。実は少々トラブルがあってな。それが原因で一年生全体へのポイントの支給が遅れている状態だ」

 

「それ、学校側の不備じゃないっすか。オマケとかないんすか~?」

 

「私にそう言われても困る。上が決めたことだ、山内。だが、トラブルが解消されればポイントは支給されるはずだ。残っていれば、の話だがな」

 

 一年生だけ支給されていないということは、どこかの一年生が何か問題でも起こしたか?

 

 佐枝ちゃん先生が含みのある発言をしたことから考えると、うちのクラスメイトが何かトラブルに関わっている可能性が高いかもな。

 

 須藤とか須藤とか須藤とか。僕の直感が強くそう言っている。

 

 

 そう思って須藤の方をちらっと見ると、いつもと雰囲気が違う。

 

 あの表情は……焦りか?

 

 まぁなんにせよ、須藤が関わっているのは確定と言っていいだろう。

 

 ……はぁ、まためんどくさいことになるかもなぁ。

 

 僕は憂鬱な気分になりながら、ホームルームが終わるのを待っていた。

 

~~~

 

 昼休みになり、僕はコンビニで買ったサンドイッチを食べている。

 

 清隆も僕の机まで椅子を運んできて、一緒に食べている。

 

 前までは三バカたちと一緒に学食へ行っていたようだが、最近は行けていないらしい。

 

 理由としては、誘ってもらえないからだそうだ。

 

 ……いや、自分から行けよ。

 

 とはいえ、僕も一人は寂しいので一緒に食べてくれるというのであれば断る理由はない。

 

 左隣の鈴音は話しかけても無視するし、右隣の佐倉は人見知りが激しいので、会話しようとしてもスムーズにできない。

 

 つまり、黙々と食ってろ、ということだ。

 

「堀北、弁当なんだな。食費とか大丈夫か?」

 

 清隆が鈴音に話しかける。

 

 バカめ、無視されるのがオチだ。

 

「知らないの? スーパーにも無料の食材があるのよ」

 

 なん……だと……。

 

 会話ができてる、だと……。

 

「そうだったのか。堀北って結構器用だよな。料理もうまそうだ」

 

「料理くらいレシピ本を見れば誰だってできるわ」

 

 ……僕も負けてられない。

 

 佐倉も弁当だし、会話を広げてみるか。

 

「そういえば、佐倉も弁当だよな。自分で作ってるのか?」

 

「えっ!……あ、えっと、はい、そうです……」

 

「おいしそうだな、料理するの好きとか?」

 

「まぁ……嫌いでは、ないです……」

 

 ……まずい、これ以上何を話せばいいんだ。

 

 というか、目を合わせてくれないんだが……。

 

「直経、佐倉が困ってるだろ。その辺にしとけ。悪かったな」

 

「……い、いえ。私は、大丈夫です……」

 

 絶対大丈夫じゃない。

 

 内心では『話しかけてんじゃねえよクソ野郎』とか思ってるはずだ。

 

 こういうおとなしい子は、裏表が激しい。

 

 ……これは直感ではなく、偏見だが。

 

「……そういえば若代君、今朝茶柱先生が言ってたトラブルとやらに巻き込まれてたりしてないわよね?」

 

「は? 鈴音は僕が何か問題を起こすような人間に見えるか?」

 

「見えるわ」 

「見えるな」

 

 即答で言われた……。ついでに清隆からも。

 

 お前には聞いてないぞ。

 

「心外だぜ。僕じゃなくて須藤だろどう考えても。佐倉もそう思うよな?」

 

「ええっ!?……え、えっと。どうでしょう……」

 

 ……なんだ?

 

 さっき話しかけたときよりも、慌てようが大きいが……。

 

「確かに須藤君も要注意ね。ただ、本当にあなたは関わってないと言えるのね?」

 

「モチのロンだ。清隆の命を懸けてもいい」

 

「おい!」

 

「……分かったわ」

 

 なんとか信じてもらえたようだ。

 

 というか、今日は普通に鈴音と会話できたな。

 

 もしかして、清隆がいると会話してくれるとかか? なんだその特殊条件は。

 

~~~

 

 放課後になると、佐枝ちゃん先生が須藤を連れて去っていった。何やら話があるとか。

 

 おそらく、トラブル関連のことだろう。

 

 明日になったら、詳細とか教えてもらえるだろうか。

 

 とにかく、このまま教室にいたところで何かが分かるわけでもない。

 

 今日は大人しく寮に帰るとしよう。

 

 

◆◇◆

 

 次の日。

 

 ホームルームで佐枝ちゃん先生からトラブルについて言及された。

 

「トラブルについて分かったことがあるので、皆にも報告しておく。そこにいる須藤とCクラスの生徒との間で喧嘩があったそうだ」

 

「言っとくが、俺は悪くねぇからな。向こうから呼び出されて喧嘩を売られたんだ」

 

「須藤の言い分としては今言ったとおりだが、Cクラス側は違う。須藤から呼び出され、一方的に殴ってきたと言っている。だが、証拠がないため結論は保留となっているのが今の状況だ。須藤曰く、目撃者がいるかもしれないということだが、どうだ? この中に事件を見たという生徒はいるか?」

 

 先生からそう問いかけられるが、名乗り出る生徒はいない。

 

 いたとしても、Dクラスの生徒では信憑性に欠けるだろうけどな。同じクラスの人間だし。

 

「どうやらいないようだな、須藤」

 

「……そうみてぇだな」

 

「話は以上だ。今回の事件についての最終判断は来週の火曜日に下されるだろう」

 

 つまり、それまでに証拠や目撃者を見つけないと須藤に処罰が下る可能性が高いというわけか。

 

 話が終わると、先生は教室を後にする。

 

 須藤もこの場には居たくないのか、それに続いて教室を立ち去る。

 

 周りの生徒からは、

 

『ふざけんなよ、須藤の奴』

 

『退学になっとけばよかったのに』

 

 なんて言葉が聞こえてくる。

 

 ちなみに、僕の方にも視線が向けられる。

 

 須藤を助けたことに対して、『余計なことしやがって』みたいなことだろうか。

 

 だとしても、僕が責められるのはお門違いだろ。

 

「みんな! 僕は須藤君を信じたい! 同じクラスの仲間だ。僕たちだけでも協力してあげるのが友達なんじゃないかな?」

 

「さんせー! 本当に濡れ衣だったらかわいそうだしー」

 

 洋介と軽井沢が皆の前に立ち、クラスメイトに協力を求める。

 

 そのあと、桔梗ちゃんもそれに追随し、多くの生徒が協力することになった。

 

 カースト上位の三人がそう言えば、従うしかないだろう。

 

~~~

 

 昼休みになり、三バカ、清隆、桔梗ちゃん、鈴音と僕で学食に来ていた。

 

「わりぃなお前ら、俺のために動いてくれて。ただ俺は無実だからよ。よろしく頼むぜ!」

 

 どうやら須藤は、自分が悪いとは微塵も思ってないみたいだな。

 

「須藤、このままいくとどんな処罰が下されるんだ?」

 

「先生からは一ヶ月は停学になるって言われたな。ただそれだけはダメなんだ! もし停学になんてなったら、バスケの試合に出られなくなっちまう!」

 

「試合? 須藤、レギュラーになったのか?」

 

「一応な。顧問から言われてよ。だからこそ、停学にはなりたくねぇ。頼む若代! 今回も救ってくれねぇか?」

 

 須藤に手を合わせられて頼まれる。

 

 どうしようかな。退学じゃないのなら、助ける必要はないと感じてる。

 

 個人的には、須藤には罰を受けてほしいと思ってるからな~。

 

 断るか。

 

「悪いが須藤、僕は助けない」

 

「私も、助ける気にはなれないわね」

 

「はぁ!? なんでだよ! 若代も堀北も、仲間じゃねーのかよ!」

 

「自分の愚かさに気づいてないのね。行くわよ若代君、ここにいたくないわ」

 

「おう」

 

 僕と鈴音はその場を立ち去る。

 

 後ろから須藤の荒げた声が聞こえるが、気にしない。

 

「鈴音も、須藤には罰を受けてほしいって思ってるってことか?」

 

「そうね。仮に助けたとしても、また問題を起こすはず。それなら罰を受けて、反省してもらった方がいいわ」

 

「罰を受けても反省するかどうか分からないけどな」

 

 あいつがちゃんと自分のやったことを理解してくれれば、助けてやってもいいんだけどなぁ……。

 

「……てっきり、あなたなら須藤君を助けるって言うと思っていたわ」

 

「退学じゃないのなら、別にいいかなって思ってさ」

 

「そう」

 

 その後、特に会話もなく僕たちは教室に戻った。

 

 

〜〜〜

 

 放課後になり、本格的に目撃者探しが始まった。

 

 桔梗ちゃんと清隆が鈴音に協力するように説得していたが、一蹴される。

 

 鈴音が帰った後、今度は僕の方に桔梗ちゃんたちが来る。

 

「ねぇ、若代君。本当にいいの? このままじゃ友達が停学になるんだよ?」

 

「須藤がCクラスの生徒を殴ったことは事実なんでしょ? それなら罰を受けるべきだと僕は思ってる」

 

「それは……」

 

 桔梗ちゃんも本心では分かっているはずだ。

 

 それでも友達のために動けるのは、素直にすごいと思うが。

 

「本当に助けるつもりはないのか、直経。須藤、お前しか頼りになれる奴がいないって嘆いていたぞ」

 

 嘘つけ。僕が食堂から出るとき、罵声をあげてただろうが。

 

「須藤自身が悪いと自覚してないんだ。まずはその認識を改めなきゃだめだ。鈴音も同じ考えのはずだぞ。お前たちは今後、須藤が二度と問題を起こさないと思うか?」

 

「「……」」

 

 桔梗ちゃんも清隆も沈黙する。

 

 二人は賢いから、僕の言いたいことも分かるはずだ。

 

「ま、そういうわけだから。目撃者探し頑張れよ」

 

 そう言って、僕も教室を後にした。

 

 

◆◇◆

 

 翌日になり学校に登校すると、洋介や桔梗ちゃんたちは目撃者などの情報交換をしていた。

 

 その中で池が不満を口にする。

 

『ポイントがゼロだとモチベーションが上がらない。Aクラスが羨ましい』と。

 

 それを聞いた佐枝ちゃん先生が池に対して、こう言う。

 

「Aクラスが羨ましい、か。一応、一瞬でAクラスに行く方法はあるにはあるぞ」

 

「え! マジすか先生! どうすればいいんですか?」

 

「2000万プライベートポイント。この額で好きなクラスに移る権利を買うことができる」

 

 そう言うと、多くのクラスメイトが驚愕する。

 

 そうか。僕は楓花との会話でできると確信していたが、皆からしたら寝耳に水か。

 

「ちなみに、過去に移動した生徒はいない。最高で1200万ポイント集めた生徒がいたが、その生徒は退学となった。詐欺行為をしていたためだ」

 

「要は、ズルしたとしてもそこが限界ってことかよ」

 

「頑張って、クラスポイントを増やすしかないってことだね」

 

 池と洋介がそんな会話をする。

 

 他のクラスメイトも正攻法しかないと分かり、落胆する。

 

「ああ、そういえば。お前たちの中で部活でポイントを貰ってるやつはいなかったな」

 

「どういうことですか、先生?」

 

「部活動で活躍をした生徒には個別にポイントが支給される場合がある。それがクラスポイントに影響することもあるんだが、言うのを失念していたよ」

 

 サラッと大事なことを言う佐枝ちゃん先生。

 

 多くの生徒がそのことに対して文句を垂れる。

 

 そういえば水泳の授業の時、一位を取ったら5000ポイント支給されたな。

 

 あれも伏線だったわけか。

 

 それなら水泳部に入ろうかな?

 

「直経、堀北。これで須藤を助ける価値は出てきたんじゃないか?」

 

 清隆からそう言われ、鈴音は少し考えているようだ。

 

 メリットがあるのなら、話は変わってくるか。

 

 僕は須藤が変わらない限り、助けるつもりはないけどな。

 

――――

 

 放課後、僕は自分の部屋で調べものをしていると、インターホンが鳴る。

 

 誰かと思い、ドアを開けるとそこにいたのは鈴音だった。

 

「鈴音? 珍しいな。何の用だ」

 

「今から綾小路君の部屋に行くのだけれど、あなたも一緒に来て」

 

「拒否す… ウ‶ッ!」

 

「ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。来るわよね?」

 

「……はい」

 

 ……久しぶりに腹パンされた。

 

 鈴音のことだ、『YES』の返事が貰えるまで延々と殴り続けてくるだろう。

 

 本気を出せば、鈴音くらい簡単にいなせるのだが……まぁいい。行くとするか。

 

 僕は鈴音と共に清隆の部屋へ赴き、インターホンを押す。

 

 しばらくするとドアが開き、清隆の姿が見える。

 

「堀北と直経? どうしたんだ?」

 

「あなたに目撃者のことについて話が……」

 

「あ! 堀北さんに若代君! 協力してくれる気になったんだね!」

 

「ッ! マジか! 心強いぜ!」

 

 桔梗ちゃんが有無を言わせず、そんな事を言う。

 

 それを聞いた須藤は、清隆のベッドから起き上がり大いに喜ぶ。

 

「……とりあえず、部屋にあがったらどうだ?」

 

「……そうするしかないようね」

 

 靴を脱いで、清隆の部屋にお邪魔する。

 

 中には、池と山内もいる。まぁこのメンツなら当然か。

 

 そして鈴音に、『何か話すことがあるんだろ?』と清隆が促す。

 

「今回の事件、おそらく目撃者はいるわ。それは同じクラスの佐倉さんよ」

 

「佐倉って、メガネかけた地味な子だよな? ピンク髪の」

 

「どうしてそう思ったの、堀北さん?」

 

「茶柱先生が目撃者がいないか聞いたとき、多くの生徒は先生の方を見ていた。でも彼女だけは目を伏せていたのよ。それで気になって直接聞いてみたの。すぐ逃げてしまったけれど、反応からして間違いないわ」

 

 そういえば、昼飯食ってるときに僕が鈴音からトラブルに巻き込まれていないか疑われて佐倉に話しかけたとき、めっちゃ慌ててたな。

 

 その理由は、佐倉が事件の目撃者だったからか。

 

「それじゃ、用は済んだから。私は帰るわ」

 

 そう言って、鈴音は部屋を後にする。

 

「直経は帰らないのか? 堀北と一緒に来ていたが」

 

「無理やり来させられたんだよ」

 

 ほんと、何で僕を呼んだんだよ。まだ腹が痛むぞ……。

 

「なぁ、若代。頼む! お前しか頼りにならないんだ。中間テストの時みたいに助けてくれ」

 

「……須藤。お前自分にも反省すべき点があるってちゃんと理解してるか?」

 

 それが分かっているのであれば、助けてやるのもやぶさかじゃない。

  

 今のところAクラスに興味はないが、クラスポイントがゼロなのは避けたいからな。

 

「は? 何言ってんだよ。悪いのはあいつらだ。俺はなんも悪くねぇ。殴ったのも正当防衛だ」

 

 ……どうやら、ガツンと言わねぇと分かんねぇみたいだな。

 

 僕はいつものような飄々とした態度をやめ、声も真面目なトーンに落とす。

 

「……いつまでガキでいるつもりだ、須藤」

 

「……あ?」

 

 急に僕の態度が変わったことで、周りにいる奴らは目を丸くする。

 

 須藤も驚いた様子だったが、自分が貶されていることに気づき、僕を睨む。

 

「てめぇのその態度が、今回の事件を引き起こしたんじゃないのか? お前も薄々感じてるはずだ、クラスの連中から疎まれてるって」

 

 そう言うと、池や山内たちは顔を伏せる。

 

 お前たちも、内心では須藤にムカついてるよな。

 

「……うるせぇよ」

 

「悪いが続けるぞ。僕も鈴音も、どうして協力的じゃないか分かるか? 今回の事件を無事に解決できたとしても今のままじゃ意味がない。なぜなら、須藤自身が変わってないからだ。根本的な部分を直さなきゃ、またトラブルは起きる。小学生でも分かることだ」

 

 一度言葉を切り、須藤を真っ直ぐ見つめる。

 

「もしまた、Cクラスの生徒から挑発されたら、二度と殴らないと誓えるか?」

 

「……」

 

「殴るかもしれない。そう考えただろ? それじゃダメだ。今まではそれでよかったかもしれない。だが、現実を見ろ。お前のせいで、クラスメイトが困ってる」

 

 僕はさらに言葉を続ける。

 

「もしこのままで居続けるつもりなら一年後、お前の周りには誰もいない。いや、下手したら一年も経たずにこの学校を去るかもしれない。自分の夢も叶えられない。変わるとしたら今しかないぞ、須藤」

 

「……なんで、若代はこんな俺を見捨てずに、説教してくれてんだ?」

 

 須藤の声が震える。

 

「俺は今まで、誰にも本気で説教されたことなんてなかった。なぁ、教えてくれ、若代」

 

 そう言って懇願してくる須藤の目には、涙が浮かんでいる。

 

 ……お前も心の内では分かってたんだよな、自分が悪いってことを。

 

 ただ、自分と向き合うのが怖いんだよな。

 

 なら、僕が背中を押してやる。

 

「……僕は須藤がこの先、Dクラスにとって必要不可欠な存在になると確信してる」

 

「……っ」

 

「でも、今のままじゃ周りから信用されない。変わる必要があるんだ」

 

 須藤は何も言わない。

 

「自分と向き合え、須藤。もし一人で向き合うのが怖いなら、僕や周りの奴に頼れ。ここにいる奴は皆、お前の味方だ」

 

「う……ぅ……おおぉぉぉ……」

 

 須藤はダムが決壊したかのように我慢していた涙を流し、嗚咽を漏らす。

 

 それでいい。お前が成長するためには必要な涙だ。

 

 すべて吐き出せ。

 

 

―――― 

 

「……わりぃ。みっともないところ見せちまったな」

 

 数分後、須藤が目の涙をぬぐいながらそう言う。

 

 だいぶ落ち着いてきたようだ。

 

「須藤、ティッシュだ」

 

「ありがとな、綾小路」

 

「それにしても、驚いちゃったな。若代君がこんなに熱い心の持ち主だったとは」

 

「そんなことはないけどな。ただ言いたいことを言っただけだ」

 

「いや、それでもありがたかったぜ若代。お前の言葉で俺は変われそうな気がする」

 

 なら、確かめてみるか。

 

「それなら須藤、もう一度聞くぞ。もしまたCクラスの奴らが挑発してきたら、二度と殴らないと誓えるか?」

 

「ああ! 誰が相手でもしねぇ! 今までのダサい自分とは決別する。そうしなきゃ、プロのバスケ選手にはなれねぇしな!」

 

 僕の目をしっかり見ながら、そう言う須藤。

 

 その目の中には、確かな決意を感じ取れた。

 

 ……今の須藤なら、もうバカな真似はしないだろう。

 

「よし。それなら早速、明日の朝になったら動いてもらうぞ」

 

「おお! 何をすればいい?」

 

「それは……」

 

 

◆◇◆

 

 翌日になり、佐枝ちゃん先生がホームルームを始めようとする。

 

 しかし――。

 

「では、これから……どうした須藤、手を挙げて」

 

「茶柱先生、少し時間をください」

 

「……いいだろう」

 

 真面目な雰囲気を感じ取ったからか、佐枝ちゃん先生は須藤の提案を許可する。

 

 須藤は教室の前に立ち、頭を下げる。

 

「みんな、すまねぇ!」

 

「す、須藤君! どうしたんだい、急に」

 

 洋介がクラスの代表として、皆の気になっていることを聞く。

 

「今回の事件、俺がバカな真似したせいで皆に迷惑かけちまった。そのことについてちゃんと謝りてぇんだ!」

 

 必死に頭を下げる須藤。

 

 皆も須藤の本気を感じ取り、何も言わない。

 

「どんな理由があれ、俺はCクラスの奴らを殴っちまった。それは事実だ。そのせいで、クラスポイントがゼロになるかもしれない。俺はダメな人間だ。罰を受けろっていうのなら、潔く受け入れるつもりだ」

 

 僕の隣にいる鈴音は、須藤の言葉をしっかり聞いている。

 

「けど、Cクラスの言い分は間違ってる。俺はあいつらから特別棟に呼び出されて仕掛けられた。そのことだけは本当だ! 信じてもらえるかは分かんねぇけど、でもこのままじゃあいつらの思い通りになっちまう。それだけは嫌なんだ!」

 

 須藤は拳を握りしめる。

 

「頼む、みんな! どの口が言ってんだって思うかもしれないがこの事件、俺と一緒に戦ってくれねぇか!」

 

 須藤は不器用ながら、本心を語った。

 

 さぁ、他のみんなはどうする?

 

「……僕は須藤君を信じるよ」

 

「……平田、お前」

 

「私も、須藤君に協力するよ! 大切な友達だもん!」

 

 洋介と桔梗ちゃんが率先して須藤に協力すると申し出た。

 

 それに続き、他のクラスメイトも須藤のために戦ってやると協力を申し出る。

 

 これには、佐枝ちゃん先生もニッコリしている。かわいい……。

 

「須藤君」

 

「ほ、堀北……」

 

 鈴音は須藤のもとへ歩みを進める。

 

 さぁ、お前はどうする、鈴音?

 

「今回の事件、完全無罪を勝ち取るのは難しい。それは分かってるわね?」

 

「……ああ。さっきも言ったが停学の処分が下されたら受け入れるつもりだ。ただ、最後まで戦いたい。それが俺の意思だ」

 

 鈴音の目を見ながら、はっきり答える須藤。

 

 それを見定めるかのように、鈴音も須藤を見つめ返す。

 

「……はぁ。そこまで言うのなら、私も最後まで戦ってあげるわ」

 

「っ! 堀北!」

 

「ただし、あなたは大っぴらには動かないで。今あなたが出来ることは審議会まで大人しくしていること、いいわね?」

 

「お、おう……」

 

 まるで鈴音の忠犬だな、須藤は。

 

 でも、それくらいがちょうど良いかもしれない。

 

 僕は二人を見ながら、そう思った。

 

 須藤が改心したことにより、クラスの雰囲気は良くなった。

 

 証拠も目撃者も、まだ出揃っていない状況だ。

 

 それでも、この出来事はDクラスにとって、大きな一歩になったと言えるだろう。

 

 

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