日曜日になり、僕はサングラスをかけて寮のエントランスで白波を待っていた。
しばらくするとエレベーターが開き、白波の姿が見えたので手を振っておく。
「お待たせしました! えっと、若代君ですよね?」
「そうだよ、僕だぜ!」
サングラスをかけているから、一瞬僕だと分からなかったようだ。外した方がいいかな?
「よかった!別人かと思っちゃいましたよ。サングラス似合ってます!」
「マジ? じゃあ今日はずっとつけてるね!」
白波はすごくいい子だな~。笑顔が絶えなくてこっちまで気分がよくなる。
こんないい子を振ってんじゃねぇぞ、一之瀬!
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「そうだね。どこに行く予定なの?」
メールでどこに行くのか聞いてみたら、『当日まで内緒です』と言われたので、僕もまだ知らない。
「実は私、音楽を聴くのが好きなんです。なので家電量販店に行って、イヤホンとかヘッドホンを買いたいと考えてるんですけど……」
「なるほど、音楽が好きなのかぁ。それなら買った後、カラオケとかに行く? 僕も歌うのは好きだからさ」
吐き出したい気持ちもあるだろう。
音楽が好きなら、一石二鳥ってやつだ。
「いいですね! そうしましょう!」
「オッケー! じゃあ、家電量販店に行こっか」
そうして、僕たちは寮を出て目的地へ向かうことにした。
「あの、急にお誘いしてすみませんでした。予定とか大丈夫でしたか?」
律儀だな~。好きになっちゃいそう。
「大丈夫だよ。もし無理だったらちゃんと断ってるし。それにしても……結果は上手くいかなかったか?」
聞くかどうか迷ったが、一応聞いてみる。
今の彼女の気持ちを知りたいからな。
「……はい、ダメでした。若代君に指摘された通り、自分でもこうなるんじゃないかなって薄々分かってはいたんです。でも、後悔はしてません。気持ちを伝えられて良かったって今は思ってます。だから、若代君には本当に感謝してるんですよ?」
笑顔でそう言ってくれる白波。
だが、僕には分かる。まだ完全には吹っ切れてない、と。
それでいい。だからこそ、僕はこの誘いに乗った。
白波の未練を断ち切ってあげるために。
「そっか。なら、今日は思いっきり楽しむぞ! ついてこれるか~白波?」
「もちろんです! 若代君こそ、途中でへばらないでくださいよ~?」
じゃれ合いながら、道を歩く僕たち。
程なくして家電量販店に到着し、ヘッドホン・イヤホンコーナーへ向かう。
「どういうやつが欲しいとかあるのか?」
「『ノイズキャンセリング』という周りの音を打ち消して、音楽に没入できるように作られたものが欲しいんですが……」
「……これか」
値段は安いもので4000ポイント。
有名メーカーの機種になると、4万ポイントも必要になる。
Bクラスはさすがに金欠状態ではないと思うが、大金を払うとなると躊躇するか。
かといって、安すぎるものを買って何か不具合が生じても困る。
「ん〜……1万から2万ポイントくらいのものを探してみようかな?」
どうやら、白波も僕と似たような考えをしていたようだ。それくらいが妥当だろう。
白波はその価格帯のヘッドホンなどを手に取り、試聴できるものは片っ端から試している。
僕も一つくらいは持っていてもいいかもな。ポイントには困ってないし。
そう思い、ワイヤレスイヤホンが陳列されている場所へ行き、気になったものを見ていく。
しばらくの間、お互いに欲しいものを吟味し、白波はノイズキャンセリング付きのヘッドホン。
僕は普通のワイヤレスイヤホンを買うことにした。
僕はあまりこだわりはない。運動しながら聴けるものであればいいかな、ぐらいの感覚で決めた。
そうして、僕たちは購入するために店員さんのいるところへ向かう。
途中、気になる商品を見つけたがそれは後回しにする。
今は白波が第一優先だからな。
――――
無事欲しいものを購入することができた僕たちは、お店を出ようとする。
だが、そこで見覚えのある人物たちを見つけたので、僕は立ち止まった。
「?……どうかしましたか、若代君」
「いや、ちょっと同じクラスの奴らを見つけてさ。寄ってもいい?」
「え? はい、大丈夫ですよ」
白波に断りを入れ、僕たちはその人物たちのもとへ向かう。
「……あ」
「ん? どうした白波?」
「……あの茶髪の男の人、綾小路君、ですよね」
「そうだけど……え? 知り合いだったの?」
「知り合いというか、なんというか……」
妙に歯切れが悪い。
清隆、白波になんかしたんじゃねぇだろうな?
それを確かめるためにも、僕たちは清隆、桔梗ちゃん、佐倉のもとへ向かう。
「よお、清隆。なに女の子二人とよろしくやってんだよ」
「……直経か。どうしてここに? ていうか、お前もそうだろ?」
「僕はそういうのじゃない。それより、なにやってんだ?」
目の前には、視線が気持ち悪い店員がいる。佐倉をずっと見ているようだ。
「この間、佐倉さんのカメラが壊れちゃったじゃない? だから、その修理を店員さんにお願いしに来たんだよ」
桔梗ちゃんが状況を説明してくれる。
そんなの清隆なしでもいいだろ。僕を呼べ、僕を。
「なるほどな。ならあとは、この『修理品お預かり証』って用紙に住所と携帯番号を書けばいいだけか。悪ぃな、水差すようなことしちまって」
「そ、そうですよ! 僕はまだ仕事があるんです。早く書いていただけませんかね?」
店員が佐倉に早く書くよう催促する。
……だが、なんだ? 不機嫌そうに見えて、顔は喜んでいるように見える。
気持ち悪いな……。
佐倉も同じことを感じたのか、ペンを持つ手は震えており、目を閉じている。
代わりに書いてあげようかと思い、動こうとすると先に清隆が動いた。
「修理が終わったら、オレのところに連絡してください」
佐倉の代わりに自分の住所と連絡先を書く清隆。
さすが僕の友達だぜ!
「ちょ、ちょっと! このカメラの所有者は彼女だよね? それはちょっと……」
店員は文句を垂れてくる。
それに対し、清隆は冷静に対処する。僕も追随するとしよう。
僕は声をできる限り低くし、サングラスを外して相手を睨みつけながら口を開く。
「おい。僕の親友じゃ不満か? もしそうならはっきり言えや、あん?」
「い、いえ。大丈夫です……」
こうして無事、カメラを預けることに成功した。
ついでに、そばに置いてあったデジカメが録画モードになっていたので、録画を止めてデータを消しておいた。
店員がすごく慌てているようだったが関係ない。
「悪いな白波。置いてけぼりにしちまって」
「いえ、大丈夫です。それにしてもあの店員さん、ちょっと怖かったですね……」
白波も感じ取ったか。
なら、あの場にいた全員が同じことを思っていたんだろう。
「直経、その女の子は?」
清隆がそんなことを聞いてくる。
白波の反応からして知っているはずだと思うが……。
「とぼけんなよ、Bクラスの白波千尋だ。知ってるだろ?」
「……いや、まぁなんというか。顔はつい最近見たというか」
「……」
清隆も白波も、すごく気まずそうな感じだ。
何があったのかすごく気になるのだが。
その気まずい空気を感じ取ったのか、桔梗ちゃんがある提案をする。
「そうだ! せっかくだし、ここにいるみんなでお昼ご飯でも食べない?」
「確かに、ちょっと小腹が空いてきたな。どうする白波?」
「……いい、ですよ」
絶対よくない。そうでなければその
今日は白波の気分を上げるために僕は付き添いをしている。
清隆のせいで気分が下がるようなら、断った方がいいか。
「んー。ごめん桔梗ちゃん。やっぱりナシで! 僕、人が多いのは苦手だからさ、二人で行くことにするよ。じゃあ行こっか、白波!」
「……はい。それじゃ櫛田さん、また今度」
「う、うん。またね白波さん」
そう言って、僕たちはその場を離れる。
もともとカラオケに行く予定だったため、そっちの方向へ歩みを進めていく。
しばらく歩いていると、白波の口からぽつぽつと言葉が紡がれる。
「……実は、その。告白場所に向かった時、綾小路君がその場にいたんです」
「……もしかして、白波の想い人が清隆をその場に呼んでいたってこと?」
「……はい。あとから聞いたんですけど、私の告白を断るために彼氏役を彼に頼んでいたそうで……」
そりゃ悪手じゃろ、一之瀬……。
まぁ、一之瀬も白波を傷つけたくなかったってことなんだろうな。
だとしても清隆に頼むか普通? 僕だろそこは。
「そうだったのか。でもそれ、清隆は何も悪くないよな?」
「はい、それは私も分かってます。……ただ、あの時の気持ちをちょっと、思い出しちゃって」
なるほど、それで気分が下がってしまったのか。
「事情はわかった。清隆が嫌いとかじゃないんだな?」
「はい! それはないので安心してください」
良かったな清隆。あとで伝えておこう。
清隆と白波の関係も知れて一安心する。
そしてちょうど、カラオケにも到着した。
「よし着いたな。それじゃ白波、暗い気持ちはいったん忘れろ! お前が満足いくまで付き合ってやるからよ!」
「はい! 最後まで付き合ってくださいね!」
こうして、僕たちは昼食も取らず、夕方までぶっ通しで歌いまくった。
白波は意識していたか分からないが、失恋ソングばかり歌っていた。
対照的に僕は盛り上がる曲を歌い、その場を盛り上げることに努めた。
〜〜〜
カラオケを出た後、白波とは解散することになった。
帰るとき、今までは敬語で話していた白波だが、タメ口で話してくれるようになっていた。
僕に対し、心を開いてくれたのだろう。
距離が縮まったことは素直に嬉しい。次に会った時は、下の名前で呼ぼうかな。
そして、僕は寮にはまだ帰らず、再び家電量販店へ赴く。
後回しにした商品を見るためだ。
その商品とは、監視カメラだ。正確に言うのであれば、ダミーカメラである。
今回の須藤の事件、Dクラスが勝つためには事件そのものを無くすしかない。
特別棟には監視カメラがないので、そこにダミーカメラを設置してCクラスの連中を騙せば可能性はある。
清隆もその作戦を思いつき、鈴音のやつにそれとなく教えようとしたのだろう。
だが、これには一つの懸念点がある。
Cクラスの連中はおそらく、特別棟にカメラがないことを理解している可能性があるということだ。
須藤の話によれば、特別棟に呼び出して来たのはCクラスの方からだ。
なら、最初から須藤をハメるために監視カメラのない特別棟に呼んだ可能性がある。
だから、もし実行に移すとしたら、相手が冷静に考えることができない状況に持っていくしかない。
……まぁ、今はそこまで深く考える必要はないか。
今日はカメラの確認さえできればいい。僕はダミーカメラの値段を確認する。
……買えない値段ではないな。もし必要になった時は購入するとしよう。
必要なものを確認した僕は、他にも気になるものを見ていく。
一番欲しいと思ったものは、カメラ付きのペンだ。
胸ポケットに入れておけば、すぐに起動できるしな。
ただ、今日はワイヤレスイヤホンを買ったので、また今度来たときにしよう。
僕は家電量販店を後にし、寮へ帰ることにした。
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寮に帰り、自分宛てにメールが来ていることに気づく。
千尋からだ。
『今日はありがとう! すごく楽しかったよ! ところで気になったことがあるんだけど、今日櫛田さんたちと一緒にいたメガネの女の子、あれって雫だよね?』
雫? 誰だそれは。
僕はその旨のメールを千尋に送る。
すると、すぐに返事が来る。
『グラビアアイドルの雫ちゃんだよ! すごくかわいいんだよ! 今写真を送るね!』
送られてきた写真は、確かに佐倉に似ていた。というか、佐倉だろう。
だが、いつもとはかなり雰囲気が違う。
笑顔を見せ、かなり可愛い女の子として写っている。
その後、僕も気になってネットで雫のことを調べる。
どうやらブログがあるらしく、今でも写真をあげているようだ。
デジカメを持っていたのは、そういうことか。
だが、気になる点がひとつだけある。それはファンのコメントだ。
明らかに一人だけ、気持ち悪い奴がいる。
ここで、僕の脳に電流が走る。
家電量販店の店員――あいつかもしれないと。
僕の直感がそう言っているのだ、間違いない。
……佐倉のこと、少し目にかけておいた方がいいかもな。
僕は最悪の事態にならないことを祈りながら、ブログを閉じることにした。