地獄の始まり
二週間の停学処分を終え、夏休みに突入していた。僕だけ約二か月の長期休みになったため健から羨ましがられたりしたが、停学期間中は外には出られなかったので暇で仕方がなかった。
そんな愚痴を言うと、健から『それなら俺に勉強を教えてくれ』と言われたので、健の都合のいい時間に合わせ勉強を見てあげたりしてやった。期末テストもあったしな。
余談だが、健は鈴音のことが好きになったらしい。理由としては自分のことを見捨てずに、向き合ってくれたからだそうだ。勉強を頑張ろうと思ったのも、鈴音に振り向いてもらいたいのが理由らしい。どうやら本格的に自分を変えたいようで、僕も素直に嬉しい気持ちになる。
健以外にも暇つぶしに付き合ってくれるやつはいた。それは楓花だ。合鍵を作って、勝手に僕の部屋に入ってきやがったのだ。
停学期間中、清隆が僕の部屋に来ることは一度もなかったので正直怒っていたのだが、合鍵を勝手に作られ勝手に部屋に入られた経験を僕もしたことで、清隆の気持ちがすごく理解できた。知人だとしても、これはなかなか嫌な気分になる。許してやるとしよう。
ついでに、管理人にも合鍵を作らせないように頼み込んでおいた。にしても、セキュリティ面はどうなってるんだ? 本当に国主導の学校と言えるのか?
とはいえ、追い返すこともしたくなかったので楓花と色々雑談したり、手料理を振舞ってもらった。
味は美味しいとは言えなかったが、人間は成長する生き物だ。楓花なら、努力すればすぐに上達するだろう。
それと千秋や愛里もたまに部屋に来てくれて、お菓子や料理を作ってもらった。
あれ? なんか僕、ヒモ男っぽくないか? いや、これは仕方のないことだ。外に出られないのだから。うん、そういうことにしよう。
〜〜〜
そんなことが停学期間中にあった出来事だ。そして僕は今、豪華客船にいる。南の島でバカンスを楽しむために。
つっても、そんな天国のようなことは起きないだろう。おそらく本格的にクラス競争が始まるはずだ。前に楓花も言っていたしな。
めんどくさいことであれば僕はやる気はないのだが、千秋との契約のことがある。最後までちゃんと見届けないといけない。
そんなことを考えていると、千秋からメールが届く。『地下4階に来て欲しい』と。
おそらく、今回のイベントについてのことだろう。僕はすぐに指定された場所に向かおうとするが、道が複雑でよく分からない。
道に迷っていると、前から歩いてくる眼鏡をかけたボーイと肩がぶつかってしまう。
「うぉ!……っと、すみません!」
「……いえ。お気になさらず」
なんだこいつ、接客する態度じゃねぇぞ。明らかに不機嫌すぎる。いや、ぶつかった僕が悪いんだけどさ。
めっちゃ嫌だけど周りに人いないし、この人に聞くしかないか。
「あのー、すみません。地下4階に行きたいんですけど、行き方が分からなくって……道のりを教えていただけませんか?」
「……それなら、あそこの階段を使ってください」
不機嫌ながらも、道は教えてくれた。笑顔で教えてくれたのであれば、星5の評価なのだが。
そんなこともあり、無事地下4階にたどり着くことができた僕は千秋と対面する。
「ありがとう来てくれて。さっそくだけど今回のイベント、今私が考えてることを話すね。多分だけど、バカンスなんてのは嘘。この学校のことだし、無人島でサバイバル生活でもするんじゃないかなって思ってるんだけど、若代君はどう思う?」
よく分かってるじゃないか。考える力は持っているようだな。
「その考えで間違いないと思うぞ。このイベントで本格的にクラス競争が行われるはずだ」
「そっか。なら前にも言ったと思うけど、今回で私の実力見せつけるから、ちゃんと見ててよね」
「分かってる。期待してるよ」
そう言って、僕は地下から立ち去る。それと同時にとあるアナウンスが船で流される。
『生徒の皆様にお知らせします。まもなく島が見えて参ります。しばらくの間、非常に意義ある景色をご覧いただけるでしょう』
……意義ある景色、ねぇ。気になったので、僕は船のデッキまで向かう。
道中、清隆や健たちと一緒になったのでみんなで向かっていると、清隆がとある生徒に肩を突き飛ばされる。
「おい、邪魔だ。不良品はひっこんでろ」
こいつは確か、Aクラスにいたやつだな。戸塚弥彦だったか?
「ここは実力主義の学校だ。お前ら不良品のクズに人権なんてないんだよ」
「おい、そりゃ言い過ぎじゃねぇか?」
「あ? お前は確か、須藤だったか? Aクラス様に歯向かうってのか?」
「AとかDとか関係ねぇよ。人にぶつかったら謝る、小学生でも分かることだ。綾小路に謝れよ」
何度でも言わせてくれ。健、お前本当にいい奴やな……。
「はっ! 笑わせるな。誰がクズなんかに謝るかよ」
「……へぇ。Aクラスを目指すのは無理かもって思ってたが、案外楽かもしんねぇな」
「……あ?」
「お前みてぇな奴がいるんだ。底が知れたってもんだぜ」
「っ! てめぇ!」
「やめるんだ弥彦」
戸塚が健の胸ぐらを掴みかかろうとすると、後ろからスキンヘッドでガタイのいい男が登場してくる。こいつのことは流石に知ってる、葛城康平だ。
「か、葛城さん!」
「一部始終を見ていたが、お前が悪い。謝るべきだ弥彦」
「しかし! こいつらはDクラスの不良品で!」
「同じことを言わせるな」
「……悪かったな」
そう言うと、戸塚は逃げるように去っていった。
「うちのクラスの者がすまなかった」
葛城も謝罪の言葉を清隆に向ける。こいつはいい奴だな。
「いや、気にしないでくれ。オレも不注意な部分があったしな」
「そう言ってもらえると助かる。では、またな」
葛城が去っていったあと、島の方を見ながらみんなで雑談する。
「そう言えば若代、お前って堀北のこと下の名前で呼んでるよな? できれば俺もそうしたいんだけどよ、堀北のやつからダメって言われたんだ。どうして若代は大丈夫なんだ? 教えてくれ」
健からそんな質問をされるが……さて、なんでだろうな。決して、お前の下着の色をみんなにバラすぞ、という風に脅したわけではない。絶対にな。
「さぁ、なんでだろうな。僕はなぜか許されてるな。まぁあれだ、根気よく呼び続けることが大事なんじゃないか? 消費税みたいなもんで、最初は抵抗あるけど、慣れれば受け入れてくれるかも知れないだろ?」
「なるほどな! よーし、これからはダメって言われても下の名前で呼び続けてやるぜ!」
おそらく余計に嫌われるだろうが、僕には関係ないことだ。
そんなくだらない話をしていると、島が肉眼ではっきりと見えるほどに距離が近くなる。
だが、すぐには島に到着せず、島の周りを回り始める。どうやら、全体を見せてくれるようだ。
『これより、当校が所有する島に上陸いたします。30分後、生徒たちは全員ジャージに着替え、携帯と荷物を持ってデッキに集合してください。また、お手洗いを済ませておくようにしてください。しばらくの間、行けない可能性がございます』
みんなで島の観察をしていると、そのようなアナウンスが流れた。ようやく始まるようだ。
そのアナウンスを聞いたあと、僕は自分の部屋に向かう。そして、ジャージに着替えてデッキに集合する。
船が島に上陸した後、Aクラスから順番に降りて行き、砂浜へと足をつける。
降りる途中、携帯などは没収された。うん、これは完全にサバイバル生活やらされるわ。どうやら僕たちは地獄の門をくぐってしまったようだ。
全クラスの生徒が船から降りるのを確認した後、真嶋先生は皆の前に立ち、拡声器を口に近づける。
「今日この場に無事に着けたことをまずは嬉しく思う。しかしその一方で、病欠で参加できなかった生徒が一名いることは残念でならない」
おそらくAクラスの坂柳だろう。彼女は先天性疾患を患っていて、常に杖を持って歩いている。このサバイバル生活では危険だと、学校側が判断したんだろう。
「それではこれより、本年度最初の特別試験を行う」
真嶋先生が大きな声でそう宣言する。
特別試験、という初めて耳にする言葉を聞いて、多くの生徒は混乱する。だが先生はそんなことは気にせず、特別試験の説明を行う。
「期間は今から一週間。8月7日の正午に試験は終了する。君たちにはこの一週間、この無人島でサバイバル生活をしてもらう、それが今回の試験だ。また、試験中の乗船は正当な理由がない限り認められない」
つまり、正当な理由さえあればこの試験を降りることができるということか。高円寺なんかはすぐにリタイアしそうだな。いいなぁ……。
「スタート時点で、テント二つ、懐中電灯二つ、マッチ一箱をクラスごとに支給する。それと日焼け止めは無制限、歯ブラシは一人一つ渡される。女子に関しては、生理用品も無制限で許可している。各クラス、担任の先生に願い出るように、以上だ」
言いたいことはもうないのか、真嶋先生はAクラスの方へ向かう。それと同時に佐枝ちゃん先生はDクラスの方に近づいてくる。
「茶柱先生! こんなのありえないっす! バカンスはどこにいったんですか!」
池が大声で文句を言う。周りの生徒も池に賛同しているようだ。
「落ち着け池。ありえないと思うかもしれないが、実際に無人島で研修を行う大企業も存在する。それに安心しろ。特別試験といったが、そこまで深く考える必要はない。この一週間、海で好きに泳ぐのもよし、バーベキューをするのもよし、今回の試験のテーマは『自由』だ」
「じ、自由?」
「そうだ。まず大前提として、クラスごとに試験専用のポイントが用意されている。300ポイントだ。このポイントを上手く使うことで、この試験を旅行のように楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも存在する」
そう言って、先生は洋介にマニュアルを渡す。僕も気になって見てみると、トイレやシャワー室、食料品など生活するうえで必要なものが記載されていた。
それと、空白の用紙とペンがあったので、洋介に許可を取ってからその二つを頂く。
「このマニュアルには、ポイントで買えるモノのリストが載っている。購入すれば、すべて学校側が用意する手筈だ。生活で必要なものもあれば、海で遊ぶための道具もここで買える。つまり、この300ポイントであらゆるものを買えるということだ。計画を立てて使えば、一週間乗り切ることも可能だろう」
「マジかよ。じゃあ一週間遊ぶだけで試験を終わってもいいってことですか?」
「そういうことだ。もちろん、ルールは存在するからその範囲での行動になるが、内容もそこまで難しいものではないから安心しろ」
先生がそう言うと、多くの生徒が安堵する姿を見せる。さすがに原始的な生活は学校側もさせないか。
「だが、試験終了時に残ったポイントは、クラスポイントに反映されることになる。極論だが、300ポイント使わずにこの試験を乗り切れば、お前たちDクラスは夏休み以降、毎月三万は約束されるということだ」
それだけではない、上のクラスに近づくこともできるということだ。
この発言を聞いた瞬間、池を含めた多くの生徒はやる気を出す。
「それと、今回の試験でリタイアするようなことがあればマイナス30ポイントのペナルティが発生する。先ほど真嶋先生が欠席した生徒がいたと言っていたが、あれはAクラスの生徒だ。よって、Aクラスはペナルティを受け、270ポイントからの開始となる」
容赦ないな。いや、これが公平性というやつか。
「また試験中、お前たちにはこの腕時計を着用してもらう。許可なく外すことはできない。もし外したらペナルティを受けることになるだろう。この腕時計は時間だけでなく、体温や脈拍を測っていたり、GPS機能も搭載されている。万が一のためにな」
「これ、海に入っても大丈夫なんすか?」
「問題ない、完全防水だ。それに故障したとしてもすぐに業者の方が直しにくる」
そこらへんは学校側もちゃんとしているってわけだな。
「それと平田、マニュアルの最後のページを開け。そこにはマイナス査定の項目が載っている。よく確認しておくことだ」
そこにはこう書かれていた。
『体調を崩したり、試験続行が不可能なケガを負った場合、リタイアとなりマイナス30ポイントとなる』
『環境を汚染する行為が発覚した場合、マイナス20ポイントとなる』
『毎日午前8時、午後8時に行われる点呼時に不在の場合、一人につきマイナス5ポイントとなる』
『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などが行われた場合、その生徒の所属するクラスは失格となり、対象者のプライベートポイントはすべて没収とする』
【以上がマイナス査定の項目である。また、300ポイントすべてを使用していた場合、マイナスのペナルティを受けたとしても、0から変動することはない】
……なるほど、なかなか面白いルールだな。最後のルールに関しては他クラスがダメなだけで、自クラスには問題ないらしい。
「なぁ、ずっと気になってたんだけどよ。先生の隣にあるその段ボール、何なんだ?」
健が疑問に思っていたことを先生に質問する。僕も気になっていたのでありがたい。
「ああ、これか。これは簡易トイレだ。ビニール袋をセットして給水ポリマーシートを使用すれば、汚物を固めることができる。このビニールとシートは無制限で支給できるから大事に扱うように」
マジかよ……。これにはさすがに多くの生徒が嫌悪感を露わにする。ポイントの使用はある程度は仕方ないかもしれないな。
「そして最後に、追加ルールを発表する。この島にはスポットと呼ばれる場所がいくつか存在する。それらには占有権と呼ばれるものがあり、占有したクラスのみ使用することが可能だ。しかし、その期間は8時間だけ。効果が切れたらまた占有しなくてはいけない。そして、スポットを占有するたびにボーナスポイントとして1ポイント得ることができる。だがこのポイントは試験が終わった後に加算されるものであり、試験中の使用は不可だ。詳しいルールはマニュアルの中に書いてある。確認してみろ」
『スポットを占有するにはキーカードが必要である』
『一度の占有につき、1ポイントを得ることができる』
『他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合、マイナス50ポイントとなる』
『キーカードを使用できるのはリーダーだけである』
『正当な理由なくリーダーを交代することはできない』
これがスポット占有についてのルールだ。だが、リーダーというのは……
「先生ー。このリーダーっていうのはなんすかー?」
山内も同じことを思ったのか、先生に質問する。
「ああ、各クラスにリーダーを一人選出してもらう。というのも、7日目の最後、他クラスのリーダーを当てることができれば、50ポイント増やすことができる仕組みとなっている。逆に自クラスのリーダーを当てられてしまえば、マイナス50ポイントとなる。つまり、むやみやたらとスポットを占有してしまえば、リーダーが誰かバレてしまう、ということだ。リーダーを当てられると、スポット占有で得たボーナスポイントはすべて無効となる。よく考えてリーダーを選ぶことだ」
これ以上説明することはないのか、佐枝ちゃん先生は喋らなくなった。あとは生徒に任せる、ということか。
それを感じ取った洋介が、クラスメイトの前に立ち、指揮を執ろうとするが……
「ねぇ平田くん、トイレのことなんだけど。私、さすがにあれは嫌だよ」
「そうだね。一応マニュアルでは普通のトイレもあるみたいだけど……」
「ほんと! 見せて見せて!」
篠原など多くの女子生徒が洋介に群がる。これは動き出すのに時間がかかるかもしれないな。今のうちにやれることをやっておくか。
僕は端っこにいる高円寺に話しかけに行く。
「やぁ若代ボーイ。何か用かな?」
「お前に頼みたいことがある。今から島を探索してきてほしい」
「ほう? この私に頼み事かね?」
「どうせお前のことだ。今日中にリタイアするつもりなんだろ? それなら一仕事くらいしてくれ」
「ふーむ。いつもなら断るところだが、君の頼みだ。いいだろう」
「マジか、一応理由を聞いてもいいか?」
「君には恩があるからねぇ」
なんだそれは。そんな記憶、僕にはないぞ。
「覚えていないかい? 4月に行われた水泳大会。私は君に敗北した」
「……それが?」
「今まで、私は自分が頂点の存在だと思っていた。だが君という存在と出会ったことでその考えは誤りだと知ることができた。同時に、私はもっと成長できると知れたのさ。だから君には感謝しているのだよ」
「なるほど。それが恩を感じてる理由か」
「そういうことさ。だが、君の頼みごとを聞くのは今回きりだ。次も同じ手を使えるとは思わないことだよ」
「分かったよ。じゃ、紙とペン渡すから、これで目に入ったもの全て書き足しといてくれ」
「オーケー! では、アデュー!」
そう言うと、高円寺は颯爽と森の中へ消えていった。素直に頼みを聞いてくれるとは思っていなかったが、動いてくれるというのであれば、最大限利用してやるとしよう。
クラスのもとへ戻ると池や幸村などの男子VS篠原などの女子で言い争っていた。まだトイレのことでやってんのかよ。
洋介は平和主義者だからどちらかに加担することはできない。真ん中に立って両者を鎮めようとするが、そのやり方では解決することはないだろう。
無駄な時間が永遠に流れると思っていたら、ここでとある人物が動き出す。
「みんな! ちょっといいかな!」
「……なに? 今大事な話をしてるんだけど、邪魔しないでくれる?」
クラスメイトを静かにさせた人物、それは千秋だった。
「ごめんね、篠原さん。でも大事な話だからちゃんと聞いてほしい。正直、今私たちがするべきことって、トイレのことで言い争うことじゃないと思うの。まずはスポットやベースキャンプ地を探すことが優先じゃない?」
「はぁ? なんでそんなこと松下さんが……」
「池君、山内君、須藤君!三人で島の中に行って、探索してきてくれないかな? まだ他クラスはこの砂浜から動き出してないから、先に動いて有利な状態にしておきたいの。お願いできないかな?」
千秋は山内、池のところへ行き、上目遣いでそう頼み込む。可愛い女の子からそんな仕草をされて頼まれたら、断れる男はいないだろう。
案の定、二人はやる気になって島の中へ走っていった。
「須藤君も、今までクラスに対して迷惑かけてきたんだし、今回の試験で活躍すれば帳消しにできると思うよ」
「……そんな風に言われたら、やるしかねぇな!」
健も池たちを追いかけ、森の中へ消えていった。千秋の奴、人の使い方が上手いな。
「……さて、じゃあ私たちも移動しようか。こんな日差しが当たるところで話してもイライラするだけだよ。まずは日陰のところに行こ。どうかな、平田君?」
千秋からの救いの手。洋介は今の空気を変えるためにその提案を承諾する。
そして、僕たちDクラスは森の中へ入り、他クラスよりも先に動き出すことに成功した。僕たちが森に入っていくのを見て、Aクラスの連中なんかはかなり焦っていたな。多分、向こうもすぐに動き出してくるだろう。
しばらく森の中を歩き、ちょうどいい場所を見つけたのでここで腰を下ろすことになった。
「……うん、ここでいっか。じゃあ篠原さん、幸村君。さっきの話の続きでもしようか」
「やっとね。私はトイレを買うべきだと思ってる!」
「ふざけるな! やれるところまで我慢すべきだ!」
「そのことなんだけどさ、私もトイレは買うべきだと思ってるんだ」
「お前もか松下! お前は他の女子たちと違って、話の分かるやつだと思ったんだがな」
「はぁ!? 何よその言い方!」
「まぁまぁ、落ち着いて篠原さん。ちゃんと理由はあるよ、幸村君。この試験でリタイアしたらマイナス30ポイントされるっていうのは、さっき聞いたよね?」
「それがどうした?」
「簡易トイレしかないことで、多くの人たちはストレスを抱えるよね? しかも無人島で一週間生活。それも集団生活。慣れないことばかりの中で、私たちはやっていかなきゃならない。さらにストレスがかかる状況に私たちは置かれている。ストレスで体調を崩す生徒が出てきてもおかしくないよね?」
「……確かに、そうだな」
「だったら過ごしやすくするためにも、ある程度のポイント消費は仕方ないと思うんだけど、私の考えって間違ってるかな、幸村君?」
理にかなっているな。仮に、10人リタイアすることになったら、それだけでポイントはゼロになる。
ポイント消費に反対している生徒も、あの理屈じゃ何も言い返せないだろう。
「……松下の言う通りだな。分かった、認めよう」
「ありがとう! じゃあ、トイレの話はこれで一件落着だね」
あの空気感から、よくまとめることができたな。処世術に長けているのかもしれないな。
「そうだね。それじゃ、僕たちもスポットを探すために動き出すべきだと思う。どうかな、協力してくれる人は挙手してほしい」
洋介が探索したい人を集う。僕や千秋は真っ先に挙手するが、多くの生徒は動きたくないようだ。
それを見かねたのか、桔梗ちゃんが手を挙げると、多くの男子生徒が挙手し始めた。その中には清隆もいる。最初から挙げとけや。
「えーと、10人か。それじゃ、4チームに分けようか。2チームだけ二人で、それ以外は三人で行動するようにしよう」
さてと、誰と組もうかな。そう考えていると、強い視線を感じる。もちろん相手は千秋だ。
「直経。佐倉と一緒に行動することになったんだが、一緒に行くか?」
「いや、ごめん。僕は千秋と組むことにするよ」
「千秋? ……ああ、松下か」
「そういうわけだから、愛里と二人でよろしくやっとけ」
そう言い残して、僕は千秋のもとへ行く。
「じゃあ、行こっか。今回の試験でどう動くか決めたから、一応共有しておきたくってさ」
「分かった。そんじゃ、人気のないところまで移動しようか」
誰も僕たちを尾行してきていないことを確認しながら、森の中を歩いていく。
「……ここなら大丈夫そうだな。周りに人もいない」
「分かった。それじゃ、私が今考えてることを言うね」
その内容は、千秋がリーダーになること。そして、ポイントを上手く使いながら他クラスのリーダーを当てることだそうだ。
「王道だな。やれるのか?」
「できないと思ってたら、こんなことは言わない」
「……そうか。なら、スポットも探しておいた方がいいかもな。ボーナスポイントも多いに越したことはないからな」
「そうだね。そのために、高円寺君を動かしたんでしょ?」
……こいつ、よく見てるな。
「誰にも見られないように、動いたつもりだったんだけどな」
「この試験が始まってから、ずっと若代君のこと見てたし」
それはそれで気持ち悪いな。まぁ、女の子に見られるのは悪い気はしないけどな。
「そうかい。なら、スポットは他の奴らに任せて、僕たちは果物とか野菜とか収穫していこうかね」
ここに来る途中、至る所に畑のようなものがあったりしたからな。
その後、洋介たちがいるところに帰るまでに様々な食料を確保しながら、来た道を引き返すことにした。
帰る途中、高円寺がリタイアすることを話しておいた。そのことも踏まえて、ポイントを大事に扱ってほしいと思って報告したのだが、『そんな約束するな!』ということで、千秋から腹パンを食らった。まさか千秋からも殴られるとはな……。